13話 生徒達の戦闘力
四人の生徒にそれぞれ紙を手渡すと、各々がさっそく紙に魔力を込め始めようとする。
だがルイスはそれを中断させ、不敵な笑みを浮かべた。
「皆一斉にやったら勿体ないだろう? 順番に見ていこうよ」
「良いわねそれ! じゃあ私からいくわよ!」
トップバッターを名乗ったメイアが紙に魔力を込め始めた。
他の三人はそれを眺めながら、メイアの数値を待ち焦がれているようだ。
「……できた! 先生、これでいいの?」
メイアが喜びながら紙を手渡してきた。
ルイスがそれを眺めて、他の皆に数値を発表する。
メイアの数値。
【魔6・攻2・防4・機3・技4・総合19】
「悪くない数値じゃないか、三ヵ月前まで一般人だったとすれば凄い伸びだよ」
「本当に? これ凄いの?」
「ああ、もちろんだよ」
メイアの頭を撫でると、彼女は嬉しそうにニマニマと笑った。
魔法の習得は彼女の性分的に習得が難儀している。
だがそれでも防御・援護に関しては一般的な平均程度はある。
これは恐らく魔眼の力だろう。
「よし、ルイスさん。次は俺だな」
そう言ったリリックは、また同じように魔力を紙に込める。
ルイスが持つ生徒の中では、軍務経験がある分一番強い彼だ。
ベリアルの数値を超えていてもおかしくはない。
数値の出た紙を受け取り、ルイスは皆に発表した。
リリックの数値。
【魔15・攻11・防6・機8・技7・総合47】
「これは驚いたな」
ルイスがそんな声を出すと、近くにいたベリアルやナッシーも同じように目を丸くしていた。
魔法は魔力の量に比例するので、必然的に魔力が高いほど攻撃力も高くなる。
数値が10以上になれば、あたり一つの量も大きくなる。
つまりリリックの魔力量は平均の三倍以上ということになる。
ハーフエルフという種族は、エルフの高い魔力量を持っている事が多い。
だからこそ、この数値だろう。
値だけで見れば、ベリアルを既に大幅に抜いて二級レベルだ。
「ヘへッ、どうだ凄いだろ。入隊の頃には既に35は会ったからな、俺は」
「ちょっと、リリックの癖に生意気よ!」
「俺の癖にってどういう意味だ!」
「でもこれは凄いよ、リリックはハーフエルフだから高いとは思っていたけど、これなら大聖祭も優勝できるかもしれないね」
「ルイスさんもそう思うか!」
嬉しそうに目を輝かせるリリックと、その隣で唇を尖らせるメイアを眺めながらフリーシェに目をやった。
「次はフリーシェだ。見せてごらん」
ルイスがそう言うと、フリーシェも嬉しそうに魔力を紙に込める。
そして文字の浮かび上がった紙を見て、フリーシェは眉をひそめた。
「あれ? 読めないや」
「上下が逆だね。ほら貸して」
フリーシェから紙を受け取り、ルイスは数値を見て一瞬言葉に詰まる。
彼は魔王軍幹部である『八王イフリート』から、憑依されるほどの魔力を持った少年だ。
だからこそある程度は予想していたが、それ以上だった。
現に何も知らないベリアルは、紙を覗き込んで表情を青ざめさせている。
「先生、どうしたの?」
「あ、いや。なんでもないよ、読み上げるね」
フリーシェの数値。
【魔32・攻5・防2・機3・技2・総合44】
「何それ凄! フリーシェあんたマジ!?」
いの一番にメイアが素っ頓狂な声を上げた。
兵士の平均値は5。
フリーシェはその何倍もの魔力を持っている事になる。
他の数値はとても低いが、それでも総合値だけならリリックに近い。
「これは驚きましたね、ルイス殿。これほど高い魔力をもった子は、初めて見ましたよ」
「ベリアル君もそう思うかい?」
「ええ、ウチで一番魔力量の多いゲイルさんでも12ですから」
そう。
どの数値であれ9以上ならば相当優秀な部類なのだ。
それを三倍以上上回っているのだからフリーシェの逸材さが理解できる。
あと数年もすれば、彼はとてつもない強者になるだろう。
「じゃあ最後に、アイニールの番だ」
「ルイス。この空気では、私の数値が並みでも外れ扱いされるのではないでしょうか?」
「大丈夫よアイニール。同じ女同士低い数値でいましょ」
「そう言ってもらえれば嬉しいですよ、メイア」
そう言ってアイニールはルイスに紙を手渡す。
アイニールの数値。
【魔11・攻9・防9・機6・技4・総合39】
「アンタもそんなに高いのかよ! 私の味方はどこですか~!」
メイアは叫びながら、どこかへ走り去っていった。
一方でリリックやベリアルもその数値に冷や汗を流している。
リリックが平均的に数値が高いのは、軍務経験や種族によるものが大きい。
しかしアイニールはノヴァの魂を入れられるまでは、ただの奴隷だった。
だからこそ、その異才っぷりに驚くような表情をしていた。
(やはり、そうか……)
そんな中、ルイスは神妙な顔でアイニールを見つめていた。
クロードと共に立てた仮説は正しいのかもしれない。
「驚かされましたね、まったく。勇者の生徒は勇者候補、ということですか」
ベリアルは苦笑いを浮かべながら隣に立つ。
彼も年の割には優秀すぎるほどに優秀なのだが、いかんせん比べる相手が悪すぎる。
「さぁ皆、自分の力が可視化できて嬉しい気持ちは解る。だけど一つ言っておかなきゃならない事があるよ」
「言っておかなきゃならない事?」
近くに居たフリーシェが、顔を上げて問い返してきた。
「例えばフリーシェ、君の総合値はベリアル君より上だ。だけど彼と戦いになっても君は勝てないだろう。それは判断力や精神力、経験値といった数値化できない力もあるからさ。だからこの数値は自分の実力がどの程度か、大まかに知れるだけだと思っておいてね」
例え数値で圧倒していたとしても、勝敗がひっくりかえる事なんて数えきれないほどある。
だから数値にだけ捕らわれるというのは、自分の成長を阻害する要因でしかない。
数値はあくまでも自分の力をある程度、知れるということだけ。
それを理解していなければ勇者にはなれない。
ルイスがそう言い終えると、メイア以外の三人は大きく頷いた。
「あれ? メイアは?」
ふと周囲を見渡すと、練兵場の端で膝を抱えるメイアの姿があった。
解りやすく落ち込んでいるポーズをしている。
無理もないだろう。
彼女の総合値は、生徒の中で唯一平均以下だ。
自分ができそこないなんて思っていなければいいが。
ルイスはそう考え、そばまで歩いて隣に腰を下ろす。
「大丈夫かい、メイア?」
「う~、私だけ落ちこぼれだ~」
「大丈夫だよ、メイアはこれから伸びるって」
「ホントに?」
「うん、本当だよ」
「じゃあルイス先生の数値も見せて」
「え?」
ルイスが問い返すと、メイアは赤くなった目で見上げてきた。
「さっきからリリックが、ニヤニヤしてこっちを見てくるのよ! あの鼻っ柱圧し折ってよ先生!」
言われて振り向くと、確かにリリックがニタ~っと笑いながらこちらを見ていた。
そしてメイアとリリックの目が合うと、彼は解りやすいように鼻で笑う。
「ねぇ先生、おーねーがーい~!」
「……もう、仕方ないなぁ」
ルイスは立ち上がり、そしてメイアを立たせると生徒達の方へ歩いていく。
そして未使用の紙をもう一枚取り出して、紙に魔力を注入した。
「ひとつ言っておくけど、神造武具には持ち主の力を高めさせる効果もある。だからこの数値がないと勇者になれないってわけじゃないから、見てもショックを受けないように!」
ルイスにしては珍しく張り上げた声に、生徒達はゆっくりと頷いた。
せっかく得た自信を崩してしまうのではないか。
そんな懸念が、ルイスの脳裏をよぎる。
歴代最強の勇者である彼の総合値は、同世代の勇者達も圧倒していた。
だからこそルイスは迷っていたのだが、目尻に涙を溜めながら自分にしがみついてくるメイアに押される形で数値を公表した。
ルイスの数値。
【魔56・攻87・防92・機28・技19・総合282】
生徒が全員、そしてベリアルとナッシーも唖然とした表情を浮かべていた。
無理もないだろう。
ここに居る全員の総合値を足しても、ルイスには届かないのだから。
「えっと、まぁ勇者になる前はこれの五分の一くらいだったし、まぁ……その……」
ルイスがかける言葉を迷っていると、腰に抱き着いていたメイアがニヤリと笑う。
そんな彼女の表情に、ルイスは肩を落としながらまた口を開いた。
「なんにせよ、これくらいになれるように頑張ろうね」
ルイスがそう言い終えると、フリーシェが抱き着いてきた。
「先生すっごい! 僕も先生みたいになれるかな?」
「なれるよ、だから毎日頑張ろうね」
「うん!」
フリーシェの頭を撫でていると、いつの間にかメイアがリリックの方へ移動していた。
そしてメイアは下卑だ笑みを浮かべ、リリックの肩を叩く。
「いやぁ残念ねぇ! せっかくこの中では一番だったのに! いやぁアンタが気の毒で仕方ないわ!」
「ルイスさんを引っ張り出すのは卑怯だぞ!」
「アンタが私を馬鹿にするからよ!」
「してねぇよ! ただ見下してただけだ!」
「同じことじゃない!」
「ケッ、まぁ目指すべき場所がはっきりしたぶんやる気が出ただけだがな!」
喧嘩を始める二人を仲裁しながら、ルイスは笑った。
なんにせよ、彼らが大聖祭を制しこの国で一番の少年兵になれる可能性は十分あるだろう。
楽しみだ。
ルイスは心の中でそう呟き、またフリーシェの頭を撫でた。
総合値=レベルみたいなもんで
強さを解りやすく説明するための数値です。
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