ミッキー・ディーズ
彼は時々、パトカーに俺を乗せてくれて、一緒にお散歩という名のパトロールをさせてくれる。そんな彼は「ミッキー・ディーズ」というファストフード店に強いこだわりがあるのか、昼食はよくそこのドライブスルーを利用していた。
「やっぱり、パトカーで食べるハンバーガーは最高だね!」
楽しそうな笑顔でハンバーガーにかぶりつく。
「ハンバーガーが食べたいなら、ミッキー・ディーズじゃなくても良いじゃん」
俺は唇を尖らせながら、ポテトを一本ずつつまんで食べていた。
「この味が安心するんだよ。僕が幼い頃に食べた味と同じだから」
そうノスタルジーに浸りながら、またハンバーガーにかぶりつく。その彼の横顔にはちょっぴり悲しみも含まれていた。
「両親と、よく来てたの?ミッキー・ディーズ」
「あぁ、僕が好きでね。日曜の昼と言えば、ミッキー・ディーズだった」
そう言ってまた、ハンバーガーにかぶりつく。虚しさを感じないように、ハンバーガーで頬をいっぱいにしている。
「じゃあ、そうしよう!日曜の昼はミッキー・ディーズを食べること。俺らのルールにしよう」
「え?」
彼が困惑した顔で聞き返してくる。
「過去の記憶に浸るのも良いけど、現在の楽しさに目を向けて、新たな記憶を作っていこうよ」
彼にとってミッキー・ディーズは思い出に浸れる場所であり、理想の場所でもある。それが、俺のおかげで、また純粋に楽しい場所になればいいなと思った。
「僕さ、パトカーでハンバーガーを食べるの夢だったんだよね。幼い頃に見たドラマで警察官役の俳優がこうやって食べてて、それに強く憧れたんだ」
って、彼は楽しそうに話した。
「それで、それが叶った今、ご主人様は何を思うの?」
「これが初めてできた時、すごい気分が上がったけど、その警察官は相棒と二人で食べてたから、少し虚しかったのを覚えてる。だから今、イルという相棒と二人で食べられていることが最高だよ」
そう言って、俺にキラキラした微笑みを向ける。
「ふふっ、ご主人様の夢が叶って良かった」
ご満悦な顔してポテトを一本、口にした。
「イルには、何か夢はないの?」
「俺は、そうだな。世界一幸せな人間になりたい」
無理だと思うような夢が心の中でずっと燻っている。それを吐き出すかのようにそう言った。
「そっか。それは、どうして?」
「だって、俺の人生は総じてクソだから、その分とびきりの幸せを貰ったって良いだろ?」
「そうだね。僕もそう思うよ」
きっとそう言う彼の人生も総じてクソだったんだろう。俺は共感してくれた彼の手を指を絡めて握って、少し声を震わせながら、
「一緒に幸せになろーね」
と甘えるように言った。
「ふふっ、僕はイルといられれば幸せだよ」
そんな綺麗事だ。本音じゃない。だけど、
「どうして幸せなの?」
と言葉の信ぴょう性を確かめるようなことを言ってしまう。
「……孤独じゃなくなるから」
言いにくそうにそうボソッと言われた。
「ご主人様が俺を捨てない限り、俺はずっと傍にいるよ」
と握っている彼の手の甲にキスを落とした。
「イルにとって、それは幸せ?」
彼は不敵な笑みでこちらの様子を伺う。
「んー、幸せなのかな?セックスできないし、家事しないとだし……」
と愚痴をこぼすようにそう並べていると、
「そうだね、この束縛から離れたい?」
と彼はリードから手を離したように俺の自由に任せた。
「ううん。ご主人様と一緒にいたい。ご主人様は俺の知らない幸せを教えてくれた。ご主人様と一緒だと、俺は普通になれる気がする」
そう言って彼にまたリードを握らせると、彼は
「幸せになろうね」
と微笑んでくれた。




