第十九話 野郎共の逆鱗
4時限目開始のチャイムと同時に委員長が号令をかける。
「起立、礼」
みんな適当に礼をして席につく。
担任は、原稿用紙を全員に配りながら話し始める。
「えー、今日は進路について話をする。お前たちも来年は受験生だ。そろそろ自分の進路を考えろよ~」
進路ねぇ。
どうせ俺は霊術師を継ぐんだし、受験なんてしなくたっていいんだけどな。
まあ、適当に受かりそうな大学受けるってもんだろ。
「そんな訳で、お前たちに進路を考えるチャンスをやろう」
俺はニヤッとした担任の顔と前からまわってきた3枚の原稿用紙を交互に見る。
・・・まさか・・・・・・
「来週の月曜日までに自分の進路について作文を書いてこい。これは1ヶ月後の三者面談の資料にするから、しっかり書けよ~」
「えー」
「ブーブー」
「やだー」
みんな思い思いに文句を並べる。
が、作文がなくなるわけはなく、担任は進路の説明を始める。
おいおい・・・
さすがに適当にいけそうな大学にいくなんて書けないし、霊術師になることを書くなんて言語道断だ。
このバカ教師め。
なんてメンドクセェことやらせんだ。
どうしたものかと悩んでいるうちに4時限目は終わった。
そして、あれよあれよと時間が過ぎ、放課後。
「なあ悠樹、お前なんて書くよ?」
「え?ああ、作文か。ん~、お前も知ってのとおりテレビ局で働くのが俺の夢だからよ。そっち方面のことを書くよ」
そうだった。
悠樹は中学のときに某動画共有サイト『PouTube』でアニメの神MADなるものを見てからずっとテレビ局で番組の編集をすることを夢見ているのだ。
クソッ、こいつじゃ参考にならん。
「わかった。参考にするよ」
「おう!」
次は咲に聞いてみるか。
「なあ咲、作文何書く?」
「作文?うーん、なんて書こうかなぁ。まだ決めてないや」
「そうかぁ。・・・なんかないのか?やりたい仕事とか」
「え!?・・・あ、あえて言うなら・・・そ、その、結婚して、家事とか子育て・・・とかかな・・・」
俯いてても分かるほどに咲の顔が真っ赤になっている。
まあ、確かに結構恥ずかしいよな、その台詞は。
「つまり、主婦として生きたいと」
「えと・・・そういうこと、かな・・・」
「うん、咲ならいいお嫁さんになると思うよ」
「そうかな・・・ありがとう、真二」
夏休み中も家事を完璧にこなしてたし、咲は将来本当にいいお嫁さんになると思うね。
若干天然なところもあるけど、それがまた可愛いからよしとするべきだろう。
だが、結局大して参考にはならなかったな~。
あ、楓はどうするんだろ?
「楓~、ちょっといいか~?」
俺はこの時酷く後悔した。
何故って、今日初めて会ったはずの楓に俺が呼び捨てで話しかけたのだ。
教室に残っていたクラスメイト(半数以上)の視線が一気に俺に突き刺さる。
やはりみんな驚きを隠せない。
「何、真二?」
そして楓が呼び捨てで返事をしたのがいけなかった。
今までの驚きの視線が一斉に殺意のこもったものに急変する。
特に男子。
目が狩りをする獣のそれになってますよ。
「あのさ、作文なんて書く?」
「作文?ん~、確かに下手なことは書けないわね。まあ、家業を継ぐとか適当なこと書いとくわ」
「あ、その手があったか」
確かに、何も本当のことを書かなくても言い訳だしな。
適当に霊媒師やってますとかでいいか。
あながち間違ってもないだろ。
「サンキュ。参考になったぜ」
「どういたしまして。でもそれくらい自分で思い付きなさいよ」
「うっ、それはほら・・・俺は楓と違ってバカだから」
「それもそうね。2学期早々授業サボって屋上で寝てるよう人は分からないかな」
「ま、まあ、そういうことにしとくよ。じゃあそろそろ俺帰るから、じゃあな」
「うん、また明日ね」
何かとても失礼なことを言われた気がするが、蜂の巣と化した俺の精神力はみんなの視線に耐えきれなくなり、半ば強制的に会話を終わらせる。
俺が荷物を持って楓とすれ違ったとき、楓が小声で囁いた。
「今夜もよろしくね、真二」
「ああ、またあとでな」
一瞬立ち止まって軽く言葉を交わし、俺は廊下に出た。
みんなの視線から逃れた俺はやっと一息。
「ふぅ、軽々しく楓に話しかけたのは誤算だったか」
「その通りだぞ、真二!」
その時、後ろから悠樹の声が聞こえた。
振り返ると、そこには掃除ロッカーのモップやらチョークやら持って怖い顔している男子生徒十数名。
「・・・あ、あのー、みなさんそんな怖い顔して、どうされました・・・?」
「皆の衆、私はこやつには制裁を加えなければならないと思うのだがどうだろう」
なぜかリーダー的立場にたっている悠樹。
そして、みな一様に
「やっちまえー!」
「抜け駆けはゆるさねぇ!」
「楓ちゃんに軽々しく話しかけんな!」
といった感じで叫んでいる。
いつのまに楓はそんなアイドル的存在になったんだ・・・。
「うむ、皆の衆よくぞいってくれた。今こそ奴に制裁を下す時!皆の衆、かかれぇぇぇ!!!」
みんなが悠樹の合図で一斉に俺に襲いかかる。
「ちょ、お前ら、まッ!ウギャァァァァァ!!」
俺は男子生徒の逆鱗に触れてしまった・・・・。