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15話 集結




 見間違えるはずもない。

 あれは、炎王イフリートの魔法だ。


「強くなりましたね。フリーシェ」


 力なく倒れるフリーシェを腕に抱いて、ノヴァは微笑みかけた。学び舎に来た時は、まるで戦えるはずもない、弱気で臆病なだけの男の子だったはずなのに。それが特級クラスの魔法すら使えるようになるなんて、ノヴァは思いもしなかった。


「ノヴァ……さん……?」


 スペルエイムの反動で体温が異常なまでに上昇しているフリーシェは、紅潮した顔のまま辛そうな表情を浮かべている。


「あの、人は……?」

「撤退したようです。彼には手痛いお灸になった事でしょう」


 見上げると闘技場を覆っていた結界も消えていた。

 スペルエイムを直撃したメディックは、そのまま燃える身体でどこかへ去っていった。おそらくあの結界も彼が張っていたのだろう。


 だがあの、外からの認識を阻害する結界。

 ハーフエルフどころか魔物以外には使えない結界のはずだが。


「よっと」


 闘技場に着地し、フリーシェに治癒魔法をかける。

 とてつもない魔力量だ。


 この子なら、いずれ全盛期の自分すら超える力を持つかもしれない。


「ノヴァさん……お願いがあります……他の人も、助けてあげてください」

「他の人とは、闘技場にいる他の少年兵達の事ですか?」

「はい……あの人たちも、あの人たちも僕達を守るために戦ったんだから、だから……」


 生徒達を人間であるにも関わらず治療したのは、ルイスの生徒であり、そして同時に虐げられている者達だったと知っているからだ。だが他の者達はそうではないだろう。一人を除いて、ノヴァが知る限り普通の人間のはずだ。


「お願い、します……」


 だが涙を目尻に浮かべ懇願するフリーシェの顔をみて、ノヴァも溜息をついた。


「……仕方ないですね、今回だけですよ?」


 ここで少年兵達を見殺しにすれば、この子達は笑えなくなるかもしれない。

 なら、それはダメだろう。

 少なくとも、ノヴァにそれはできない。


「クハハ……」


 治療を約束した途端、安心したかのように眠ってしまったフリーシェを見てノヴァは微笑む。怖かったろうに、苦しかったろうに。


「よく頑張りましたね」


 あとはもう、一つだけ。

 この子達を悲しませないために。


「勝ってください、ルイス」


 遠くからこだまする咆哮が、闘技場を揺らした。




 ××××





 声が聞こえた――気がした。

 勝ってくださいと。


 どこか懐かしい、胸に残る声色だった。


「ルイス!」


 ウォルフォートの声で我に返ったルイスは、大地を蹴ってタイタンから距離を取る。

 咆哮を真正面から受けたせいで、気を失っていた。


「危なかった」

「大丈夫?」

「うん、まぁ……厳しいかな」


 二万の魔物と戦い、そしてウォルフォートを援護しつつタイタンと戦った事により、ルイスの魔力と体力はかなり削られていた。その上タイタンから受けた攻撃により、頭から大量に出血している。


 ウォルフォートも同じように限界が近いようだった。

 元々他の勇者の援護を基盤に、最大火力を相手へぶつけるのがウォルフォートの得意分野だ。しかしルイス一人の援護では手が回らない場面も多く、タイタンの肉を切り裂くレベルの攻撃は並々ならないほどに魔力を消費していた。


「…………」


 タイタンを崩す手はある。


 魔人化。


 発動すれば全ての力を上昇させる事のできる力だ。しかしそれにはリスクを伴い、深く魔人化をすればそれだけで自我を失う。何よりもルイスの魔人化は、神造武具の特性により特別性となっている。


 もし自我を失えば、タイタンを超える危険分子になる。

 勇者の力を持って狂気に染まり、見境なく暴れる魔人。


 勇者になる際決めたルールの一つにこんなものがある。

 魔人化をし、その際自我を失えば他の勇者がルイスを特級指定魔人として扱い討伐すると。


 今王都には五人の仲間がいる。

 それなら、もし自我を失っても問題ない。


 だが……、


「ウォルフォート、魔人化をする。下がってくれ」


「ルイス! それはダメだよ!」


 魔王戦で魔人化したルイスは、後一歩の所で死ぬ所だった。自我を失った状態で魔王と戦い、それでも何とか他の勇者が助け出してくれた。


 だが、それも薄氷の上で得たようなものだった。


 魔王を討伐し、イフリートやノヴァと戦い、そして羅刹の中に埋め込まれていた修羅童子までをも抗魔剣『赫月輪廻』で斬った。今はもう二〇パーセントすら危ないのかもしれない。


 速さをどこまでも高めるガイリックの槍や、相手を追尾し矢が分裂する弓を持つジェイクのように、ルイスの持つ剣にも異能の力がある。神が授けた、神造武具の異能。


 ルイスの異能は、それこそ死に直結するほどに巨大だった。


「ここでタイタンを止めなければ、私達はおろか王都も滅ぶ。それはダメでしょ?」


 生徒達も王都に居る。

 それなのに、ここで逃げる事はできない。


 だが、タイタンを倒す手が思いつかない。

 このまま戦い続ければ、いつか魔力が切れる。


 そうなればお終いだ。


 命を落とす事になるかもしれないが、それでもここで死ぬわけにはいかない。

 生徒達が夢を叶える瞬間をこの目に焼き付けるまでは。


 屠ってしまった友の夢を叶えるまでは。

 死ねないのだ。


『死にたくないんだったら、魔人化なんてするな。この馬鹿が』


 通信結晶を通した声と同時に、ルイスの頭上を幾千の矢が通り過ぎていった。

 その全てがタイタンに命中し、一部が目を筆頭とした急所に刺さる。


『隙を作った、出番だぞ――』


 その時、タイタンの周囲を駆ける一陣の風。

 痛みに目を覆うタイタンの隙を突くように、ただ一閃に駆ける陰。

 残像だけを残し、敵に気付きすら与えぬ神速。


『——ガイリック』


 槍の形をした神造武具。

 ただ一点のみを狙い、ただ一線に駆けるその姿を表す槍。


 現れたのは六徳の勇者、ガイリック=ノブゴドロ。


「セイクリッド・ジャベリン」


 喉へ飛ぶガイリックの槍はタイタンの皮膚を貫き、その巨体をふらつかせた。

 同時に周囲を包む風が、まるで吸い込まれるようにタイタンの下へと集まっている。


「豪・迫撃!」


 剛腕の名を冠する勇者。


 メリッサ=マキシモフによる大槌の攻撃で、倒れかかったタイタンの巨体が一瞬だけ浮いた。


 それほどまでの破壊力。


『援護は任せろ、既に北西部の魔物は殲滅した。北部と西部は既にジューナが掃討戦に参加している。だから王都は気にせず、思う存分暴れろ』


 通信結晶越しに聞こえる声は、天元の勇者。

 唯一弓を扱う勇者であり、そしてルイスを追放した当事者。


「君は、私が嫌いだと思っていたけどね」

『勘違いするな、今でも嫌いさ。だがお前を死なす事で受ける王都の損失より、共にタイタンを討伐するメリットを取っただけだ』


「あっ、そう……」


 笑いながら立ち上がり、ルイスは剣を構えた。


「ッたく、あの馬鹿この期に及んでまだ言うか。もう一発殴ってやらんと気が済まねえな」

「まぁ終わってからで良いじゃない、とりあえずはこのデカブツを何とかしましょ」


『なんにせよ王都は気にするな。流れ弾は俺が対処する』

「あれ、ほんとに? じゃあ任せるよ?」


「何にせよ、縛りがなくなったのはありがたいね」


 六徳の勇者・ガイリック。

 剛腕の勇者・メリッサ。

 天元の勇者・ジェイク。

 破壊の勇者・ウォルフォート。

 赫月の勇者・ルイス。


 当代の勇者、その半数が集った。


「——照らせ“赫月輪廻”!」

「——切り裂け“スレイプニル”!」


 神造武具の解放。

 それは、秘められし力の解放。


 神が造り給った救世の武具。

 自我を持つ武器、世界を理へと導く剣。


 能力の解放に必要な言葉は、その武器が教えてくれる。世界を照らす『赫月輪廻』敵を切り裂く『スレイプニル』天の音を鳴らす『バズグール』その力の解放は、それすなわち世界を救う力をその身に宿すこととなる。


 赫月輪廻。

 特殊な布で作られた包帯で、二重に封印されていた剣。魔物を消滅させ、吸収するという能力を持った剣。その刀身は眩い程に純白で、浅黒い肌を持つルイスの対を象徴するような剣だった。


 スレイプニル。

 ただ破壊力だけを求め、諸刃になった大鎌。込められたその魔力の量は先ほどまでとは比べ物にならないほどに膨大で、彼の身長を優に超すまでに伸びた大鎌からは黒いオーラが漏れ出ている。


 魔王を討ち果たし、世界を救った勇者たちが。

 今再び、強敵を倒すために集った。





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こちらが完結したのでよければ見てください。
ビカム・ヒーロー
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