第五話 MONOTONE LOVE
運命的な月曜日以来しろの心はざわめきっぱなしだった。
くろの姿が目に入るだけで心臓が跳ね、顔が紅潮し、直視できないほどに。
だが当のくろは当然だが何事もなく普段通りに接してくるわけで、それがしろの胸を高鳴らせる。
いつも通りゲームをしていてもくろの言葉が今まで以上に気になるようにもなっていた。
ある日のこと…
「じゃあ、今日はこのゲームで対戦しよ!」
「『シガイセン』…? 市街戦か…聞いたことない格闘ゲームね。よくこんなゲーム見つけてくるわね」
「負けたら次は一ヶ月裸足登校ね♪」
「嫌よ! 一週間でも恥ずかしかったのに! 絶対勝つ!」
絶対勝つと言いつつ負ける前提のくろ。そして当然の如く劣勢になるのだがここでこのゲーム独自のギミックが発動した。
太陽光線がしろのキャラクターに降り注ぎみるみる日焼けしていく。
「わあ! 太陽の紫外線のダメージが!」
「シガイセンってそっち⁉︎」
くろはダジャレ的なタイトルとギミックに驚きつつも、紫外線により行動不能になっているしろのキャラクターを追い込んでいく。
「よーし! 隙あり!」
「ええ⁉︎ す…すす…好き!?!?」
「そうよ! この隙に攻撃を叩き込んで…!」
「あ…ああ! すき…隙か…!」
『隙』と『好き』を勘違いし勝手にドギマギするしろ。コントローラーを握る手が変な汗により滑る。
そして勝利を確信したくろの一言。
「負けたー! なんで⁉︎」
「はい! 靴下没収♪」
圧倒的有利から逆転され、コロンと転がされいつも通りの見慣れた光景が繰り広げられた。
その後も最新ゲーム『農業サバイバル』で協力してゾンビを倒したり、いもち菌と戦ったり、『鋤』と『好き』を間違えたり…
そんなことがありつつ、本日もしろとくろは二人一緒の帰り道。
隣で歩くしろの顔が赤くなっていることに気付き、くろは心配そうに覗き込む。
「あんた、熱あるんじゃない? 風邪?」
「ううん! 違う! 大丈夫!」
原因はあなただよとも言えず手と首をブンブンと振って自分を落ち着かせようとするしろ。
「本当? どれどれ…」
二人は立ち止まりくろがしろを自身の方へと向かせると、彼女の前髪を右手で上げておでことおでこをくっつけ熱をみる。
くろの吐息がしろの口元にかかる。しろはキュッと唇を結び耐え忍ぶが、体温がさらに上昇し鼻息も荒くなりおでこも当然熱くなる。
「うーん…やっぱり熱っぽいわね…今日はお邪魔するの遠慮しておくわ」
「いや! 本当に大丈夫! そ…そう! 本当に心配ならうちに来て一緒にいて! その方があたしも安心出来るからっ!」
「…そう…? じゃあまあ少し様子を見るためにも一緒に居るわ」
安心したようにほっと息を吐くしろには、どうしてもくろに来て欲しい理由があった。
「すき」と言う言葉に反応してドキドキしてしまう自分。
じゃあ、本当の意味の「好き」と言ってもらうにはどうすればいいか…考えを巡らせたしろは妙案を思い付いていたのだ。
「…と言うわけで、今日はこのゲームを攻略して♪」
「えーっと…? 『どっきどき♡モノトーンラヴ⭐︎』…? 恋愛シミュレーションね」
そう、しろの妙案とは恋愛シミュレーションを攻略し、告白時に出てくるであろうキャラクターの「好き」というセリフをくろに読んでもらい幸せになっちゃおう作戦であった。
しかもこのゲームの攻略対象の中の一人の名前には…
「ほら! 彼女候補の中に『くろ』ってキャラクターがいるでしょ⁉︎ もうこれはくろちゃんにやってもらうしかないって思って! だからゲーム内の『くろちゃん』のセリフはくろちゃんが読んでね!」
「私がプレイしたら自分に告白するみたいになるじゃない。あんたが遊ぶか他のキャラクターを攻略した方がいいんじゃない?」
「大丈夫! 主人公の名前を『しろ』にすれば! そのセリフはあたしが読むね」
「まあいいか。それにしてもこれひと昔前のゲームだけど聞いたことないタイトルだわ…」
パッケージを手に持ち表裏交互に見ながらそこに載っているチープなゲーム画面、そして売れなさそうなタイトルに苦笑いを浮かべるくろ。
「えー? でも調べたら『出荷本数300万本の超人気作!』って出たよ? ほら」
しろが調べたと言うスマホの画面を見ると、確かにそのように記載されてはいるのだがその横に、
(総売上本数4139本)
と、小さく書かれていることをくろは見逃さなかった。
「…いや…超爆死作じゃないのそれ…」
しかしほとんど世に出回らなかったゲームという事で興味が湧いてきたくろ。
早速起動して主人公の名前を『しろ』でプレイを開始した。
好感度を稼ぎフラグを立て、これはよくあるシステムだ。
しかしこのゲーム独自のシステムが難点であった。
「このゲーム…色がないんだけど…?」
そう、タイトルの通りゲーム画面が全てモノトーンなのだ。
ヒロインとの交流で好感度の変化があると色付きのフラッシュが表示されるという斬新すぎるゲームシステム。
好印象ならピンク、悪印象なら水色と攻略するにはわかりやすい(かもしれない)が、やはり色が無いのは寂しものだ。
さらにセリフ回しも独特すぎた。
しろ『本日はくろさんを公園デートに誘ってみた』
くろ『しろくん、私ベンチに座りたいわ』
しろ『そうだねくろさん。一緒ベンチを探そう』
しろ・くろ『ははは、うふふ、ベンチ探しは楽しいなあ!』
「……………」
くろは絶句した。そりゃあこれじゃあ超爆死するはずだと。
「ねえしろ…このゲーム…」
「すごいね! 恋愛ゲームって初めてだけど面白いんだね! ⭐︎5付けちゃう! 違うのも買ってやってみようかなあ?」
くろは圧倒的高評価を付けるしろに驚愕しつつも、これが基準になるならこの後プレイする全ての恋愛ゲームがしろの中では神ゲーへと変貌するであろう事を考えると、それはそれで良いかと喉まで出かかっていた「クソゲー」という言葉をごくりと呑み込んだ。
そしてセーブ、ロードも駆使しながら好感度を上げていき、ゲームを進めてとうとう最終局面。告白する所までやってきた。
「やっとここまできたわ…」
一仕事終えたように一息つくくろに、
「いよいよだね! ゲームなのにドキドキしてきた!」
期待に胸を膨らませるしろ。
そしてその時が来た。
しろ『よし、本日はくろさんに告白をする日だ!』
くろ『しろくん、私をここに呼んで何かご用?』
しろ『くろさん! 僕はあなたのことが好きです!』
(ひゃー! 言っちゃった! あたしくろちゃんに「好き」って言っちゃったぁ!)
ドキドキワクワク大興奮で体を揺らすしろに対して、その横ではくろが冷めた目で微動だにせず無感情でゲーム画面を見つめていた。
そしてしばらくの間二人も、ゲーム内のキャラクターも沈黙の後、
くろ『ごめんなさい。私はあなたと付き合えません。友達でいてください』
しろ「『そんなぁ!』」
キャラクターのセリフを読むしろの声に本人の感情が思い切り乗り迫真の演技となった。
画面には『あなたはフラれました』の文字が中央にデカデカと表示されボタン入力も受け付けなくなった。まさにクソゲーである。
しかしくろは疑問顔。フラグ立ても好感度上げも完璧だったはずだった。
そしてくろは確信を持って言った。
「これはバグね。いくら好感度を上げても告白失敗しちゃうのよきっと。そりゃ売れないはずよ。この時代ならオンラインアップデートもなかっただろうし」
「フラれた…くろちゃんにフラれちゃった…ふら…」
「お〜いしろ? 聞いてる〜」
放心状態のしろの顔の前に手振って聞くくろを、少し涙目のしろがコロンと転がし、
「よくわかんないけど告白失敗したから没収!」
「理不尽!」
結局今日も靴下を取られるくろなのであった。
その後フラれたショックで落ち込み部屋の隅っこで壁に向かい膝を抱えるしろに、ゲームを消してくろが近づいてきた。
「どうしたのよしろ。何いじけてるの?」
「あたし…くろちゃんにフラれちゃった…」
「何言ってるの。ゲームの話でしょ」
「……………」
呆れたように言いながらしろの後ろに座ると、「ふふ」と微笑んでしろの体を優しく自分の方へと引き寄せる。しろの頭がくろの胸元に乗り見上げる状態になった。
「まあ純粋なあんたらしいわね」しろの頬に流れていた涙を指で拭うくろ。
「…ゲームでもショック…」伏し目がちで呟き、「ねえ…くろちゃん…あたしのこと嫌い…?」
しろの問いに大きく、ものすごく大きくため息をついてくろは、
「バカね。嫌いなら靴下奪うこの小悪魔と一緒に学校行って、一緒に帰って、毎日一緒にゲームなんてするわけないでしょ」
しろの両頬を軽くムニムニとつねりながら笑顔で答えた。
そんなくろの顔を見上げながらしろは口がぽっかり開いたり、唇を結んで目を逸らしたり、顔を真っ赤にしたり…
そして…
「くろちゃん! 好き〜っ!」
しろはくろに飛びつき、抱きついて、押し倒して自然と「好き」が口から飛び出した。
そうなると当然スポーンと音が聞こえてくる。しかし靴下はすでにしろの手にある。その音の正体は…
「ちょ…それスカート! きゃああ! 制服まで脱がすなあ〜!」
真っ赤な顔で必死に抵抗するくろ。
結局どうあっても何かしらを脱がされる運命のくろなのだった。




