29.お祭り騒ぎ
セラフ、アロニア、ミラビリス。
役者はそろった。
俺は汚されたのか?というような状態だが、それは置いておいて。
皆、それぞれ場にふさわしい格好になった。
さあさあ、お祭りだ!
練り歩きながら、出店で買ったり、遊んだりかと思っていたら、意外と他の変装をしているお客さんとの絡みがある。
手を取られたり、なんかよくわからないものを塗られたり。
お酒……ではなく、あまーい発酵乳をちょっと分けてくれたりと。
「え、いいんすか?」
「お嬢ちゃんたちも、どうぞ」
よく見ると近くでやっている小料理屋のロゴをデザインに入れた衣服を着て、顔の右目のあたりだけを仮面で隠している。
どうも宣伝も兼ねているらしい……。
セラフは、わらわらと人が集まって踊っている所が気になるようだ。
「ねえ、見に行っていい?」
「おう」
俺はそんなに興味がない。
母国の盆踊りのように人口に膾炙した躍りのようで、飛び入り参加した人たちも一緒に踊っている。
俺の母も、「意味はよく知らないけどね」と苦笑いを少ししつつ、浴衣を着てめかしこんでは、ちゃっかり楽しそうに踊っていたもんだ。
アロニアまでもが、つられて、手がくねくね動いてきた。
でも、残念ながら、彼女は踊りの才はないかもしれない……。
「見てらっしゃい!」
その高い男の声に振り向くと、今度は、高い木の棒を2人が支えて、その上に向かって、スルスルと猿のような軽い身のこなしで登っていくご老人もいる。
俺は「おお~!」と思わず声を上げ、そちらに見入った。
ミラビリスはと言えば。
「ちょっと行ってくるね!」
射的のようなダーツのような屋台に駆けていき、狙ってた可愛いぬいぐるみを当てて帰ってきた。
普通は娘がお父さんにねだるものを……やっぱり残念……いや、観察していて面白い女だな。
盆踊りのようなものが終わってしまった。
楽しい祭りの時間ももう終わりだ。
帰っていく人影もまばらになり、街はひっそり静まりかえる。
俺は眠ってしまったセラフを背負いながら、アロニアの隣を歩く。
おっと、その反対側には、ミラビリスが、少し素振りの動きをして、歩いている。
背中にぬいぐるみをくくりつけて。
それが俺の幸せの形なんだよな、と思いつつ、満たされた気持ちで夜道を歩く。
◆
(領主邸、ミラビリスの弟・エンリクス)
従者が置いてった決裁書類にひととおり判を押し終えると、一番下に書状が入っていた。
家宰の字で「領主様、回覧願います」と書かれたメモを外して、書状を開く。
差出人は……。
「エリクス魔道国モノマス、魔術師の塔の長、エルゼパル」
隣国のけったいな魔術師連中の長老か。
まさか何かうちに言いがかりでも?
中を読む。
「貴国に滞在しているリンクス・アローによく似たハーフエルフの男について、情報を求めている。その者は、偽名を名乗っているが、わしの機密を盗んだ罪人であり、本国への引き渡し、または、わしとの決闘を求める。ついては、貴領にてその男の身柄を確保願いたい」
ふーん、身柄を確保?
ついこないだまで、投獄してたけど、もう釈放しちゃったし。
姉さんがあれだけ思っているみたいだけど、家宰が「回覧でいい」って言ってるってことは、関係ないふりしてて良いよね?
もう知~らないっ!
◆
(怜樹視点)
祭りの翌日は、休養日にして、その次の日、俺たちは魔獣を狩りに行くことにした。
冒険者ギルドによると、最近、魔獣の中にアンデッドが混じっている、と注意された。
「見分け方を教えよう。矢を当てて、刺さらないのがアンデッドだ」
これはギルドから支給するから、と、矢を持たされた。
「アンデッドの討伐証明は?」
俺は戸惑いながらも受付に聞く。
「魔石が出る場合があるから、出たら換金してあげるよ」
と返された。
毎回は魔石は出ないらしい。
「原因に心当たりは?」
「魔獣の増加自体は、近辺に新しいダンジョンができるらしいっていうのが、錬金術師ギルドの見立てだ。だが場所もわからないし、アンデッドの方は理由はさっぱりわからない」
「そうか。情報ありがとう」
受付をあとにし、皆で円卓について、作戦会議をはじめることにする。
疑問が一つ湧いたので、ミラビリスに聞いてみる。
「アンデッドの討伐の経験は?」
「騎士団でもアンデッド系の討伐はあまり経験がないんだ。修道院マターだからな」
と、気のない返答だ。
アロニアにも聞いてみる。
「まあ、アンデッドが出たら、任せるよ。練習してるでしょ?」
と意味ありげに目配せしてきた。
「そうは言われてもなあ……。治癒術とは系統が違うし……」
「てゆうか……なんで、ミラビリスさんがいるの?」
不機嫌そうな顔をしたセラフがぶっ込んできた。
「それは、我の腕が鈍らないようにということで、今日は加わらせてもらったんだ」
「怜樹兄ちゃん、良いの? そろそろ昇級審査受験資格を得るかどうかって大事な時期なのに」
「ええと。それは~、その~!?」
どぎまぎする俺。
「良いじゃないか。怜樹だってかっこいいところをミラビリス殿にみせたいんだろ?」
アロニアが助け船を出した。それとも、お節介か。
ミラビリスが俺を小突いてくる。
「期待してるよ!」
「は、はあ~!?」




