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27.修道院の謎


俺は修道院の中へ進もうとしたが、背後からくぐもった低い衝撃音が聞こえて立ち止まる。


出入り口で呼び止められた。


「誰か~! 助けてください~!」


振り向いてみて、俺は駆け出しつつ、探知スキャンを行った。


「馬車にこの子が轢かれて……」


「ここは修道院だろう? 治癒術師を連れてこい! おや、来たみたいだぞ?」


「ああ、神の助け……!」


馬車にぶつかってはね飛ばされた女の子。

女の子の母親らしき人物。

馬車に乗っていた役人らしき2人組。




俺はだいたいの状況がつかめたので、走りながら、そのまま片手を掲げ、「ヒール」を飛ばした。


女の子の身体が白く光る。


ああ、詠唱を言うふりを忘れた。反対の手で口元を押さえて、モゴモゴ言うようにして、2度目のヒールを飛ばした。


俺はそのまま女の子のそばにひざまずき、消毒代わりの術をかけたり、バイタルを確認したりした。


女の子が目を開けた。


「おかあさん!」


「わあ! アーシャ!」


親子は抱きしめあった。


「念のため、明日は安静にした方がいいですが、お嬢さんはもう、大丈夫です」


と言いながら、俺は馬車の中を見た。


「お、お代は後で、修道院に寄付させていただきます!」


「悪いが、俺は冒険者だ。冒険者ギルドに代金は振り込んでくれ」


「はあ、良かった、冒険者の方でしたか。それなら修道院よりもかなり良心的な価格だから」


「おや、そうなのか?」


「お名前は……?」


「冒険者の怜樹だ」


オッホン、と背後で咳払いがする。振り向くと、先ほどの聖職者が立っていた。


「すみません、すぐにどきますんで」


「そこの治癒術の使い手よ、話をしませんか?」


「あ、はい……」





修道院の中。


「低級治療術は1件50万ガド、中級治療術は1件300万ガドでの治療代で、そのうち修道院と治癒術師の取り分は半々だ。……何か質問は?」


「あの……低級と中級の区別はどう判断すればよいでしょう?」


「低級は、膿の出ている擦り傷程度、中級は、骨折など全治1ヶ月程度の傷の治療だ」


うん、0が多い気がする。


「では上級の代金は?」


「一千万、いや足りないな……億でもいいだろう」


うん、どこかの顔に傷のある天才無免許医が金持ちに求めそうな金額だ。


でも。


「やります」


「まさか、上級が使えるのか?」


「ええ。冒険者ギルドの実績を見てくださればわかると思います」


領主の娘を助けた時にエリアハイヒールを使ったと記録があるはずだ。騎士の証人だっている。


「それは素晴らしい! 領都での滞在はいつまでの予定で?」


「1ヶ月程度だ」


ただ、この修道院は金にがめつそうだ。

こういう所ばかりなのだろうか?


「急患が参りましたら、滞在先に急使を向かわせます」


ふむふむ、そういう仕組みなのか。


「俺が別の依頼を行っている間は?」


「他にも治癒術師のあてはありますので、そちらにお願いをすることになります。滞在先の宿に依頼遂行中と前もって伝えておいてください」


なるほど。


「わかりました。それで大丈夫です。あと、俺の滞在先は冒険者ギルド内です」


「存じております。あなたのお名前も、レイジュ殿と。」


「ご存知でしたか」


「いろいろと目立っておりますので」


目立ってる?

なんだ? 俺のエルフ耳か?


「では、よろしくお願いいたします」


「こちらこそ。では、また。あの、ちょっと周りを見てきていいですか?」


「ご自由にどうぞ」



隈なく見て回った。

供えられている花を見たり、枯れたものを取り除いてみたり。


「よし、これでいいだろう」


祭りの前にふさわしい。



その日は特に異常は見当たらなかった。






翌日も修道院にこっそり立ち寄った。

依頼をその場でもらえないかと思って来たが、空振りのようだ。



亡くなった人がいるらしく、葬列が出ており、修道院の前にも喪服で立っている人がいた。


この場に治癒師がいるというのも変だよな……と思い、俺は建物の陰に隠れながら様子を伺った。


この世界の葬列は、意外と前世(?)のキリスト教式に似ていて、白と黒の2色のモノトーンに納められている。


木でできたらしい棺が運ばれてきて、最後に墓に納められた。


俺は参列者が完全に帰った後、特に墓場のあたりを念入りに見てみた。


新しい墓は、死者が今日から眠っているはずなのに、何かが納められている存在感のようなものを感じられず、変な気がした。


先ほどの葬列には死者の「肉体」を感じられたのに、今は、感じられない。


なんでだろう?




そのそばには、有名人の墓だろうか、大きな墓石の前にはたくさんの花が供えられている。

その後ろに茂みがあり、それ自体も不自然ではなかったが。


茂みの木が何か子どもくらいの大きさのものを隠しているように見えて……手を伸ばす代わりに……棍の先端をトン、と当ててみた。


見える世界の明暗が逆転した。

何かが発動した。


キン、と例の鈴が震えるように響く音がした。

袋から出してもいないのに、奇妙だな。


墓は変わらない。

なのに、墓地に隣接した道路がなく、代わりに砂利の河原が広がっている。


実際の川と同じ場所とさらにもう1本枝分かれした小川が流れている。


修道院は焼け落ちたかのような廃墟となっていて小川の向こうにあり、修道院の黒い廃墟の周りには一面の幻想的な花畑があった。


その奥はよく見えないが、雪か氷の平原が延々続くようだ。


「これは……何だ?」



小川の前には、青白く光る鬼火がある。

わかった、これが今日葬送された霊か魂だ。



「おまえの肉体はどうした?」


返事はない。

俺の言葉が届かないのだろう。


俺の耳にも俺の声が届いた感じはしないのだ。



ドクン、と胸の音が高まる。



さて、どうしたものか?







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