4話 神造武具
魔物の総数十万。
王都兵士六千、当代勇者四名、冒険者連合、各地より集まった精鋭。
ルイス、王都から南東部にて交戦中。
ガイリック、王都西部を中心にゲート破壊の為に奔走中。
ジェイク、王城より遠距離から魔物の排除中。
ウォルフォート、王都東北部にて交戦中。
セバス他冒険者数名、新型魔獣と交戦中。
王都西部、新型魔物の対抗にクロード辺境地兵参戦。
ベリアルの視線の先で、ゴーレムはこちらに目を向けていた。
明らかにこちらを標的として狙っているのだろうが、睨みあいをしている場合でもない。
「司令部、こちら『クロード辺境地兵統括、グレゴリア=ドダイドス』恐らく敵の目的はゴーレムによるかく乱と、魔物の数による人海戦術の併用だ。合成魔獣の製造方法も留意しつつ、他の地区への指令も出してくれ」
『司令部了解、ナルニアレイ軍務大臣に伝えます』
淡々と言葉を交わすグレゴリアを横目に、ベリアルは剣を抜いた。
今現在、王都に来ているクロード領兵は二〇名。連携も十分にとれる数が集まっている。
「ゴーレムの数が多い、早めに終わらせるぞ」
「了解です、兵長」
適当にそう返した瞬間、目前に居たゴーレムが城壁を蹴り一直線にこちらへ飛んで来た。
膂力に相応しい俊敏性、一瞬で距離を詰めるゴーレムにグレゴリアは口を開ける。
「止めろ、マエストロ」
グレゴリアがそう呟いた瞬間、体術部隊の隊長にして身長一九七センチの巨漢であるマエストロが、手四つの状態でゴーレムを止めた。
「マエストロさん、動かないで」
ベリアルがそう呟き、同時に跳躍。
抜剣した切先で、ゴーレムの目を一閃に切る。
「グオオオォォォオオ!」
頭を振って痛みを紛らわそうとするゴーレムへ、続く追撃の氷柱が六本ゴーレムの腹筋を貫いた。魔法の主は、魔導部隊隊長であるゲイルの力。
体勢を崩したゴーレムへ、返す刃を繰り出したベリアルは右腕を切り落とす。
「ムゥン!」
反撃の力を無くしたゴーレムを、マエストロが城壁の上から地面に向かって叩きつけた。
地面にめり込むゴーレムに目を向けると、ピクピクとしばらく痙攣した後、まるで粘土が湧き出るように右腕の再生を始めた。
「ありゃりゃ、腕生えちゃいましたよ」
「やはり核を狙わねばならないな」
そう返したグレゴリアは剣を抜き、地面にめり込むゴーレムを見下ろす。
「ベリアル、ゲイル、マエストロ、一体ずつでいい確実に仕留めに行くぞ」
「「「了解!」」」
「ゴーレムの数が多い、一人落とされればそのまま火力差で持っていかれる。一体ずつ引きつけてこちらに消耗がないよう殺していくぞ」
そしてグレゴリアを筆頭とした四人とその部下は、一斉に城壁から飛び降りた。
××××
王城にある司令部から、ナルニアレイはゴーレムの存在を千里眼越しに確認した。
「あれが、ゴーレムか」
生きた姿のゴーレムは初めて見る。ナルニアレイが受けた報告によれば、合成魔獣であるゴーレムは、核となるものを持っている。
「王都西部にて、クロード辺境地兵がゴーレムとの交戦を開始しました。同じように王都北部、北西部でもゴーレムの存在が確認できています。ゴーレムの妨害により、魔物を食い止められません、城壁内に侵入されます!」
補佐の報告を聞き、ナルニアレイは通信結晶に魔力を通す。
敵の切り札がこれだとするならば、思い通りにさせるわけにはいかない。
「ナルニアレイ軍務大臣、あれは一体何なのですか?」
「ここ一年から半年で、新たに発見された新型合成魔獣です」
スペード治定大臣の問いかけに、ナルニアレイは静かな口調で応える。
「合成魔獣とは文字通り二つの生き物を合成した魔獣です。有名所をあげるならば、『蛇王ムカデオロチ』ですか」
「では、あのゴーレムは一体何を合成してらっしゃるのですか?」
「——人間です」
端的に答えたナルニアレイの言葉に、スペードは冷や汗をかいたまま動かない。
だが、それをお構いなしにナルニアレイは続ける。
「ゴーレムは生きた人間をベースとして、それに魔物の肉体を覆うようにして付ける事で生まれる魔物だ。市民の混乱を配慮して一般には公表していない魔物だが、まさかこれほどまでの数を揃えるとは……」
「な、ならばあのゴーレムの中にも、生きた人間がいると?」
「ええ、あのゴーレム一体一体に、生きた人間が内蔵されています」
アイニールや羅刹を魂の合成と考えるのならば、ゴーレムは肉体の合成だ。
「ゴーレムは内臓する人間の強さによって、ゴーレム自身の強さも変わる。」
製造方法も留意して――グレゴリアの言葉だがその意味はナルニアレイにもよく理解できる。強い人間を素材として使用すれば、強いゴーレムが生まれる。ならば敵の、ダブルシックスの狙いは――、
「敵の狙いはこちらの兵士をゴーレムの素材にする事と断定、その上で指示を通せ。魔物の群れが市街地を襲い市民を犠牲にすることにはある程度目をつむる、その代わり誰一人ゴーレムの素材として捕獲されないようにしろ!」
「軍務大臣殿、それでは市民に被害が!」
市民の王政に対する反抗心を抑えるのが仕事の一つであるスペード治定大臣にとって、市民への被害はそのまま王政への不信に変わると理解しているのだろう。
その言葉の意味も理解できているが、それでもナルニアレイは決定を変えない。
「解っている。その上での判断だ! 三級兵士レベルが素材になったゴーレムは、一級クラスのゴーレムに育つのだぞ。ここで多くの戦力を相手に奪われれば、こちらの戦力は落ちて、敵の戦力を増強する事になる!」
これまでの報告書で、ダブルシックスが起こしたと思われる各地の行方不明事件。その結果によって生まれたゴーレムは、その性質上味方の損耗が、そのまま敵の増強につながるのだ。
「しかし!」
「スペード、貴様は軍務に関しては管轄外であろう」
レガリア王が、凛とした言葉でそう言った。
「余もナルニアレイと同意見だ。市民の盾となるべき兵士達だが、このままゴーレムの素材として相手に奪われれば、市民を脅かす脅威となる。それは避けねばならん」
王として常に非情な決断を送ってきたレガリア王にとって、どちらの方が最善なのかも理解できているだろう。
だからこそ彼は、ナルニアレイの擁護をしたのだ。
「——だが、ものには限度があるぞナルニアレイ」
「ええ解っています、それについての対処は既に伝令済みです」
時を同じくして、王城の中から一つの影が戦線へ向かった。
××××
セバスは腕を振りかぶり、掌に溜めた火の玉を投げた。
「——豪炎豪火球!」
投擲技術と肉体の力により、まるで剛速球のように飛ぶ炎の球は、ゴーレムの腹を打ち抜いた。ゴーレムの核となる人間は、まるで着ぐるみのように内部に収まっている。それを打ち砕くには、腹を貫くのが一番効率が良い。
「チィ、だが流石に数が多いな!」
一級から二級兵士に相当する冒険者は数名いて、それらを全てゴーレムの対処に回している。それでも厄介なまでの強さをもつゴーレムによって、所々で死者が出ていた。
「た、助けてくれぇぇええ!」
悲鳴に目を向けると、脚を潰された冒険者が二人、ゴーレムに呑まれていた。二人を呑んだゴーレムは、そのまま一目散に魔物達の後方へ駆けていく。
もう、助からない。
恐らく捕まった二人はゴーレムの素材にされるのだろう。
「チィ、面倒な!」
指揮権をメイドゥーンに移し、セバスは戦場でゴーレムの相手をしていた。指揮官が戦場にいながら指揮を執る事はふさわしくないと理解しつつも行った苦肉の策だ。
そもそもゴーレムを相手に戦える者が多くない。
にもかかわらず、ゴーレムの数は増加する一方だ。
「火炎掌!」
燃える腕で放つ掌底は、ゴーレムが防御に回した腕ごと吹き飛ばす。
一体一体が笑えるほどにタフで、倒すごとに魔力と体力を吸われていく。このままではジリ貧になり、いずれセバスも捕まってしまうかもしれない。
「メイドゥーンの大隊もゴーレム討伐に移すか?」
だがそうした場合、間違いなく市街地にまで魔物が向かうだろう。セバスの主であるジェイクの命令は、市民を誰一人として死なすなだ。それを破るわけにはいかないが、状況が悪すぎる。
「セバスさん、危ねぇ!」
「しまっ——」
一瞬の油断。
その隙間を付くようにして、一体のゴーレムが背後から迫っていた。
あの膂力を防ぎきれるのかどうかわからないが、不意を突かれて防ぐほかに方法はない。
セバスは両腕に魔力を込めて、ゴーレムの一撃を受けようとした瞬間。
空から降ってきた人影が、ゴーレムを下敷きにして踏みつぶした。
「久しぶりね、セバス。元気してた?」
降ってきた人影は、ゴーレムの頭を腕力だけで捩じ切り、微笑みながらそんな事を言う。
美しい容姿をしているのだが、どうやってもお付き合いしたいとは思えない。
それほどまでに、その強さは恐怖的だ。
「元気なように見えますか? ……メリッサ様」
「まぁそれもそうね」
現れたのは『剛腕の勇者、メリッサ=マキシモフ』だった。
彼女は笑いながらナイフを具現化させると、耳に着けていた通信結晶に手を当てる。
「メリッサ=マキシモフ現着したわ」
『わかった、お前の相手はゴーレムだ。潰せるだけ潰してこい』
「りょーかい! じゃあ行きますか!」
そう呟いた後、メリッサはナイフを空中に投げて逆手にしてキャッチする。
同時に魔力の高ぶりが、まるで風のように周囲を拭き荒らした。
「神造武具――解放」
神造武具。
勇者だけが持つことを許された、神が創造した武器。
人智を超える力を持ったその武具を、メリッサは握りしめる。
「鳴らせ“バズグール”!」
その瞬間、メリッサの持つ短剣が姿を変える。
短剣の柄が延びて黒く変色し、刃の部分は巨大な円柱。
大槌。
メリッサの神造武具である短剣は、長さ二メートルに近い大槌へと変化した。
「……さてと」
一息ついたメリッサに、空から二体のゴーレムが降って来る。
ほぼ同時に飛びかかってきたゴーレムに、セバスは黙って身を引いた。
臆したわけではない。ただ単純な事で、巻き添いを喰らいたくなかったからだ。
瞬間、吹き荒れるは暴風、地を轟かすは衝撃。
メリッサの大槌が、二体のゴーレムを一撃で破壊した。
「……マジかよ」
呆気に取られていたセバスを無視して、メリッサは高く飛び上がる。そして大槌を振りかぶり、近くに居たゴーレムを頭から叩き潰した。
「さっさとコイツら全員片付けるわよ!」
士気を高める為にそう叫び、メリッサはまた大槌を振るった。
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