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16話 勇者





 手負いの獣ほど、危険な生物はいない。

 その言葉の通り傷付いたタイタンは、その闘争心をむき出しにし、目前に集った四人の勇者と、遠くから自分を狙う一人の射手を警戒していた。


――この者達は危険だと。


 本能が告げている。

 するとタイタンにつけられていた傷から蒸気が溢れ、その赤い体を燃やすほどに体温を上昇させた。高速治癒、ダメージを負った体を治す能力であるが、そのデメリットは相応に膨大。


 五〇メートルの巨体、そこにつけられた無数の傷を治すためには魔力を多く消費しなければならなかったが、それでも手負いのままでは勝てるはずもないと気付いていた。


 知能ではない、本能で。

 首筋や目に走る痛み、脚や先ほど背中に打ち付けられた鈍い痛み。

 その全てが、本能に告げる。


 殺すべき相手だと。


 魔物の敵であると。

 そんな中一人だけ、否一つだけ。

 魔物の気配を有する者の魔力が溢れていた。


 翡翠色の瞳をした男。

 純白の剣を握るその男は、自分達と同種のはずだ。


 燃え上がるようなその魔力は、かつての友だった男の魔力も含んでいる。

 それどころか、タイタン自身の魔力すら溢れていた。


 混ざりあい、黒く変色した魔力。

 にもかかわらず人の隣に立ち、魔物の王——その一角である自分へ剣を向けている。


 その事実が、タイタンを苛立たせた。


 ——咆哮。


 体内にある魔力を練り上げ、口から放つだけの力。

 かつて一国を消し去った力。


 タイタンは喉にせり上がる魔力を抑え、持てる全ての力を注ぐ。

 この大陸、この都市諸共消し去ってやると。


 そして咆哮を放とうとした瞬間、目前に集まっていた四人の内の一人が消えた。

 なんの予備動作もなく、タイタンの目ですら追えなかった。


 瞬間移動ではないことは、周囲に走る風が教えてくれる。

 顔に傷のある男。


 その男がタイタンの全身を切り刻んだと気付いたのは、全身から血が溢れてからだった。


「——!」


 あまりにも速い。

 否、早すぎる。


 かつての祖先、その遺伝子に刻まれた記憶。


 勇者。


 国を引く祖先の前に立ちはだかる九人の戦士達。

 それが、これだ。


 この者達は、それと同種だ。

 ならばここでその芽を摘み取らねばならない。


 全身を針で刺すような痛みの中で、タイタンは喉奥からせり上がる魔力を口内に溜めた。

 この地形ごと吹き飛ばせば、いくらコイツらでも生きていられるはずがない。


 そして大地に向き合おうとした時、大鎌の先に乗る一人の女と目が合った。大槌を構えた一人の女は、鎌を構える男の武器に乗っている。

 次の瞬間、男が鎌を振るうと同時に女が発射された。


 鎌の放つ斬撃に乗り、大槌を構える。

 大きく振りかぶり、そして放たれるのはまるで龍脈のようにうねる衝撃の軌跡。


 道を塞ぐ全てを圧し折り、押し潰す程の衝撃がタイタンの顔を打ち抜いた。

 牙に守られた口内へ侵入し、うねりを見せながら喉の奥へと貫通する。


 それに遅れて襲い掛かる斬撃。

 女を乗せた斬撃が、タイタンの目を横薙ぎに抉った。


「グオオオォォォ!」


 火を押し付けられたように目が痛む。

 血が溢れ、視界がぼやける。


 それでもこの咆哮さえ放てれば。

 大地に向かって放てば、耐えられるのは自分一人。


 防げるはずもない、渾身の咆哮。

 受けてみよ、巨王の一撃を。


 そう言わんばかりにタイタンは背を弓なりにしならせ、反動で頭を下へ向けると地面に向かい咆哮を放つ。


――巨神の咆哮(ヨトゥンエイム)


 地形を変える一撃。

 地図から国を消し去る一撃。


 にもかかわらず、咆哮の先に向かい合う一人の男がいた。

 我と同種である、魔物の気配を持つ男が。


 その男は咆哮によって打ち出される魔力の塊を見ると、持っていた純白の剣を握りなおす。

 その刹那、彼を取り巻く気配がまた変わった。


 純白に眩いまでに輝いていたその剣は、ゆっくりと黒く染まり同時に溢れんばかりの力を纏っている。

 これは知っている。


 あのお方の魔力。


 だが、これほどまでに小さい個体が、なぜ――、


 魔王の力を有している?


「赫月嶽討!」


 逆手に持った剣を振るうその一閃は、タイタンの一撃、特級の一撃を消し去り、放たれる斬撃はタイタンの体を削った。


 斬ったのではなく、削った。

 黒い斬撃に触れた部分が、まるでえぐり取られたかのように消滅していた。


 咆哮と共に放った魔力の弾はかき消され、余波だけが周囲を揺らしている。

 それに続いてどこからか現れた無数の矢が、傷口から体内に侵入し暴れまわる。


 臓器を射貫き、血管へ突き刺さりそして爆発。

 タイタンの中で、衝撃が暴れまわる。


 どうなっている。


 何が起こっている。


 なぜこれほどまでに強い。


 勇者とは、これほどまでに強いのか。


 理を守る最後の砦。

 理を侵す者を裁く、神の代弁者。


 それが勇者。


「グオオオオ!」


 その咆哮は、最早プライド。


 特級としての矜持が、魔物の王としての責務が。

 巨王の力を示すため。

 最後の一撃を放とうとしていた。




 ××××





 最後であると、判断した。

 誰が言ったわけでもなく、タイタンと対峙する五人は全員それを悟っていた。


 全霊をかけた一撃がくると。


『ルイス、ガイリック』


 それをみすみす打たせてやるほど、彼らはお人よしでも愚かでもない。

 最善手を刺し続け、いずれ相手を殺し切る。


 その非情さすら持つのが、勇者達であった。


『——光の矢!』


 王都より放たれる一筋の光。

 それはタイタンの喉を貫き、雲を打ち抜こうとも止まらない。

 世界の果てへと続く、光の矢。


「ヴァリア・ザンパ―!」


「結・獄龍脈白撃!」


 破壊と剛腕の連撃。

 ダメ押しのように放たれる二つの攻撃は、タイタンの両足を打ち砕く。


 だが、それは援護。

 二人の勇者が渾身の一撃を放つための布石。


 赫月と六徳による、広範囲瞬間即死連撃。

 長年共に連れ添った彼らだからこそできる連携。


 六徳の速さで放たれる、赫月の最大火力。


「セイクリッド――」

「輪廻転衝――」


 六徳の速さを得たルイスの黒い斬撃は、槍の放つ風に乗る。


 長く連れ添った、彼らにしかできない。

 神造武具の直列解放。


「「——赫月ジャベリン」」


 幾千に打たれる光速の突きに乗って、ルイスの黒い斬撃が放たれた。

 それはまるで一羽の不死鳥のように。

 タイタンの巨体を巻き込み全てを喰らう。


 胸を捕らえそれを突き抜ける鳥は、その巨体であっても致命に至る風穴を残し、天に上る赤い雨は、戦いの終焉を告げる狼煙となる。


 王都を取り巻く十万の魔物。


 魔物を隠れ蓑に這寄る、無数の合成魔獣。


 それらを陰で操る悪意の信徒達。


 最後の一体である巨人が、その背を大地に着けた。

 巨大な地鳴りが王都を揺るがし、それが最後の衝撃となる。


「討伐、完了」


 王都侵攻編、終幕。



10万文字分のデータが吹き飛びエタってしまいました申し訳ない!

一応再開です!


連載中の作品が完結しました。

ランキング入り狙ってますので

https://ncode.syosetu.com/n5011hz/

良ければ評価とブックマークを下さい!

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こちらが完結したのでよければ見てください。
ビカム・ヒーロー
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