表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/82

19話 論功行賞






 手錠を触りながら、ノヴァは溜息をつく。

 王都の地下牢獄に捕らえられてた頃は、一日の約半分程度は活動できていたのだが、今はその半分にも満たないだろう。戦闘も加われば、その活動時間も大幅に減る事になる。


 切り刻まれた魂の残りカス、それを考えれば悪くない状況だが、アイニールを開放できないのはノヴァとしても心苦しかった。


「どうしたんだい? ノヴァ」

「いえ、アイニールの事を考えていただけです」


 トレイに乗せた食事を運んできたルイスにそう答え、ノヴァは向かい合って食事を始める。いつか食べたサンドイッチより美味しくないのをみるに、これはルイスが作ったものではないなと鼻で笑う。


「それより礼をまだ言ってなかったね、私の生徒達を守ってくれてありがとう」

「いえいえ、あの子達が死ねばルイスが悲しむと思っただけですから。それに私としても、あの子達が死ぬのは悲しい事ですし」


 そう言って笑いかけると、ルイスもまたつられたように笑う。


「なんとなく、気付いていたんだけどね。君が生きてるかもしれないって。そんなはずがないと思っていたけど、まさか本当に復活するとは思いもしなかった」


「クハハハ、ルイスがそう思ったのには理由があります」


 そう言ってノヴァは、手錠の付いたままの手でルイスの胸に触れた。


「私の魂の欠片、それがアナタの中に残ったままなのですよ」

「もしかして、あの時聞こえた声って」


「ええ、ルイスの中にある私の魂が共鳴したのでしょう」

「なるほどねぇ、じゃあ私も君の乗っ取られたりするのかな?」


「それはないでしょう、アナタの中に残っているのは欠片の残りカス以下ですから」


 妙にルイスの表情から感情を読み取れる気がするが、それもおそらく魂が分かれた事による共鳴の結果だろう。

 魂の融合。


 最近になって生まれたばかりのこの分野では、まだまだ未知のことが多いだろう。


「さて、私を殺す算段は付きましたか?」


 ノヴァが対罪人である事には違いない。

 だからこそ、ここで処刑される事を理解していのだが、一つ問題があり今現在ノヴァを殺す方法がないという。魂だけの存在、つまり思念体であるならば殺す事は簡単なのだが、アイニールと融合してしまっている以上、下手に手出しができないようだ。


 前の方法を試したが、それも無理だった。

 その一方でノヴァはもう死ぬ覚悟はできている。


 それを理解した上で生徒達を助けに出た。アイニールの中で息をひそめていればこうはならなかっただろうが、それでもあの場で自分が助けに入らなければ間違いなく彼らは死んでいた。


 なにより、夢をルイスに預けたのだから問題はない。

 そう思っていたのだが、ルイスから告げられたのは全くの違う言葉だった。


「いや何も。だがアイニールを開放する算段は付いた」


 そう言ってルイスが差し出したのは、手錠の鍵だった。


「どういうおつもりですか?」


「アイニールをいつまでも、こんな場所に閉じ込めておくわけにはいかない。だから釈放だ。私が君を監視する事を条件に、王政からの承諾も得た」


「それは……そうですか」


 本来対罪人である自分の器として存在しているアイニールは、どうあっても普通の人生を送れるとはノヴァも思ってなかった。


 なにより、対罪人である自分を自由の身にしておくはずがない。

 何か考えがあるのだろうが、それでもアイニールの事を考えれば承諾するほかないだろう。


「では私は眠ります。しばらくは起きる事ができないので、それではまた今度」

「うん、またね」


 笑顔でそういったルイスに心の中で笑い、ノヴァは眠りについた。





  ××××






 顔を上げると鉄格子があって、アイニールは懐かしい気分になった。


 昔はずっとこうだった。


 日の光も届かないくらい地中の奥底で、アイニールはいつも一人だった。


 でも今は違う。


 今は目の前にルイスがいる。


「ごめんね、アイニール。もう出られるようになったから」

「御迷惑をおかけしましたね、ルイス」


 手錠の鍵を開放したルイスは、申し訳なさそうに眉をひそめた。その後ろにはガイリックとジューナもいる。二人の表情は柔らかいものの、どこか警戒心を緩めていない様子だった。


「君が謝る事じゃない、君は何も悪い事をしていない。それより、辛かったね」


 笑みを浮かべながらアイニールの頭を撫でたルイスは、心のそこから笑えていないようで、どこか辛そうな色を連想させた。


「ルイス、アナタが気に病むことではありませんよ。それにノヴァがいなければ、私も――いえ私達は皆生きてませんでした。そう言う意味では幸運でしたよ」

「……そうか」


 なにか含みのある答えを最後に、ルイスはアイニールの手を引いて牢屋から出た。





  ××××





 ルイスがアイニールを牢屋から解放して一週間が経過し、王都侵攻から数えると二週間が経過した。これほどの時間が経てば流石に王都の警戒網も穏やかになり、街を行きかう人々にも笑顔が戻っている。


 それは生徒達も同じように、フリーシェ、リリック、メイア、アイニールの四人は楽しそうに過ごしている。これから中断されていた大聖祭、そして論功行賞の発表があるにもかかわらず、微塵も緊張していないようだった。


 論功行賞。

 解りやすく言えば先の王都侵攻で功績を立てた者へ、それに応じた賞をレガリア王が与えるというものだ。各戦地で戦った指揮官、ゴーレムを多数排除した者、あるいは冒険者の一部、そして一級兵士。


 合計五〇名ほどが表彰を受ける。

 王城の前で急ごしらえで作られた場には、仰々しく飾られた表彰台ができていた。


 その対面には王都に住まう人々が押し詰めており、周囲を見渡せば近くにある民家の窓から眺めている者達がいる。


 今回取り上げられるのは特級戦功の者達だけである。その中でもかなり数を絞った者だけがこの場で讃えられ、後の残りはまた後日場を改めて行うという事だ。


 ダブルシックスの爪痕が今でも残るのだから、無理もないだろう。


『これより論功行賞の発表を行う。呼ばれた者は順に前へ』


 拡張した司会の声で、論功行賞の発表が始まった。


『特級戦功。リリック=ワーグナー 準二級兵士!』


 大聖祭会場にて交戦し、敵幹部と思わしき者を二体撤退に追い込んだ少年兵達。

その代表として名が挙がったのは、白いくせっけの髪と目の隈が酷い一人のハーフエルフだった。数ある少年兵のなかで、大聖祭も優勝した事もあってリリックが代表として選ばれた。


『特級戦功。ガイリック=ノブゴドロ 特級勇者!』


 魔物を送り込んでいた西部から北部のゲートを単独で破壊し、敵の増援を足止めする。その後北西部に向かい、タイタンの討伐を援護。新型合成魔獣撃破数七。


『特級戦功。ウォルフォート=マンティス 特級勇者!』


 王都北東部の魔物二万を単独で殲滅後、タイタンと対峙し見事討伐。北西部の人的被害をゼロに抑えた。新型魔獣撃破数四。


『特級戦功。ジェイク=ラストゥード 特級勇者!』


 王城より射撃にて王都北部、北西部、西部の魔物殲滅を援護。ワイバーンの掃討を援護したのちゴーレム撃破で各戦線の助勢に大きく貢献した。その後タイタン討伐に助力。新型合成魔獣撃破数二〇。


『特級戦功。メリッサ=マキシモフ 特級勇者!』


 敵の魔物を排除後、各戦線でゴーレムを中心に多数殲滅して敵の戦力を大きく削った。その後王都西部にて敵幹部と対峙し排除に成功する。タイタン討伐に貢献。新型合成魔獣撃破数五十七。


『特級戦功。ジューナ=オ=ラスク 特級勇者!』

 低位精霊を多数召喚し、敵ゴーレムを多数排除。味方の捕縛阻止に大きく貢献した。その後北西部にて敵幹部と思わしき人間と対峙し、捕縛に成功する。新型合成魔獣撃破数十八。


 そこで言葉をいったん区切り、司会者はレガリア王を見上げる。




 ××××






 長い、道のりだった。


 四年前勇者に選ばれ、魔王を討伐しても英雄として扱われなかった。


 勇者ということすら、人々は知らなかった。

 だからこそ、ルイスはこの戦いでナルニアレイに交渉した。


 自分を勇者として公表しろと。

 ノヴァの願いを叶えるためだった。


 そしてルイス自身の願いでもあった。




 ××××





 ルイスが檀上に出て大衆に顔を向けると、市民達は皆困惑の色を浮かべていた。


『特級戦功。ルイス=アドレルト 特級勇者!』

 特級勇者。


 まだ見ぬ当代最後の勇者。


 ルイス=アドレルトが、勇者として民の前に姿を表した。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらが完結したのでよければ見てください。
ビカム・ヒーロー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ