22話 戦闘開始
視点ごちゃごちゃしてます。
作者の力量不足です、申し訳ない。
≪リリー視点≫
ドルトムントチームはゲートAの前に集まっていた。
その中でリリーは、失恋のショックから未だに立ち直らないドルトムントの尻に蹴りを入れる。
「ちょっとドルトムント! いつまでショボくれてんのよ!」
「だって、俺の初恋だったのに」
あれから三日経っても、この男はずっと塞ぎ込んだままだ。
どれだけ慰めても一向に元気を取り戻さないので、リリーも苛立ち始めていた。
「あのね、あの子はリリックって人と付き合ってるんだっけ? ならアンタがあの人より強いってフリーシェちゃんに見せてあげたら、アンタに惚れるんじゃない?」
暴論だが、ドルトムントをたきつけるには丁度いい。
少女の中には、強い相手に惚れる者もいるのだ。
「まさか、そんな事が!?」
「ええ、アンタの力に惚れてあの子から告白してくるかもしれないわよ」
望みは薄氷よりも薄いだろうが。
そもそも、あれだけの美貌を持つフリーシェに、ドルトムントが恋をするというのが、リリーにしてみればおこがましいにも程がある。
「なるほどそうか、そういう事だったのか!」
だがポジティブに振り切れたドルトムントは、そんな事を考えてもいないようだった。
両拳を握り、気合を溜めている。
「ならばこのドルトムント=ラズグッド、全力であの恋敵を叩き潰してやる!」
恋敵。
恐らくあのハーフエルフの事だろうが、あの人にとってみればたまったものじゃないだろう。
「良いんですかリリーさん。あのハーフエルフ倒したら、もっと嫌われるんじゃないっスか?」
ふと隣から声がして、目を向けるともう一人のチームメイトである『ジェームズ』が困ったような表情を浮かべていた。
彼の言う事も一理あるだろうが、こうでも言わないとドルトムントは腐ったままだろう。
「こうでも言わないとこの馬鹿は動かないでしょ、それよりアンタは自分の心配をしてなさいよ。ルーサントスって人、確か準二級よ?」
「うへ~、狙われたら勝ち目ないっスね」
リリックチームとは別に、もう一人二次試験を戦う相手だ。
彼も王都ではそれなりに名の通った少年兵であり、一対一でならかなり手強い相手だ。
なんにせよ、ドルトムントが全力を出せば勝てる試験ではあるだろう。
「はぁ、まったく。やれやれね」
あからさまに肩を落とし、リリーは溜息をついた。
××××
≪メイア視点≫
ゲートBに集まっていたリリックチームは、それぞれ準備体操を始めていた。
そんな中、メイアはリリックの隣に立ち、口を開く。
「どう思う、リリック」
「どうって、何がだ?」
抽象的すぎる質問に、リリックが問い返すとメイアは表情を曇らせる。
「あのルールよ『制限時間までに三人以上倒せば』って言ってたけど、あれって三人倒せなければ敗退って事でしょ?」
「当たり前だろ、何言ってんだお前」
「わからないの?」
呆れたように言うメイアに、リリックは首をかしげる。
「三人以上って事は、例え突破条件を満たしていたとしても、それ以上に敵を撃破すれば相手チームは突破できなくなるってことでしょ。つまり相手が潰し合うのを待って、ゴチャゴチャした場所での横取りができないってことよ」
「あー、なるほどな」
もし他の相手を勝ち上がらせたくないのであれば、相手を全員こちらで倒してしまえばそれだけで相手は勝てなくなる。
思い返してみれば、メリッサもそう言った意図を含んだルール説明を行っていたように思う。
「それに、ドルトムントチームとルーサントスチームがお互いに潰し合ってラスト一人ずつになれば、自動的に私達の勝ちの目がなくなるでしょ」
「なら、先手必勝かな」
取られる前に取る。
単純ではあるが、これが一番いい選択肢だろう。
「索敵はするけど、戦闘になったらアンタに任せるわよ」
「ああ、問題ねえよ。全員俺が倒してやる」
ルイスとの鬼ごっこで、メイアの索敵は十二分に磨かれている。
相手の位置を探るだけならば、そうとうな物を持っているのだから、この試験においても問題ないだろう。
「さて、行くか!」
開始を知らせるメリッサの声が遠くから聞こえ、リリック達はフィールドへ足を踏み入れた。
××××
≪ルーサントス視点≫
ゲートCに集まったのは、ルーサントスチーム。
チームの合計数は四人であり、それぞれ平均的な力を持っている。
「ルーサントス、作戦はどうします?」
「リリックチームを狙う、あのチームで警戒するべきなのはリーダーのリリック君だけだ。それ以外を分断して全員で叩こう」
そんなチームのリーダーを務めるルーサントスは、笑いながら言った。
一次試験を見たが、リリックという半魔以外に警戒するような者はあのチームには居ない。
「そんな簡単に分断できますかね?」
「それについては、僕に策があるから大丈夫だ。四人で固まり、一人ずつ落としていこう」
作戦を決め、ルーサントスはゲートの前に立つ。
××××
≪リリック視点≫
二次試験が開始し、それぞれのチームは中央に向かって移動を始めた。
その中でも、一番足取りに淀みが無いのはリリックチームだった。
「メイア、相手の位置を教えろ」
「右側にドルトムント、そして左にルーサントスよ」
魔眼による位置を教えてもらい、リリックは考える。
(ドルトムントと戦うなら相応の覚悟がいるな)
ルーサントスという男もそれなりの強者ではあったが、一対一の状況であれば勝てる相手とみている。
だが総力戦になった場合、フリーシェとメイアが居る以上自分達のチームが不利だ。
ならば混戦に持ち込み、その上で各個撃破していく方が確実だろう。
相手を突破させないためにも、二人を守りながらでないといけない。
「待ってリリック! ドルトムントが視界から消えた!」
「何だと? とりあえず魔眼の精度を上げろ」
「これ以上上げると、頭がぼうっとして話せなくなるから無理!」
「あー、リリック。一つよろしいでしょうか?」
「どうした、アイニール」
「ドルトムントは、もう目の前にいるようですが?」
瞬間、大地を揺らす衝撃。
「見つけたぞ! 我が恋敵!」
振り向くと、空から降ってきたのか目前にドルトムントがいた。
両足が地面にめり込み、めくれ上がった岩盤が歪な形を作っている。
「いやだぁあああ!」
ドルトムントに対してトラウマを植え付けられていたフリーシェはそう叫び、一目散に逆方向を目指していった。
一人で放置するのも問題だが、目前に迫るこの男を無視するのも不可能だろう。
「三対一だ、ルイスさんとの鬼ごっこの要領でやるぞ」
「まって、リリック! 他の人たちも集まってきた」
その声でハッとしたように周囲を見回したリリックは、左右に一人ずつ新手が来ている事に気が付いた。
ドルトムントチームの二人だろう、片方は男でもう片方は女。
「はーい、メイア。三日ぶり」
「リリーと、アンタだれ?」
「初めまして、ジェームズです」
「あらそ」
呑気な会話を繰り返しているメイアを無視して、リリックはドルトムントに向かい合う。
今はフリーシェのカバーに動きたいが、この男が自分を無視してくれるとは思えない。
「アタシはフリーシェって子を追うから、ジェームズはあの女の子二人相手してて」
「僕が女の子の相手? 傷つけたくないんですけど……」
「すべこべ言うなら、アンタの金玉片方潰すわよ」
そんな会話をして、ドルトムントチームの二人が移動を始めた。
フリーシェを追わせるわけにはいかない。
リリックは右手に魔力を溜めて、雷撃魔法を放とうとした時――、
「おい、我が恋敵よ。どこを見ている?」
「——グッ!?」
瞬間、丸太を打つような衝撃が下からきて、リリックの体は吹っ飛ばされた。
木々の枝を突き破る軌道で、リリックはチームから引き離される。
≪メイア視点≫
「リリック!」
名を呼んだが、既に彼は遥か彼方に飛ばされていた。
追撃の為にドルトムントが移動を開始し、残った敵は目前に居る二人。
「あーらら、残念だけどメイア。ドルトムントが相手ならあの子負け確定よ」
「大きなお世話よ」
魔眼を発動し、メイアは全身に力を込めた。
この二人を倒してからフリーシェを拾い、リリックの援護に向かう。
それが今の最善手。
「——土壁」
瞬間アイニールとの間に地面から分厚い土の壁が現れ、分断された。
魔眼を使用して透視すると、ルーサントスチームの魔法だと見える。
「アイニール!」
「あら、余所見してる暇はないわよ?」
メイアの頬をリリーの爪先が掠める。
魔眼が無ければ直撃していただろう。
あっという間の攻防。
一瞬でチームの全員が分断された。
××××
≪アイニール視点≫
一人土の壁により分断されたアイニールは周囲を眺めた。
どうやらジェームズという名の男も、同じように分断されたようだ。
「分断完了だね、四対一対一だ」
声が聞こえ、目を向けるとルーサントスがいた。
その隣には、三人の敵が囲うように配置されている。
「これは、これは……ひょっとして私、ピンチですか?」
「悪く思わないでね、連携もまた二次試験の内容でしょ?」
ルーサントスは掌に火の玉を出現させて笑う。
「じゃあ皆、落せる所から落としていこう」
そしてルーサントスチームの四人は一斉に地面を蹴った。
××××
≪リリック視点≫
おそらく数百メートルは飛ばされただろう。
メイアを筆頭にした他の仲間の位置が遥かに遠い。
だが、リリックに助けに向かう事はできなかった。
なぜなら、
「どうした我が恋敵よ! そんなものか!」
「——グッ!」
ドルトムントのアッパーが、リリックのガードごと打ち抜き体が宙を浮く。
決して軽いとは言えない自分の体を吹き飛ばす膂力に、リリックも額に汗をかいた。
「クソッたれ、何だよ。コイツのパワーは」
木の枝に着地し、足に魔力を貯めて高速移動をする。
そしてドルトムントと一定の距離を保ち、両手に魔力を集中させる。
「——双雷手!」
ルイスに教えてもらった魔法。
両掌に電撃の魔法を帯電させ、体術による攻撃力の底上げを行う技。
「——フン!」
息を吐いて地を這うように移動し、リリックはドルトムントとの距離を詰めた。
そして蹴りで牽制をし、その後帯電する拳で彼の額を打ち抜く。
——だが、
「なるほど。電撃系の魔法を手に纏い、拳で触れるたびに相手を痺れさせる技か」
ドルトムントは、頭を前に出してリリックの拳に頭突きをし、拳の威力を殺した。
一瞬の判断が早い、リリックがクリーンヒットしたと思った攻撃も、ことごとく急所を外され、致命傷にはいたらない。
「だが、ヌルゥイ!」
そんな声と共に、丸太のような太い腕のラリアットが炸裂した。
両腕で防いだリリックだが、威力を殺し切れずに地面を滑る。
「ぬるい、ぬるい! その程度で俺の進撃を止められるものかァ!」
まるで攻撃すらされていないかのように平然とするドルトムントをみて、リリックは脳裏に考えをよぎらせる。
(雷手が効かないのか?)
雷手の神髄は打撃への補助効果だ。
だから拳を防がれたとしても相手は電撃を食らうはずなのだが、この男はちっとも堪えていない。
リリックは右手に魔力を貯めて、細く鋭くイメージを尖らせる。
「這電撃!」
彼が持つ魔法の中で、威力が最大クラスの魔法。
ルイスとガイリックの指導もあり、鋭さの増した魔法なのだが。
「フン!」
ドルトムントはあっけらかんとした様子で、雷を殴って止めた。
どうやればあんな芸当ができるのか、リリックにも分からない。
「流石はハーフエルフと言った所だな、その魔力量は俺のソレを遥かに超えている。しかァし! それでも俺の愛の方が上だァ!」
すると突然、ドルトムントは上着を脱ぎ棄てた。
盛り上がる大胸筋、丸太のように太い腕。
そして全身に刻まれた無数の傷跡が、リリックの目を引いた。
(ルイスさんの特訓がなけりゃ、二回は死んでたかな)
あの鬼ごっこは、移動しながらの攻撃という方法を取らなければルイスの機動を捕らえる事はできなかった。
だからこそあの特訓を経て、リリックは移動しながら魔法を放つという技術を鍛える事ができ、それにより回避と攻撃を同時にする事ができる。
基礎的な事ではあるが、鍛えにくい部分だ。
「俺のフリーシェさんへの愛は、お前を遥かにしのぐ! そんな俺を止められるものかぁ!」
「ホントお前なんなの? もう見てて怖いんだけど」
戦力的な意味ではなく、性癖的な意味で。
まぁフリーシェの姿を見ると、あながち分からないでもないのだが。
「お前を倒し、そして俺の方が魅力溢れる男だと、フリーシェさんに知らしめる! そう、あの人を妻にするのは、この俺だァ!」
妻?
その言葉を聞き、リリックは首を捻る。
「妻って、お前何言ってんだ?」
そこで脳裏を一瞬よぎる予感。
もしかしてこの男は、重要な事を知らないのではないのか?
勘違いしたままではないのか?
「うるさい、お前がフリーシェさんと、一緒にお風呂に入るような仲だということは知っているぞ!」
「同じ屋根の下で暮らしてるんだから、それくらい普通だろうが!」
「お、お、お、同じ屋根ェへェ!?」
声を裏返しながら叫んだドルトムントは、血涙を流しながら叫び続ける。
「赦ッせん! クッソ羨ましい! あんな美しい人と、あんな事やこんな事を……! お前を下し、お前を恋人の座から引きずり降ろして、俺があの人の恋人になるのだァ!」
なぜ自分がフリーシェの恋人という事になっているのだろうか。
嫌な予感がして、リリックも弁解を始める。
「別に俺はフリーシェの恋人でも、何でもねえぞ?」
「うるさい、誤魔化そうとしても無駄だ!」
聞く耳を持たず突進してくるドルトムントを捌き、リリックは距離を取る。
「お前が何を言っているのか分かんねぇし」
別にフリーシェの事は好きだが、リリックにとって恋愛感情があるかと言えば全くのノーだ。
だから何故自分が恋人と言われているのかも分からないし、それ以上にこの男の重大な勘違いを正さねばならない。
「そもそも、フリーシェは男だぞ?」
リリックがそう言った瞬間、まるで時が止まったかのような静寂が訪れる。
そしてドルトムントは耳をほじり、リリックが何を言ったのかを時間をかけて理解しようと頑張っているようだ。
だがそれでも彼の脳のキャパを超えたのか、ただ目を丸くして問い返す。
「………………え?」




