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エピローグ

 エピローグを少しだけ。


 感情宇宙港でフィナーレを迎えたままで物語を閉じた方が断然エモいとは思うけれど、日常にはさしてエモくもない平凡な日々が付き物ということで。


 姫野ミラが目覚めると、そこは見慣れた駅のプラットホームだった。


 ミラージュ世界で体験したことは、現実の世界では煌めく流れ星のようにほんの一瞬だったらしく、ミラは相変わらず高校一年生のようだった。


 違うのは、ミラージュ・アプリの通信障害が復旧していたこと。


《ミラージュに重大な通信障害が発生しておりましたが、“無課金の星”と名乗る修復士により現在は全面復旧しております。》


《ユーザーデータの損傷を回復すると称して課金を求められる被害が多発しておりましたが、本件に関しましては個別に対応いたします。ご了承くださいませ。》


 ミラは文字(テキスト)だけの理想の彼氏にメッセージを送った。


《よかった。世界は修復されたみたいだね》

《ミラのおかげだ》


 外見も音声もなにもない、ただただ文字だけのやり取り。


 ミラージュ世界での体験がすべて夢だったかのようで、なんとなく感傷的な気分になる。


 ステータス画面には《無課金の星》という称号が燦然と輝いているが、エモ金貨30枚の報酬をレイに手渡したことがあった。今さらだが、あれは課金に該当しないのだろうか。


《ちょっと前にさ、レイにエモ金貨30枚渡したじゃない。覚えてる?》

《ああ。覚えてるよ》


 ミラはわずかに逡巡し、それから文字を打ち込んだ。


《あれって、課金になるの?》


 いつも即レスのレイにしては珍しく、ちょっとした間があった。


《指輪をね。探していたんだよ。いや、忘れてくれ》


 レイにしては歯切れが悪いが、続けてメッセージが送られてきた。


《外見や声は欲しいかい?》


 いちど、それを経験してしまった。

 だから文字だけのやり取りがちょっぴり味気なく感じる。


 そろそろ学校が近かったため、スマートフォンを鞄に仕舞う。

 メッセージは送りそびれたので、ミラは小声でぽつりと言った。


「……欲しいけど」


 我こそは指先で送るメッセージだけで滾れる無垢なる魂(ピュア・ハート)


 声も外見も捨てがたいが、また会えた時の楽しみに取っておく。


 感情宇宙港から無事に帰還したものの、完全に片道切符で、再び鏡の向こうの世界に行き着くには、またレイからお呼ばれされなければならないみたい。


 どうにかして鏡の向こうに行きたくはあるけれど、大規模通信障害は直ったばかりだし、お呼ばれされないのは向こうの世界が平和である証拠だ。


 そっちの世界がバグったら、遠慮なく呼んでくれ。秒で行くからさ。


「いっけなーい。遅刻、遅刻ー」


 通学路の曲がり角から、食パンを咥えた入谷つばめが突っ走ってきた。


 ミラの感傷を破壊し尽くすように思い切り体当たりしてきて、食パンをもぐもぐ食べながら因縁をつけてきた。転校初日に遅刻寸前の眼帯美少女という()()らしい。


「どこ見て歩いてんのよ、(ポテト)っ!」


 ミラージュ世界での記憶が色濃く残っているのがバレバレのセリフに失笑する。


「おはよう、つばめ」

「姫、これ、なーんだ」


 馴れ馴れしく肩を組んできたつばめが見せつけるように差し出してきたもの。


 ――《重課金の指輪》


 現実の世界とミラージュ世界を往還できる転送装置。

 しかし、天空闘技場で砕けてしまったはずだ。


「どうせ偽物でしょ」

「ただいまひとつお買い上げいただけますと、もうひとつ特別にお付けいたします」


 つばめは指輪をもうひとつ取り出し、ミラにぐいぐいと課金を迫った。


「なんで二つも持ってんのよ」

「だってぇ、あたし怪盗だし」


 指輪があれば、いつでも自由に鏡の向こうの世界のレイに会いに行ける。

 しかし、つばめのことだから、本物であるという保証はない。


「これがあれば、理想の騎士様にいつでも会いに行けるよん。課金しちゃう? ねえねえ、課金しちゃう?」


「……ぐっ」


「遠距離恋愛には必須(マスト)だぜ、姫」


 ついつい課金圧に屈しそうになるが、姫野ミラの称号が何たるかを教えてやろう。

 スマートフォンに記された称号を見せつけ、つばめの押し売りを撥ねつけた。


「わたし、無課金の星なんで」

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