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17話 戦いの終わり







 タイタン討伐と同時に各地に散らばっていた魔物が一斉に撤退を始め、数個大隊で構成された追撃隊が出動。数千の魔物を取り逃したが、それでも王都から退かせる事に成功した。

 その際、再び現れたゲートによって、魔界に帰還する魔物が確認されている。


「各隊の被害状況は?」

「死者、重軽傷者が多数いるようです。既に医療部隊を展開しました」

「よし、撤退がブラフの可能性を考慮しつつ順に休ませていけ」


 千里眼越しに戦況を眺め、ナルニアレイはやっとその腰を下ろした。

 数時間に及ぶ戦いのうえ、こちらの被害もそれなりに大きくなったが、それでも敵を退ける事に成功した。


「勇者は全員無傷か?」

「赫月の勇者と破壊の勇者が消耗しているようですが、命に別状はないとの事です。既に戦地から帰還しています」

「わかった。ジェイク、聞こえるか?」


 通信結晶に耳を意識するとしばらくして向こうから応答があった。


『どうした、叔父上?』

「今回の被害について、お前はどう考える?」


『市民に死者は今のところ出ていないんだろ? それならば、俺達の勝利で良いだろう』

「そうか、わかった。ジェイク、後で報告する事がある」

『……了解した』


 メイドゥーンが連れ去られた。

 ラストゥード私設兵として、これまで苦楽を共にしてきた仲だ。ジェイクとしても、思う所があるだろう。


「北部から西部にかけての大隊長、及び指揮官からの報告によりますと、死者の事を加味しても人数が大幅に足りないようです。恐らくは、ゴーレムによって連れ去られたのでしょう」

「そうか……これはかなりの数がやられているな」


 相手の目的がこちらの兵士を奪い、ゴーレムを作る事だとするならば、これは十二分の戦果となったことだろう。こちらも市民に被害が及んでいないのは、勝利と呼んでも過言ではないが、それでも犠牲者が多すぎる。


「ジューナ。大聖祭会場に到着次第、連絡をくれ」


 魔力感知による索敵中、唐突に大聖祭会場から爆発のような魔力の反応があった。それと同時に、いくつかの反応が大聖祭会場から散らばっていった事も。


 もしかすれば、次世代の勇者を捕らえる事。

 それすら、目的だったのかもしれない。






  ××××





 大聖祭本戦会場に到着したジューナは、その光景に息を飲んだ。

 いったいどれほどの規模の戦闘があればこうなるのか、この破壊跡はまるで勇者が戦ったあとのようだ。そこら中に散らばる赤い棘は、アイニール=レストレンジの魔法と記憶しているが、それにしたって規模が出鱈目すぎる。


「おや、アナタはもしや……勇者ですか?」


 不意に声がして、目を向けると一人のハーフエルフがいた。

 藍色の髪を一つに結い上げた、美しい顔立ち。


 その近くには、治療されている最中の少年兵達が転がっている。


「あなたは一体?」

「はじめまして、私はノヴァです。二百年前の対罪人とでも名乗れば、解りやすいでしょうか?」


「——ノヴァ?」


 聞いたことがある。

 だがあの男は封印されていたはずだ。

 なぜこんな所にいるのか、そしてなぜ少年兵達を治療しているのか、そのどちらもジューナには皆目見当もつかなかった。


 だが、それでも一つだけ理解できることがある。

 ノヴァと名乗った男は、少したりとも敵意を持っていない。


「治療を手伝ってもらえませんか? 無理をし過ぎたせいで少し眠いのです」


 欠伸をしながら目尻に浮かんだ涙をこするノヴァは、呑気な声でそういった。ジューナに入った報告は、突然大聖祭会場に高魔力反応があったから向かってほしいとの事だった。もしかすればダブルシックスがいるかもしれないからと。


 しかし、そこに居るのは一人のハーフエルフだけだ。


「何が起こったの?」

「確かそう、ダブルシックスでしたっけ? そう名乗った者達が強襲をしかけてきたのですよ。何人かはすでに連れ去られたようですが。既に一人は撤退し、もう一人は消滅しました」


 そう言ってノヴァが指さす方向には、棘でできた一本の木がある。

 でもその中心は、何かが消え去ったように空洞だった。


 ジューナはノヴァに向き合い、その目を眺めた。あの口ぶりからしてこの男がダブルシックスを排除し、少年兵達を守ったのだろうが。だが、ジューナが記憶している限りこの男はそのような事をする男ではない。


「御想像通り、私は少年兵達を助けていませんよ」

「…………」


「私が助けたのは、フリーシェやメイア、そしてリリックだけです。それ以外の少年兵は、彼ら自身が助けたのです。そうご報告ください」


 どうも噂や資料で見た報告と、目前にいるノヴァの様子は違い過ぎる。

 いったい何が起こったのだろうか。


「そう警戒なさらずとも、私はアナタに危害を加えるつもりはありません。それより……さすがに眠くなってきました」


 もう一度欠伸をし、背伸びをしたノヴァはそのまま頭の後ろで手を組んで横になる。


「そうそう。アイニールを拘束する場合、手荒な真似はしないでください。あ、それと尋問するのでしたらルイスの同行も得てくださいね。私も久しぶりに彼と話がしたいので」


 寝ながらそう告げると、次の瞬間にはノヴァの体が縮んでいき、大聖祭の本戦でみたアイニール=レストレンジの姿へと変わる。

 どういう理屈だろうか。


 それよりも、どう報告すればよいのだろうか。

 頭を悩ませたジューナは、とりあえずナルニアレイへ通信を図り、少年兵達へ治癒魔法を唱えた。





 ××××





 北西部を担当していた兵士から、メイドゥーンが連れ去られたと聞いたセバスは、ただその場に座り込み溜息をついた。兵士という仕事を選んでいる以上、そういった別れが来ると覚悟していた。


 しかし実際に親しい者が消えると、心に深い穴が開く。

 セバスが指揮をしていた冒険者連合でも、多数の死者と行方不明者がでている。


 一体奴らは、何が目的なのだろうか。

 セバスは空を見上げて考えを巡らせる。


 半魔崇拝といえば弱者を救うことを目的としているように聞こえるが、王都を侵攻し多数の犠牲者を生み、その結果半魔が救われるはずがない。ジェイクが支援をして居た頃の半魔崇拝には、考えられない事だった。


 あの頃は、どれだけ無謀だとしても、半魔への迫害を無くそうと努力する者達だった。

 このような暴力と暴虐によって、目的を成そうと考える者達ではない。


 それとも、世界が彼らを変えたのだろうか。

 セバスの主人であるジェイクのように、世界に絶望し、その手を変えたのだろうか。


 救えないと諦め、こうなってしまったのだろうか。


「メイドゥーン……」


 友の名を呼び、セバスは項垂れた。





 ××××





 負傷者の搬送を担当していたベリアルは、腕が折れているにもかかわらず、大の男を六人抱えるマエストロにため息が出る。あの男は怪我をして前線から下がったはずなのだが、腕に包帯を巻いているだけで治ったと叫んでいた。


 解りやすい負傷が腕だけであって、そのほかにも怪我をしている部分はあるはずだが、まるで気にしていない様子だ。もはやあれは人間ではなく獣なのではないかと、もう一度ため息をつく。


「ふぅ……」


 煙管を楽しむグレゴリアは、怪我を治療しつつ休んでいた。


「兵長、手伝ってくださいよ」

「俺は負傷兵だ。休むのが仕事だ」


「俺だって怪我してるんですよ?」

「お前は若いんだから平気だ」


「そういうの良くないと思いまーす」


 適当に返しつつ、ベリアルは周囲を眺めた。クロード辺境地兵は、負傷者は出つつも死者や連れ去られた者はいない。だが他の領地から来ていた兵士達の中には、死者や行方不明者が多数いるらしい。


 大聖祭を見に来る貴族諸侯の護衛に来ているのだから、彼らも王都にいる兵士よりは平均的に優秀だ。それでも死者や行方不明者が多数出ている事をみるに、むしろ戦った結果というよりは、狙われた結果なのかもしれない。


「それにしても」


 剛腕の勇者、メリッサ=マキシモフが残した戦いの跡を見て、ベリアルは冷や汗をかく。全開戦闘を見ていないだけで、ルイスもまた同じような事ができるのだろう。

 そのレベルの者が当代だけで九人もいるのだから、エルドリア王国が滅びる事などありはしないだろう。





 ××××





 エルドリア王国王都より西に十数キロ。

 朽ちた廃城、ダブルシックスの拠点内で、椅子を蹴り飛ばす音が響いた。


「くそ、くそ、くそ、あの女! 俺を馬鹿にしやがって、俺を馬鹿にしやがって!」


 聖域の勇者ジューナに敗れたはずのムスリムジョーは、叫びながら怒りの表情を浮かべる。樹槍によって貫かれたはずの体も、自身で切り落としたはずの足も治っていた。

 否、治ったのではない。


 ムスリムジョーに刻まれていたはずの傷は、なにも無かった。


「荒れてるからって物に当たるんじゃねえよ、このカスが」

「うるさいぞロメオ! お前なんか勇者でもない奴にやられたくせに! 畜生、あの女、絶対に殺してやる!」


「あァ? ぶっ殺されてえのか、テメェ」

「やってみろよ!」


 ムスリムジョーをなだめるのは、同じようにノヴァにやられたはずのロメオだった。彼もまた同じように、刻まれた傷がなくなっている。


 そんな二人の間に、一人の男が着地する。

 全身焼け焦げた姿の、ハーフエルフ。


 メディック=ワーグナーだった。


「落ち着きなよムスリムジョー、今の君では勝てなかっただけの話でしょ。それに勇者でもないやつにやられたのは俺も同じだ」


「うるさい、お前なんか――!」

「黙れよ」


 静かに、怒りと殺意を孕んだ言葉に、ムスリムジョーの体は動かない。

 殺される。


 本気でそう思えるほどに、メディックの顔はおぞましかった。


「さてと、デイビー。どこにいる? もしもーし!」

「んぁ? なんだメディック、帰ってきてたのか。っておいおい、人形をそんなにボロボロにしやがって、なぁにしてくれちゃってんのさ」


「ごめんごめん、だけどやっぱりこの人形使い辛いね。反射速度かかなり低い」

「そりゃそうだろ。だけど威力偵察にはなったんじゃないか?」


「うんそうだね、フェーズツーでは絶対に勇者には勝てない。だけどフェーズスリーの上、生身であれば勇者とも戦えるよ」


「はぁ、こりゃ難儀しそうだね。それよりタチャンクスは?」

「あの子はお風呂だってさ。疲れたからって」




「なんにせよ、皆お疲れ様。勇者にやられて悔しかったろうけど、俺達に課せられた任務は無事完了した。これよりダブルシックスの拠点にもどるから、準備してね」

「やれやれ、息つく暇もねえってか」


「それよりロメオ、あの男について何かわかったかい?」

「なにも解らねえな、だがあんな奴がいるとは思わなかったぜ。あのハーフエルフは間違いなく魔人化をせずに、素の力だけで戦っていた」

「そうか、ありがとう。あとでバルジュラにも報告しておくよ」




  ××××





 魔物総数十万余り。


 内約。


 六級ゴブリンおよそ五万。

 五級オークおよそ四万。

 四級オーガおよそ一万。

 三級魔界蟲およそ五百。

 二級ワイバーンおよそ五百。

 二級ウルフおよそ二百。


 白いゴーレム総数三百体。

 黒いゴーレム五〇体。

 敵幹部と思わしき人間、五名。

 特級、巨王タイタン。

 一部を除き、ほぼ全ての討伐を確認。




 エルドリア王都軍。

 王都正規軍六千名。

 王都冒険者連合四三〇名。

 王国各地より集まった精鋭、三七〇名。

 勇者六名。


 王都軍死者二六〇名。

 行方不明者四二〇名。

 重軽傷者一〇九〇名。

 冒険者連合死者五〇名。

 行方不明者三〇名。

 重軽傷者一三〇名

 各地より集まった精鋭。

 死者二〇名。

 行方不明者四〇名。

 重軽傷者一三〇名。


 エルドリア王国、王都。

 民間人死者ゼロ。

 重軽傷者四〇名。


 王都侵攻編、終幕。



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こちらが完結したのでよければ見てください。
ビカム・ヒーロー
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