表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/82

3話 辺境地兵






 ガイリック=ノブゴドロ。

 当代勇者の中では三番目に選ばれた人物。かつてはルイスと共に赫黒部隊の一員として戦場を駆け、若干十代でありながらも王都で指折りの兵士とまで呼ばれた人物である。


 殲滅能力は低く、対多数戦では下から数えたほうが早いほどの火力しかない。にもかかわらず、彼は今世代でルイスに並んで三強の位置を得ている。


 それはなぜか。

 刹那――一秒を何千、何万分割にしてもまだ足りぬほどの、時とすら認識できないほどのわずかな時間。音よりも早く、稲妻よりも早いその単位は、日常ではまず使われることのない単位。


 だが、ガイリックが冠する『六徳』はそれよりも早い。

 時とすら認識できないほどの速さを上回る迅さ。


 それが例え比喩であったとしても、ガイリックの隼さの前ではその違いを理解できない。

 地平線に見えるまでの距離を一呼吸で駆け、音と空気の壁を破り、敵は残像すら捉えることができない。


 文字通りの神速。


 一対一であるならば、たとえルイスやウォルフォートですら彼に傷一つつけることはできないとすら言われているほどの速度。


「ハッハァ! 見っけェ!」


 上空から魔物を生み出すゲートを見つけたガイリックは、大喜びで地面まで落下する。

 飛行魔法。


 それは自由に空を飛ぶといった夢のような魔法であるが、このエルドリア王国をもってしても習得できている者は指で数えられる程度しかいない。


 それはなぜか。


 飛行魔法は生まれつきにしか習得できない魔法であり、しかもコントロールの難しさは魔眼以上になる。実際同じ飛行魔法であっても、クロードとガイリックでは早馬と蝸牛ほどの差がある。


 ガイリックの等級測定による機動力は、ルイスの倍以上もある69だ。文句なしの最速、歴代でも指折りの速度は魔物達の視界にすら捕らわれない。


「まず、一つ!」


 魔物達が声に反応した時には既に、ゲートは破壊された後だった。着地による衝撃にすら、喰らってから気付くという速度。


 この世で最も早い兵士の一撃は、魔物を生み出すゲートを破壊していた。


『ガイリック、そこから北へ九百メートル進め、そこにもう一門ゲートがある』

「うるせぇ、分かってんだよ!」


 怒鳴りながら返しつつ、ガイリックはまた跳躍する。

 残像しか残さないその速度を捉えられる者は誰一人としていない。



 ××××





 各戦場に散らばる目を通して戦況を確認し、ナルニアレイは首を傾げた。


「おかしい」

「どうされたのです? ナルニアレイ殿」


 思わず呟いた言葉に、治定大臣のスペードが声を出す。


「いや、順調すぎると思っただけです」


 敵の操る魔物の数は十万、一方でこちらが実質的に動かせる兵士の数は六千。

 数では圧倒的に劣ってはいるものの、その実大聖祭のために集まっていたルイス・アドレルトやウォルフォート=マンティスを筆頭とした当世代勇者六名、そして各地より集まった貴族諸侯の護衛についてきた精鋭の兵士達、そして冒険者連合。


 彼らの力により敵の初動は完全に抑えることができたうえ、一部ではこちらが優勢にまでなっている。

 そもそも王都を陥落させたいのであれば、闘技場で宣戦布告などせずに強襲をかければよかったはずだ。にもかかわらず半魔崇拝は宣戦布告をして、ほんの少しではあるが、こちらに準備をする時間を与えた。


「王都といえば聞こえは良いが、その実ここは城塞都市。本気でこの王都を落としたいのであれば、あと二十万は魔物が必要だったはずだ。いや、たとえそれだけの魔物を用意できたとしても、ほとんどがオークやゴブリン共ではそれも難しいだろう」


 オークやゴブリン、六級と五級に当該される魔物であり、一般的な兵士であれば一対一ならほとんど勝てる。城壁で足止めし、遠距離からしとめていけば負けるはずがないのだ。敵感知反応でいえばその中に千体ほど二級以上の魔物がいるようだが、それでも数が少なすぎる。


「そもそも奴らはなぜ、魔物を五分割にしたのでしょうか?」


 治定大臣の言葉に、ナルニアレイは眉をひそめる。


「おそらくそれは勇者を警戒してのことでしょう。広範囲殲滅型のウォルフォート、そして対魔物に関していえば歴代勇者でも最強格のルイス。あの二人が居れば例え二十万の魔物が正面から来ても負けることはないでしょう」


 実際二方向を任せたルイスとウォルフォートの二人は、すでに担当箇所の殲滅を八割方終えている。今は敵増援を警戒して待機させているが、それすらも必要なのかどうか怪しくなってきた。


「それほどなのですか、まったく恐ろしいものですね」


「だからこそ敵は魔物を五分割にしてこちらの戦力と勇者を散らしたのでしょう。もし一か所に固めていれば一瞬で勝負がつく。奴らはそれを警戒していた」


 だがそれでも問題がある。


「治定大臣殿、仮に半魔崇拝の勝利条件を定めるのだとすれば、どのようなものになると思いますか?」

「……私は兵の運用や戦争に関しては専門外ですよ?」


「それでも、お聞かせ願いたい」

「ふむ、そうですね。では仮に王国の滅亡を狙っているのだとすれば、国王を含めた二十六室、そして我々宰相の首をはねれば国の存続は危うくなります。ですがこれはありえないでしょう。王都を侵攻された時を想定した十三のシェルターに二十六室は二人ずつ退避してもらっています。ですから政治をつかさどる者を皆殺しというのは現実的ではないですね」


 例え政治家達を全滅させたとしても、それで即刻国が滅びるわけでもない。大聖祭を見に来なかった各地に散る貴族諸侯達が団結すれば国の運営も半魔崇拝の殲滅も可能だろうし、なにより各地に散る残りの勇者達が黙っているはずがないだろう。


 それでも敵の目的を現状解る範囲から導き出すのであれば、王都に居る政治家達の抹殺。それが一番現実的で理に適ってはいる。


「狙いは我々か……?」


 それを敵の最終目標とするならば、それはそれで敵の数が足りない。もしかすれば勇者の力量を読み間違えていたという可能性もなくはないのだが、これほどの数を集めたのにそんな初歩的なことを見逃すだろうか。


 大聖祭、五分割にした魔物、王都に集まっていた勇者、各地域で戦う精鋭達。

 それらの影に、敵の真意が隠れている気がしてならなかった。


「下民街、そして中流街の一部は破壊されるでしょうが、城壁のおかげで王城に敵が届くことはないでしょう。ですがそこでも問題がありますね」


「商業施設、ですかね?」


 不意に毛色の違う声がして、目を向けるとヴォルビオッサ商業大臣が居た。


「商業大臣殿、冒険者の配備は終わったのですか?」

「ええ、金にケチをつけられる場面でもないでしょう? それなりに割高になりましたが、冒険者七百名の協力を得られました。今はラストゥード家のセバスという兵士が彼らの指揮を担当しています。それよりも、西の中流街には商業施設があります。あそこを破壊されると税収がかなり落ちますよ?」


 西の中流街、そこには兵の使う装備品や、加工品等を生産するための設備を多く立てている。


「ええ、それを含めて西には兵士を多めに集めています。城壁を突破されることはないでしょう」


 王国各地から集まってきた兵士達は王都の西へ集めている。

 そのおかげで、現在西部では二万を相手に押し返し始めていた。


「そうですがねぇ、今城で待機しているメリッサ=マキシモフと、ジューナ=オ=ラスクを今すぐにでも出動させることはできないのですか? 遊ばせている場合ではないでしょう」


 スペードがそのように呟くが、ナルニアレイは首を横に振る。


「その点に関していえば考えがあります。もし相手側に戦力の追加投入があるのならば、それに対応できるようあの二人には待機してもらわないとなりません。なにより既にジェイク、ガイリック、ルイス、ウォルフォートの四人も投入しているのですから、この程度はねのけてもらわないとこちらが困ります」


 いくら一騎当千ならぬ一騎当万の勇者たちであれど、魔力や体力は戦うごとに減っていく。ある程度の犠牲はでるだろうが、彼らに無理をさせてそれを防ぐほど甚大な被害でもないのだ。


 民間人千人が犠牲になるよりも、勇者一人が死ぬ損失のほうが国としては大きい。


「この程度って、さすがに考えが違いますね」

「しかし実際そうなのだから仕方がないでしょう。それ以上に不安なのはこの程度の戦力で相手が仕掛けてきたということですので」


 もし自分が半魔崇拝の立場であるならば、今いる戦力の十倍以上を集めて十二方向から王都を囲うように攻めるだろう。そうであれば例え勇者全員、そして全兵士を投入したところで初動を抑えきれず中流街、もしかすれば上流街にまで被害が及ぶ。


 しかし現実はそうならなかった。


 そうしなかったのか、できなかったのか。これは定かではないが頭に入れておくべきだ。


「さて、ここからどう動く……?」


 目を通して映し出される映像を見て、ナルニアレイは呟いた。





 ××××





 第二大隊の指揮を担当するボルードは、城壁の上から戦況を眺めていた。

 これまでの交戦により、兵士の中にもそれなりに被害がでているが、天元の勇者による援護のおかげでどうにか凌ぐことができている。


 それに大聖祭を見るために集まってきた貴族諸侯達の護衛も駆けつけてくれたことで、一部では何とか優勢にまで持ち直していた。


 敵の個々はそれほど強くない。まして地の利はこちらにあるのだから、このまま戦況が動かなければこちらが有利になっていくだろう。


 空を見上げれば、先ほどまで多く飛んでいたワイバーンがほとんど撃ち落とされている。あれに戦力を裂くことになれば、この状況は作り出せなかった。


 ふと空を見続けると、頭に矢を受けたワイバーンが垂直に落下してきた。


「頭上注意! ワイバーンの死体が降って来るぞ!」


 そう叫ぶと下に居た兵士が慌てたように移動して、その間にワイバーンの巨体が墜落した。例え死体だとしても、あれだけの巨体が頭に乗ればただでは済まないだろう。

 そう思って地面にめり込むワイバーンを見た時、ふと何か違和感を受け取った。


「腹が動いている?」


 ボルードがそう呟いたように、ワイバーンの腹の中で何かが動いていた。

 やがてそれは翼竜種の腹を切り裂くと、血にまみれた姿を現す。


「何だ、アレは?」


 ワイバーンの腹から現れたのは、三メートル近い人型のフォルムをした白い何かだった。ボルードも見た事のない魔物で、円柱のような形をした頭に、大きな目玉が一つだけついている。

 近くに居る白兵部隊も呆気にとられた様子だったが、次の瞬間先走った兵士二人が剣を持って飛びかかった。


「よせ! 迂闊に飛びつくな!」


 直観。


 脳内で感じ取った何かが、ボルードに危険信号を出していた。あの魔物は何かがヤバイと。


 そして、


 その直感を現実にするかのように、魔物は腕を振り裏拳のように拳を薙ぎ払う。

 すると拳は飛びかかった兵士二人の体を捉え、上半身だけを吹き飛ばした。


「——なッ!?」


 鉄の鎧が、まるで鋭利な刃物で切られたかのように胴体ごと切り離されていた。吹き飛んだ二つの上半身は、近くにあった民家に叩きつけられ、潰れた果実のように血を吹き出して動かなくなる。

 文字通りの即死。


「司令部、こちら第二大隊隊長ボルード。新型と思われる魔物と遭遇した、サイズは三メートル強の人型! 見た事もないタイプで戦闘力は極めて高い、各員に警戒するよう伝えられたし。以上!」


『——了解。北部、北西部でも動揺の魔物が数体確認されている。その魔物は合成魔獣(ゴーレム)だ、等級は一級から特級クラスに当たる。戦闘力が極めて高い、交戦の際は複数で当たれ』

「特級だと? 勇者クラスじゃねえか!」


 ボルードは指笛を鳴らし、恐怖に染まった兵士達を我へと戻す。

 幸いにも現れた新型である合成魔獣は一体、一体だけならば人数の差でどうにでもなる。


「総員、あのゴーレムを最優先目標とする! 二級以上の兵士は連携して倒せ! 合成魔獣は一体だけ、どうとでもなる!」

「大隊長、新型と思われる魔物が次々と現れました!」

「何だと!?」


 慌てて報告に来た兵士の方を見ると、下民街にある民家の影から十数体の新型魔獣が現れる。

 その数は、十や二十では収まらない。


「嘘だろ……」


 思わずそう呟いた瞬間、


「ブオオオォォォォオオオォォ!」


 一体のゴーレムが雄叫びを上げ、それに呼応するかのように他のゴーレムが叫ぶ。


「大隊長! 危ない!」


 そんな声がしたと思った瞬間、ボルードの頭上に一体のゴーレムが居た。

 振り下ろす拳が、まるでスローモーションのように見える。


「大隊長——‼」


 補佐の声と同時に、城壁が崩れるほどの一撃が放たれた。














「アレがクロード様の仰っていたゴーレムか。なるほど、中々強そうだな」

「気持ち悪い形してますね」

「油断するなよ、ベリアル。舐めてかかれば死ぬぞ」


 ボルードが目を開けると、いつの間にか自分は小脇に抱えられていた。

 顔を上げると一人の大男がまるで小包を抱えるように、軽々と自分を持ち上げている。


「アンタ達は?」


 ボルードの問いかけに、男達のリーダー格と思わしき男が振り向く。

 筋骨隆々な肉体とオールバックにした白髪交じりの髪、その隣には赤毛の青年と、皺だらけの男が並んでいる。


「クロード辺境地、統括兵団兵長グレゴリア=ドダイドスだ。お前達は下がっていてくれ、あの新型は我々が相手をしよう」


 現れたのはルイスの住まう、クロード領の兵士達だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらが完結したのでよければ見てください。
ビカム・ヒーロー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ