11話 戦闘訓練
クロード領に戻った五人は、旅の疲れを取るための休みを数日楽しんだ。
そして三日後、授業再開の日。
いつかのノヴァと戦った草原でルイスは、フリーシェ、リリック、メイアの三人と向かい合った。
「じゃあ、今日は待ちにまった戦闘訓練だ」
「今らか君達には私と戦ってもらう」
「だけど安心して。ちゃんと手加減はするから」
「「それじゃあ、始めよう!」」
声を揃えたルイス達に、メイアが真っ先に手を挙げる。
「その前にルイス先生が二人いる理由を知りたいんだけど」
メイアの対面に居るルイスは、なぜか二人いた。
外見からは見分けは完全につかない。
実は双子なのか、なんて考えたがそんなわけはないだろう。
「ああ、コレは魔法の『分身』さ。私とそっくりな分身体を作り出す事ができるんだよ」
「そんなこともできるの!?」
「いやぁ、王国でも、多分私くらいしかできないと思うけど」
そう言ってルイスは、分身体の肩を叩く。
「この魔法は自分そっくりな分身体を作るってだけの魔法なんだけどね、強さは私の二〇%程度だし、指示された事をする程度の知能しかない。案外使い勝手の悪い魔法なのさ」
付け加えるならば魔力の消費も馬鹿にならない。
実戦で使うには微妙過ぎる魔法なのだが、こういった手加減のいらない訓練では有用だろう。
「君達には、この分身体と戦ってもらう。分身だから手加減もいらないし、何なら殺すつもりでもいい。本気でぶつかってみよう」
ルイスが言い終えると、リリックは笑いながら戦闘態勢に入った。
メイアとフリーシェは困惑したままだが、それにつられるように体に魔力を充填させる。
「君達がここへきてそろそろ一か月ほどになる。戦う術を教えたし、魔法の使い方も教えた。あとは学んだことを実戦で活かす訓練をしよう!」
「でも先生。僕ちゃんと戦えるかなぁ……」
「大丈夫だよフリーシェ、分身体の力はそこらにいる兵士と同じくらいだ。手加減もさせるから安心しなよ」
「う~、怖いなぁ……」
少しだけ青ざめながら肩を落とすフリーシェも、戦闘態勢に入った。
「じゃあ、いくよ!」
ルイスが手を挙げると、三人の生徒達は頬に汗をかく。
その中でもリリックは、笑みを少しだけこぼしていた。
「はじめェ!」
その声が上がった瞬間、分身体は地面を蹴り一瞬でリリックとの距離を縮める。
目で追えない速度ではない。
だがカウンターを打てるほど余裕があるわけでもないリリックは、防御に張った結界ごと分身体の拳に吹き飛ばされた。
「——なっ!?」
驚愕の色を浮かべるリリックは数歩下がって着地する。
一方で分身体は、メイアとフリーシェを目指した。
二人が苦し紛れで放つ魔弾を結界で防ぎ、距離をつめるとフリーシェには腹部への一撃。
メイアには首へのチョップを打ち、二人を気絶させた。
「おいおい、ルイスさん。そこらに居る兵士レベルって嘘だろ」
額に頬をかきながら、リリックは笑う。
だが次の瞬間には両手を前に出し、魔力を先へ充填させた。
「雷刀」
リリックの掌が、稲妻により輝いていた。
そして彼は地面を蹴り、ルイスの分身体へ一直線に距離を詰める。
雷を帯びた手刀。
それは分身体の頬をかすめて地面を割る。
「ほほう……」
思わずルイスはそんな事を呟く。
魔力を帯びた手に電撃魔法を付属させ、それにより手刀や突きの威力を上げる技だろう。
拙い体術ではあるものの、それを補って余りある攻撃力だ。
だが、
カウンターのように繰り出された分身体の蹴りが、リリックの腹を打ち抜いた。
体を貫く衝撃で、リリックは宙に浮いて地面に倒れる。
「だぁークソ! これでも無理か!」
地面に背を付け空を見上げるリリックは、ため息交じりに呟く。
「いいや悪くなかったよリリック。ああいった工夫は必要さ」
「でも倒せなかったら意味ねえだろ?」
「相手が私だからね、並みの相手であればアレも十分驚異になるよ」
地面に寝転がるリリックの傍まで歩き、ルイスは手を差し伸べた。
「ならこれを磨く方が良いか?」
「そうだね、現状ならそれも十分武器になる」
リリックを起き上がらせて、ルイスは分身体を解除した。
あのまま分身体を放置しておけば、魔力を吸い続けられる。
燃費も悪い魔法なのだ。
「ねぇ先生。なんで実践訓練になったの?」
メイアが不思議そうにそんな問いを投げてきた。
生徒達には三要素の基礎や、魔法の使い方を教えてきた。
だがどれも基礎だけだ。
急に実戦式の訓練になれば動揺もするだろう。
「そうだね、まぁ君達には言っておこうかな」
ルイスは生徒達に向かい合い、ニヤリと笑う。
「三か月後、王都で大聖祭が行われる」
王都大聖祭。
この国で指折りの祭りだ。
王国各地に散らばっている貴族や、勇者の内数名がこぞって王都に集まる日。
「大聖祭ってのはね、次世代の勇者を決める戦いさ。四年に一度開かれる大会で、王国に居る二十二歳以下の少年兵、その頂点を決める戦いだよ。ちなみにそれに優勝すれば勇者の選定に対して優先権がもらえるのさ」
「優先権って?」
フリーシェが首をかしげながら問うが、ルイスは微笑みながら話を続ける。
「神造武具ってのは毎回九本しかない。その武具を手に取れるのが一握りの人材であっても、勇者になれるのは九人だけだ。もしフリーシェが神造武具への挑戦権を貰えても、既に九人の勇者が居たらどうやっても勇者になれないでしょ?」
ルイスの世代で優先権を勝ち取った人物は二人いる。
一人はガイリック=ノブゴドロ。
そしてもう一人はジェイク=ラストゥードだ。
彼らはそれぞれ大聖祭で優勝し、神造武具への挑戦、その優先権を手に入れた。
「なるほど~」
「大聖祭は一組四人までで挑戦できる。ちょうど生徒も四人だし、参加させようかなと思ってね。なら実戦経験を積ませておこうと思ったのさ」
フリーシェ、リリック、メイア。
そしてこの場に今は居ないがアイニール。
ルイスはこの四人で大聖祭に参加させるつもりだ。
「ただ王国に居る二十二歳以下の兵士が皆集まって来る。皆強者揃いさ、そんな中で君達が優勝できるよう、これから鍛えていく。あと三か月しかないけどね」
四年に一度しか開かれない祭りである分、それを目指して鍛錬を重ねる人たちも多い。
それにリリックのように十九歳以上であれば、四年に一度しか開かれない大聖祭は最後の大会になる。
そういった者達の意気込みもまた、違った物だろう。
「三か月で強くなれるのか?」
リリックが、フリーシェとメイアを横目に小さく問いを投げてきた。
軍隊経験があるリリックとは違い、二人は実戦経験など皆無と言って問題ない。
人より才能があるとはいっても、経験値に圧倒的な差があればその差は簡単に埋められてしまう。
「まぁそう思うのが当然だろうね。だから君達には相当キツイ訓練をしてもらうよ」
ならば、その経験値を埋めるだけの濃い訓練をすればいい。
ハードルは高いが、それでもやる価値はある。
かつてガイリックにも行った訓練を、今から生徒達にも受けてもらう。
「相当キツイって、どれくらいなの?」
「そうだね、じゃあ訓練の名前を言っちゃおうか」
ルイスは微笑み、そして近くに置いてあった箱から鎖帷子を取りだした。
「訓練の名前は『鬼ごっこ』さ」
××××
「鬼……ごっこ?」
どんな子供でも知っている、原始的な遊び。
鬼役が逃げる人を捕まえるというだけの遊びだ。
「鬼は君達三人、逃げるのは私。私を捕まえるのが、訓練の内容さ」
ルイスが取り出した鎖帷子は、重さ約50キロ。
魔力で身体機能を強化すれば問題のない重さだが、それは裏を返せば身体強化を行わなければ着るには重すぎると言う事だ。
クロードに頼んだ特注品。
「この鎖帷子はね、魔力を帯びた攻撃以外は一切通さないって優れものさ。相当高かったけど、まぁ訓練に使うから仕方がない」
ルイスは三人をつれて、近くの山に来ていた。
標高は五百メートルにも満たない小さな山だが、木々が生い茂りまっすぐ歩くのにも苦労するといった込み具合だ。
「私はこの鎖帷子を着て逃げ回る。君達は私を索敵し、そして魔力を帯びた攻撃を私に当てればクリアだ」
「ルイスさんに攻撃を当てるって、不可能だろ……」
「大丈夫、今回私は体術を使わない。だから50キロの重りを背負ったハンデ有の状態だと考えればいいさ。それでも私は全力で逃げるから、頑張ってね」
大聖祭は最終ステージ以外は基本的にチーム戦で行う。
だから生徒達三人にチームを組ませ、ルイスという強大な敵を捕らえる訓練だ。
山の中を早く移動するためには、体術の繊細なコントロールがいる。
そして魔力を帯びた攻撃以外は鎖帷子が弾くため、魔法にしても剣術にしてもそれ相応の魔力を使わなければならない。
それらの要素を説明しても良いのだが、生徒達には『気付き』を学んでほしい。
だから全てを説明しなかった。
「じゃあ、一分間数えてね。日暮れ――つまり5時間以内に捕まえる事ができれば君達の勝ちだ」
「ルイス先生、僕達が勝ったらなにかご褒美あるのかな?」
「ご褒美か……」
飴と鞭と言う言葉もあることだし、何か報酬があれば生徒達もやる気を出すだろう。
「なら、君達が勝てばとびっきり美味しいケーキを作ってあげる。これでどうだい?」
「ケーキ! ほんと?」
「ああ、本当さ。まぁ勝てればの話だけど」
「フリーシェ、リリック! 気合入れるわよ!」
「お前、また太るぞ」
「うるさいわね! 運動するんだから大丈夫よ!」
ご褒美がある方がやる気が出るらしい。
ルイスは頭の片隅に、それをしっかりとメモしておいた。
「じゃあ私は山の中で隠れるから、一分後にスタートね。ルール確認だけど、捕まえる時は魔法か魔力を帯びた武器か何かで私に触れればそれだけで大丈夫。おわかり?」
「おっけー!」
「先生、早く始めましょ! ケーキ食べたい!」
「まぁそんなに慌てない。じゃあ最初の一分間だけ私は体術を使うから、頑張ってみつけてね」
その言葉を最後に、ルイスは魔力を体内で循環させる。
やがて彼が地面を蹴ると、爆風と共に生徒達の視界から消えた。
「……早くない? 私達、アレを捕まえるの?」
「ルイス先生ってすごいね」
「……ルイスさんが逃げる時は体術は使わないって言ってただろ」
「よくよく考えれば、この広い山の中でルイス先生を探すんでしょ? 無理じゃない?」
「……キツイの意味がやっと分かったな」
各々厳しさを再確認した生徒達は、一分を数えて森の中を走り出した。
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