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黒煙の暗殺者~日本政府による異界侵攻奇譚~  作者: 透明度の高いホルモン焼き
蔓延る光と闇~The light and darkness thrive in this town~
22/34

人攫いの畜生女と爬顎竜

 俺の言葉が耳に届いたのか、イサーウェが俺たちに気づいて振り向く。自分が置かれている状況を整理しきれていないのだろう。目を見開いて、倒れている男たちと俺たちの方を交互に見ている。


「イサーウェ!とりあえず観念しろ!」


「なっ!ち、違う!私はイサーウェではない!断じて違う!」


言い訳がましく白を切るイサーウェ。だが押し車の上にいるアシュタロトが何より証拠だった。俺は隣にいるアメリアの背中を軽く小突いた。

これは合図だ。アメリアが黙って頷いて詠唱を始める。俺は彼女の声を掻き消すように叫んだ。


「往生際が悪ぃなぁ!お前がイサーウェだってもう露呈してんだよ!さっさと諦めて抵抗を止めろ!」


「そ、そんなぁっ!!!一体誰なんだ!」


「通りすがりの殺し屋だ!」


余裕を失っているイサーウェは恐怖に表情を強張らせていた。銃口を向ける俺の手の動きを見て、身体を震わせている。例えハンドガンを見たことがない人間でも、その動作が攻撃の意志を持っていることを本能で察するだろう。

 するとこのタイミングで、アメリアの身体が完全に消えていった。先ほどアメリアが唱えていたのは透明化の魔法だった訳だ。そんな光景を目にしたイサーウェは狼狽を隠し切れずにいた。顔から汗が大量に噴き出し、後退りをした為に押し車に身体をぶつける。

 イサーウェの反応は至極当然だろう。ただでさえ危機的状況に陥ってるんだ。そんな状況下で敵の片方が姿を消してしまえば、透明になったまま自分の方へ迫って来ると思うはずだ。姿の見えない敵………一体どこから仕かけてくるのか、まったく分からない。彼女が恐怖を抱くのは当然だろう。

 だが、それこそがフェイク。アメリアが透明化になった真の目的はイサーウェ討伐の為ではなく、イサーウェの後ろにある押し車だ。イサーウェはどこから攻撃してくるか分からない見えない敵に怯えながら、俺に対しても警戒を怠ってはいけない。そうなれば必然的に押し車への注意は逸れてしまう。その隙をついて、透明化したアメリアが押し車ごとアシュタロトを奪還するという作戦なのだ。


「命乞いをするっていうなら、もう二度と人攫いなんてしないと誓え。そうすりゃ見逃してやる」


俺はそう言いながら銃の引き金に指を添えた。俺がこの女を生かすか殺すかは、次の発言で決めることにする。見逃すと言うのは本心だ。そもそも彼女を直接殺す依頼を受けた訳ではないからな。

 イサーウェは黙りこんで、身を震わせていた。俺の問いかけが聞こえてないのか心配になったが、どうやら聞こえてはいるらしい。ただ唇をわなわなと震わせて、なにやら呟いている様子だった。

………呟く?


「―――――チッ!」


魔法だ、俺は瞬時に察した。さっきアメリアにもやらせたように、相手が聞こえていなくても詠唱してしまえば良いんだ。それで魔法が発動する。

 イサーウェの首飾りが怪しく光りだした。日も落ち始めて暗くなってきた街で、光は赤くぼんやりと不気味に強さを増す。あれはOWだ、間違いない。俺はすぐさまイサーウェから距離を取り、戦闘態勢に入った。

アメリアのことが頭を過ったが、あいつなら大丈夫だろう。曲がりなりにも殺し屋だ。こんな状況でも自分の身を守る術は持ち合わせているはずだ。まさか透明化したまま亡くなるなんてこともあるまい。


「さぁ出てこい!そして暴れろ!私を守れ!眼前の敵を葬れ!私の爬顎竜(はがくりゅう)!」


イサーウェが高らかに叫んで右腕を天に突き上げた。


 その瞬間、イサーウェの身体を包むように黒い靄が立ち込めた。靄はドーム状に彼女の全身を隠してしまった。俺は試しに銃弾を一発放ってみたが、靄が邪魔してイサーウェに届いていないようだ。どういう原理なのか知らないが、銃弾は靄に弾かれる。


「これはまた厄介な敵が現われたな………」


思わず愚痴を零した。こうなってしまっては靄が消えるのを待つしかないだろう。俺は上半身を落として低姿勢の状態で待機する。さっきのイサーウェの発言からして、何かを出そうとしているのだろう。逃げる訳ではないなら別に構わない。俺は靄が晴れるのを待って、いつでも強襲できるように銃を構えた。

 黒い靄は次第に粘液のような流体へと姿を変える。流動する様はなかなか気持ちが悪く、粘性の高い液体がぶつかり合うような、そんな不快な音を出していた。もう手榴弾でも投げ込もうか?そんなことを考えだした矢先、謎の黒い物体と化したそれが地面に吸い込まれるように消えていった。

 なんの前触れも無く突然消えた。


「ふっふっふ………さぁ!命乞いをするのは君の方だ!さぁ死ねぇ!」


調子に乗っているのか、満面の憎たらしい笑みで俺を見下すイサーウェがそこにいた。彼女は仁王立ちで腕を組み、まるで勝利を確信してると言わんばかりに堂々としてる。


「“さぁ死ねぇ”って、命乞いをさせてくれるんじゃあねぇのかよ」


俺はイサーウェを見上げた。彼女は今、俺より高い位置に立っている。地面の上ではない。それは顔がワニ、身体はコモドドラゴンとでも言えば良いだろうか?

狭い道路を埋めてしまうほどの巨躯のドラゴンが出現したのだ。

 日も落ち始めて街を灯りが照らし出す頃になってきた。本来であれば夕食の時間であるはずなのに、俺は銃を構えて溜め息を吐く。


「あーもう滅茶苦茶だよ」


 四足歩行のデカいドラゴン。ワニの頭に、コモドドラゴンの身体。狭い道ではその大きさを持て余しており、方向転換さえできないだろう。イサーウェ、この女………こんな道のど真ん中でドラゴンを出したら、かえって身動きが取れないのに何を考えていやがる。


「ふっふっふ!私が使う魔法は竜を召喚する魔法だ!特にこの爬顎竜は特別強いんだぞ!最強だぞ!この顎で何でも噛み砕くんだからな!」


イサーウェが意気揚々とドラゴンの上で騒いでいる。これはいよいよ彼女が単に馬鹿なだけかもしれない。何か裏でもあるのかと思ったが、本当に強いからこのドラゴンを召喚したのだろう。俺はイサーウェのことは無視してドラゴンに向けて銃を撃った。


「グルゥゥォォォォォォォオオオオオ!」


 銃弾はドラゴンの下顎の左部に命中。全身を覆う堅牢そうな鱗を貫通する。相当な痛みだったのか、ドラゴンは咆哮を上げながら身を(よじ)って暴れ出す。その勢いによって周囲の建物に身体をぶつけた。


「うわぁっ!」


この状況を予期してないかったのか、イサーウェがドラゴンの上でよろめき立つ。揺れる背中の上でバランスを崩し、自分が羽織っているマントを踏みつけて足を取られる。そのまま地面へと無様に転がり落ちた。


「いっ、いったあぁぁぁぁぁい!」


「アホだな、あいつ………」


俺は唾を吐き捨てて、侮蔑の眼差しでイサーウェを睨んだ。正直言って短絡的過ぎる。もう少し頭を使えないものなのだろうか。

 ドラゴンに至ってもそうだ。さっきコイツは最強だと言っていたが、甚だおかしい。これならまだドラーヴァが引き連れていたドラゴンの方がマシだよ。アサルトライフルでも傷つかない鱗。灼熱の炎を吐き出す能力。なにより敵を前にして一切の油断は無く、豪壮に振舞っていた。

 一方、目の前のドラゴンは大したことがない。図体もドラーヴァのドラゴンより小さく、威嚇や牽制で炎も吐かない。ハンドガンで穴が開くような鱗では、息の根を止めるのにそう時間もかからないだろう。


「今背中から落ちたイサーウェ(ばか)はお前に任せるぞ、アメリア!」


俺はどこにいるとも分からぬアメリアに向かって叫んだ。ドラゴンが出現する前に、俺はふと押し車の方を覗いていた。そこにはアシュタロト含め攫われた子どもたちの姿は無かった。イサーウェはドラゴンの上にいて気付かなかったようだが、どうやらアメリアが隙を見て避難させたのだろう。透明化で姿は見えないが、それでも近くにいるのは分かっている。この街の平和の為に頑張っているような奴なら、こんなところで逃げ出したりはしない。


爬顎竜(デカブツ)の方は俺が()るからよ!」


 そう言って俺は走り出した。もがくドラゴンに向かって全速力。俺の殺気に気付いたのか、無暗に首を動かしていたドラゴンが急に俺へと狙いを定めた。頭を横に回して、大きく口を開ける。どうやらドラゴンは俺を左右から挟むように噛みつきたいようだ。


「ばーか、遅ぇんだよ」


俺はあえて口の中へと突っ込む。構わないさ、噛みつきたいならやってみろ。ドラゴンは待ち構えていたとばかりに、勢い良く口を閉じる。その迫力は凄まじく、俺の両側から鋭い牙が目にも止まらぬ速さで迫ってきた。俺の肉体を食い千切って息の根を止めようとしているのだろう。




 だが、遅い。何もかもが遅い。ドラゴンが口を閉じた時、俺は既に奴の頭上にいた。俺の人並外れた跳躍力と瞬発力があれば、口を閉じる瞬間に跳び上がることなど造作もない。そしてドラゴンは今、顔を横に傾けている。つまりこの状態で俺が下を見下げると、左右に目のついているドラゴンと目が合うって訳だ。


「よう、見えてるか?」


俺は銃を向けて発砲した。放たれた銃弾は一直線にドラゴンの眼球を貫く。


「グルゥゥォォォォォォォオオオオオ!」


ドラゴンが再び暴れ出す。無理もないだろう、眼球を銃弾で貫かれて苦しくない方がおかしい。しかし暴れた拍子にドラゴンの長い尻尾が鞭のようにしなって、地面や建物を激しく打ち付けた。それは空中にいる俺にも迫ってきた。


「おうっとっと」


俺は空中で体勢を変えて、建物の壁を蹴りつける。なんとか無事ドラゴンの尻尾から逃れ、俺はそのまま地面に着地した。

 ドラゴンが暴れたことによって、あちこちを破壊して瓦礫が飛び回る。俺は飛来する瓦礫や暴れるドラゴンの尻尾を巧みに躱しながら、ドラゴンへとどんどん接近していった。狙うは脳天。至近距離から銃弾を撃ち込めば、いくら頭蓋が堅くてもハンドガンで充分貫通するはずだ。俺は瓦礫を躱す為に仰け反った体勢のまま身体を回転させて、地面に着いた手で反動をつけてドラゴンの頭へと近づいた。


「終わりだ、爬顎竜。死ぬ準備はしなくていい」


俺はそう言うと、ドラゴンの両目の間の位置、正中線に3発の銃弾を撃ち込んだ。脳があると思しき位置を狙った。

 狙いは必中。俺が放った弾丸はドラゴンの頭蓋を確実に貫いた。ドラゴンの身体が一瞬だけ激しく跳ね上がると、そのままピクリとも動かなくなった。どうやら死んだようだ。全身の機能が停止し、さんざん暴れていた尻尾もだらしなく地面を叩きつけた。わずかに身体がピクピクと痙攣しているが、もう動き出す気配も無い。


「さてと………イサーウェはどうしたか」


 俺はドラゴンを尻目にイサーウェ、もといアメリアを探した。ずっとドラゴンの相手をしながら視野を広くして周囲を観察していたが、途中からイサーウェどころか最初に始末した男2人すら姿を消していた。彼ら全員を避難させたというのなら、アメリアもなかなか優秀な奴だ。この街の平和の為を守ると豪語するだけある。


「デルタベガス!こっちだ!」


 アメリアの声がした。声のした方向へ振り返ると、道から外れた大通りにアメリアが立っている。彼女の側にはアシュタロトの他にガキどもが、そしてイサーウェと、もはや死体となった男たちが横たわっていた。


「アメリア、お前とんでもなく優秀じゃねえか」


「当たり前だ!」


俺はアメリアの下へ駆け寄った。とりあえずはアシュタロトの拘束具を外した。アシュタロトは黙ったまま大人しくしていて、意識はあった。どうやら捕まった後もずっと静かにしていたのだろう。俺は少し心配になってアシュタロトの顔を覗き込んだ。


「平気か?」


「Yes、ロードぉ………」


「なら良かった。無事で安心したよ」


普段通りの返答、どうやら何事も無いようだ。俺は小さく溜め息を吐いて、一先ず無事だったことに安堵した。しかしここで落ち着いてはいられない。

俺はすぐに他のガキの拘束も解くと、ガキどもの顔をアシュタロトに見せるようにして尋ねた。


「デルザルガってガキはこの中にいるか?」


ガキどもは気を失っていた。この状況で自ら名乗らせることもできないので、仕方なくアシュタロトに訊くしかなかった。


「Yes。ロードの方から数えて2番目の少年が、間違いなくデルザルガ」


「よし!これで一先ず任務達成だな」


座っていた俺はゆっくりと立ち上がり、背伸びをする。もともとはこのデルザルガだけを探す予定だったのが、どういう因果かアシュタロトまで攫われて、しかも道中に殺し屋と出会ってしまって………。この調子だと一日が過密スケジュールになってしまいそうだ。


 やれやれと溜め息を吐いて、俺は首を横に振った。まだやることは残っている。俺はアメリアを手招きした。


「どうした?デルタベガス」


「あぁ。今日はありがとうな、手伝ってくれてよ」


「当然だ!アメリアはこの街の平和を乱す者を許さない!いくらでも協力するぞ!」


「お、それは頼もしいな」


俺はアメリアに礼を言って、頭を撫でてやった。これが礼になるかは別として、俺なりの感謝の表し方だった。トゥーリアの時もそうだったが、アメリアも嫌がっている素振りは無い。俺は耳には触れぬよう慎重に頭を撫でた。


「もう撫でるのはいいぞ、デルタベガス。………それよりも、こいつだ」


アメリアが頭から俺の手をどかすと、イサーウェを指差した。俺も彼女の指差す方へ視線を移した。

 イサーウェは意識を失った訳ではなかった。

通りに突き立てられた道案内の看板にもたれかかり、虚ろな目で俺たちを見つめている。そこに敵意や悪意はなく、心ここにあらずのようだった。どうやらドラゴンの上から地面に落下した際に頭をぶつけたようだ。額から血が垂れていて、頬を伝って流れている。


「アメリア、お前が殺すか?」


俺はアメリアの方へ向き直って尋ねた。別に俺が直々に殺すこともない。ここまで弱っている相手なら、誰でも容易に殺せるだろう。それに街の平和を守ることを使命にしているアメリアなら、もしかしたら今すぐイサーウェのことを殺したいんじゃないかとも思えた。

 しかしアメリアの反応は違った。俺のことを見上げて首を横に振り、なぜか俺の手を握ってきた。


「アメリアはあくまでデルタベガスの手伝いをしただけだ。誤って殺しかけてしまった非礼もあるし………手柄はデルタベガスのものだ」


「おお、そうか。なら俺の好きにするよ。今日はありがとうな、アメリア。あと、俺はお前に殺されかけてねぇから」


これはなかなかどうして義理堅い。殺し屋としては信用できそうだ。ガキとしては接したくないが………仕事以外で関わりたくないタイプだ。


「同志!」


「俺は同志じゃねぇ」


「もしまた何かあったらアメリアは手を貸すからな!同志として!」


「おう、そうかそうか、ありがとよ。あと同志じゃねぇ」


そんなやり取りを残して、アメリアは去って行った。出会った時もそうだが、まさに嵐のような少女だ。明るく活発というよりも独特でマイペースと評価した方が良いかもしれない。建物の屋根を走りながら姿を消すアメリアを、俺は手を振って見送った。

 さて、と。後はイサーウェの後始末だ。

もう日が暮れて、辺りは建物から漏れる灯りで包まれている。俺は倒れているイサーウェを見下ろす。もはや立ち上がることすらできず、逃げる気力も無いのだろう。彼女の顔は諦めの表情で覆われていた。


「忠告は1回、お前が死への道を選んだんだ。そのまま大人しく俺に殺されていろ」


俺は銃口をイサーウェに向けて、引き金に指をかけた。

 その時だった。後方から複数の人間が近づく気配を感じた。その直後、背後の方から強い光を浴びせられた。あまりに唐突なことだった為に、俺は光の発生源を振り向き銃を構える。


「そこにいる者たち!誰一人として動くんじゃあない!」


がなり立てる男の声。俺たちを取り囲むようにして、白い丈長の服装で統一された集団が現れ出た。彼らは手に長槍を構え、光源となる手持ちランプを携えている。ランプにしては光がかなり強烈だ。恐らくあれも法具の類なのかもしれない。


「全員、武器を手放し、両腕を頭の後ろで組み、背中を向けて地面に膝を着くんだ!」


手際良く俺たちを包囲していく。その様子から察するのに、彼らはこの街の警察なのだろう。ガキどもを保護し、俺が殺した男どもの様子を確認し、そして俺とイサーウェには長槍の穂を向けて取り囲む。

俺はやれやれと思いながら手にしていた銃を地面に置いて、彼らに言われた通りに振舞った。


「街で暴動事件があったとの通報を受けて、私たちはここに来た。黒髪の異邦人よ、君が主犯なのか?」


後ろから一際威圧感のある声の男が俺に尋ねてきた。質問と言うよりは事情聴収になっている。俺は抵抗せずに素直に答えることにした。


「暴動の主犯と訊かれれば、“はい、そうです”と答えるしかないな。暴動の理由の方は訊いてくれないのか?」


「なに?それはどういうことだ?」


「こちらにいらっしゃるのは、かの人攫いのイサーウェだ。俺は攫われた連れを救う為に奴らと一戦交えていたのさ」


「なにっ!?それじゃあこいつがカルクァークのリーダーか!?」


後ろでどよめきが聞こえてくる。そうか、人攫いの集団はカルクァークという名前なのか。別にどうでもいい情報を得てしまった俺は、早くこの場から解放されたいと思いながら溜め息を吐いた。


「それでは君が!イサーウェを捕まえたと言うのか!?」


威圧感の凄かった男の声が上ずっている。顔は見えないが、恐らくかなり狼狽えているのだろう。………と言うか、俺はそもそもイサーウェを殺すつもりだったのだ。まあ捕らえた事実に変わりはないのだから、ここは適当に話を合わせておいた方が賢明だ。


「そうだよ。悪は成敗、当然のことだろ?」


「おおぉぉぉ!!!」


なぜか歓声と拍手が湧きあがった。情緒不安定か、コイツら?

 だが実際、街を脅かす悪党を倒したともなれば、確かに妥当な評価かもしれない。

すると誰かが俺の前に回り込んできた。


「いやぁすまない、君には失礼を働いた。もう立ってくれて構わないよ」


俺に話しかけていた男だ。俺は顔を上げて、そのご尊顔を拝む。声から想像できる予想通りの姿だった。大柄で長身、着ている服から筋肉が浮き上がっているほどの恵まれた体格だ。

 俺は彼の言葉に従って立ち上がる。立ってから分かったのだが、この男、俺より背が高い。たぶん2mはあるだろう。俺が見上げるほどの背の高さは、異世界に来てから初めてだ。


「私の名前はアプッタ。クレイヴェードの自警団、副団長を任されている」


「俺はデルタベガス、放浪の旅をしている流浪人だ。この街には今日来たばかりだ」


俺は自己紹介であえてデルタベガスの名を名乗った。アプッタの顔色をそっと窺う。


「それじゃあデルタベガスさん。大変恐縮ではあるが、証言をまとめる為に私たちと同行してくれるかな?事件の概要と経緯を確認するだけだから、時間は大してかからないよ」


アプッタはそう言って俺を自警団の連中の方へ手で促した。


「分かった、お前らと一緒に行くよ。ただし、そこにいる銀髪の子。彼女は俺の連れなんだ、同行の際は一緒にいても構わないよな?」


「あぁ、もちろんだとも」


「それからそっちのガキはデルザルガって言うんだ。俺らが泊まってる宿で両親が待っている。タドゥムローって名前の宿屋だ、送り届けてやってくれ」


「分かった。他に顔見知りの子どもはいるかい?」


「いいや、これで全部だ。あとはお前らが保護してやってくれ」


 俺はそう言ってアプッタに促されるまま歩き始めた。会話の間、俺はずっと彼の表情を確認していたが、怪しい挙動は無かった。どうやらこの街に私の名前は届いていないらしい。先日のドラーヴァ及び騎士隊の殲滅の件、もしかしたらクレイヴェードまで届いているかもしれないと危惧していたが、そうでもなかったようだ。


「それでは行こう。審問官がお待ちだ」


アプッタが何気ない一言のように、さらっと口にする。それを俺は聞き逃さなかった。


「審問官?」


「そうだ。事情聴収は審問官が務めている。なに心配はいらない。やましいことが無ければすぐに終わるよ」


俺の疑問を察したのか、アプッタが説明してくれた。おいおいおい、待ってくれ。街に着て当日に出会ってしまうのか?心を読んでしまう噂の審問官に………。

俺は誰にも聞こえないように小さく舌打ちをした。

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