2話 参戦
2話
魔物の総数十万vs王都兵士六千。
王都南東部、ルイス=アドレルト交戦中。
王都北東部、ウォルフォート=マンティス交戦中。
王都北部、第十六大隊~第二十大隊交戦中。
王都北西部、第五大隊~第八大隊交戦中。
王都西部、第一大隊~第四大隊交戦中。
かつての戦争とは本来、規格化された武器を用いて人海戦術、及び戦略によって戦うのが主流であった。しかし魔法の発展により、個々の実力差が離れすぎる状態が生まれると、その規格化された戦闘では戦力のロスが大きくなっていった。
それにいち早く対応したのがエルドリア王国であり、彼らは強い者をより強くしそれをうまく戦争に利用する術を考えた。
本来の戦争が数の多さと地の利を使っての戦いが主流であるとする。その場合数の力に頼った運用規則はマニュアルがあろうと、個人差の大きい能力の使用は常に許可などありえない。
個々の力を数の力に変えるためには、違いを抑える必要があるのだが、魔法の発展に伴い、その違いが明確なまでに離れていくと、そのセオリーも違っていった。
従来の装備は盾や槍、あるいは投石や弓といった物が主流だったがそれがむしろ戦力の足を引っ張っていた。
それを解消するために産まれたのが例外だけを集めた運用マニュアルであり、まるでツリーのように無数へ分かれる兵科ではあったが、その効果によって個々の戦力は見違える程に成長した。
多種多様過ぎる程に得意分野が分かれた兵ができあがり、それを四十八通りにまで細分化させた兵科に合わせて運用する。
その兵科を適した環境に送る難易度、また運用コストの高さは馬鹿にならないが、それでも相応の成果は出ており、一兵卒に至るまでが精鋭のエルドリア王国。そう呼ばれる程に戦力を有した王国となった。
その最たる成果が、勇者の存在であろう。
王都南東部、交戦開始からわずか十数分で二万もの魔物が既に半数近くにまで削られていた。
圧倒とは、まさにこのことだろう。
通常であれば勇者数人がかりで相手をするべき特級のイフリートを単騎で落とすルイスは、勇者の中でも指折りの戦力を有する。一対一が本領であるはずのルイスが、二万という相手に傷一つなく快勝しているのはこのためだ。
強さには様々な種類がある。その中でも特に分かりやすい強さを持つのは、ルイスやウォルフォート、ガイリックの三人だろう。
「さて、さっさと片付けて次だね」
独り言をつぶやき、ルイスはまた魔法を放つ。
××××
第四大隊を指揮するメイドゥーンは魔物をあらかた片付け、後続に目をやった。結界とは本来防御に使うものだが、使いようによっては後続との連携を断てる障害物になる。実際に二千体ほどの魔物だけを孤立させることに成功した。
だが結界の強度が持たず、破られるのは時間の問題だろう。
「メイドゥーン!」
聞き覚えのある声に目を向けると、上官であるセバスが城壁を登って隣に着地した。
「セバス様!」
「指揮を任せて悪かったな、街に居る冒険者連合を集めていた。俺は冒険者を引き連れ遊撃隊として前に出る、援護を頼んでいいか?」
冒険者、そう呼べば聞こえはいいが、実質の所は傭兵達の集まりだ。彼らは自身で仕事を見つけ、剣や魔法の腕で生計を立てている。
今回の襲撃は相当なものなので、なりふりを構わずに雇い入れたという事だろう。
「かしこまりました」
応え終えた瞬間、結界が破壊されて後続の魔物がなだれ込むように侵入してきた。
敵の数はまだまだ多い、こちらがどれだけ策を練ろうとも、その上を押しつぶして余りある程の数だ。
生半な手を打てば、たちまち飲まれてしまう。
「大隊長! 危ない!」
そんな叫び声が上がった瞬間、セバスとメイドゥーンの傍をかすめるように何かが通り過ぎていった。轟音と爆風、その結果城壁の上に配置していた魔導部隊の数人が地面に叩きつけられる。
「ワイバーン!」
別名翼竜種、翼を持った鰐のような造形の魔物であり、天高く飛翔しては音速に近い速度で降下して獲物を狩る魔物だ。翼を含めたその大きさは四メートル近くにもなり、等級ならば三級以上に分類される魔物。
単純な戦力で言えばそれほど強くはない魔物だが、統率の取れた動きで城壁の上から魔物を打ち下ろす魔導部隊を的確に狙ってくる。
この状況ならば厄介すぎる敵だ。
「対空手段を持つ魔導部隊はワイバーンを狙え、冒険者共、お前達は白兵戦で魔物を討伐するぞ!」
最優先討伐対象を定め、セバスは魔導部隊にワイバーンの迎撃を命じた。
だが、その瞬間——耳に着けていた通信結晶から聞き覚えのある声が流れる。
『セバス、どいていろ』
空気を切り裂く音、キリキリと甲高い音を立ててセバスの上空を何かが一瞬で駆けて行った。
目にもとまらぬ速さを持った何かが、乱数起動で飛翔するワイバーンを打ち抜く。それが矢であると気付けたのはその攻撃を放った男が誰なのか、セバスはよく知っているからだろう。
天元の勇者。
当代勇者の中で唯一、弓を使う勇者。
「ジェイク様!?」
『ワイバーンは任せておけ、お前達は魔物の排除を続けろ』
その声が聞こえた瞬間、王城の方向から十数本の矢が空を飛び、ワイバーンの体を打ち抜いていった。
××××
王都を襲う翼竜種の数は五百はくだらないだろう。
ルイスとウォルフォートに任せた二方向以外からしか来ていないが、それが討伐に成功したのか、それともあの二人を恐れて三方向にのみワイバーンを配置したのかは分からない。しかし、それでも仕事は簡単だ。
ジェイクは弓の弦を引き、王城の頂点から下民街の空を飛ぶワイバーンを狙う。
単純な距離でいえば、数キロ。
本来の弓の使い方では到底届くはずもない距離を射貫けるのは、一重に彼の持つ弓が神造武具だからであろう。
一度の射出で射貫ける魔物の数は、最大で百前後。距離が遠くなるにつれてその数を減らしていくが、それでも王城から貧民街までの距離ならば一度に三〇はいける。
「——連鎖の矢!」
魔力を込めた矢を放つと、音速を何倍もの速度で超える矢が王都の空を飛び、放った矢が三十まで分裂してそれぞれがワイバーンを撃ち落とす。
「セバス、空は俺が担当する。お前は冒険者連合を率いて北西部の魔物を殲滅しろ、西部には各地から集まった精鋭が援軍が向かっているから、殲滅が終わればお前は北に向かえ」
『かしこまりました』
「死ぬな、そして死なせるな。下民とて誰一人見捨てるな」
『——かしこまりました!』
返答を受けたジェイクは、もう一度弓を構えて弦を絞る。
空を飛ぶワイバーンの数は減ってはいるが、減るペースが遅い。という事はつまり、後からどんどん補充してきているのだろう。
そもそも王都を囲う十万の魔物など、運搬中に見つからないはずがないのだ。ならば魔物達は連れてこられたのではなく、王都の周辺に現れたというのが正しいはずだ。
それならば、
ジェイクが目を凝らすと、地平線の遥か先、波のように蠢く魔物達のさらに奥。
そこに、ゲートのような物があるのが見えた。
「やはりか」
ジェイクは弓を絞ったまま通信結晶に意識を集中させる。
「叔父上、見えたぞ。やはり空間転移系の魔法のようだ」
軍務大臣であるナルニアレイ=ラストゥードは、ジェイクにとって叔父にあたる。それ故に彼のやり方、戦術の取り方についてはジェイクもよく知るところであり、同時にナルニアレイにとってもジェイクの力を良く知っている。
『天元の眼には他に何が見える?』
「魔物の数は依然増加中だ。恐らくダブルシックス共が魔界から呼び寄せているんだろう」
『分かった、早急に対処する』
それを最後に通信は切れて、同時に足元で轟音が鳴る。
空を舞うその人影は、天高く跳躍した後にジェイクの傍で着地した。
「おいジェイク、ナルニアレイさんに言われて来てやったぞ!」
それが人だと理解したのは、傍に六徳の勇者ガイリック=ノブゴドロが現れたからだった。
「早いな。お前の仕事は後続の排除だ。北、北西、西の奥にあるゲートを破壊しろ」
「ケッ、せっかくリリックを祝ってやろうと思ったのによォ!」
「そう言うな、これを片付けた後また仕切り直せばいい」
豪快に話すガイリックの手には、一本の槍が握られていた。紅く輝き細くとも細部まで装飾が施された名刀にして、ガイリックの神造武具。
「まずは西から排除に当たれ、場所は俺がナビする」
「わぁったよ、クソが」
不貞腐れたようにそう叫んだガイリックは、次の瞬間には王城の頂点を足場に空へと跳躍した。
「……まったく、嫌われたものだな」
仕方ないとは理解している。それでも自分で選んだ道なのだから、後悔など一つもない。
ジェイクはまた弓を引き、ワイバーン目掛けて矢を放った。
「叔父上、ガイリックがゲートの破壊に向かった。援護する」
『分かった、お前の判断に任せる』
通信を切り上げ、ジェイクは南東に目を向ける。
向こうからこちらは視認できないだろうが、ルイスはもう魔物のほとんどを片付けているようだ。
相変わらずの強さに、ジェイクは歯を噛み締める。
三章は群像劇っぽくなります。
細かな登場人物紹介を投稿するので少々お待ちを。




