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デスターン  作者: 春川立木
77/79

73話 エル達の日々

宝くじ、試しに買うも、擦りせず

くそぅ……

「ロンさーん! ゴブリンってどこ採取すればいいー!?」

「爪か耳ですね、まぁ、一般的には右耳で揃えます」


エスタ領土の南部地方、使われなくなった廃坑で、俺らは冒険者協会の依頼をこなし終えていた。


「なんでまた右耳で揃えるです?」

「左耳が混ざると右耳合わせて二個で一匹換算にされてしまいます。爪も同様人差し指や中指の違いが難しいので、右耳か、左耳で揃えます」

「なるほどね」


流石はロンさんだ。

ゴールドランクは伊達じゃない。


「おおよそ50体でしたか、まずまずの数ですね」

「ゴブリンは半年で100体繁殖するんでしたよね」


廃坑に来る途中、ロンさんの雑学講義で学んだクルトが確認する。

ゴブリンは他の生物とも繁殖を行える特異な生殖体を持っている。

ゴブリン自体メスの個体は珍しく、ほとんどがオスの遺伝子ばかり、そのせいで村の家畜や他の魔物のメスたちを四肢をもぎ、拠点に連れて帰る習性を持っている。

それは人間にも適用され、近くの村は滅ぶ運命。


「一年ぐらいで250体にも膨れ上がって、家畜達や魔物達、魔獣じゃ足りなくなって人を襲うようになります」


だからその前の駆除。

50体は少ない方であり、駆除をするのに適正の数である。


「アマチュアには厳しいので、シルバーランク以上しか受けられないのですが、報酬は多いですよ」

「50体で聖貨10枚か……ちょっとした小金持ちだな」


今日のご飯は期待ができそうだ。


「これで最後」


ゴブリンの右耳を剥ぎ取り、袋に詰める。


「エル君、このゴブリン達を燃やすので、外に持っていってください」

「え? 燃やすんですか?」

「燃やさないと腐敗臭で別の魔獣が寄ってくるでしょ?」








廃坑の外で山積みにされたゴブリンが炭になっていく。


「なんか腹減ってきたな」

「ね、魔物だけど焼くと美味しそうな匂いがするよ」

「魔物は食べない方がいいですよ。変な病気になりやすい」


前にクルトに教えてもらったな。

魔獣と魔物の違い。


「魔物は知能が人間の子供並みにあり、人間じゃあ太刀打ちできない菌を持ってて、魔獣の知能は家畜並みだが、食えるだっけ?」

「よく知ってますね」


そりゃぁ、延々とクルトに教えられたんでね。


「魔物は言葉で魔物同士コミュニケーションをとるんだよ。だからすぐに繁殖して群れる」

「これが食えたら食料には困んねーのにな」

「一応、これで依頼は達成です。私はこのまま協会で報酬を貰ってきますが、お二人はどうしますか?」


元々1人で受けようとしていた案件だったため、俺らはただの付き添いだ。

協会には用事なんてないし、討伐の確認と金を貰うだけだ。


「じゃぁ、お願いします。俺は燃え尽きるの待ってからエスタ城に少し寄って、帰ります」

「僕もエルの付き添いで」


右耳の入った布袋をロンさんに渡し、その場で座り込む。


「わかりました。後はお願いします」


ロンさんは笑顔で答え、袋を受け取り、踵を返す。








エスタ城、3階。


「じゃぁ、フードを下ろしてくれ」

「はい」


シギョウは頷いて右手でフードを脱ぐ。


「いくぞ」


俺はここ最近、こうやってシギョウの呪いの使い方のサポートをしている。


彼自身、俺にやってもらった方が気が楽らしいし、そもそも呪いのことを知ってる奴は少ない。


そしてこれは持論だが、この世界のこの時代の奴らより、元の世界の知識を持った俺の方が情報量が多い。


つまり、適任って奴だ。


頭の中で昔の記憶を思い返す。

前世で俺がどこに生まれて、どこで育ち、どんな教育を受け、どんな奴らと友達だったか、そして死んでこの世界に来て、どんなことをやってきたのか。


「うっ、……くっ!」

「まだまだいくぞ!」

「は、はい……」


最初の頃は10秒も持たなかったが、最近では30分も覗けるようになってきた。


「まだ……いける……!」

「よし! その調子だ!」


だが、最近になってこれ以上の未使用の記憶が無くなってきている。


そもそも俺だってそんなに情報量が多いわけではない。

もっといろんなことを知ってる博識な人に頼みたい。


博識な奴って言うと、博士なのかな?

それとも世間を渡り歩いた記者とか?


記者なら1人知ってるな。

ここにいるかはわからんが。

今度あったら頼んでみよう。


「はぁ、はぁ、はぁ、」

「お、ここまでか?」

「は、はい」


時間にして1時間ちょっと、この間に比べれば圧倒的に伸びしろだ。


「すげーな、お前! どんどん伸びてるぞ!!」

「へへっ、兄貴のおかげです」


フードを被り、ニヤける。


「その兄貴やめろよ。俺ら同世代だぜ?」

「いや、兄貴は兄貴です。兄貴のおかげで目が覚めましたし、それに前世含めれば歳上じゃないですか」

「まぁ、そうなるな」


そう言われても正直な話、兄貴は俺には合わない呼び名だ。

現に前世は末っ子だし、今世は一人っ子。


「あれ? クルト達は?」

「多分訓練所では?」


またかよ……。

最近付き添いで来たと思ったら、すぐ魔術。

ミーガバードでロンさんから魔術禁止令が出てるからガス抜きするって言っても限度があるだろ。


「じゃぁ、俺らもそっち行くか」

「はい」

「……その前に、食堂で甘いもん食おうぜ」


シギョウの顔色が少し悪い。

脳をフルに使いまくったから糖分を摂取しよう。

俺も疲れたし。







「いやぁ、流石はクルト様! 魔術の使うタイミングが素晴らしいです」

「へへへ、それほどでも」

「師匠はすごいの! 天才なの!」

「我々も早く無詠唱で魔術を使いたいですね」

「えぇ、出来るようになれば、前衛でも戦える」


魔導隊の訓練所では僕指導、魔導士達の訓練を手伝っていた。


「クルト様。少しお見せしてもよろしいでしょうか?」


そう声をかけたのは、魔導隊、一番隊隊長のビュル。


「ビュルさん。どうしたんですか?」

「見ててもらった方が早いです」


そう言ってビュルは杖を掲げ、魔力を込める。


無詠唱。

溜めた魔力が水の塊に変わり、勢いよく的にぶつかる。


「おお! ビュル隊長!! 無詠唱で!!」

「はい。つい昨日、訓練中にできました」


他の隊員達が歓声を上げる。


「やっぱり、ビュルさんが一番でしたか」

「? 師匠はわかってたの?」

「うん。僕やミルナは髪の色が魔素の色彩に似てるから、憶測だけど魔力の質に依存するんだと思うんだ。ほら、ビュルさんも濃い青色でしょ?」


魔導隊の隊員達は皆、魔力の質は高い。

確率は上がってるはずだと、僕は思っていたからこそ無詠唱を教えていた。


「その年でそこまで研究しているなんて、素晴らしいですね」


多分この憶測はあっている。

それぐらい自信はある。

だけど、その根拠は確定できないほど不可解な存在がいる。


耳たぶを触りながら、思考を始める。


「おっす! クルト! 終わったぞー」

「あ、エル! お疲れ様」


来た、僕が悩んでる原因の人間……。


クッキーを貪りながらエルとシギョウがやってくる。


「シギョウ様! エル様! お久しぶりです!」

「……久しぶり? あ、久しぶりです」


誰だっけこの人……。


「エル、去年の収穫祭の事件の時にミーガバードに来た衛兵の1人だよ」

「ほう。忘れたな」


小声で教えてもらったが、全く覚えがないようだ。


「今回は何分だった?」

「おう! なんと1時間もいけたぞ」


1時間も……!

すごい!!


「やったぁ!」


手を叩いて嬉しそうに声を上げる。


「この調子で行けば半日も行けるんじゃない?」

「あー、それがな……」

「ん?」


エルは言いづらそうに頭を掻く。


「俺の思考の限界がきてるんだよ」

「……あー、なるほどね」


確かにここ最近、エルばかりがやってた。

これ以上やってても、同じ記憶や思考ばかりで難易度が落ちるだけ。


「なら僕含めた複数もためしてみようか?」

「確かに……それはありだな」

「あたしもやるの」


ミルナも手を上げる。


「そうだな。3人複数……行けるか? シギョウ」

「やってます! 兄貴!」


返事のいいシギョウは両拳を前に出して声を上げる。


「呪いも耐性がつけられるか……それよりもシギョウがそのローブを着ると変化がないよね」


初めて着せた時は気づかなかった。

でも最近になって気になってはいた。


「俺らが着ると目視できないはずなのにな」


マーフィーのローブは一度対象が着れば目視できないものになるが、一度外して対象者以外が目視し、再び着ると目視はできないが存在は確認できる。

 

だが、シギョウが来てもただのローブと同様に目視できる。

なのに、シギョウの呪いは発動していない。


「やっぱり、呪いの相殺が濃厚だよね……」

「相殺って、ローブの能力も無くなってるってことか?」


頷きながら考える。

元々相殺って説は初めからあった。

と言うより、相殺させて呪いの発動をさせないようにしてたから。

でも、やっぱりおかしい。


「目視で見なくちゃ発動しない能力を目視ができなくなる能力で消すだと、矛盾は生まれない。初めは矛盾だと決め付けてたけど、よくよく考えれば無理があるんだ」

「……あー、確かにローブで目視できないから呪いが発動できないだもんな」

「でも、ローブでも目視可能で、呪いの発動もしないになってる。何かを見落としてる気がするんだ」


僕の悪い癖だ。

耳たぶを触り、すぐ考察を始める。

前世もそれでトシヒデに小言言われたっけ。


「まぁ、気にすんなよ。解決してんだから」

「……う、うん」


エルに肩を叩かれ、思考を止める。


「にしても、広い部屋だな」

「そうなの。ここは魔術でも壊れない作りなの」

「はい。我々魔術師団の訓練所ですので、たまにクルト様がご指導に来てくださいます」


まぁ、本当は僕が魔術を使いたいからなんだけど……。


「指導って言っても、無詠唱を見せるぐらいだけどね」

「何をおっしゃいますか。クルト様が無詠唱と言う魔術の可能性を教えていただいたお陰で、魔術そのものの解釈が広がったんですよ」

「て、照れるね」


恥ずかしくなって、頭を掻いてるとミルナが質問する。


「魔術の解釈って理解力とは違うの?」


お、いい質問じゃないですか。


「魔術の解釈はね、簡単な話縛りを作ることなんだよ」

「縛り? 俺は左手だけで戦ってやるよみたいなやつか?」


エルにしては的を捉えてる。


「例えばロックマグナムって魔術、これは尖った岩を一つ生み出す魔術。これを一回の詠唱で二つ三つ生み出すこと。つまりは魔術の改変だよ」

「出来んのか? そんなこと」


今日はエルがいつも以上に興味を持ってくれている。

雨が降りそうだ。


「普通は出来ないよ。魔術は詠唱をするとその魔術が発動する。これは絶対的なルールで常識なんだ」

「じゃぁどうするの」

「そこで縛りだよ。エルが言ってた自分を不利に持っていく方法。そうだなぁ、あえて近距離に持ち込むとか、詠唱を少し長くするとか、魔力の消費量を増やすとか色々ある不利の代償を払って有利に持ってくって感じ?」


他にもたくさん方法はある。

自身の他魔術を使えなくするだとか、魔石を使い潰す外部縛りだとか。


「縛りは条件とは別物だから、基本的に難しいんだよ。一般の魔術師なら出来ない要素。だからこそ、解釈を広げて縛りを結びやすくする。理解力は魔術の本質や仕組みを把握する力、解釈は自分なりに意図を汲むこと」

「なるほど……わかんねぇ」


やっぱりエルはエルだった。

天気予報は晴れだね。


「事実そのものと、かも知れないの違いだよ」










「はい。ゴブリンの討伐依頼、確認できました。こちらがその報酬になります」

「ありがとうございます」


ロンレルは冒険者協会にて、依頼の報酬を受け取っていた。


「ロンレルさん。次の依頼も御座いますが、どうなさいますか?」


終わった途端に、次の仕事を受けさせられる。


「遠慮します。あとはガエル達に譲らないとでしょう?」

「そうですか……。ガエルさん達も同じこと言ってましたが……」


冒険者のガエルは、去年の事件の功労者としてゴールドランクに上がった。

そのせいで色んな依頼に引っ張りだこ、休む暇もくれないと、リャンから愚痴を溢してたのを思い出す。


「そういえばですけど、冒険者登録って何歳から受けれるですか?」

「今は13歳から受けられますよ。でも、会場はここでは無くネスチアになりますが」

「私が受けた時は15歳からでしたが、下がったんですね」


職員は頷いて、書類を取り出す。


「あまり良い話ではありませんが、年々冒険者が減っておりまして、年齢層を引きさげて冒険者を増やそうと、上の人たちが決めたので……。それに、ゴールドランク以上の方達同伴ですと、免許も年齢も免除になってます」


年々減り続ける冒険者と言う職業。

それを補うために、名目上若者の育成と言い張り、かさ増ししているのだろう。

そのせいで知識不足の子供達が無惨にも命を落とす。


「あの子達には打ってつけだ」

「? どうされました?」

「いえ、こちらの話です。ガエル達は今どうしてます?」


職員は少しお待ちくださいと、席を立ち、奥の書類の山へ向かう。


ガエル達の負担を減らすにはロンレル自身エル達と依頼をこなすのが一番いいが、ミーガバードを空けるのも良くはない。一番小さい子で今年の初め、クルト君が連れてきた2歳の子供もいる。

ならガエル達の同伴で、エルたちを連れて行かせる。

前に冒険者になりたいと2人して言ってきた。

経験にもなるだろうし、ガエルも買ってる2人だ。


「お待たせ致しました。ガエルさん達は、こちらの依頼に出てますね」

「コボルトの討伐ですか」

「はい。戻ってくるのは3日後だと思います」

「なら、ガエルに伝言を伝えておいて下さい」


そう言うと、職員はメモを取り出し、ペンを持つ。


「依頼後に、ミーガバードに来てくれって」

「了解致しました。必ずお伝えしておきます」

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