時計
「うー、寒ぅ」
私は着替えもせずに炬燵に潜り込む。しかし、ついさっき電気をつけたばかりなのだろう。ファンの音は聞こえるが、まだ暖まっていない。
「なんでもっと早くつけてくれなかったの!」
と、ファミコンの電源に手を伸ばしている弟に言うと、
「俺だってさっき帰ってきたばかりなんだよ!」
この頃、口答えを覚えた弟は文句を返してきた。ここで私に擦り付けないだけ、まだかわいい方ではある。
ふと、見上げると時計が何時間も前に止まっていることに気づいた。「はぁ」と、大きなため息を一つつき立ち上がる。今だけは炬燵がまだ暖かくなってなくて良かったと思った。温もりだしたら立ち上がることさえ出来なかったことだろう。
近くの椅子を持って時計の前に置き、時計と目線を合わせる。蓋を開け、振り子の横の鉤を取り、ゼンマイを回す。ギギッギギッと音を立てゼンマイが締まる感覚が手に伝わる。少し重く感じ、もう片方も回し始める。ギギッギギッ……、止めなくていいのにいつの間にか息を止めていたらしく、回し終えた時、「はぁ」と、大きく息を吐きだしていた。長針に指をかけ、ぐるぐると回す。だいたいの所で止め、
「今何時?」
と、弟に声をかけると、
「5時半ぐらい!ってか、そこに目覚まし時計あるじゃん!」
と、一言多く返してくる。
「正確な時間!」
と、時報を聞くように促すと、弟は「はぁ」と、ため息をつきながら電話の前まで行き、ダイヤルに指をかける。
「何番だっけ!」「117!」と、短いやり取りの後、ダイヤルを回す音が聞こえてくる。
少しして、「午後5時36分!もうすぐ37分!」「37分になったら教えて!」と、やり取りをして、長針を合わせて振り子を持ち上げる。「なったよ!」の声に合わせて振り子を離すと、コッコッコッコッと、小気味よいリズムで振り子が鳴る。奥で弟が受話器を戻す音が聞こえた。




