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21.ミラビリスの弟の裏切り


戸を開けると、ずいぶんと貫禄が良くなった弟の姿があった。


「姉上!」


「おお、エンリクス、久しぶりだな!」


「姉上もお元気そうで、良かったです!」


なんだこの普通すぎる感じは。

以前とまるで何も変わっていないではないか。


「ずっとお会いしたかったです……!」


「なんだあの縁談の手紙は……勘違いしたじゃないか?」


「理由は山のようにあっただけで、何でも良かったんです! それに僕……あの人たちの顔は立てて『姉上に紹介した』という事実だけ作りたかったんだし……」


「我がこのような外見でも良いのだとおっしゃった御仁はおられたか?」


「ええ。若くて美しければ良いという方々ばかりで...…僕も姉上は美しいと思っています! だから、若いうちに早くけ、結婚をと!」


「おまえは我が独身のほうが良いと思っていたのではないか?」


「いえ! そんなことは! できれば……姉上は身を落ち着けて、僕の領内に移住していただきた」


「なるほど」


ミラビリスは弟の言葉を遮った。


「いかにもおまえが言いそうなことだ」


はあぁ。


根本的には姉溺愛系の弟だが、なまじっか権力を持つようになってからはめんどくさくなってしまったなぁ。





(怜樹の視点)



俺は広々とした寝台にごろんと寝そべった。


ふかふかだ。


夕飯に呼ばれるまで、少しの間、うたた寝をした。


下女がやってきて俺を呼んだのかと思ったが、目をこすって扉に向かい、開けると、そこには沈鬱そうな顔をしたミラビリスがいた。


「怜樹……今晩は、おまえと一緒にいたい」


言っていることはいつも通りの軽々しい愛の囁きだったが、この表情は……。

絶望に近い暗さがある。

彼女のまわりにもどす黒いオーラが漂っているかのようだ……。いつもは気さくで明るくお調子者の美人さんなのに。どうしちゃったのか。


「弟君と、何かあったのか?」


「うん。予想通り……仲違いをな」


「仲違い!?」


「夕餉くらいなら顔を会わせても、大丈夫だが、それ以上は……もう無理だろう……」


「そんな……」


珍しい落ち込みようだと思ったが、その訳には納得した。


「じゃあ、今晩は、好きにしていい」


とうとう俺の童貞は今晩で卒業か。

そんな予感がした。


「ありがとう」


俺の気持ちを知ってか知らずか、ミラビリスは俺の胸をポンと押さえながら、そう答えた。




豪華な夕食。


残念ながら俺の気持ちはご飯に集中できなくて、あまり味が残っていない。


隣でアロニアはお上品に、セラフは元気いっぱいにかなりの量を食べていた。


ミラビリスはどんどんセラフの分のお代わりを呼んで、世話を焼いていた。


領主と娘たちは黙々と食べていて、この場に領主の奥方の姿は見えなかった。


死別でもしたのか。

ずらりと執事と給仕が並んでいたが、無粋なことは聞けそうな雰囲気ではなかった。


トメスとネシリは別室で、騎士たちと過ごすらしい。




夕食後、めいめい浴室に呼ばれて、体を清めた。


なんと湯浴み女がいて、スケスケの衣服を着ており、俺に猛烈にアピールしてきた。が、俺は背中だけ流してもらった。


俺は賢者のつもりなのだ。

まだ俺の初めては、初対面の者なんかにはやらない。


ああ、でも、ムラムラする。

別のことを考えねば。


筋肉ムキムキの騎士たちに、俺の脳内で踊ってもらった。


おかげでスン、と落ち着いてしまった。




「はあ~!」


部屋に戻って、やっと一人になれた。

さっきのは大変な目に遭ったけど、無事にやり過ごせた。


脳内イマジナリーマッチョ騎士たちよ、助かったよ。




布団の上でじたばたしていたら、ミラビリスが静かに入ってきた。


あ、開けっぱなしだった。

変な姿を見せちゃったな、やばいわ俺。


「怜樹……どう?」


逆にミラビリスはもじもじと恥ずかしそうにしている。


俺のことなんて見ていなかったらしい。束の間の安心、と思ったが、バスローブをめくって、チラリズムをかましている。


うわっ! 鼻血もんだよ!


通常なら見てはいけないものをチラチラと見せながら、ミラビリスは顔を赤らめている。


俺もムラムラしちゃってやばい。


「もうっ、何か言ってよ?」


「す……すごく、素敵です……」


ミラビリスがそのまま寝台に乗ってくる。


わあお。

XXXが、XXXXなのか。


見とれていると、ミラビリスが言ってくる。


「ね? キスして?」


「はい……」


やっていることは一般的な恋人たちがすること。

なのに、どうしてこんなにドキドキするんだろう?


長い。


思ったよりも時間がかかるもんらしい。

そんな経験浅い男としての感想は置いておくとして。


はああ。


やばい。


なんでこんなに柔らかいのだろう。


「ね? 抱いて?」


俺はコクリとうなずいた。


さらば俺の童貞。


さらばミラビリスの処女。


……お互い初めてだから、そんなすぐにはいかないだろうが……。


……。


……。


廊下から慌ただしい物音が聞こえてくる。

複数の足音、そして、騎士たちのカチャカチャという鎧の音。

ミラビリスの部屋の扉をドタンと開ける音。


「まずい!」


「えっ?」


俺はベッドから飛び降り、急いで衣服を探した。


「え……?」


さすがにミラビリスも勘づいたようだが、それよりも取り乱している風だった。


ドォォン!


部屋の扉が勢いよく開いた。


「姉上!」


「え、えっ……!?」


いきなり泣き出すミラビリスである。

シーツを胸の上まで持ち上げるが、そのシーツの下は、裸。


「皆の者! 目を伏せろ、姉上の姿を見てはならぬ」


「狼藉者のハーフエルフはどこだぁ!?」


「いやっ! みんな、やめて!」


「あいつが姉上をたばかったのは承知の上だ! あの汚らわしい亜人め!」


顔を覆って泣いていたが、それどこじゃないとも気づいた。


「我なのよ! ぜんぶ我が……!」


「嘘だ! 姉上は、あの男に騙されたんだ! 見つけたぞ、引っ捕らえろ!」



魔術を繰り出す間合いよりも前まで入られてしまった。しかも室内にはミラビリスもいるのだ、火炎放射なんてできない。


「ライトニング!」


せめて目眩ましでもと思って、前列の騎士たちの視界を閃光で奪った。だが、見えずとも、気配を読めるのが歴戦の一流の戦士だ。


くそっ、俺の運が悪かった。その一流の戦士が1人だけ混じっていたからだ。


俺は羽交い締めにされ、捕えられてしまった。




人生で2度目の、牢獄行きが決まった瞬間だった。




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