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イルだから言うね

スーパーから両手に大きなビニール袋を携えて二人で広い駐車場を歩く。何だか、同棲カップルみたい。こんな生活感満載なことが、ここまで胸を高鳴らせるなんて知らなかった。重たい荷物を持っても足取りは軽かった。


「ご主人様、重くない?俺が持とうか??」


俺よりも小さな身体で大きな荷物を頑張って持っている彼が健気で、何だか手を貸してあげたくなった。


「ありがとう。大丈夫だよ。僕だって鍛えてるからね」


そう感謝を伝えられてはちょっぴりこそばゆかった。車のトランクに全ての荷物を乗せ終えると、ちょっとした達成感からお互いに笑顔を見せ合った。


「イルのおかげでたくさん買えたよ」


「俺のせい、じゃないの?」


なんてたくさん強請ったことを思い返して、冗談っぽく聞くと、


「イルのおかげだよ。一人じゃここまで買いたくても買えない。付き合ってくれてありがとう」


と陽が沈む中、キラキラした笑顔を向けられる。俺だけの一番星を見つけたみたいだ。


「そんな礼なんていらないよ。俺は犬だから。ご主人様の言うことはなんでも聞く」


「本当に、良い子だね」


俺の頬を撫でる手が気持ち良くて、目を細めた。その手にもっと触れられていたくて、彼に触れたくて、彼の腰に手を回そうとすると、彼は逃げるように俺の手を避けた。


「レイラ……」


彼は逃げ込むように車のドアを開けて運転席に座った。残された俺は小石を蹴飛ばしながら助手席まで歩いて、ドカッと座り込むと彼と一度も目を合わせずに車窓から外ばかり眺めていた。


「イル、到着したよ」


ボロアパートの駐車場に着くと、彼は俺にそう語りかけては無反応の俺を見て、軽くため息をついていた。


「イル、今日はありがとう。お家に入ろう」


彼はそっぽを向いている俺の頭を撫でた。俺の気も知らないで俺の気に触れてくる。


「レイラ、今日だけは彼氏でいて良いんだよね?」


俺は彼の手を引いて唇同士を重ね合わせ、彼の口内に舌を滑り込ませた。


「んっ、イル……」


彼は苦しそうな顔をして、軽く暴れて抵抗した。


「レイラ、ごめん。我慢できない」


彼に優しくされる度、彼と繋がりたいっていう気持ちが溢れて、どうしようもなくなる。彼が嫌がるとわかってても自分の気持ちを抑えきれない。俺は悪だ。


「ダメ。んっ、ダメだって……」


と彼に拒否されたって、その拒否さえも性欲が滾る燃料となる。


「一緒に気持ちいいことシよ?」


そう妖艶に微笑んで、彼の唇を食んだ。彼は「んんっ」と身体をビクつかせて、呼吸を浅くしていて、それが俺の性を刺激して、自然と口角が上がった。


「イル、僕は性的に見られるのが嫌いだ!!」


彼は色欲の塊を押し付けている俺に嫌悪の色を露骨に示した。彼の目はとても潤んでいた。


「どうして……。こんなにも、好きなのに……」


俺はこんなにもあからさまに拒否されるとは思っていなくて、酷く困惑して泣きそうになっていた。


「……ごめん。イルのことは愛しているよ」


そんな取って付けたような言葉、聞きたかったはずの言葉なのに、全く信用ならなくて、嬉しくなくって、


「嘘だ……!!俺のこと利用したいからそんなこと言うんだろ」


と自分で言ってて虚しくなることを言っていた。


「違うよ、イル」


「じゃあ、何!??」


俺が嘆くように問い詰めると、彼は言いにくそうにゆっくりと口を開いた。


「イルだから言うね。……僕ね、レイプされたことがあるんだ」


彼は不甲斐なさそうに苦笑いしてそう言った。俺は驚きのあまり絶句してしまった。


「警察学校時代、僕がこんな身なりだから舐められててさ、よく僕のことをイジメてきた同期からいきなり襲われたんだ」


彼の真っ黒な瞳がさらに黒くなって、その心の闇を示しているようだった。


「その同期は?どうなったの??」


「ん?そのまま一緒に卒業したよ。惨めで恥ずかしくって、こんなの誰にも言えないからね!」


彼は心の傷を隠すように、やけに明るく笑顔を取り繕っていた。彼の痛みに共鳴して、俺の心がナイフで突き刺したように痛んでる。


「そいつ、名前は?今何処にいる?」


「何でそんなこと聞くの?」


もう話したくないように、彼は察しの悪いフリをする。


「俺が殺したいから」


俺が殺意を募らせて、ストレートにそうぶつけると、彼の顔に貼り付いた笑顔が消え、彼は深呼吸してからこう言った。


「そんなこと、しなくていいよ」


その言葉とは裏腹に、まだそいつが生きていることが憎くてしょうがないって顔してた。こんな世界、総じて腐ってんな。


「……じゃあ、レイラのこと抱きしめてもいい?」


でも彼に何かしてあげたくて、代替案のように腕を広げると、彼は腕の中に飛び込んできて、わんわんと泣き始めた。


「イルぅ、つらいよぉ。苦しいよぉ……」


その事件は彼の中で過去ではなく、現在までも痛む深い傷になっていて、彼はそのせいでまだ苦しめられていた。それを思うと、いたたまれなくて彼を大切にぎゅっと抱きしめていた。


「ごめんね。嫌なこと思い出させて」


「いいよ。イルが抱きしめてくれるから」


そう彼は俺に甘えてきた。そんな彼が俺は可愛くてしょうがなくて、彼の恋人になったみたいだと錯覚した。守ってあげたいとぐちゃぐちゃに壊したいがドロドロに混ざりあって、こんな時にまで彼を性的に見てしまう自分が、心底気持ち悪い。

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