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新たなる一歩を踏み出して



ランフォート公爵家令嬢。

そのプライドたるや、自分の事ながら恐ろしい程だ。


理性のタガが外れたように泣きながらも、自室に結界を張る事は忘れない。


泣き明かした翌日であると言うのに、目の腫れはヒール(治癒魔法)で癒し、痕跡の一切を見せない徹底ぶり。


そして何事もなかったかのように登校し、心配していたフィオナちゃんに対し、用意した嘘をスラスラと話して安心させ、令嬢らしい笑みを浮かべる。


もちろんここにミスティやアレクティス様が来ても、完璧な嘘と笑顔で誤魔化せるだろう。


(あれだけ泣きながらも、ちゃんと言い訳を用意するあたり、前世との繋がりを感じるわ。)


治療の痛みも苦しみも、絶対に親には見せなかった前世。

泣いた理由を痛みから本やゲームの感動にすりかえた話しを、両親は笑顔で聞いてくれた。

完璧に誤魔化せていたとは思っていないが、お互いに笑顔の時間が増えたのは間違いないと思ってる。


ちなみに今回の嘘はこうだ。

初めてお会いした公爵家子息のロクレーヌ様に対し、転移魔法後の疲れからきちんとご挨拶出来なかった事を恥じ、自分の不甲斐なさに立ち眩んでしまった。

しかもそれをロクレーヌ様に抱き締められる形で助けていただくという、未婚の淑女にあるまじき失態。

自分に憧れていると言って下さったフィオナさんに顔向け出来ず、逃げる様に転移してしまった。

とまぁ、こんな感じ。


純粋なフィオナちゃんはあっさりと信じてくれた様で、逆に転移魔法を連続使用した私の体調を心配してくれた。


幸い今日の騎士特待クラスは実習が続く為、近付きさへしなければ出くわすことも無い。

会っても誤魔化せるが、会わないに越したことはないのが本音。


そんなわけで、翌日には平穏な日常に戻った。


「ルミリア様、今日は午後から自習ですが、いかが過ごされますか?」


「今日はお祖父様のお手伝いがあるので帰るわ。また明日ね、フィオナさん。」


にっこり微笑み、魔法特待クラスの扉を抜けて…瞬間の転移魔法。


行き先は…












「何が平穏な日常だ〜っ‼︎」


混沌の森 人は誰も立ち入れぬその深部。

久々の討伐なこともあり、濃い瘴気と溢れる上位魔獣を相手に、愛用のエレメンタルソード(Lv.Max)を振り回した。


「恥ずか死ぬ‼︎あんなの絶対恥ずか死ぬ〜っ‼︎」


爆炎を上げた剣が、次々と魔獣達を薙ぎ払う。


「絶対同じ人間とかあり得ないし‼︎なにあれ‼︎人間ですか⁉︎マジですか⁈イケメンにも程がありませんか⁉︎」


振り上げた剣が爆風を起こし、振り下ろした剣先へと電撃が落ちる。


「腕とか胸とか反則だし‼︎綺麗な顔してあの逞しさはなんなの⁉︎罠ですか⁈トラップですか〜っ‼︎」


振り抜いた剣先は真空波で魔獣の群れを跳ね飛ばし、怯んで逃げ出す魔獣を竜巻が巻き上げる。


「こうなったら、絶対アレクティス様より素敵な人を見つけてやるんだから〜っ‼︎」


上空に舞う魔獣達を、無数の水の槍が貫き灰と化す。


「ハァ、ハァ、ハァ…」


地面に転がる無数の魔石。

灰と化した魔獣の核が結晶化したそれは、あらゆる武具を強化、錬成する為の必須アイテムだ。


パチンと指を鳴らせば、風が魔石を集めてくれる。


煌めくほどの美しい魔石達は、混沌の森 深部でしか手に入らない超レアアイテムなのに、特別な喜びはない。


だって、これは憂さ晴らしだ。

平穏な日常に戻った…なんて、ただの見せかけ。

やり場のない想いを、魔獣達へ八つ当たり。

いくら瘴気が生み出す灰の魔獣だとしても、正義のない剣を振るうのは騎士とは言えない。

前世でも、余命を知った私は【ティル・ナ・ローグ】で斬って斬って斬りまくり憂さ晴らししていた。

こんなところまで一緒なのだから、呆れてしまう。


「斬って斬って斬りまくって、人生タイムアップでゲームオーバー…。そう言えば【ティル・ナ・ローグ】のストーリースキップばっかりしてて、全然見てなかったなぁ…」


【ティル・ナ・ローグ】は有名な乙女ゲームの会社が製作した、本格派アクションファンタジーRPG。

CMで見たド派手で痛快なアクション演出に惹かれて買ってもらったけど、製作会社はストーリーに定評があった。

きっとまともにプレイしていれば、もっとずっと面白かったに違いない。


「確か魔王とか、四天王とかいたはず…。でもこの世界でそんな話し聞いたことないな…」


二つのゲームが混ざってるせいなのか、【フェア恋】要素が強いからなのか、そもそも混沌の森から発生する瘴気はなんなのか…フェリス王国建国史にも書かれていなかった。

フェリス国に点々と存在する混沌の森の存在自体が、そもそも【ティル・ナ・ローグ】とも【フェア恋】とも違う。


フェリス国の優秀な軍や討伐隊の存在のおかげで、人的被害はほとんどないが、魔獣は人を襲う化け物だ。

【ティル・ナ・ローグ】のように、クリアしたら世界が平和になるというなら、今生こそクリアしたい。


「…それいいかも。いっそ勇者にでもなって、混沌の森全部攻略しちゃう?ゲート潰して回ればいいんでしょ?…ゲートなんて見たことないけど。」


最深部に行くのは20歳になってから。と、お祖父様と約束したからまだ行った事はないが、きっと最深部にゲートはあるのだろう。

ゲームではゲートを潰せば、混沌の森はただの森に戻っていた。


「それで救国の勇者にでもなっちゃう?あははっ、…はぁ〜…」


違う。

私がなりたいのは勇者じゃない。


コロンと魔石が一つ転げ落ちる。

虹のように輝くそれは、前世の私が見たら踊り出していただろう、超超超レアアイテムだ。


「普通の女の子なら…良かったのに。」


健康でありさえすれば、それで良かったのだ。

貴族の義務など考えず、前世の記憶などなく、こんなチート級の力を持っていなかったら…


「ハァ…贅沢言ってちゃダメよね。」


病に苦しんだ18年間、欲してやまなかった健康な身体を手に入れた。

大好きだったキャラクター達に会えて、憧れた世界で生きられるなんて夢のよう。


そう、これ以上望むのは贅沢過ぎるのだ。


公爵家令嬢の地位、最強と称される力、誰もが欲するものを、私は与えられている。

愛情深い家族に囲まれて育った今生に、不満を漏らすなどあってはならない。


「ふふっ、バカね、私。せっかく生まれ変わったんだから、幸せにならなきゃ損よ。」


アレクティス・ロクレーヌ様を愛していたのは前世の私。

ゲームの中で擬似恋愛を繰り返し、錯覚した恋心。

彼が囁いた愛の言葉は、私ではなくヒロインに向けられたもの。

今の私は彼とは初対面なのだ。

そう、ルミリア・ランフォートは、アレクティス・ロクレーヌを好きなわけじゃない。


「私はルミリア・ランフォート。そしてルミア・グリフィス。私は私の生き方と幸せを探すの。」


虹色の魔石を握り締め、少し晴々とした気分になった。


「虹だけに、気分が晴れる効果付与でもあるのかしらね。」


魔石にクリエイト(創造魔法)をかけて、ネックレスを作る。

デザインは【フェア恋】の公式グッズのネックレスを参考にした。

ちなみに公式のネックレスは、各キャラクターのイメージカラーの石がトップに揺れる仕様だった。


「いつか私も…虹色がイメージカラーの誰かと出会えるかしら。」


キラキラと光る魔石が問いかけに輝きで応えてくれたようで、思わず微笑んでしまう。


「さぁ、もうひと頑張り討伐するわよ!ルミアの謹慎が明けたら忙しくなるわ!」


瘴気の気配を察知して転移した先には、闇にひしめく無数の魔獣が紅い瞳をギラつかせている。


「たったこれだけじゃ、777コンボは無理そうだな。」


構えた剣に、先程までの迷いはない。

今はルミア・グリフィスとして誇りを持った剣が、フェリス王国に害なす魔獣を一閃する。










「おい!ルミア‼︎久しぶりに討伐出るって聞いたから用意してたのに、なんで1人で行っちまうんだよ!しかも深部とか、追いかけらんねぇだろ⁈」


「悪かったよ。お詫びに、ほら、お土産。」


「なんだよ、このデッケェ皮袋…はぁっ⁉︎」


「討伐隊の武器錬成に役立ててくれ。じゃ、また来るよ。」


あっという間に転移で消えた友人を、カーライルはガシガシと頭を掻きながら見送った。


「この数を1人で討伐って…チート過ぎにも程があるだろ…」


皮袋から溢れ出た魔石が机に広がる。


「こ、この純度…あいつどんだけ深部に入ったんだよ!」


長い付き合いになるが、毎回友人のチートぶりには驚かされる。


しかし…


伊達に七年もの時間を共有してきたわけじゃない。


「…俺もレベルアップしてみるかな。」


重たい皮袋を担ぎながら、カーライルはどこかスッキリとした笑みを浮かべた。









4/7










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