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聖女召喚に応じて参上しました男子高校生です。  作者: 谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】受賞


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また会う日まで

 最後は、カインのところ。

 執務室のドアをノックして、中に入る。俺の姿を見ると、カインは仕事の手を止めて、俺と向き直った。


「ハルトか。体はもう大丈夫か?」

「ああ、全然元気だよ。帰る前に復活できて良かった」

「そうか。もう明日か」

「そ。だから挨拶回りにね」


 笑顔の俺に対して、カインは寂しそうに微笑んだ。


「……寂しくなるな」

「なんだよ、笑顔で送り出してくれよ、王子様」

「それもそうだな。覚えているのは、笑顔がいい」


 言葉に合わせて、少し無理したように、カインは明るい笑みを作った。


「前にも言ったが、ハルトが聖女で良かった」

「……それは」

「変わらない。君がしてくれたことも。君の在り方も。ハルトがいてくれたことで、俺は救われたよ。だから言わせてくれ。この世界に来てくれて、ありがとう。ハルト」

「……俺も、この世界にこれて、良かったよ」


 最初は、面倒なことになったと思った。異世界なんて、冗談じゃないと思ってた。

 でも。俺はここで、たくさんの人に出会って、たくさんのものを貰ったから。

 今では来て良かったと、心から思ってる。


「ありがとう、カイン!」

「こちらこそ」


 最大級の笑顔で、固く握手を交わした。


 あらかた挨拶も終わったか、と思いながら廊下を歩いていると、重そうな本を抱えたミシェルと会った。


「重そうだな、持つよ」

「ハルト様。ありがとうございます」


 にこりと微笑んだミシェルの手から、本を半分受け取る。

 最初に会えなかったしちょうど良かった、と俺は並んで書庫までの道を歩き出した。


「今日中に会えて良かった。俺明日帰るから、挨拶回りしててさ」

「ああ、明日でしたね、送還の儀は」

「そうそう。ミシェルにも世話になったからさ、お礼言っておきたくて。ありがとうな。物わかりの悪い俺に、勉強とか色々教えてくれてさ」

「いえ、とんでもないです。ハルト様の世界のお話を聞けたのも、とても楽しかったですよ」


 うーん女神の微笑み。この世界で一番美人だと思ったのは、結局ミシェルから更新されなかった。

 向こうでこの顔よりきれいな女の人見つけられるかな、俺。


「明日は晴れるといいですね。ピクニックの時に作っていた、あの……てるてる坊主、ですか? あれは吊るしましたか?」

「へ? いや、別に作ってないけど……。ミシェルも天気気にするんだな。けど送還は室内だろ? 召喚も聖堂だったし」


 俺の言葉に、ミシェルはきょとんとした後、急に焦り出した。


「ハルト様、まさか、ご存じないんですか?」

「何が?」

「すみません、てっきり知っているものだと! まさか誰も言っていないとは」

「え? え? なに?」


 混乱する俺に、ミシェルは咳払いをした。


「あのですね。送還には、国の地脈を流れる魔力の流れと、星の巡り。その両方の条件が揃わないといけないんです」

「そういやアルベールがそんなこと言ってたな。それが揃うのが明日なんだろ?」

「星の巡りは、天体の力が地上に影響を及ぼす状態……つまり、晴天でなければならないんです」


 俺は目が点になった。ぱーどぅん?


「え……え? それって、じゃ、まさか、雨が降ったら」

「……雨天中止、ですね」


 俺は顎が外れそうなほどに口を開けた。

 ピクニックか!!


「ふざっけんな!! そんなことある!?」

「申し訳ありません……説明不足でした……」

「ミシェルが謝ることじゃないけど! ないけど! 教えてくれてありがとな!!」


 叫ぶ俺に、ミシェルは困ったように眉を下げていた。ごめんな、損な役回りさせて。

 けど、叫んでしまう気持ちもわかってほしい。

 いくらなんでも、一年待って、それはなくね!?


 その晩、俺は無心でてるてる坊主を作りまくっていた。




 そして迎えた、送還の日。

 

「………………」


 俺は、死んだ魚の目で窓の外を眺めていた。


「降ってしまったか」

「降ってしまいましたね」

「降っちゃったなぁ」



 カイン、アルベール、アーサーの三人は、一応は聖堂に集まってくれたものの、儀式は行えそうになかった。ちなみにラウルは朝からずっといる。


「……これ、今日中にやめば、ワンチャンある?」

「この感じだと、明日まで雨だと思いますよ」

「残念だなー」


 そんな「遠足中止になっちゃったね」みたいなノリある!? 一大事じゃね!?

 誰も真剣に悲しんでくれないので、俺はラウルに泣きついた。


「ラウルー!!」

「はいはい、残念でしたね」

「思ってなさそう!!」

「思ってませんから」


 え、と思ってラウルを見上げる。

 ラウルは何も言わずに、ただ笑みを浮かべていた。

 え。なに。怖。


「魔王の呪いかもな」

「いくら魔王でも、天候を操るのは無理だと思いますよ」


 アーサーとアルベールのやり取りに、ぞわっと寒気がした。

 あいつならそれくらいやりそうな気がする。

 結局ダリアンとは、最後の挨拶を交わすこともなかったし。いったい今、どうしているのやら。

 何にせよ。


「結局俺、また一年帰れないのか……」

「まぁ、また来年チャレンジすればいいじゃないですか」

「オレはまたハルトといられて嬉しいぞ!」

「一年くらい、すぐですよ」

「安心しろ。ハルトの生活は、引き続き俺が保障する」


 べそをかく俺に、皆が次々に励ましの言葉をくれる。

 あーーーーもう。


「また一年、よろしくな!!」


 半ばヤケになって、俺は大声で叫んだ。

 まだまだ異世界で聖女、やったるぜ!

最後まで読んでいただきありがとうございます。もし気に入っていただけましたら、是非★評価いただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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