25話 二次試験終了
三十分後、ルイスはメリッサの隣でグループAの少年兵達を眺めた。
試験で傷を負った者は全員、ジューナの魔法により完治している。
たった一つ、嗚咽を漏らしてルイスの膝に抱き着くフリーシェの心傷を残して。
「二次試験終了! 結果を発表する!」
森での戦闘が全て終わり、メリッサの声が響き渡る。
「アイニールレストレンジ、撃破数4。よってリリックチーム二次試験突破!」
彼女はルーサントスチームの全員を、一人で戦闘不能にさせた。
圧倒的とまで言える戦力差で、ルーサントスを含めた四人は何もできなかった。
「ドルトムント・ラズグッド、撃破数1。リリー・フラストレーション、撃破数1、ジェームズ・トンプソン、撃破数1。よってドルトムントチーム、二次試験突破!」
リリーは最後までフリーシェを舐め続け、押さえつけていたという事もあり撃破扱いになり、そしてジェームズはメイアを戦闘不能にさせていた。孤立していた駒を、順当に倒した結果。
最後にドルトムント、彼はリリックを打ち破った。
激しい撃ち合いの末、僅差ではあったがトンプソンに軍配が上がった。
負けたリリックは、ただ静かにその気持ちを噛み締めているようだ。
「以上がグループAの結果よ、グループAから本戦に出場させる者はこの二チームから選考し、結果は明日伝える。以上! 次はグループBよ、準備しておいて!」
単純な撃破数では、リリックチームが上回っていた。
しかし生徒達は全員、ドルトムントチームに倒された。
「ひっぐ……どうして僕ばっかり変な人に……」
「よしよし、泣かないでね。フリーシェ」
「先生……抱っこ……」
「はいはい。いくらでも抱っこしてあげるから、泣き止もうね」
その中でも特にフリーシェが負った心の傷は、相当深いようだ。
それは主に、戦闘とは関係ない部分によるものだが。
「あいたた、ジェームズだっけ? アイツ陰が薄いくせに、クッソー腹立つわ!」
「メイアも残念だったね、魔眼の精度を上げた反動を突かれたね」
「悔し~!」
歯を噛み締めて地団駄を踏むメイアに、アイニールが近寄った。
「まぁまぁ、メイア。まだ魔法を習って日は浅いですし、アナタもこれからですよ」
「それは、そうなんだけどさ……」
「元気出してください、そして私を褒めて下さい」
「もう、この子ったら! 抱きしめちゃお!」
そう叫んで、メイアはアイニールを抱きしめた。
実際、彼女のお陰で二次試験を突破できたのだから、褒めてあげるべきだろう。
だがメイアの抱擁が強すぎて、アイニールは困った顔を浮かべているが。
「……リリック」
生徒達の中でも、リリックが一番塞ぎ込んでいた。
三つ年が違うとはいっても、同世代の人間に負けるのはこれが初めてだろう。
「ルイス先生、俺……」
「とりあえず、ちょっと話そうか」
焦らなくていい。
ルイスはそう考えて、リリックを連れて控室に戻った。
グループBの試験開始はもうすぐだろう。
またガイリック達の所へ行き試験を観戦してもよかったが、今はそれ以上にリリックと言葉を交わす方が大切だろう。
泣きつかれて眠ってしまったフリーシェをソファに寝かせ、ルイスは紅茶を持ってリリックの隣に座る。
「負けちゃったね、彼はどうだった?」
「強かった、人間を強いと思ったのは初めてだ」
「そうか……」
リリックは紅茶を受け取り、唇を濡らした。
「ああいったタイプの強さを持つ人間もいる。ただ地力でゴリ押し、火力差で相手を抑え込む。彼の魔法が何か分かったかい?」
「多分だけど正反対の魔力をぶつけて、魔法をかき消していたんだと思う」
そう呟くリリックの顔は、表情を曇らせたままだ。
アイニールが四人撃破した事により二次試験を突破した。
後は本戦に出場するメンバーに選ばれるのかどうかだが、リリックの実力ならば間違いないだろう。
「私が見た限り、君とドルトムントにはほとんど差がなかった。それなのに君は負けた、その理由はわかるかい?」
「…………」
リリックは何も答えずに紅茶を眺めていた。
控室には彼らの声も聞こえたので、リリック達がどんな会話をしていたのかも知っている。
だから、リリックが負けた理由もルイスには解っていた。
「初対面の人間が、自分を対等な相手として見てくれたことが、嬉しかったんだね」
彼はハーフエルフの半魔として、これまで何度も迫害を受けてきた。
ルイスの教え子になり、人間にも良い人がいると理解しても、それでも無関係の人はまだ彼を蔑んだ目で見ていただろう。
ましてやドルトムントは、初対面なうえ敵同士。
にもかかわらず、彼はリリックを対等な相手として見ていた。
リリックが彼に半魔を迫害しないのか問う前と後で、一目でわかるほどに動きが悪くなっていた。
魔法のキレが悪くなり、技の冴えが落ちていた。
「君は私に比べればまだまだ子供だ。だからこそ色んな事で悩み、躓いてしまうことだろう。だけどね、例え敗北を味わったとしても、そこで折れちゃいけない。これからの人生で、君は数えきれないほどの挫折と敗北を味わうと思う、だけどそこで立ち止まらずに心を奮い立たせるんだ。私がその方法を教える」
「……わかった」
リリックは無表情のまま頷くと、再び紅茶に口をつける。
そして座ったままこちらへ顔を向け、真剣な目を向けてくる。
「ルイスさん、帰った後訊きたい事があるんだが」
「良いよ、時間を作っておく」
恐らく、二人で話していた半魔についての事だろう。
人間の力と魔の力、その二つを使う事こそ半魔が全力を出せる方法だ。
(教えるべき時なのかもな)
だが、ルイスはその方法を彼に伝えていない。
時間も足りなかったが、それ以上に危険だから教えなかった。
だがリリックの顔を見て、教えるべきだと判断した。
敗北を経て、彼の人間に対する価値観が変わったようだ。
「おうお前ら、こんな所に居たのか」
後ろから声がして、振り向くとガイリックがいた。
まだグループBの戦いが始まったばかりなのだから、ガイリックはまだ仕事があるだろうに
「どうしたんだ?」
「まぁ外がちょいと騒がしくなっててな」
言われて耳を澄ますと、外で何人かが話し合っている声がする。
声色からして焦りを含んでいるようだが、何があったのだろう。
「グループBの試験が終了した」
「終了? まだ始まって三分も経ってないだろ?」
「ああ、そうさ。羅刹って奴、想像以上だぜ」
ルイスは試験管控室へ移動し、そして水晶に写る試験場を眺める。
するとそこにあったのは、森の木々をなぎ倒し、七人の気を失った少年兵達で作った山に、腰を下ろす羅刹の姿があった。
「羅刹、撃破数7。つまりアイツ一人で他の七人を全員倒しちまったってことだよ。しかも無傷で三分の間に」
ガイリックの言葉に、ルイスは思わず息を飲んだ。
得体のしれない少年だとは思っていたが、まさかこれほどとは。
「驚いたな、君達の世代より豊作じゃないか?」
「ンな事ねえよ、俺の代は“ウォルフォート”も居たんだぜ?」
「あれ、そうだったっけ?」
適当に返しながらルイスは水晶を眺め続けていると、そこに写る羅刹がこちらを見た。
どこかを眺めているというわけではなく、動物の視界を借りているルイスを見ている。
はっきりと、目が合った。
「なるほど……強いわけだ」
やせこけた頬に青白い肌。
一見するだけではただ不気味なだけという印象ではあるが、こうして観察するとその異様さがよくわかる。
「あれが、羅刹か」
おそらく本戦でアイニールかリリックの戦う相手だ。
今の二人には少し荷が重いかもしれない。
「では二次試験は全て終了した! 本戦出場者はこちらで選抜したのち通知する! では解散!」
控室からメリッサの声が聞こえ、大聖祭二次試験が終了した。




