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デスターン  作者: 春川立木
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4話 魔術の才能

カルボナーラとナポリタンを合わせると最高にご飯と合う「おかずパスタ」が出来ることを知りました。

これが肥満の代償で手に入れた真理です。

「予定より早いな……」


眠たそうな顔をしているゲールは家の庭であくびをする。


「はやく魔術を習いたいから早起した」


右手にVサインをつくり前に出す。


「……ミスカも習うのか?」

「見学!」


同じく右手にVサインをつくり前に出す。


「教本はどこまで読んだ?」

「読んだって言ったも、ページが多すぎてまだ10ページぐらい……」


魔術教本は約500ページもあり1ページがぎっしりと魔術について書いてある。

一年半読んでやっと10ページ読めるペースだ。


「思ったより読んでるな」

「よく読めたわね、あんなの一目見るだけで具合悪くなっちゃうのに」


確かにあれを読むのは苦労する。

見にくいわ、理解するのが難しいわで何度読むのをやめようと思ったことか……。


「まぁ、最初の一年ですることは3ページ分ぐらいだからな」

「すくな!」

「ちなみに俺は70ページ分ぐらいの知識しかない」


ゲールは庭に落ちていた木の枝を拾い上げ地面に何かを描き始める。


「魔術師は1割できれば優秀だ」


大きな円を描きその中にいくつもの円や四角形、三角形といった図形を入れていく。


「魔術の基本は魔力ではなく、理解だ。どれだけ運動神経がよくてもルールが分からなければスポーツは出来ない」


今度は円の外側に文字を書いていく。


「魔力は誰の中にもある一つのエネルギー、勿論人によって量や質は変わっていくが、ほとんどの魔術師は一般人と変わらない魔力量だ」


描き終えたのか枝を放り投げ円の中心に入って行く。


「これは初級の魔術の陣」


円の中心にコップを魔術で作り出す。


「魔法陣……?」

「いや、魔術と魔法は別物だ。それについてはいつか教える」


ゲールはまぁ見とけと言ってコップを挟むように両手を地面に合わせる。


「ふんっ!」


陣に触れたまま力を入れたその瞬間、眩い光が辺りを照らす。


「眩っ……」


光はあっという間にコップに集まって収縮し、ゆっくりと消えて行く。


「よしっ、完成だ」


コップを拾い上げ俺に渡してくる。


「水?」


中には透明な水が同心円状の波を作っていた。


「このクソでかい陣はただの初級水魔術。地味に時間かかるし魔力の無駄も多い」

「でも……いつも父さん、手から出してない?」

「そうだ。そこが一番の重要性だ」


貸してみろと水の入ったコップを取り、水を全部捨てる。


「?」


今度は陣のない場所にコップを置き手を向ける。


「陣は効率が悪い。だからみんな詠唱してるんだ」

「詠唱……」


ん?

ゲールって詠唱してたっけ……。


「俺ぐらいになれば詠唱はいらねーが、ほとんどの魔術師は詠唱している。少し離れてろ」

「う、うん」


小走りでコップから離れる。


「今からするのは初級の水魔術。陣に注いだ魔力と同じ量で詠唱する」


息を吸い上げコップに狙いを定める。


「『水は万物の根源。水は廻り、潤し、押し流される』」


言葉を発するごとに何か背中を押されるような力を感じる。

その力はゲールの右手に集まって行きどんどん収縮していく。


「『ウォーターロウ』」


そう言い放った刹那、手のひらから大量の水が噴き出す。


「へ?」


置いていたコップは水の威力に負け粉々に割れ、その奥にある外壁を粉砕した。


例えるとすればあれだな、かめはめ波みたいだな。


「げぇーるぅ?外壁まで壊さなくて良いんじゃないのぉ?」


般若の顔をしたミスカが骨を鳴らしながら引き攣った笑顔を浮かべている。


「……!すぐに直させていただきます」


ゲールは一目散に外壁に走って行き、魔術で修復する。


「わ、わかったか。陣と詠唱の違いが……」

「う、うん」


壁を綺麗に直し終え、戻ってくる。


「教本の1ページ目の最初の一行を覚えてるか?」

「魔術の基本ですか?」

「それは四行目だ」

「魔力について?」

「惜しい、二行目だ」

「わかりません」


ゲールはその場で立ち止まり自分の右手を見ると顔色が少し変わった。


「魔術は簡単に人を殺せる。それが一行目に書かれていることだ」

「…………」

「剣で切った感触はなく、殴った時の拳の痛みもない。言葉を発するだけで殺せる道具だ」


無意識に俺が唾を飲む音がする。


「魔術ってのは便利だが、その分危険性を持っているんだ」


右手を握りしめ、俺を見る。


「それだけは知っててほしい」

「……はい」

「よしっ!じゃあ、早速魔力について簡単に教えよう」


先程の面持ちはすぐに無くなり、いつもの笑ったゲールの顔になっていた。


「お願いします!」

「ゴホン、魔力とはさっきも言ったが誰もが持ってるエネルギーだ。魔術師と普通の人間の差は魔力が扱えるか否か。こればっかりは才能だな」


才能か……。

もし俺にその才能がなければ今からやることは無駄になるってことか。


「安心しろ。エルは絶対扱えるようになる。なんせ俺らの子供だ」


思考が顔に出てたのかゲールは頭をポンポンと叩く。


「コツは一つ。無意識に慣れるだな」

「無意識に?」

「あぁ、魔力を使う時って、今から使うぞ!と思って使ってないんだ。ほら、歩く時にわざわざ右足出して、次に左足を出そうって思って歩いてないだろ?」

「でも、どうやって出すの?」


体を動かすのは生前でも出来たから簡単だけど、魔力は前世には無い。

無意識って言われても全然ピンとこない。


「そこで、四行目だ。魔術の基本は理解すること、とりあえず詠唱すれば良い、それさえすれば魔術は使える」

「なら、おんなじように詠唱すれば良いの?」

「そゆこと」


なるほどな。

魔術を理解したければ声に出す。

これが基本になるのか。

英単語を覚えるのと同じようなことだな。


ゲールは俺の後ろに回り込み右手を掴むと、その手を前に出す。


「俺に続いて、詠唱してみろ」

「う、うん」

「水は万物の根源」


ゲールの詠唱に対してリピートをする。


「水は万物の根源……」

「水は廻り、潤し、押し流される」


それに続いてゲールは続きを詠唱する。


「水は廻り、潤し、押し流される」

「さぁ、技を唱えてみろ」


コクっと頷く。


「『ウォーターロウ!』」



「…………」




あれ?

何も起きない?

詠唱間違えたっけ、


「あ……」


ゲールが言葉を漏らす。

隣にいたミスカは歯茎を見せるほどニンマリと笑っていた。


「あれだな、エル。残念だけど……才能がない……」

「うっ……」


ゲールの鋭い刃が俺の心をグサリと貫通する。


「だ、大丈夫だ。これから努力すれば必ず魔術を使えるようになるからな。多分、そのうち……」

「ほんと?」

「あぁ、この俺が言ってるんだ」


胸を叩き笑う。


「とりあえず飯にしよう。腹が減って仕方ない」


ゲールは濁すようにそう言って家に入っていく。


「気に病まなくて良いのよ。エルには体術があるから」


肩に手を置きミスカが慰めてくれる。


いや、これは慰めてるのか?

心のどこかで安心してそうだけど。





その日から来る日も来る日もゲールに魔術を教えてもらった。

雨の日は家で魔術の座学を行い、晴れた日は外で魔術を詠唱する。


「『水は万物の根源。水は廻り、潤し、押し流される。ウォーターロウ』」


いつものように初級の水魔術を詠唱していると体の内側から何か、熱いものが湧き出てくる、そんな感覚が起きた。


『ぽちゃん』


手のひらから雫がコップに落ちる。


「お!おぉ!!出たぞ、エル!水が出たぞ!!」

「出た!やっと、やっと出た!!」


魔術の修行を行なって約一年、やっと努力が実る。

たった一粒の水だが、それでも大きな進歩だ。


「やったな!これで一段階進んだぞ」


ゲールは嬉しそうに頭を撫でてくれる。


一年で魔術教本の3ページ進めるって言ったのにまだ1ページも進んでないからな。

こんなので喜んでられない。


「次、次を教えて父さん」

「そう慌てるな。今出た感覚を忘れるなよ」


ゲールはコップの中を覗くと、何を思ったのか中に入ってる水を手に出し、ペロッと舐めた。


「……父さん?!」

「うげぇー、まじぃ」


ベロを出し、眉間を寄せる。


「ドブの味がした。こりゃ、参ったな」


ペッペッと水を吐きながら頭を抱え出す。


「え?」

「何人かに魔術を教えたことが昔あったんだが……初めてだ。こんなに濁った水は」

「やばい?」

「改めてわかったが、……申し訳ない。エルには本当に才能が……ないっぽい……」


俺は膝から崩れ落ちる。


「うそ……」






一年間頑張ってきて僕には魔術の才能が一ミリもないことがわかりました。

この一年を返せこのやろう。

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