表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/42

ミッキー・ディーズ

彼は時々、パトカーに俺を乗せてくれて、一緒にお散歩という名のパトロールをさせてくれる。そんな彼は「ミッキー・ディーズ」というファストフード店に強いこだわりがあるのか、昼食はよくそこのドライブスルーを利用していた。


「やっぱり、パトカーで食べるハンバーガーは最高だね!」


楽しそうな笑顔でハンバーガーにかぶりつく。


「ハンバーガーが食べたいなら、ミッキー・ディーズじゃなくても良いじゃん」


俺は唇を尖らせながら、ポテトを一本ずつつまんで食べていた。


「この味が安心するんだよ。僕が幼い頃に食べた味と同じだから」


そうノスタルジーに浸りながら、またハンバーガーにかぶりつく。その彼の横顔にはちょっぴり悲しみも含まれていた。


「両親と、よく来てたの?ミッキー・ディーズ」


「あぁ、僕が好きでね。日曜の昼と言えば、ミッキー・ディーズだった」


そう言ってまた、ハンバーガーにかぶりつく。虚しさを感じないように、ハンバーガーで頬をいっぱいにしている。


「じゃあ、そうしよう!日曜の昼はミッキー・ディーズを食べること。俺らのルールにしよう」


「え?」


彼が困惑した顔で聞き返してくる。


「過去の記憶に浸るのも良いけど、現在の楽しさに目を向けて、新たな記憶を作っていこうよ」


彼にとってミッキー・ディーズは思い出に浸れる場所であり、理想の場所でもある。それが、俺のおかげで、また純粋に楽しい場所になればいいなと思った。


「僕さ、パトカーでハンバーガーを食べるの夢だったんだよね。幼い頃に見たドラマで警察官役の俳優がこうやって食べてて、それに強く憧れたんだ」


って、彼は楽しそうに話した。


「それで、それが叶った今、ご主人様は何を思うの?」


「これが初めてできた時、すごい気分が上がったけど、その警察官は相棒と二人で食べてたから、少し虚しかったのを覚えてる。だから今、イルという相棒と二人で食べられていることが最高だよ」


そう言って、俺にキラキラした微笑みを向ける。


「ふふっ、ご主人様の夢が叶って良かった」


ご満悦な顔してポテトを一本、口にした。


「イルには、何か夢はないの?」


「俺は、そうだな。世界一幸せな人間になりたい」


無理だと思うような夢が心の中でずっと燻っている。それを吐き出すかのようにそう言った。


「そっか。それは、どうして?」


「だって、俺の人生は総じてクソだから、その分とびきりの幸せを貰ったって良いだろ?」


「そうだね。僕もそう思うよ」


きっとそう言う彼の人生も総じてクソだったんだろう。俺は共感してくれた彼の手を指を絡めて握って、少し声を震わせながら、


「一緒に幸せになろーね」


と甘えるように言った。


「ふふっ、僕はイルといられれば幸せだよ」


そんな綺麗事だ。本音じゃない。だけど、


「どうして幸せなの?」


と言葉の信ぴょう性を確かめるようなことを言ってしまう。


「……孤独じゃなくなるから」


言いにくそうにそうボソッと言われた。


「ご主人様が俺を捨てない限り、俺はずっと傍にいるよ」


と握っている彼の手の甲にキスを落とした。


「イルにとって、それは幸せ?」


彼は不敵な笑みでこちらの様子を伺う。


「んー、幸せなのかな?セックスできないし、家事しないとだし……」


と愚痴をこぼすようにそう並べていると、


「そうだね、この束縛から離れたい?」


と彼はリードから手を離したように俺の自由に任せた。


「ううん。ご主人様と一緒にいたい。ご主人様は俺の知らない幸せを教えてくれた。ご主人様と一緒だと、俺は普通になれる気がする」


そう言って彼にまたリードを握らせると、彼は


「幸せになろうね」


と微笑んでくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ