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第5話:楽しい遠足-Drobná Válka-

今日、わたしたちは遠足でパンツァーパークに来ています。

「自由行動だってー。4人1組よろしか?」

「フッ、これもディ・ユニヴァースがオラクルぞな。よろしい!」

「全然よろしくない!」

ミツキちゃんとクリスティーナちゃんの言葉にアマユキちゃんが声を上げた。

「ていうか、高校生にもなって自由時間がグループ行動ととかありえない! なんでこのメンツなの!?」

「なんでって言われても……その……」

「単純にあまりものだからだよね。よろしか?」

「よろしい!」

「よろしくない!!」

「いやぁ、元気な1年だぜ」

そう言うのは褐色肌でどこかサバサバした雰囲気の先輩。

スズメ先輩の友人でチーム・アイアンガールズ所属の4年生。

「そうだよねぇ、チョミちん!」

「チ・ヨ・ミ!! ノヴァーコヴァー・チヨミ!!!」

「チョミちん!」

チヨミ先輩は諦めたように「はぁ」とため息を吐く。

今回の遠足は1年生と4年生合同。

だから、スズメ先輩たちも一緒だった。

「アイツが噂の問題児か? セイジョー財閥のお嬢様なんだろ……?」

「そうです。ただ、ちょっとプライドが高過ぎるというか……。ナギサちゃんも困ってるのでなんとかできないか相談中なんですよ」

スズメ先輩とチヨミ先輩が小声でそんな話をしている。

「スズメ殿、チョミ殿、行くのである!」

「れっつご〜」

スズメ先輩やチヨミ先輩と同じグループであろう先輩たちが2人に声を掛けたが、チヨミ先輩は動かない。

「チョミちん?」

「ヨシッ、んじゃアタシは別行動させてもらうぜ!」

「別行動ってまさか……」

「まーまー、いーからいーから。ナキリとタマラにはテキトー言っとけな!」

「コスズメ・セッカ、ディ・ユニヴァースがオラクルが降り立った。我らの道を示しているぞ」

「あ、はい。今行きます!」

「セカチューも最近、クリティナの言うことが分かるようになってきたね」

「ええ……あまり嬉しくないですねそれ」

「ほんそれー」

少しスズメ先輩とチヨミ先輩のことが気にかかったけれど、せっかく来たパンツァーパーク、楽しまなきゃ損だ。

「ジェッコーのろー!」

「ミステリアス・ダ・ライド……これぞディ・ユニヴァースが導きである」

「わたし、ジェットコースターとか苦手……セイジョーさんは?」

「ふん、子ども騙しな遊具ね。公園のブランコと何も変わらないわ」

「わぁ、やっぱりセイジョーさんはすごいね」

「…………ふん」

「我がオススメはこのミステリーなキャッスルだ……ふふ」

「今話題の謎解き系アトラクションですね……」

「わぁい、自信なしのつぶて!」

「わたしもです……」

「ふ、ディ・ユニヴァースがオラクルにて何事もスッキリレゾリューションにて」

「……だぁもうイライラするわね! こんな簡単なのもできないの!?」

「わぁ、やっぱりセイジョーさんはすごいね」

「…………ふん」

「わたしは、その、あまり激しいのは苦手なので。まぁ、メリーゴーランドとかでいいかな……」

「リラックスターイム!」

「いざ行かん、我が愛馬フラッシュよ、果てなるディ・ユニヴァースを掴むのだ!」

遊園地を楽しむわたし達に反して、セイジョーさんの表情はどこか浮かない。

「楽しく、ないんですか……?」

「当然じゃない」

セイジョーさんはあっけらかんと言った。

「こんな子どもの遊具――どうせならもっとステラソフィア生らしくて、そして大人な楽しみ方をするべきよ」

「大人って?」

「ああ!」

「ディ・ユニヴァースが意思か?」

「意思意思~!」

「あーもう、煩い!」

「その、セイジョーさんのおすすめの所、連れて行ってくれますか……?」

セイジョーさんに連れられやってきたのはパンツァーパークの外れ。

「ここなにー」

「ふふん、ここは地獄のブートキャンプよ」

「ブートキャンプって……あの、ちょっと、怖いんですけど」

「冗談。ここは装騎に乗って自然を探索できるアトラクションよ。ハイキングやワンダーフォーゲルみたいなもんだと思えばいいわ」

「ハイキング――やがてクイーンとなるべき我に相応しい」

「キング違いじゃん。ほんバカぁ」

わたし達はそれぞれの装騎に乗り込むと、セイジョーさんの先導で覆い茂る深緑の中に脚を踏み入れる。

「いろいろコースが分かれてるんですね……」

「てんちょー、おすすめー」

「私のオススメ? 決まってるじゃない」

セイジョーさんが指を指したのは聳える岩山。

これはどうみても……

「コーリング・ダ・タナトス……嗚呼、ディ・ユニヴァースよ!」

「うーん、ハードコース」

「さ、行くわよ」

「自然を探索するんじゃないんですか……!?」

「アレだって自然よ」

セイジョーさんの地獄のブートキャンプという例えはある意味間違ってはいなかった。

「ほらほら、この程度の悪路で怯むようじゃステラソフィア機甲科の名が泣くわよ!」

「はぁ……はぁっ、さすがに、険しすぎ……ますぅ」

巨大な谷の細道をわたし達の装騎が進む。

「ほんきつこれ~」

「嗚呼、パワーよ。フォースよ。エナジーよ……我が元を去りたもうな……」

「セイジョーさん……その、さすがに、力が…………」

「何言ってるのよ。これくらい序のく――――」

不意にわたしはバランスが取れずふらついた。

その動きに同調するように、わたしの装騎スニーフもバランスを崩しフラつく。

マズい――そう思った時には、

「セカチュー!」

遅かった。

装騎スニーフは足を踏み外すと、そのまま谷へと吸い込まれた。

激しい衝撃がわたしを襲う。

その絶え間なく体を揺らす振動に耐え切れず、わたしの意識は闇に飲まれた。

「ディ・ユニヴァースよ……マイ・フェアリー・プリンセスにユニヴァース……!」

「い、いたたたた…………」

耳障りな声でわたしの意識が引き戻る。

いつの間にか装騎から降ろされ、土の地面に寝かされていた。

「セカチュー? 無事でよろしか?」

「よろしかぁ……」

痛む身体を起き上がらせる。

痛みの割に大事はなさそうだ。

「オールライト! ふ、さすがは我と同じくするプリンセス・オブ・ディ・ユニヴァース」

「一緒にしないで。気色悪い」

クリスティーナちゃんの言ってることはよく分からない。

だけど、どこかアマユキちゃんを褒めているような感じがする。

どうしてなのかイマイチよく分からないわたしにミツキちゃんが言った。

「アマチャがセカチューお助けしたんだよー」

「え……? セイジョーさんが」

「別に……仕方ないでしょ。アナタ、ドンくさいんだから。それに私だけじゃ、どうにもできなかったしね」

セイジョーさんはそう言いながら、チラりとわたしでも、クリスティーナちゃんでも、ミツキちゃんの誰でもない方向へと目を向ける。

視線を辿ったその先に、その人はいた。

「ったく、ビックリしたぜ……ギリギリセーフってね」

「チヨミ先輩!?」

「この人、ずーっと後ろからついてきてたのよ。気付かなかった?」

「全然気づきませんでした……」

「みぎおなー」

「ディ・ユニヴァースがオラクルが降りぬとは……」

そうか、チヨミ先輩が「別行動をする」とか言っていたのはわたし達の後をつける為……。

「って、なんで後をつけて……?」

「えっ、あっ、ま、まぁ、アレだ。かわいい後輩達を眺めてたいなー……的な?」

チヨミ先輩の言葉はちょっとわざとらしいが、嘘とまでは言い切れない感じがする。

もしかして……セイジョーさんを、

「まぁ、いいじゃねえか。それより今はどうやって上まで戻るかだぜ」

セイジョーさんに視線を向けようとするわたしを引き付けるようにチヨミ先輩が声を上げた。

やっぱりこの人は、わたし達というよりもセイジョーさんの後をつけていたのだ。

そのことが分かったからと言って、今の状況が変わるはずなく。

「そうね。まずは装騎に乗りましょう」

「アマチャー、のってどする?」

「サード・パーソン・ビュワー機能で周辺の地形をスキャンするのよ。ヒントくらいわかるはずよ」

「りょかりょかー」

「プリンセス・オブ・ディ・ユニヴァースが名の下に!」

セイジョーさんの提案で周辺をスキャンする。

「セイジョーさん、その、この反応……」

わたしは奇妙な反応がレーダーに映ったのを見た。

「動物……? いいえ、これは人かしら」

探知波によって作り出された疑似俯瞰映像を覗き込みながらセイジョーさんが呟く。

確かにそれは人のようだった。

手足があって、2つの足で歩いて――――ただ、どこか部族のような、奇妙な恰好をしている。

「スタッフさん、でしょうか?」

「はぁ? こんな衣装見たことないわ」

「とりあえず行ってみるしかなさそうだな……行くぜ!」

「い、行くんですか……?」

「仕方ねーだろ。手がかりだ!」

チヨミ先輩に先導され、わたし達はそのスタッフさん……? を探すことにした。

暫く進むと、海のように波打つ草むらへとたどり着いた。

「さっき反応があったのはこの辺りだけれど……」

周囲を見回すが人影はない。

――――と思ったその瞬間、「ペタン」と装騎に何かがぶつかった。

「わっ、みてきたぁ!」

ミツキちゃんが声を上げる。

「な、なんですか!?」

「リトル・ヒューマンズ! ユニヴァース……!」

「てか襲ってきてねーか!?」

チヨミ先輩の言う通り、小人さん達が槍や弓を手にわたし達に襲い掛かって来た!

それも、ものすごい数で!

「ったく、鬱陶しいわね!」

無数に放たれる矢の数々。

その一本一本の先端には粘着性のある餅のようなものがついていて、わたし達の装騎にくっつくくっつく。

「うまそうだなぁ」

「ディ・ユニヴァースがオラクルによると……ヤミーである!」

「バカ言ってるんじゃないわよ。なんとか止められないの!?」

「あ、あの、わたし達は怪しいものじゃありません! ちょっと話を聞いてくださいっ!」

「そーだぜそーだぜ、コレでもアタシら気のいいヤツらなんだ! ほら、差し入れ! 差し入れねーの!?」

「テッテカテー! ひいらぎの村~」

ミツキちゃんの装騎が何かを掲げるように右手を上げると、不意に小人さんからの攻撃が止んだ。

「ヒイラギ? ヒイラギ?」

「ヒイラギのムラ! ヒイラギのムラ!」

「ナカマ! ナカマ!」

どういう訳かわたし達は小人さん達の村へと案内してもらうことになった。

ミツキちゃんが差し出したチョコレート菓子、ひいらぎの村を籠に入れ大切そうに運んでいる。

どうやら、このお菓子のお陰でわたし達を仲間だと思ってくれたようだった。

「よくキてクレマシタ」

そして通されたのはこの小人さん達の村の村長さんの元。

そこでわたし達は今まであったことを話し、村長さんに助けてもらおうと思ったんだけど……。

「ナルホド、ガケのウエ、カエリタイ。ナルホド」

「おたすけオーケー?」

「オタスケオーケー。シカシ、ウエにノボるミチ。イル。ヤツラ」

「ヤツら?」

「ヤツラ、ツプレス族。我らフィルルス族のテキ」

「エネミー?」

「センソウ、シテル。ナガイ……ナガイ、センソウ」

「せ、戦争ですか……なんでまた」

「ワレラ、ヒイラギのムラ、コヨナクアイスル。ヤツラ、ヒノキのハヤシ、アイスル。アイハンスル」

「これはまさか――ッ!」

「ひのき・ひいらぎ戦争だ~」

ひのき・ひいらぎ戦争。

その噂はわたしも耳にしたことがあった。

マルクト共和国でも人気のお菓子、ひのきの林とひいらぎの村。

それぞれ違った味、触感が楽しめることでわたしはどちらも好きなのだが、一部ではどちらがより優良菓子たるかをめぐって対立していると。

でもまさか――こんな小人さん達までひのき・ひいらぎで争っているなんて。

「ワレラ、コレカラハジマる。カッセン、タタカイ、セントウ、オモムク。ナンジラ、チカラをカリたい。イマコソテンカを、ヒイラギのムラに!」

「あー、つまりなんだ。上に戻りたければひいらぎ派に力を貸して、敵の部族をやっつけて欲しいと」

そういうことだろう。

「ナンジラガ、ハガネのキョジン。ソのチカラぞアレバ……」

「うーん、つってもなぁ……」

「まさかのまさか。ひのき派?」

イマイチ乗り気じゃなさそうなチヨミ先輩にミツキちゃんが放った一言。

それで周囲の空気が一気に張り詰めた。

村長さんの眼光が鋭くなり、周りで控える衛兵さんも先端にトリモチのついた槍を持つ手に力を込める。

「いやいやいやいや違うって! そうじゃなくてよ!」

明らかに漂う不穏な空気にチヨミ先輩は慌てた様子で両手をバタバタとさせた。

「いやよ、戦争ってことはやっぱアレだろ? なぁ?」

「あれ……?」

「それはきっと大丈夫よ」

チヨミ先輩の言いたいことがわたしはよくわからなかったが、セイジョーさんは理解したようだ。

「彼らの武器、見ましたでしょう? 弓矢も槍も、餅みたいなものがついてるわ。恐らく殺傷能力はないわね」

「ワレラ、テキ、コロス。ソンなコトはナイ。ソレ、ワレラがホコリ」

「なるほどな。わかった、しゃーねーぜ」

そうか、チヨミ先輩は相手を傷付けるのが嫌だったから少し躊躇するような様子を見せたんだ。

少しガサツで乱暴そうに見えるが、チヨミ先輩の優しさに思わず頬が緩む。

「まっ、ならさくっと戦いを終わらせて皆んなのとこに帰るぞ!」

「は、はい!」

「ぜひなしー」

「ユニヴァース!」

「チカラヅヨイ! ……コレナラ、カテル。カモシレナイ――キイロいアクマに」

そして、戦いが始まった。

「ヒイラギのムラ! イシンにカケテ! フィルルスのホコリにカケテ!」

「ショウリスルはワレラ、ツプレスのモノ! ヒノキのハヤシがカミヨ!」

「ヒーイラーギ!!!!」

「ヒノーキー!!!!」

それぞれの軍団が雄叫びを上げ、餅のついた武器を掲げ、衝突する。

敵味方共に次々と餅にまみれ動かなくなっていく。

「テツジンサマ、オネガイスル!」

「は、はい、行きましょう!」

「――ふん」

「しょちすけー!」

「ユニヴァース!」

「援護だな! 行くぜ!!」

わたし達は機甲装騎の巨体を使い、ツプレス族さんの攻撃を防ぎ、フィルルス族さんの攻撃を助ける。

あまりにも体格差がありすぎて少しツプレス族さんがかわいそうにも思えてくるけど、そうも言ってられない。

「まっ、死人はでねーしな!」

「でもしー、お餅がのどつましちゃったら?」

「オールデッドオールデッド!」

「餅はよく噛んで食えよ!!」

さすがは機甲装騎。

幼稚園児くらいの体型の小人さん達の攻撃なんてものともしない。

ちょっと装甲がベタベタしちゃうけど――まぁ、仕方ないかな。

状況は当然、わたし達の支援するフィルルス族さんが優勢。

その時――突如として戦場がざわめいた。

「アクマ! アクマダ! キイロいアクマキタ!!」

フィルルス族さんの1人が叫び声をあげる。

そして、その動揺が一気に味方に広がって言った。

「黄色い悪魔……?」

瞬間、猛烈なスピードで1人の小人さんがわたし達に向かって駆けてくる。

その小人さんは金髪を振り乱し、槍を片手に物凄い迫力だ。

そう、あの小人さんが、

「黄色い悪魔か! てか……スズメそっくりだなアイツ……こえーんだけど!!」

癖のある髪のてっぺんに半月状のアホ毛を揺らし、確かにスズメ先輩を小人さんにしたような姿をしている。

「ぜたつよー!」

他を圧倒する身体能力で、黄色い悪魔さんはクリスティーナちゃんの装騎プリンセス・オブ・ユニヴァースの身体を駆け上がるとその関節に餅をねじ込んだ。

「ウィークポイント……! ホーリーシット!!」

的確な黄色い悪魔さんの動きに装騎プリンセス・オブ・ユニヴァースの動きが止まる。

「ツギッ」

その次はミツキちゃんの装騎Bムーンへ飛び移り、餅を詰め込んだ。

「ちょこまかちょこまかぁ! ほんこわこのこ!」

「チッ、装騎は逆に不利だぜ! アタシがヤツを止める! 援護しろ後輩ども!」

業を煮やしたチヨミ先輩は装騎から飛び降りると、槍を一本手にして黄色い悪魔に立ち向かう。

「あの小人さん、つ、強いですよ……?」

「コレでもケンカ慣れしてんだ! スズメとも殴り合ったことあるしな!」

どういう経緯でスズメ先輩と殴り合ったのか少し気になるところではあるけど、今はチヨミ先輩の自信に期待するしかない。

「が、がんばってください!」

チヨミ先輩と黄色い悪魔さんが激しい戦いを繰り広げる。

両者とも一歩も譲らないその戦いに、周囲の小人さんたちは誰も手を出さない。

いや、出せない。

「本当、コイツ、スズメそっくりだな! 諦め悪いとこもっ!」

「コウテキシュ――ナカナカ、ヤリマス!」

2人の戦いの余波に巻き込まれ、フィルルス族さんも、ツプレス族さんも次々と餅まみれになっていく。

それでもつかない決着に、当の2人はともかく、周りの小人さん達が疲れ果てていった。

戦いは正直、膠着状態。

「さすそろ、はらへりじゃない?」

ついにミツキちゃんがそんなことを口にする。

「つまりがティータイム……よろしい!」

装騎から降りると呑気に水筒を取り出しお茶を飲み始めるミツキちゃんとクリスティーナちゃんの2人。

「セカチューもアマチャもこいこいー」

「えっと……まぁ、いっか。セイジョーさん!」

「……はいはい」

やがて、戦いに疲れたフィルルス族さんもツプレス族さんもみんな集まり、休憩を始めた。

「なにかおやつがあたらなぁ〜」

「ヒイラギ! ヒイラギ!!」

「ヒノキ! ヒノキ!!」

「ったく、しょうがないわね」

ふと、セイジョーさんが自分の装騎の中から何やら大きな袋を取り出す。

そのパッケージには、ひいらぎの村とひのきの林が描かれていた。

「コレハ? コレハ?」

「ヒノキ、ヒイラギ、イッショ!」

「バラエティパックよ」

「バラエティパック! バラエティパック!」

「ヒノキ、ヒイラギ、ナカマ! ナカマ!」

「何してんだおめーら」

賑やかな雰囲気を感じとってか、チヨミ先輩も黄色い悪魔さんも、わたし達の輪に加わる。

「なんか、チヨミ先輩、その人と仲よさげですね……」

「まーな。矛を交えてわかることもたくさんあるってこった!」

「ソーユーコッター」

「ワレラモ、バラエティパック、ナルベキ。ソオモウ」

「タシカニ。ナガイアラソイ、ダガ、ツカレタ」

「セカイ、コンなモノアル。バラエティパック……」

「バラエティパック! バラエティパック!!」

「アリガトウ、ハガネのカタガタ――ワレラ、キヅイタ。タイセツナコト」

「大切なこと……」

「テヲトリ、ススム。チガイ、ミトメル。ミンナ、イッショ。ソレ、タイセツ」

「ほんそれ! それたいせつ!」

「フッ、そう、総てはディ・ユニヴァースに回帰する。其がプロヴィデンス。オール・イズ・ワン!」

「バラエティパックで争いが終わる、か……」

「やっぱりすごいね、セイジョーさんは!」

「はぁ?」

「セイジョーさんがバラエティパックを持ってきてくれたお陰、ですからね」

「別に……たまたまよ」

口をへの字に曲げながらそっぽを向くセイジョーさん。

そうだ、わたしから彼女を受け入れてあげないと、そうすればきっといつか、セイジョーさんだって。

「ハガネのカタガター、オタッシャ! オタッシャ!」

「おまえもなー!」

「ユニヴァース!」

「また会おうぜ、チビ公!!」

「ありがとうございます! みなさんもお元気でー」

小人さん達に見送られて、わたし達は崖を登りそしてやっとパンツァーパークに戻ってくることができた。

「セッカちゃん! みんな!!」

とても心配していた様子のスズメ先輩がわたし達を迎える。

「もー! 心配したんですよ!? チョミちんがついていながらこんな!」

「うわっ、悪かったって! でもほら、みんな無事だったろ!」

「もう、チョミちん後でお説教!!」

「全く、手のかかる子達ね。クラリカ先生、大変だろうけど頑張ってね」

「は、はい……」

4年生の担任であるサヤカ先生に、わたし達の担任クラリカ先生。

それに――

「あの人、ナギサ先輩?」

わたしの言葉にセイジョーさんが反応するのを感じる。

セイジョーさんとナギサ先輩の視線が交わるより先に、ナギサ先輩は背を向けその場を後にした。

顔はよくみえなかったけど、わたしにはわかった。

「ナギサ先輩、泣きそうな顔、してましたよ」

「……私には、関係ないでしょ」

「今度、ナギサ先輩に、えーっと、お菓子でも買っていきましょう」

「……いやよ」

「わたしも一緒に行きます、から」

「…………しょうがないわね」

こうして、波乱の遠足は幕を下ろした。

あとでわかったことだけど、小人のアトラクションなんてパンツァーパークにはなかった。

それどころか、あの谷も、あの村も、見つけることはできなかった。

でもきっと、小人さん達はどこかで平和に暮らしてるだろう。

「ヒノキ! ヒノキタベル!」

「えーっと、チヨミ先輩……それは?」

「…………ついてきちゃったみたいだな」


挿絵(By みてみん)

ステラソフィアTIPS

「ひのきの林・ひいらぎの村」

ステラソフィア生に人気のチョコレート菓子。

つぶつぶ触感がクセになるひのきの林となめらかチョコがクセになるひいらぎの村。

その好みによって派閥が分かれるほどで、しばし戦争が起きるという。

サエズリ・スズメがひのきの林過激派だということはあまりにも有名。

しかし、最近では両者の歩み寄りを図ろうとひのき・ひいらぎ定例会が定期的に開催されている。


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