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デスターン  作者: 春川立木
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72話 次へ

頑張ってる奴に頑張れって言うやつとか、勝手に期待してるって言ってる奴とか、口で言うのは簡単だよな。

こっちは本気でやれる事を精一杯やってんだから黙って見てろよって思っちゃう。

この言葉を上司に言えたらなぁ。

「聖神様……」


この世界に生まれてから何度も耳にした名前。

それに教会に住んでる時、神父さんから聞かされた英雄譚の数々。


1000年前、魔神ガットレイの恐怖を打ち砕き平和をもたらした象徴であり、人間が縋り精神的な支えになっている偶像。


本当に存在してたんだ……。


「ははは、そんな大層なものではないんだけどな」


アズエルと名乗る青年は頭を掻きながら乾いた笑いをこぼす。


「さて、まぁ聞きたいことは沢山あるだろうけど……僕も話したいことが沢山あるんだ」

「あの、ここは?」


現実には存在しない、真っ白の空間。

辺りを見渡しても何もない。


「そうだね、まずそこから話そうか。ここは多分君の夢の中かな? てか、今の女の子ってこんな退屈な世界を浮かべるんだね」

「?」

「他の勇者たちはみんなそれぞれの天界を思い浮かべるんだけど……」


天界? 他の勇者?


「前の勇者は広い草原に大きな湖、小さな家の世界だったんだよ。確かヒークって名前だったかな? よくこっちに来てたな」

「え? この場所は私が思ってる天界なんですか?」


アズエルは頷いて続ける。


「君の意識が創ってる世界。僕からすれば出られない檻みたいなもんさ。せめて暇つぶし出来るものがあったら嬉しかったんだけど」


すみませんね、つまらない頭で。


「それに君は全然こっちに来てくれなかったし」

「来るって言っても……わからないし」

「夢だから、寝れば来れるんだよ。でも君ってずっと切羽詰まってるっていうか、生き急いでるっていうか、全然眠りが浅いじゃん」


……そうなのかな?

自分では気づかないけど、確かに言われてみれば夢を見た記憶がずっとない。


「もしかして、いま私気絶してるからここに来れたってことなんですか?」

「うん。そんな感じだろうね、僕自身君が外で何してるかわかんないし、確定は出来ないけどね。その点ヒークは毎日のように来てたな、あいつ話が長いんだよ。お陰で暇はしないし、釣りで時間潰せてたからよかったけど」

「は、はぁ」

「さて、無駄話はこれぐらいにしてまずは勇者の特権から話すね」


アズエルは再び手の甲を見せる。


「君も手の甲に紋章があるでしょ?」

「まぁ、ありますけど」


手袋を取り外し、紋章を掲げる。


「……面白い形をしてるね。個性的なデザインだ」

「この形ってどうにかなりませんか? 見た人たちみんな嫌なこと言ってくるんですよ」


少し困った顔をしたアズエルが申し訳なさそうに首を振る。


「元凶を壊せば無くなるだろうけど……形を変えるのは無理じゃないかな。でも僕は好きだよ、風が纏った剣みたいで……うん。い、いいと思う」

「そもそも何で私が勇者なんですかね?」


他にも強い人はいる。

それことアルゴ先輩やマザードさん達。


「そんなこと言われても、選んだのはヒークだろうし、君にこの世界を託せると思ったんだろうね。彼曰く、幼いのに勇敢で、魂そのものが強く、覚悟をした目をしてたらしいから」


勝手に期待されてたんだ。


「なら私が死ねば私が勇者を選べるってことですか?」

「そそっ、指名制ってよりは、君が出会った中でこの人なら託せると、無意識下で期待をした人に行く感じ」


無意識に期待する……。


「期待って残酷だよね、信頼されれば自由が効くのに、ついでみたいにくっついて来る。そのせいで余計に自由になれない。そんなもんなんだよね人生って」

「先代の勇者は聖神様が?」

「あー、僕は選んでないよ。勇者って肩書きは常に世界に存在してる。紋章が現れなくても必ず救世主って奴は産まれるんだ。僕が死んでから何十人も入れ替わってきた、ちょうどヒークの代で魔神が復活した、それが条件で紋章が刻まれただけ」


勇者の仕事は世界を救うこと。

そして世界を救えると確信できる人を探すこと。


「酷いでしょ?」

「え?」


アズエルは悲しそうに笑う。


「僕の呪いのせいなんだよ。勇者ってかっこいい名前だけど……世界を強制的に救わさせる重荷を植え付けて、それが無理なら死んで次に回せってね」


確かにそう聞くと酷いとは思う。

何も告げられずに期待されて、拒否権は無く、世界を救うために命を削って、そして勝手に期待して何も告げずに他に委ねる。


「なら、私で終わらせます。それならハッピーエンド」


力こぶを見せつける。


「……それは無──いや、そう願うよ」


湿っぽい空気が流れる。


「……あの、特権って?」

「あ、ごめん。今の君には僕の力が宿ってる。魔術だって前より強くなってない?」


勇者になる前は魔術なんて使って無かったからわからないけど……、アリア先生曰く、今の私の魔力の質は異常だって言ってたから多分強くなってるんだろうな。


「それに毒とか諸々効かないし、成長スピードも異常になってるはず。あと神化とかはそのうち知ることになると思うよ」

「そのうちって……」

「今言うと残酷だからやめとくよ」


そうですか。


「……ごめんね。本当に」

「? 何がですか?」

「僕の失敗のせいで君たちが苦労をしなくちゃいけないからさ」


失敗?


「僕は魔神を殺せなかった……いや、殺さなかったんだ。彼の辛さも分かるせいで躊躇ってしまった。そのせいで今、復活した魔神はみんなの大事なものを奪っていってる。あの時刺し違えても倒しておけばよかったんだって後悔してるから」


アズエルは座り込み、頭を下げる。


「だから今回は、何がなんでも殺さないといけない。僕がこの手で殺すんだ。だからそこまで君たちに連れてって貰いたい」

「…………」

「横暴だよね。君たちが思ってるほど僕は聖神じゃないんだ。伝わってる話は何百年もかけてみんなが作り上げたフィクションなんだ」

「……まぁ、私も思うところがあるので、アズエル様が手を下すのはやめてほしいです」


両親を殺され、故郷を壊されたあの時誓ったんだ。


「魔神を殺すのは私だけでいい。それは相打ち覚悟でも同じことです」

「ハハッ、ヒークは間違って無かったね」


立ち上がり、手を差し出す。


「他に聞きたいことはある? これからの助言だったり、少し先の未来だったり」

「未来予知出来るんですか?」

「そりゃぁ、伊達に勇者やってなかったからね」


少し考えて、一つだけ質問をする。


「じゃぁ、私は何処に向かえばいいかだけ」

「助言だね。ならまずはアズレット大国で僕に似た子を探すといい」

「アズレット大国って世界の中心の国ですよね」

「うん。めちゃくちゃ広くてめちゃくちゃ人が多い一番発展してる国だね」


そんなとこで人探し出来るのだろうか」


「まぁ、大丈夫だよ。目立つことやってるだろうしね」


目立つ?

大道芸とかでもやってるのかな?

それも有名人?


「今すぐではないし、頭の片隅にでも残しておいてよ」

「……了解です」

「よし、助言はこのくらいでいいかな?」

「あ、はい。ありがとうございます」


アズエルは手を差し伸べ、笑顔で頷いた。


「また会えますか?」

「もちろん。君が夢を見てくれたらね」







「重い……」


目が覚めると救護室のベッドの上だった。

ニーナが私の上に重なって眠っている。


「あ、起きた。気分は?」

「ロズ、試合はどうなった?」

「自分の体調より結果を気にすんなよ」


椅子に座って足を組んでるルトは立ち上がり、ニーナの頭を叩く。


「んごっ、あれ……もう朝……?」

「夕方だよ。セリーヌ起きたから先生読んでくる」

「うい」


席を外したロズを尻目に、ニーナが目を擦り私を見る。


「頭大丈夫?」

「ニーナに心配されるほど変人じゃないけど……?」

「違う違う、頭に直撃してたじゃん。アルゴ先輩の攻撃」

「あ、あぁ。うん、平気だよ」


隣のルトの笑い声にニーナが怒る。


「てか、みんなここにいるってことはあの後負けだって感じ?」

「あぁ、負けたよ。こいつのせいで」


指をさされたニーナが反論。


「理不尽大好きって言ってたじゃん! あんたがアルゴ先輩みたいに全部受ければ勝ってたし!」

「はぁ!? 理不尽どころじゃねーだろーがよぉ! そもそもお前自分で理不尽だと気づいてんのか?!」


後ろでは2人の喧嘩をどう止めようかアワアワしているフォルトの姿。


「フォルト、何があったの?」

「え、えっとね……、最後……ニーナが、雷光槍をひゃ、百本ぐらい落としたんだよ」


あー、なんとなく理解できた。

ひと足先に逃げるニーナの姿が簡単に目に浮かぶ。


「そうなんだ」

「アルゴ先輩が1人で全部弾いて試合終了、他の人らは場外に逃げて俺らの負けって感じ」


暴れるニーナの両腕を掴み、ベッドに座らせる。


「後の試合もアルゴ先輩たちが勝ち抜いて優勝。閉会式もさっき終わってここに来た」

「うちはずっとここにいたけどね」


鼻を鳴らし、私を見る。


「あ、ありがとう?」


満足そうなニーナが再び私にもたれかかる。


「気分はどうです?」

「あ、クエン先生、全然元気です」


ロズと一緒に扉から入ってきたクエンは安心した顔を見せる。


「クエクエ聞いてよ。こいつうちのせいで負けたってうるさいんだけど」

「はぁ? 誰が見てもお前のせいだろ」

「あんたも全部弾けばいいじゃんか」

「無理だろ! 人間離れ技にも程があんだよ」

「アルゴ先輩は出来てましたけどー!」

「まぁまぁ、みんな頑張ってましたよ」


割って入るクエンが2人をなだめる。


「いや……私のせいだ」


私は右手のひらを見つめる。


「あの時、アルゴ先輩の攻撃を見て避けることも往なすことも出来た。でも一回受けたかった。真正面であの完璧な攻撃を喰らいたかった。だから負けたんだ」

「そんなこと言ったら私も、冷静になってたらあんな矢避けれたし」

「ぼ、僕も避けるばかりで……攻撃できなかった」

「俺もみんなに助けられてばっかだった」

「……うちは天才だから完璧だった──いや、詠唱時間が長すぎてみんなに迷惑かけた」


その言葉を聞いて、クエンは満足に頷く。


「どうですか、こうして豊作戦に出れて良かったですか?」

「はい」


全員が同じ答え。


「課題点なら無限に出てきます。ですが、良かった所も無限に出てきます。まずは喜びましょう、優勝チームに善戦したんですから」

「来年は勝つよ」

「あぁ」

「もち」

「う、うん」


みんな勝ちたい。当たり前だ、次は勝つ。

聖神様に啖呵切ったんだ、ここで負けてちゃ駄目。


「絶対に勝つ。他はいらない」

「練習じゃ! ボケェ!!」


ルトは立ち上がり、勢いよく部屋から飛び出した。


「ま、待ってよぉー」


それに続きフォルトも追いかける。


「そうね、課題が分かったってことは解決しないと駄目だからね」


ロズも先に行くと言ってその場を後にする。


「セリー」

「ん?」


珍しく、落ち着いたトーンのニーナが顔を向ける。


「剣術って楽しい? 近距離ってきつい?」

「んー、考えることも多いし、相手にビビる時もあるけど……楽しいかな?」

「……セリー」

「なに?」

「剣術教えてよ」


えっ?

セリーが剣術?!

なんで今?


「明日は大雪が降るのかな」

「せめて大雨にしてよ」


ニーナはほっぺを膨らませて私の肩を叩く。


「うち、詠唱中って赤子も同然だからさ……攻め込まれたらすぐ負ける。だから剣術っていうか近距離でも戦えるようになりたい」


あのニーナが、自主的に努力をしようと考えてる。

人ってここまで変われるのか……。


「分かった。でも、私は厳しいよ」

「うん。そっちのが助かる」

「どうせならマザードさんも呼ぼうか?」

「それはやめていただきたい」

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