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24.探し物はこんなに近くに


こうして俺は保釈された。


「アロニア、後でお願いしたいことがある」


これは俺というより、リンクスからの依頼。なので、俺は夢で見たリンクスの笑顔とやらを真似してみた。


「えっ……おまえ、まさか」


「その『まさか』が、ちょっとだけね……似てる?」


「ああ、そういうことか」


アロニアとの他愛もないやりとりの中に少しの真実を織り混ぜてみた。


そばにいたミラビリスが怪訝そうにしていたが、俺の、リンクス譲りの笑顔を盗み見てしまって。


「ぐわあぁぁ!!」


なぜか悶絶していた。




アロニアとセラフがついてくる。


俺たちは街の冒険者ギルドにいて、依頼の載っている掲示板を一通り眺める。


「特に怪しい依頼はなさそうだな」


「はあ、良かったあ~」


「ねえ、依頼を1個受ければ良いの?」


「うん、領主からの話で、ブロンズ級の依頼を1個達成すれば、無罪放免、なんだって」


「あと、シルバー級をこなせば、ミラビリス殿をもらっても良い、とか言っていたけど?」


「俺はただのアイアン級さ」


「とは言っても、怜樹って、雰囲気が変わったよね? 時々ただ者じゃない感が出てるっていうか」


「昔のリンクスを思い出す……というような」


「その話だが」


「その話で、わざわざギルドの部屋を借りてるんでしょ?」


「領主邸じゃ、気まずいからな」


「わかる、わかる」


「気になる~ぅ!」



防音・防諜設備の整った、重厚な会議室。しかもギルマス室の隣だ。


一介のアイアン級が借りて良い部屋ではない。


しかし、領主の口添えがあったからか、すんなり借りられた。


「さて、怜樹、話は? というか、記憶が戻ったのか???」


「まあ、そうだ」


「えええ~っ!? やっぱり、そうなのね!?」


「リンクスの記憶とつながることができた。だけど、この身体を動かしているのは変わらず怜樹オレなんだ」


アロニアはゴクリと唾を飲んだようで、複雑そうな、少し悲しい顔をした。


「ごめんな、アロニアはリンクス本人とは直接は話せない。でも、俺はリンクスの思考や記憶は辿れるから、慣れればそれっぽく仲介できるかも」


「本当に!? 楽しみ……」


「そのためにも、というか、リンクスの頼みとして、アロニアに助けてほしいことがあるんだ」


「はっ、何なりと」


妙にかしこまるアロニア。俺は言う。


「リンクスの所持品のうち、格納魔法内にも入っていなかったエルフの笛と、その笛の使い方を知る者を探してほしい」


アロニアはすぐに答えた。


「エルフの笛か……確かリンクス自身は、『音楽には向いていない』と言ってポイッと捨ててたな。それを拾ったのはおいら……じゃなくてヨアキムだ。彼の収集品のひとつになっているはずだ」


なんと、親友が持っていたのか。


「ではヨアキムはその笛を吹けるの?」


「いや、ヨアキムでさえも笛の音は出せなかった。あれはエルフの魔笛だからね、エルフの魔術が必要だって話」


エルフの魔術……精霊術か? 俺は心当たりが全くない。リンクスも現代魔術ばかりで、精霊術には疎かったらしいしな。


「では、俺はやはりエルフの里に向かわないといけないのかな」


「はぐれエルフ……というか、里を出たエルフっていうのも、時々いるもんだよ。そういうエルフに会ってみるのもいいだろうね」


「運任せってことかな」


「それでも...…ヨアキムから『万が一の時のために』って、これを預かっていたんだ。こんなもので良ければ、リンクスの助けを借りて、魔笛の代わりにしてほしい」


「ん? 鈴みたいだな?」


小さい鈴がひとつ。ただし、かなりの年季物だ、あとで布で磨いておこう。


「笛の対となる鈴だ。『除霊の鈴』って呼ばれている」


「笛と同格なのか」


なあんだ、こんなにそばにあったなんて。


アロニアは念を押すように言う。


「音階がない分、精度に劣るが、威力は十分にある、と言われている。これもエルフの魔力が必要な品物で、魔笛が扱えなかったリンクスのためにと、ヨアキムが用意したものだ」


「そこまでお膳立て……いや準備をしてもらっていたのか? なんで?」


アロニアが大きくのけ反った。


「なんでって!? おまえさんが敵対していたエルゼパルが死霊術を使っていたから、その対抗策としてだよ? はて、その顔は、知らなかったのか!?」


「うん、なぜかリンクスの記憶に一部、制限がかかっていて……エルゼパルのことが封じられているんだ」


アロニアは、ああ、とばかりに額を押さえていた。まだ驚きは続いているらしい。


「ああ、彼は強力な術師だからね。呼び出して定着させた怜樹、おまえの魂を通じて、そういうこともできるんだろう」


「そうだったのか」


「リンクスに鈴を届ける前にこんなことになっちまって、リンクスの記憶のないおまえのために鈴を持ち続ける意味はもうなかったのだが、手放さなくて良かったみたいだな」


しみじみと彼女は言った。おや、やけに湿っぽくて……返答に困る。


「あ、うん……」


「この除霊の鈴をエルゼパルの死霊術に対抗するために使え」


アロニアは俺を指差して、宣言するように言った。





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