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28.笑顔の少女と三途の川


ドクン、ドクン。


なぜか耳が澄み、鼓動の高鳴りばかりが聞こえる。


目の前のこの……異質な霊は。

そもそも見えている、というのも不思議な話だ。


「おまえの肉体はどうした?」


もう一度、尋ねる。


霊に肉体がない……。



それはほぼ素人な俺にもわかった。


リーン、リーン、リーン。

鈴の音が、甲高く響きわたる。


そうか、俺は今、鈴の力を得ているのか。

この鈴は何らかの呪術的な力を持っている。でも、リンクスの手に余り、使用方法を知られなかったものだ。

目的は除霊というもの。

だから、霊が見えるようになっている。


使用方法は手に持てばいいのか? それと墓場?

まだ、いろいろとわからない……。


だが、目の前の霊が「異常だ」ということだけは、わかる。


なぜ、肉体がないのか。

霊だけで、ここにとどまっているのか。


(火事で燃えてしまったから)


と心に声が届いた。


火事で?


(うん)


俺は鈴をにぎりしめている。


俺、話しかけられてる? と思いつつも、なぜかズルズルとその女の子の声に、愛らしい表情に、気持ちが引きずられた。




火事で亡くなってしまうとは……それは無念だ……。

俺が救命士になれてたら、いや、アイアン級の冒険者の俺が、そばにいてやれたなら……。


(ううん、いいの。燃えたのは、おばさんの家だったし、私は孤児だったから)



そうだったのか、すまなかったな。

棺に霊がとどまっているように見えたけど、棺に付いてくれば、この修道院に来れると思ったの?


(ここは、おばあちゃんも眠っているお墓があるのを知っていたの。おばあちゃんが亡くなった時も、ここでお葬式を上げたから)


なるほど。

この子の祖母のゆかりの修道院なのか。


(おばあちゃん……)


その霊は、せせらぎの前で立ちすくんでいるように見えた。


どうして行かないんだ?


ニコッとして女の子が俺を見る。


(こっちに行けば良いの?)


うん、そっちに行けば、輪廻の流れに行けるはずだよ。


(ありがとう、おじちゃん)


ニコニコしながら、俺にウインクしたり。


ん?

俺はおじちゃんなのか?


(エルフのお兄さんも見えたけど、本当は眼鏡をかけた黒髪のおじさんでしょ?)


女の子は、なおもニコニコしながら。


ううむ、転移前の俺の姿も見えているわけね。

そりゃ、間違いなくおじさんに見えるだろう。


女の子が手を振った。


(ばいばい)


とびきりの笑顔を向けてくれる。


ああ、行ってしまうのか。

輪廻の彼方に。


もっと見ていたくなるような、笑顔と愛くるしさが、あまりにも魅力的だった。


話しかけられたばかりなのに、笑顔を振りまいてくれるのに、永遠の別れがすぐに来た、という現実に打ちのめられそうにないながらも。


俺は、精一杯に手を大きく振って、女の子の気持ちに答えた。


ばいばーい! 達者でな!



(おじさんもね~!)


うう~! これが最後の笑顔。

行かないで、でも、無事に行ってくれ。


2重の意味で、ガックリ来てしまう。


打ち解けたのにすぐに別れてしまう悲しさと。

奇跡でもなければ2度とは会えない……。


何でイケメンのリンクスだけに見えてくれないのかという心からの疑問とを差し挟んで。






まばたきをすると、視界は元に戻っていた。

俺はさっきまで霊的な視界を得ていたということだろうか。


俺は頭がクラクラした。



首をコキコキしながら、大通りに戻った。

色とりどりの旗、着飾った女たち、お面を被った子どもたち、毒々しくペイントされた男たち。


「おおう、やっと祭りだなあ……」


俺はふうと大きく深呼吸した。

祭りの予感に、ワクワクする。


「くらえ~!」


べちゃっ。


黒いイカスミが飛んできた。ちょっと生臭いので、いきなり涙が出そうになる。


え、何これ!?


キレイ好きな俺なので、思わず憤慨しそうになる。

が、俺もいい年をした大人だ、グッと耐える!



竜の仮面を被った子ども、しかも声は聞いたことのある少女のものだ。


この……声は……!


「セラフか~! やったな!?」


「うわ~! やばーい!」


この面白い、いつものセラフだ。


隣で普段より露出多めで艶やかに見えるアロニアが、カラカラと笑っている。


アロニアだって、明るい調子で。


「はははは」


振り向くと、後ろにミラビリスがいた。

なぜか頭に蝋燭を布で巻きつけている。


一瞬で怒りが消えて、なくなってしまった。

我ながらなんという感情の変化か、といったところだが、ミラビリスのこの格好は……。


まさに日本風の女性のお化け。


やはりルーツは東国か……。

などと思ってみる。










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