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黒煙の暗殺者~日本政府による異界侵攻奇譚~  作者: 透明度の高いホルモン焼き
時間を止める魔法使いの神父~The priest' magic is its ability to stop time ~
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平穏な街に潜む不穏分子

 ゼッゼレとの面会から2日後。朝、俺は教会に向かう為に宿屋で外出の準備を始めた。あれからゼッゼレは祝誕祭の催しにレーシアのリサイタルを街の ゼッゼレとの面会から2日後。朝、俺は教会に向かう為に宿屋で外出の準備を始めた。

 あれからゼッゼレには街の運営委員会に対して祝誕祭の催しにレーシアのリサイタルを提言しもらい、無事採用されることとなった。今日はそのことをレーシアに伝えるのと、教会に赴いて神父と顔合わせをする予定だ。時を止める魔法を使う神父………果たしてどんな人物か。ゼッゼレには教会について詮索をしないよう釘を刺されたが、馬鹿正直に従うつもりは無い。

 たとえ街全体の目を盗んでも、俺は教会を調べるつもりだ。クレイヴェードで頻発していたガキどもの大量失踪、その原因はイサーウェが攫って売り捌いていたという下劣なものであることは分かった。けれどその真相までには至っていない。街中を調べてはみたが、失踪したガキの行き先が不明のままなのだ。そしてまだ手をつけていない場所が1つだけ―――――。

 そう、教会だ。あれこれと理由付けされて未だ足を踏み入れることすらできていない。当初はティフィレーゼムのように潜入することも考えはしたが、外観から察するに侵入経路が表の出入り口のみ。身を潜める場所も限られており、吹き抜け窓も小さく身体が入らない。そして昼夜問わず教会には誰かがいるようだ。何か秘密の抜け道でも無い限り、内部へと侵入するのは不可能だろう。

 だからこそ、今回の祝誕祭は俺にとって非常に好都合だった。この機会を逃す手は無い。俺は念の為に装備を十分に整えて向かうことにした。外からは見えないように銃、ナイフ、手榴弾を隠し持ち、さらに地雷も忍ばせた。


「ロードぉ………見て見て」


アシュタロトが出かける仕度をしていた俺に話しかけてくる。手に持っているのは不出来な置物。そこから天井に向けて光を放っている。


「てめぇ、それ気に入ったのか」


「Yes。ロードからのプレゼント。私のお気に入り」


「そうか。そりゃ良かった」


先日、アヴェロン―――――法具店のジジイから買った法具を、アシュタロトは大切そうに両手で抱えている。プラネタリウムみたいに綺麗な光を映し出すこの法具、コイツが気に入ると思って買ったものだが、どうやらお気に召してくれたようだ。と言うか、プレゼントしてからというもの毎日のようにこれで遊んでいやがる。夜はもちろん昼間も肌身離さず持ち歩いては、いたるところで綺麗な音と光を楽しんでいた。

失くすといけないので法具を紐で括り、アシュタロトの首にかけてやった。まぁこんな物でも喜んでくれるのは嬉しいことだ。


「ほおぉ………」


アシュタロトが目をきらきらさせながら、星空のように輝く天井を眺めている。純真無垢なガキが憧憬に心躍らせている様そのものだ。

 最近よく考える。こんな人間のガキと大差無い精霊を、当初は戦場に立たせることが目的だったというのは本当なのだろうか、と。いくら戦う力があるからと言ってもまともに戦えるとは思えない。だからこそ戦地での運用は諦められた訳だが、俺は精霊の存在はもっと別にあると思っている。兵器としてでもなく、OWの為でもなく、もっと他の理由があるのではないか………。


「さて、行くぞアシュタロト。出かける時間だ」


「Yes、ロードぉ………」


まぁ、今はそんなこと考えていても仕方ない。時間がある時にでもゆっくりと調べれば良いだろう。俺はそんな風に割り切りながら、アシュタロトを連れて宿屋を出た。

 街は相も変わらず賑やかだ。祝誕祭当日までまだ日はあるが、それでもお祭りムードは既に住民たちの中で沸々と湧いていた。人々はいつもより活気に満ち溢れ、行き交う観光客も徐々に増えている。


「おいアシュタロト、離れんじゃねえぞ」


「Yes、ロードぉ………」


俺はアシュタロトの手を引いて逸れないようにする。ここ数日で単独行動もできるようになったアシュタロトだが、それでもリスクは抑えたい。勝手に独りでどこかに行くことは無いだろうけどな。


「あっ!アルフェガスさん!」


 不意に背後から声をかけられる。女性の声。振り向くとそこには見覚えのある家族が立っていた。母親と父親、そして母親の影に隠れるようにこちらを覗いているガキが1人。


「先日は本当にありがとうございました!」


母親が俺に礼を述べる。それに続けて父親も同じように感謝の言葉を口にした。間違いない、レヴィエタス一家だ。街に来て初日に俺がイサーウェから助け出したガキ、名前は確かデルザルガだったか。あれから顔を合わせる度に何度も礼を言われている。その度ごとに俺は断りを入れているのだが、どうやら本日も変わらずのようだ。


「いや、お礼はもう結構だ。無事助かったんだからそれで良いだろう」


「いえいえ!何度俺を申し上げても足りないくらいですよ!」


父親が迫るように言ってくる。これはもう、この街にいる限りは同じことの繰り返しだろうな………。俺はそう思った。


「ほら!アシュタロトちゃんがいるんだから、ちゃんと挨拶しなさい!」


 母親が身を潜めているデルザルガを身体ごと俺たちの前に無理矢理突き出す。何をそんなに恥じらうのか、デルザルガは両手の指を合わせて忙しなく動かし、視線を泳がせている。アシュタロトを前にした途端、もじもじし始めたのだ。いや、俺たちの姿を確認した時から既にこのガキの耳はほんのりと赤みがかっていた。


「こ、こんにちは………」


「こんにちは、デルザルガ」


おどおどと、びくびくと、まぁ見っともない様子のデルザルガ。彼の挨拶はか細い声でほとんど聞こえなかった。一方、アシュタロトは普段通り淡々とした口調で話す。


「どうしてデルザルガの声は小さいの?もしかして体調不良に陥っている?」


「へぇっ!?え、いや、そんなことないよ!僕はいつも元気だから」


「そう。それは良かった。デルザルガが元気なのは良いこと」


「う、うん………」


突然大きな声を出したかと思えば、急にしおらしくなる。両親も彼の挙動に微笑むのを精一杯抑えていた。


ほぅ………これはこれは。このガキ、一丁前に()()年頃か。俺はそれとなくアシュタロトから一歩引いて、あえて2人だけの空間を作り上げる。別に他人の恋慕に興味は無い。そもそも自分には恋心なんて感情は存在しない。俺たち牙王一族の人間は物心ついた頃には人間の愚かさ、醜さを徹底的に教え込まれ、家族をつくり、子を成すことは牙王家繁栄の為だと言い聞かされる。だから甘酸っぱい色恋沙汰など縁もゆかりもない話だった。

 だからと言って、俺が他人の気持ちを容易に踏みにじって良い理由にはならない。

少年よ、お前が望む相手は只人ではない。その正体は精霊であり、この先どうあがいても恋が実ることはあり得ない。………なんてことを無神経に告げるような真似はしない。せめてこの無駄な時間の退屈しのぎに、鼻で笑うようなガキの人間らしさを拝ませてくれ。


「そう言えば聞きましたか、アルフェガスさん」


父親の方が突然俺に話しかけてきた。俺は咄嗟に顔を上げて、対人用の笑みを浮かべた。


「なんのことだ?」 


「今度の祝誕祭のことですよ。例年には無かった教会での催し物があるんだとか」


なんだ、その話か。俺は表情は変えずに、適当に関心がある風を装って相槌を打つ。

すると今度は母親の方も話し始めた。


「なんでも劇場の舞台に出演されてる女優さんがリサイタルをするそうなんです。素敵ですよね!」


「へえ、そうなのか。それは良い。実に楽しみだ」


「本当に楽しみですよね。今年の祝誕祭はいつもより盛り上がりそうです」


悪事千里を走る。そんなことわざが日本にはあるが、人の噂も同程度に行き渡るものだ。つい2日前にゼッゼレとの交渉を終えてから、こうして話が広まっていると考えると末恐ろしい。まぁこれも俺の思惑通りだけどな。レーシアの存在は広告いらずで宣伝を可能とする効果を持ち始めている。広告税なんて端から払う必要無い、だからこそ俺はゼッゼレにプッシュしたんだ。


「あんたらは毎年この祭りを見に来ているのか?今の話し振りからするとそう聞こえるんだが」


「はい。私が妻と出会った時から毎年クレイヴェードに来ています」


「私の実家がこの街だってこともありますけど………」


母親の方が少し苦笑いを浮かべた。その表情と反応を俺は知っている、わざわざ分析する必要も無い。俺はなんとなく察して母親に向けて遠回しに尋ねた。


「てことは、毎年実家に帰省しているってことか。なんとも親想いの娘さんだ、ご家族が羨ましい限りだ」


「あぁ………はい、そうですね」


一瞬、気まずい空気が流れる。俺たちの下の方でアシュタロトとデルザルガが何やら会話を弾ませているようだが―――とは言ってもデルザルガがほとんど一方的に早口で捲し立てている―――両親は自分たちの暗い顔を我が子には見せまいと目線を上げた。


「実は、妻の両親は既に亡くなっているんです。デルザルガ(この子)が産まれた年に………」


「そうか………すまないな、配慮が足りなくて」


「あぁいえ!そんなことないですよ!」


「そうです!私もお祭り自体は楽しんでいますし、クレイヴェードで過ごした時間を思い出す良い機会にしているんですから!」


「そうなのか………なるほど、だから祝誕祭当日よりずっと早くこの街に来ていたんだな。祭りまでまだ先も長いって言うのに、やけに長期滞在だなぁと思っていたよ。旦那は相当稼いでるみたいだな」


「いえいえそんな、そんなことないですよ」


「ご謙遜を。仕事は何をしてるんだ?」


「私は王宮給仕をしているんです。国王の御息女である第九王女の軽食を担当しています」


「私の夫の唯一の自慢は料理が得意なところですから!」


「おいおい!“唯一”ってのは酷いだろ!」


夫婦の惚気をまざまざと見せつけられる。なるほど、そんないかにも高給取りの仕事なら収入も多いはずだ。

 だが、そんなことはどうでもいい。俺の脳内は一気に思考を加速させていた。この父親が放った単語――――――――――『国王』『御息女』『第九王女』。

俺の頭の中は覚醒を促し、常人ではシュート寸前になるほどの処理が行われる。確実に聴いた、聴き逃さなかった、この男は。この男は。

 現時点で、俺にとって最も国王に近い男だ。

現時点で俺の手札には“国王”を語る切り札が無かった。しかし今、目の前にいる偶然の産物で出会った男は、俺の欲する情報を握っているかもしれない。そう考えると胸の高鳴りが消えることは無かった。むしろ激しさを増して俺の身体を突き動かそうとする。

 まだだ、まだ早い。時間はある。焦って台無しにするより余程良い。俺は決して彼らには悟られないように高鳴る鼓動を沈め、そして音を出さないように深呼吸をした。

―――――よし。


「王宮専属の給仕か、それは凄い。自慢の旦那さんだな」


「はい!」


眩しいくらいに満面の笑みを見せる母親と、それに照れて顔を赤らめる父親。重要なのはここからだ。今の俺と彼らの間にある親密度は決して低くはない、だがそれは俺が息子を助けたからに過ぎず、“恩人”の枠組みの範疇だ。親しい友人とはまた異なる。会話の中からさりげなく情報を引き出すんだ。


「でもそうなるとかなりの長旅になるんじゃねえのか?」


「どういうことです?」


「王宮に仕えているなら首都からクレイヴェードまでの旅路になるだろ?子どもも一緒だと大変じゃなかったか?」


「あぁ、それなら大丈夫ですよ」


父親が笑いながら手を振って否定した。


「確かアルフェガスさんは別の国の方なんですよね?」


「ああ、そうだが」


「それなら知らないのも無理はないですね。王宮給仕と言っても配属は様々なんです。実は私が担当している第九王女のハーニー様はまだ学生なんです」


第九王女の名前はハーニーと言うのか。これは良いぞ。上手い具合に情報を得られている。このまま無知であることを逆手に取って、コイツからどんどん情報を引き出してやる。


「学生?王女様なのに学生なのか?」


「はい。国王の方針で、王家の者には全員学術院を卒業することを定めているんです。そんな訳でハーニー様は今ワンドルディーという街に滞在していて、そこのリセスティア女学院に通われているんです」


「国内でも有数の名門学院なんですよ?」


母親が説明を付け足すように話に混ざってくる。どうやら王子や王女の動向は一般に認知されているようだ。そうでなければ自分が仕えている主の情報を、今こうして他人である俺に話すはずがない。

 しかし第九王女と言うだけあって、国王もそれなりに血筋を残しているようだ。

であれば、9番目に(こさ)えたガキがまだ学生であってもおかしくないだろう。

それから『ワンドルディー』『リセスティア女学院』。また新しい単語が出てきた。やはり書物だけで情報収集をするにも限界があるものだ。こうして人と話すことで初めて発見できることも多い。

 俺は2人の話に首を振り、相槌を打ちながら愛想よく振る舞ってそれとなく質問をした。


「てことは、あんたらも今はワンドルディーに住んでいるのか?」


「ええ、そうなんですよ。もともと住む家を建てたのがワンドルディーだったので」


「最初は夫だけ単身赴任で王宮に仕える予定だったんですけど、私たち家族の運が良かったのかハーニー様がリセスティア学術院に入学されたので、今はこうして家族そろって同じ屋根の下暮らすことが出来ているんです」


「本当に良かったと思ってます。王女が学術院を卒業されるまでの間とは言え、家族団欒の時間が作れる訳ですから」


「なるほど、あんたらはだいぶ恵まれているみたいだな」


「はい!自分で言うのもおこがましいですけど、妻も子どもも元気ですし、こうして一緒にいられますからね!」


父親も母親も、心底幸せそうな笑みを顔に浮かべている。きっと普段から仲睦まじく、たとえ苦難があろうとも、時には喧嘩をしようとも、互いに支え合ってここまで生きてきたに違いない。

 それが、ひどく俺の目に淀んで見えた。俺にもあったかもしれない未来。母親が笑っていて、父親が笑っていて、姉が笑っていて、妹が笑っていて………。しかしすぐにそんな儚い妄想は俺の頭の中から消え失せた。家族みんなが笑っているその場所で、俺が笑っている情景がまったく見えない。

 いつからだろう。純粋な笑みで、子どものように笑うことが出来なくなったのは。


「それじゃあ私たちはここで失礼します。この後みんなで新しい服を見る予定なんです」


「すみません、足を止めてしまって。アルフェガスさんも予定があったでしょうに」


ここで父親と母親が話を切り上げようとする。潮時か、俺は彼らに聞こえないように舌打ちをした。これ以上この一家をせき止めてまで長話を続ける訳にもいかないだろう。俺は爽やかな笑みを2人へと向けた。


「いやいやこちらこそ。俺も話ができて良かったよ。また会った時はよろしく」


「はい!息子を助けて下さってありがとうございました!」


「だからそれは良いって。もう分かったから」


俺は苦笑いをしながらレヴィエタス一家を見送った。別れる途中、下に目線を移すとデルザルガが名残惜しそうに口を結んでいた。どうやらアシュタロトと離れるのが嫌なようだ。なんともガキらしい一面だ。


「あ、行くぞ。アシュタロト」


「Yes、ロードぉ………」


俺は顔に貼り付けた笑みをスッと剥がして元の表情に戻した。有益な情報が手に入った。『ワンドルディー』、この街についてはもっと調べる必要があるな。






 今日はやけに見知った人物と顔を合わせる。普段なら通りすがりでも気づかれないこともあったが、なぜか今日に限っては声をかけられた。


「おぅ!デルタベガス!ガキンチョと一緒か?」


「そう言うアンタは浮気か?」


「馬鹿言ってんじゃねえ!嫁だよ嫁!」


「ずいぶん似つかわしくない美人な奥さんだな」


「ふざけんじゃねえ!あとありがとよ!美人だよ!」


服飾屋の店主とすれ違い様に軽口を叩きながら挨拶をする。以前にレーシアの普段着を仕立ててくれる契約を結んだ関係で知り合った。舞台上では煌びやかな衣装を身にまとうが、それは劇場の備品でしかなく、各所で単独公演をする時は彼女も私服で向かうことになる。人前で歌う以上はそれなりにきっちりとした服装が相応しいと考えて俺が契約を取り付けたのだ。


「まったく口の上手い人ですね」


「あぁそうだよ!じゃあな!デルタベガス!」


「ああ、じゃあな」


大人しく清楚な雰囲気を漂わせる妻と、デカい声のうるさい夫。なんとも食い違って揃わないコンビだが、あれはあれで仲睦まじい夫婦だ。

 劇場ティフィレーゼムへ向かう途中、またよく知った顔と遭遇した。


「おう、アプッタじゃねえか」


アプッタともう1人、知らない男と2人で歩いているのを目撃し、俺は声をかけた。側に立っている男はアプッタと同じくらい図体が大きく、筋骨隆々である。


「デルタベガスさんか、こうして会うのは珍しいな」


「そうだろうな。非番か?」


「いや、まあ昼間の見回りだよ」


「そうか、ご苦労さま。隣にいるのは?」


「初めまして。アプッタ(こいつ)の同僚のタンティだ。同じ自警団として頑張ってるよぅ!よろしくぅ」


タンティと名乗った男は俺の肩を強く叩いてきた。生真面目なアプッタと違ってどこか飄々とした自由な気質の人物に見える。俺はその手を払いのけながら2人に尋ねた。


「お前ら、ずいぶん仲良さそうだな。元から知り合いだったりするのか?」


「そうそう!俺とアプッタは数年来の馴染みでよ。昔からコイツはカタブツなんだよ」


タンティが陽気に答える。それをアプッタは鬱陶しそうな表情を浮かべて反応した。


「そういう君は昔から優柔不断だけどな」


「おっ!言うねぇ!それじゃあここいらでバラしちゃおうか!?」


「はぁ?」


意気揚々と振る舞うタンティ。彼の表情は、悪戯を行おうとするガキのように無邪気だった。その様子を見て、俺はそれとなく話の流れを察した。俺も悪ノリに乗っかって笑みを浮かべる。


「お、アプッタの裏話か?是非聴かせてくれ」


「デルタベガスさん、彼を煽るのはやめてくれ。本当に話しだ―――――」


「おう!実はコイツこの間、誕生日だったんだよ」


「ほう、それはめでたいな」


アプッタの制止を振り切ってタンティは話し始めた。俺もそれに対して白々しく答える。一方、嬉々として話すタンティとは対照的に、アプッタは難しい表情をして首を横に振っていた。


「それでコイツ、幼馴染から可愛いぬいぐるみのプレゼントを貰ってんだ!」


「それの何が悪い?」


「そんなぶっきらぼうな態度取って良いのかぁ?毎年大切に保管してるんだろ?」


タンティはアプッタをからかうように小突きながら言った。彼の幼馴染というのはアルディーラのことだろう。以前に法具のジジイ、アヴェロンと出会った時の人形店の女店員だ。どうやらあの時に手に抱えていたプレゼントの人形を渡せたようだな。


「お前にそんな一面があるんだな、アプッタ」


「やめてくれ、デルタベガスさん。毎年毎年無理に贈ってくるんだ」


「嫌なら断れば良いだろ?」


「いや、そうもいかないさ………せっかく作ってくれたんだから」


アプッタは不愛想に口元を歪ませて素っ気ない態度を示す。もともとの顔立ちから嫌がっているようにも思えるが、俺はそうは思わない。タンティも同じことを考えているのだろう。アプッタとの付き合いは大したことないが、アルディーラがあの時に見せた笑顔、あれが物語っている。誰かを想って作った人形を持って、あんなに良い笑顔を見せていたんだ。コイツが嫌がって受け取らないなんてことは無いはずだ。


「せっかくの馴染みから貰ったプレゼントなんだ。これからも大切にしてやれよ」


俺は冗談混じりにもアプッタの目を見ながら言った。彼は彼で、どこか恥ずかしそうに言葉を濁らせながら答えた。


「あぁ………まぁ………分かってるよ。大切にする」


「おぅ!?それはぬいぐるみの方か?アルディーラの方かぁ?」


「からかうのもいい加減にしろ!タンティ!!!」


「………仲が良くて何よりだ」


 じゃれ合う彼らを前に話を切り上げて、俺はアプッタたちと別れた。彼の様子が以前に見せた不穏なものでは無かったことに少し安堵していた。俺がイサーウェを倒したことも要因になっているんだろう。最初に出会った時の素直な笑顔をアプッタは顔に浮かべていた。


「少しはこの街も良くなってきているのか」


俺は不意に呟いた。どうしてそんな言葉が口を衝いて出たのか、心理のほどは俺でも分からない。自分がどこまで貢献したかは分からない。だが、どうやらクレイヴェードは以前よりも平和を享受できるほどには落ち着いてきたはずだ。

 この平和が続くなら、どれほど良いことか。






 ティフィレーゼムでは午前中の公演も終えて、役者たちも一息吐いていた。レーシアも同じようにしばしの休息を取りながら控え室を出ようとする。これから午後の舞台まで時間もあり、それまでの間に稽古をするつもりだ。

夜にはまた酒場で歌うことになっている。黒髪の男と出会って最初に歌った場所、カトーリョ・ティーベだ。常連客とは気づけば顔見知りとなり、今では舞台を見に来てくれたりもしている。特に大柄のブトゥロイという人はレーシアが舞台に立つ度に観賞してくれるほどファンになっている。

 酒場だけでない。収容所(リヴァンプル)の看守たちや自警団の人たちとも交流を持つようになった。普段なら犯罪行為でもしない限りお世話にならないはずだが、最近は街で見かけると食事を奢ってくれたりもした。

つい昨日のことだが、まったく知らない女の子から声をかけられた。私が医療院で歌を披露した時に、ちょうど治療を受けていた少女だったようだ。当時は脚を怪我してリハビリをしていたそうだが、レーシアの美しい歌声を聴いて元気が出たと言う。

 レーシアは確かに変わっていた。街の景色が、彼女の目に色鮮やかに映っていた。

それまでなんの繋がりも無かった人々と触れ合い、仲良くなっていくことが彼女にとって心に余裕を与えていた。初めは立派な女優になる為なら手段を選ばない、お金を稼ぐ為なら身を粉にするつもりだった。

 しかしレーシアはデルタベガスという男と出会って大きく変化したのだ。正体不明の異邦人。レーシアにとって未だに底知れない存在ではあるが、それでも自分のことをよく見ていて、真摯に対応してくれる姿勢は信頼に足るものであった。


「ねえ、あなた」


 控え室を出ようとしたレーシアは後ろから呼び止められる。振り返ると、そこには普段あまり会話をしない女優が立っていた。切れ長の目に強い印象を受ける美しい面立ちで、レーシアと大した歳の差も無いが、ティフィレーゼムでの活動が長い先輩だ。

突然話しかけられたことに、レーシアは思わず身体を強張らせてしまう。特別厳しい人ではないが、こうして呼び止められると自分が何か悪いことでもしたのかと勝手に身構えてしまうものだ。


「は、はい!な、何ですか?」


「あなた……………」


先輩女優が顔を近づけてくる。眼力が強いせいで怒られるんじゃないかと思ってしまう。レーシアは両手を身体の前で寄せて防御の姿勢を取った。力強くレーシアの両肩の掴み、先輩女優は口を開いた。


「最近すごいじゃない!歌も演技も見違えるくらい良くなってるわよ!」


レーシアの思いとは裏腹に、彼女への唐突な誉め言葉を投げかけられた。先輩女優も鋭い目つきではあるが、口角を上げて笑みを浮かべている。けれどあまりに突然過ぎたせいでレーシアは一瞬何を言われたのか頭の中で理解できずにいた。


「そうそう!オーストラちゃん、ここずっと稽古も頑張ってるし舞台上でも生き生きとしてるよね!」


「本当そう!前から歌上手いなって思ってたんだけど、どんどん上達してるよ!」


「劇場以外でも歌を披露したりしてるんでしょ?私の弟が教論所で講師をしてるんだけど、子どもたちの前で歌った時の歌声を聴いてファンになったって言ってたわよ!」


気付くと次々にレーシアを取り囲むように先輩たちが話しかけてくる。皆一様にレーシアの最近の活躍について褒めていた。


「ねぇねぇ!何か秘訣とかあるの?」


「変わる切っ掛けとかあった?」


今度は称賛から質問攻めへと変わる。どちらにせよ混乱状態のレーシアは、できるだけ取り乱さないようにと必死だった。


「あ、あのっ!待ってください!」


なんとか声を絞り出して詰め寄る先輩たちを制止する。


「あぁごめんね。急に大勢で話しかけちゃって………」


「でも最近のオーストラちゃん、人が変わったと言うか、前より明るくなって前向きに舞台に取り組んでる感じがするんだよね。だから何か良いことでもあったのかなぁって思ってね」


「えっと、ありがとうございます。皆さんにそう思ってもらえてすごく嬉しいです」


レーシアは頬を赤らめながら答えた。純粋に嬉しいという感情はある。だがこうして誰かに直球で褒められる経験がこれまで無かったこともあり、気恥ずかしさもあったのだ。まっすぐな視線、まっすぐな言葉。ずっと背中を見ていた先輩たちに向けられるそれは、レーシアにとって困惑するほどありがたいものだった。


「このままだと私たちの座もすぐに奪われちゃうんじゃない?」


「主演だってすぐになれるかもね!」


「そ、そんなこと………」


半分冗談ではあろうが、先輩たちの反応に困る言葉にレーシアは苦笑いを浮かべるしかなかった。


「そう言えばこの前、あなたを街で見かけたのよね」


「え、そうなんですか?」


「そうそう。その時あなた、男の人と歩いてたわよ」


「えぇ!うそ!オーストラちゃん、いつの間に彼氏なんて出来たの?」


「いや!彼氏じゃないです!なんで家族とか知り合いって選択肢が出ないんですか!」


「だってクレイヴェードに家族とか仲の良い男性の知り合いなんていなかったでしょ?」


「うっ………!」


思わず痛いところを突かれてレーシアは顔を(しか)めた。確かに家族はこの街にいないし、仲良しの異性なんていない。だがデルタベガスは彼女にとって、異性の対象というものではなかった。


「ねぇねぇ!どんな人だったの?」


「確か珍しい黒髪が印象的だったわね。背が高くて身体が大きくて、腕の筋肉とかすごいんだけど太いと言うよりこう………引き締まって洗練された肉体って感じ?」


「へぇ、オーストラちゃんってそういう男性が好みなんだぁ」


「ち、違いますから!」


彼女はきっぱりと否定をした。

 レーシアが必死の否定を見せている時、控え室の扉からノック音が聞こえた。突然の来訪者。だが彼女にとって救いの手となった。扉を背にしていたレーシアはここぞとばかりに振り向いて扉越しに声をかけた。


「は、はい!なんでしょう!」


咄嗟の機転でこの場を切り抜けることができた、そう彼女は安堵する。事実無根の身の上話に花を咲かせてはいられない。


「レーシア・オーストラさんに来客です」


部屋の外から男性の声が聞える。受付を担当しているスタッフの人だ。しかし自分の名前を呼ばれて、レーシアは何故か嫌な予感がした。このタイミングでの、自分への来客。彼女の脳裏に浮かんだのは今まさに話題となっている例の男だった。


「えっと、誰が来てるんですか?」


恐る恐る尋ねるレーシア。話がややこしくなるから、できれば今は会うのを避けたい。


「予定はしていなかったそうですが、デルタベガス・アルフェガスという方がいらっしゃってますよ」


「あ、そ、そうですか。分かりました」


レーシアは焦る気持ちを必死に抑え、先輩方に悟られまいと凛と振る舞いながら振り向いた。


「すみません!ちょっと知り合いが来たので対応してきます!それじゃあお先に失礼します!」


そう言うとレーシアは急いで扉を開ける。先輩たちの返事も待たずに滑るように身体を部屋の外へと出した。


「あの、大丈夫ですか?」


「はい?なにが?」


受付の男性が、挙動不審のレーシアを見て心配そうに声をかけてくる。だがレーシアにしてみれば動揺をこの場にいる誰にも知られたくはない。彼女は首筋に滲み出る汗を拭いながら、何事も無かったように表情を引き締めた。レーシアは背筋を正し、息を整える。心が落ち着いていくのを感じると、彼女は前に歩き出した。


「それで、どこにいるの?」


「え?」


「来客、来てるんでしょ?アルフェガスはどこにいるの?」


「あぁ、はい。応接室に通してますよ」


「そう。ありがとう」


素っ気ない態度で簡単に答えると、レーシアは足早に歩きだした。

 別に同僚たちに遭わせたくない訳ではない。彼がどこにいようと、それはレーシアにとって大したことではない。だが何故だろか?妙な気恥ずかしさと、気まずさがあった。きっと自分の両親が舞台を観に来たら、同じくらい恥ずかしい想いを抱くだろう。それと似たようなものを彼女は感じていた。




 まぁ悪くない。

俺は鼻で笑いながらソファの上でふんぞり返っていた。つくづく感服してしまう、この“ソファ”というものに。俺がいた世界のソファの構造は、近世に完成されたと言っても良い。中世の時代にも煌びやかで華やかな装飾のソファは出来ていたが、俺たちが現代でソファという単語を聴いてイメージするものは歴史が浅い。

 だが今俺が腰かけている異世界のソファは、アンピール様式の曲線美が施された最高のデザイン。現代にも通じる素敵なソファだ。


異世界(こっち)の職人が腕が立つみたいだな」


「ロード、嬉しそう」


俺の隣で、同じサイズのソファにこじんまりと座っているアシュタロト。彼女が俺の顔を覗き込んできた。俺はアシュタロトの髪を梳かしながら不敵な笑みを浮かべた。


「当たり前だ。伝統と技術は長く受け継がれていく。時代によっては時の流れには逆らえず絶えることもあるが、おおよそ数世紀は文化に根付くだろう。てめぇの着ているその服だってそうだぜ?」


「この服はかわいい」


「だろ?それもまた職人技だ」


「この椅子もそうなの?」


「それもまた職人技だ」


 俺が職人とは何たるかをアシュタロトに説こうとした時、ちょうど応接室の扉が開かれた。お待ちかねの人物。俺は入室者の顔を見ることなく立ち上がり、そのまま声をかけた。


「さっきの演目、実に出来が良かったな。お前も脚本家に助けられたようだ」


「私の演技を褒めなさいよ、私も頑張ったんだから」


「そうだな、挿入歌のソロパートは良かった。お前の声が端の客席まで届いていたぞ。外で歌う機会が多かったおかげだな、レーシア」


部屋に入るなり、そのまま俺たちと対面するように、レーシアはそこにあった椅子に座る。俺はここでようやく彼女と顔を合わせた。


「せめて合唱の時はもう少しマシになってくれ」


「ずいぶんな言い草じゃない?演技を褒めろと言ったのに気が付いたら歌の駄目だしをされていたわ」


レーシアはわざとらしく不機嫌な態度をしてみせる。実に彼女らしい。最近は俺やアシュタロトとも打ち解けて、軽口を叩き合うくらいには親交を深めていた。


「アルフェガスに比べてアシュタロトちゃんは本当に良い子よねぇ。私の癒しよ」


「レーシアにとって私は癒し?」


「えぇ!そうよ!可愛いくてお人形さんみたいで可愛い!」


「2回も“可愛い”言ってるぞ」


「うるさいわね!可愛いものには可愛いと言うのがマナーよ!」


「どこの国のマナーだよ、それ」


俺はやれやれと思いながら頭を掻いて、そのままソファへと座り直した。膝の上に腕を突き、レーシアと話す姿勢に入る。


「さて、そろそろお喋りはお終いにして、本題へと入ろうか」


「本題?て言うか今日はまた何で勝手にここに来たの?今日は一日中劇場にいるって伝えていたわよね」


「あぁ、だからここに来た」


俺は肘を立てて顎をのせた。軽く微笑みを見せて、もったいぶるように彼女へと告げる。


「とりあえず報告だ、簡潔に済ませるぞ。祝誕祭、教会でのリサイタル、お前に決定、拒否は不可、以上だ。分かったらもう応接室(へや)から出てって良いぞ」


俺は突然の告白にフリーズしているレーシアに対して、追い払うように手を振った。






 レーシアは、おいてきた。そして俺はようやく教会へと向けて足を進めている。ティフィレーゼムで彼女に祝誕祭のことを端的に説明すると、見事にフリーズした。かと思えば、俺に迫る勢いで声を張り上げてきたのだ。


「聞いてない!!!」


「なんで!?何で教会で歌うの!?そして何で私独り!?」


「なんか手伝えとか、そんなこと言っていた気がするけどどうしてこうなった!?」


まぁ伝えていなかった俺も悪い。もともとは祝誕祭でレーシアにも何かやってもらうぞ、なんてざっくりとした内容しか話していなかった。別にゼッゼレとの交渉が上手くいかなかった場合を考慮していた訳ではない。単純に、先に説明していれば彼女が断るのが目に見えていたからだ。

 耳をつんざく煩い声を、俺は適当になだめた。そうして俺は騒ぎ立てるレーシアを半ば強引な形で放置して、そのまま劇場を後にした。本人は納得いっていないようだが構わないだろう。どうせ数時間経てば無理にでも受け入れる、そういう女だ。最近はレーシアの扱いも以前より分かってきた気がする。


「ロードぉ………」


「んぁ?どうした?」


「増えてる」


「………あぁ、そうか」


 俺とアシュタロトはようやく教会の下へと辿り着いた。荘厳な雰囲気を醸し出しているのは元の世界も異世界も変わらない。城のような外観でありながら、要塞の雰囲気もある。建てられてまだ数十年しか経っていないのか、少なくとも世紀を跨いだ古さは感じられなかった。

丘の麓、俺は屈みこんでアシュタロトと目線を合わせた。


「それで?いくつ増えた?」


「3つ、これで計21」


「そうか………」


 アシュタロトが数えているのは法具の数だ。

俺がクレイヴェードに来てからアシュタロトに命じた、街中の法具の把握。この街のどこに、一体どれだけの法具があるのか?それを俺はアシュタロトに任せ、そして彼女は十二分に達成してくれた。正直独りで街中をちゃんと歩けたことに心底感動するくらいだが、そこはやはり腐っても精霊、しっかりと仕事を成し遂げた。

 21、この数字が何を意味するか?クレイヴェードで最も法具が集中していた場所は人形店の裏にある、奇特爺が店を構える法具店だ。あのジジイ、アヴェロンは数えきれないほど法具を蒐集していて、アシュタロトも最初は法具が密集し過ぎて正確に数を把握するのに時間がかかるくらいだった。

 そんな例外を除いて、他に法具のある場所は実にまばらだった。あまりに点在していることから、街に法具が根付いていることが窺える。だが多くても2、3個だ。特別な施設に限っては7、8個も集まっている。

―――――そんな中で、21。これがどれほど異常な数字か。異世界の事情に詳しくない俺でも、嫌でも訝しんだ。


「アシュタロト、俺はこれから教会に行く。てめぇは一緒に来るな」


「Yes、ロードぉ………」


「その代わり、この距離から教会を常に監視していろ。もし法具に何か変化があればすぐに俺に伝えるんだ」


「どうやって?」


組織化された兵器オーガナイズド・ウェポンを通して俺に伝えろ。異常発生(エラー)………それだけ言え。分かったか?」


「Yes、ロードぉ………」


「よし」


俺はアシュタロトの頭を撫でてやると、微笑んでみせた。今ではもうコイツのことも信頼している。初日はイサーウェの部下に攫われたりもしたが、そこは流石に人間の子どもと精霊との違いだ。しっかりと学び、必要な情報の取捨選択を適宜行えるようになってきた。今となってはパートナーとして充分に使える。


「さぁて、行こうかな」


俺は肩を抜くように腕を回し、意気込むように呟いた。ずっと来たかった場所。謎に包まれた教会の本性を暴いてやろうじゃないか。

 外観は遠目からだと白に見えるが、こうして近くから見るとうっすらと灰色の外装が施されている。ただの汚れか、それともそういうものなのか。灰像正教会と言うだけあって、灰色なのかもしれない。


「こんにちは、お待ちしておりました」


出迎えたのは背の低い年配の男の信徒だった。以前に支部の方で、審問官であるファーノ・ファッソンブロと出会ったことを思い出す。彼女と同じように白を基調としたロングスカートで、ゴシック調の正装となっている。しわがれた声は、見た目以上の年齢にさえ思えた。


「教会には通してくれるのか?」


俺は男を見下ろしながら、威圧するように尋ねる。下手に出るつもりはない。神父と出会う前から謙虚な姿勢を見せる必要もないからな。


「いえ、教会へは教徒の者のみが許される聖域です。貴方様にはこちらへ来て頂きます」


淡々と話す男が指示したのは、教会脇にはプレハブ小屋のような小さな建物があった。外装もまた教会のように洗練されていて、扉にいたっては不相応と思えるほどに年季の入ったダークブラウンの重厚なものだ。


「こちらに神父様が貴方様をお待ちしております」


男は俺を手招くように小屋に近寄らせる。そして扉に手を取り、ゆっくりと引いた。

 いよいよ、だ。時を止める魔法を使う神父。この街に来てようやく邂逅の時だ。

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