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デスターン  作者: 春川立木
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3話 やるべき覚悟

漫画家になりたい人生だったな。

お久しぶりです。

アズエリック・フォールです。

こちらに来て2年と二ヶ月が経ちましたが、私はまだ二歳になっておりません。

前にも言った通り、聖神祭にならないと年を取ることはできないと言う文化になっているからです。

そして今日、その聖神祭が行われる日でございます。


「もう、二歳になるのね。子供の成長ってほんとに早いわね」


昼下がり、リビングでダラダラと過ごしている俺の頭をミスカは撫でながら、しみじみと実感していた。


頭を撫でる手が温かく心地よい。


「はいはいができたと思ったら、いつの間にか走り回ってるもんな」


ゲールは慣れた手つきで、空のコップに魔術で水を注ぐ。


「かっこいい!」

「お、お父さんのかっこよさにやっと気づいたのか?」


魔術に対して言った言葉をゲールは自分に言われたと思ったのか、顎を触り、キメ顔をする。


「違う、魔術が」

「ああ、そうか……」


少し残念そうに肩を落とす。


「神体術もかっこいいでしょ!」


ミスカは撫でるのをやめほっぺをつまむ。


「いはいいはい、はめへくははい」

(痛い痛い、やめてください)

「魔術のどこがいいのよ」


つねる手を放しほっぺを膨らませる。


「まぁまぁ、……おっと、そろそろ教会に行かないと、」

「教会?」





村の広場から少し外れたところに教会はある。

質素ではあるが、しっかりとしたレンガ造りになっていて、他所の建物とは少しばかり綺麗で一線を画してる。

中に入ると真っ直ぐに通路ではなく、前室になる。

その奥が長い廊下が続いている。

廊下の行き止まりには二メートルほどの大きな石像が重鎮のように立つ。

上を見上げると教会らしいヴォールト天井が良いウェーブを作っている。


「かっけぇー!」

「エルは来るの初めてだったな」


子供みたいにはしゃぐ俺を見て両親は微笑ましい顔で見てくる。


てか子供だもん、教会とか初めてだもん、興奮するもん。


時間が時間だからだろうか、教会には村の人はおらず神父と修道女しかいない。


「フォールさん達お早いですね」


黒服を着飾り、白髭を蓄えた神父が声をかける。


「そちらの子はエル君ですか?」


こいつ、俺の名を知ってやがるだと……

まだ名乗った覚えはないのだが…


「はい、二歳になったので連れてきました」

「そうでしたか、子供の成長は早いですね」


そんな世間話をよそに俺は奥中央にある石像を見ていた。

背中にマントと剣を背負い、身体中には傷がある石像。


誰だこの人?


「その方はね、聖神アズエル様だよ」


神父はそう言って石像を見つめる。


「アズエル?」


アズエルって大英雄の?


「そう、アズエル・グレイライト。世界の危機を救った英雄様」


それは知っている。

よく読み聞かせてもらったからな。


「聖神様はすごいんですよ。天界から颯爽と舞い降りてき、飢餓や流行病、津波や大噴火から人々を救い出し、さらには世界を厄災の渦に飲み込んだ魔神を討伐した方なんですから!」

「お、おぅん…」


熱い熱い、熱量がえぐい、しかも顔近い。


「聖書にはこんなことが書いてあります」


すっと立ち上がり再び石像を見る。


「神は人の手本になる。大人は子供の手本になる。しかし、聖神様は神のような気品ある方ではなかった。自由でいつも楽しそうに旅をする方だった。でも困っている人がいれば所構わず手を差し伸べる神だったと」

「そう言えば私のお母さんも似たようなことを言っていたわね」


一緒に石像を見ていたミスカが口を開く。


「それがたとえ極悪人でも助けちゃうって」

「そうなんです!!流石聖神様だ!!」


神父の目が見開きさらに熱量を増す。


「だからみんなが讃えるのです!!この平和も聖神様が造ったと言っても過言ではないのですよ!!」


お、おう。

伝わったよその気持ち。

もう十分に、だからその顔を少し遠ざけてくれ。


「では、エル君右手の甲を貸してください」


えっ、手の甲を貸す?

何されちゃうの俺?

そういうフェチなの?このおじさん。


「エル、ただの儀式だよ。初めて聖神祭に来る子供には手の甲に紋章を書くんだ」


俺が困惑してるとゲールがそれを察したのか右手を手に取り神父に向ける。


「儀式?」

「はい。聖神様には生まれつき右手の甲に星の形に似た紋章がついていたとされているのです。まぁ、諸説ありますがね」


へー

かっこいいなそれ。

石像にもついてんのか?


そう思い俺はもう一度石像を見る。


「本当だ。ついてる」


石像の右手には神父が言った通り星の形をした紋章が描いてあった。

星というよりかは太陽にも似た八角形、八芒星というやつだ。


「偶数の星は縁起がいいとされていて、一歳になった子供はみんな聖神祭で、八芒星を右手の甲に描くんだ」


日本では偶数は割り切れるって理由で、別れをイメージするから縁起が悪いってばあちゃん言ってたけど、こっちじゃ逆なんだな。


ん?まてよ、俺奇数歳だっけ……。

今日で二歳だよな…


不思議に思った俺は首を傾げミスカを見る。


「忘れてたっ。テヘペロ」


コツンと手を頭に当ててベロを出す。


「ごめんな、エル。完全に忘れてて、なんせバタバタしてたからな」


ゲールは俺の頭を撫でながらそんなことを言う。


バタバタしてたか?

大体家に居たじゃん。

まあ、いいけど。


「大丈夫ですよ。たとえ儀式をしなくても聖神様は守ってくださいますから」


石像の隣にあるテーブルには筆と墨が用意されている。

あそこで描くのだろうか。 


「正直な話し、儀式より伝統って感じですね。しても、しなくても変わりはないですよ」

「じゃあ、お願いします」


適当だな。

ま、やってくれるんならやってもらったほうがいいしな。

貰えるもんは貰ろうときなさいってばあちゃん言ってたし。



甲を神父に向けると、神父はテーブルの上に置いてある筆を手に取りサラサラと慣れた手つきで描いて行く。


「ちょっとこそばゆいですが我慢してくださいね」


あっという間に正確な八芒星を描き終わる。


「あれ?そういえば私、今年、奇数歳だったような…」

「書かれますか?」


ミスカは自分の年齢を覚えていないのか、顎に手を当て首を捻る。


「うーん。いや、大丈夫。なんか起きた時は自分でなんとかするから」

「流石は元冒険者ですね」


え?


「冒険者だったの!?母さん?」

「言ってなかったっけ」

「うん。言われてない」


だからあんなに強かったんだ。

知らなんだ。


「まあ、冒険者なんてそこら中に溢れてるし、そんなにすごいことじゃないよ」

「いやいやいやいや、ミスカさんはそこら辺の冒険者とは違いますよ!」


この人はあれだな。

神父に向いてないんじゃないのか?

こんなに情熱的になる神父キャラっているのかよ。

一回落ち着けよ。


「フォール家がこの村にいらしてから随分平和になりましたよ」

「私たちは何もしてないわよ」


後ろでうんうんと深く同意するゲール。


「そうだ、見せたいものがあります」


神父は奥の部屋に入って行き数秒経ってまた戻ってくる。

神父の両手には小さめの箱があり、なにやら慎重に運んでいる。


「こちらです」


箱にはいくつもの宝石が埋まっており中心部には八芒星が描かれていた。


「……え、」


箱を開けるとそこには人差し指サイズの白いチョークのようなものが入っていた。


「聖神様の人差し指です」

「ひぃっ」


思わず悲鳴をあげてしまう。


「この教会に代々伝わる代物です。こちらのお陰で魔物が攻めて来れないと言われています」

「お、おう」

「物騒ね」


ほら、両親まで引いちゃってるよ。

早く閉まって下さい神父さま。


「そうですか……残念です」

残念……?!

残念ってどゆこと?

だんだんこの神父が怖くなってきたよ俺。


「そ、そうだ。早く帰らないと夕食の準備が……」

「あ、あぁ。そうだな、早く帰ろうか。早く」


ゲールは俺を守るように抱き上げる。


「そうですね……あれ、宴会には出席しないので?」

「お酒はあまり好きじゃないので……」

「そうでしたか、失礼しました。またいつでも、いらしてください」

「また来ます」


少し引き攣った顔をしながらそう言い、教会を後にする。






「トシヒデ君は困ってる人に迷いなく助けるよね」

「そうか?」


文化祭で親とはぐれた子供をあやしていると後ろから美香が声をかける。


「うん。この前も英語分からないくせに外国人に道教えてたじゃん」

「……見てたのなら助けてくれよ」

「ハハハ、ごめんね」


そう言って美香はしゃがみ込み子供にジュースを渡す。


「はい、サービス。大きくなったらサービス料、払いに来てね」

「…………?」


ポカンとしながら子供はジュースを見つめる。


「子供にたかんなよ」

「冗談だってば。ほら、トシヒデ君にも」

「センキュー」


渡されたジュースを開け飲む。


「300円」


美香は隣に座り、手のひらを上にむけ、悪魔みたいな顔をする。


「高っ!」

「安いもんでしょ。可愛い幼馴染が持ってきたんだから」

「確かに……」

「そこは否定してよ!」


少し顔を赤めジュースを飲み干す。


「300円はチャラにしてあげる。そのかわり私が困ったら助けてね」

「んー、課題の代行は勘弁」

「それはいつもトシヒデ君にさせられてます」

「いつもお世話になっております。何とぞこれからもご贔屓を」


俺はその場で頭を下げ美香に頼み込む。


毎年夏休みやら冬休みやらの宿題を小学校の頃から手伝ってもらってるからね。

お得意さんにはごまを擦っておこう。

擦りすぎて擦れる部分がもうないけどね。


「トシヒデぇーー。お母さん見つけたよー」


閑談をしていたら遠くからゆうじが手を振りながら走ってきた。


「はぁ……はぁ……、あれ、美香。もしかして邪魔した?」

「全然、ちょうど話終わったところ」


ニヤニヤしながら俺の顔を見ながら「ふーん」とゆうじが言うと後ろから背が高く綺麗な女の人が顔を覗かせる。

この子のお母さんだろうか。


「天翔!よかった、どこにいっちゃったのかと思った」

「ママぁ!」


子供は一目散に女性の足に飛び移る。


「ありがとうございます。うちの子の面倒を見てもらって……」

「いえいえ、暇だったので」

「この子ったらお兄ちゃんのマジックショーを見たいって勝手に離れちゃったのよ」

「マジックショーって、一年生の?」

「そうです、知ってるんですか?」

「うん、有名ですもん。プロ顔負けのマジシャンがいるって」


そうだったの?

知らんかった。

流石は美香だ、なんでも知っておる。


「兄ぃの話し?」

「そだよー」


美香は微笑みながら天翔の頭を撫でる。


「どこいったら兄ぃ、に会える?」

「マジック喫茶やってるところは一年4組しか無いから多分そこだと思うよ」


ゆうじがパンフレットに指を差す。

その指の先には1年4組のマジック喫茶と書かれていて、横にはマジックショーやってますとデカデカと書いてあった。


「4組なら、そこの階段登って左にずっと行けばすぐだな……」


俺は腰を上げズボンをはたく。


「案内しますよ、どうせ俺暇なんで」


飲み終えたジュースのゴミを、文化祭のために作られた仮設のゴミ箱へ放り投げる。


「美香、ジュースありがとな」


俺は美香に手を振り校舎の方へと入って行く。


「息子がこの学校で良かったわ」

「え?」


先にマジック喫茶をやってるクラスへ向かって行く後ろ姿を見ながら天翔の母親が呟く。


「どうしたんですか?急に」


ゆうじはパンフレットとしまいながら聞き返す。


「だって、こんな優しい先輩がいる学校ってそうそう無いでしょ」

「そうでしょそうでしょ、私もあいつの幼馴染でよかったって、いっつも思ってる」


腕を組んで鼻を高らかに、美香が頷く。


「あらあら青春の香りね」


天翔の母親は口を押さえてニヤニヤと笑いながら後をつけていった。


「あ、そういえばあみが呼んでたよ」


ゆうじは思い出したのか手を叩く。


「あみが?」

「うん、クレープ作る人が足りないから見つけたら誘拐してきてほしいって」

「げぇー、またぁ?もうクレープ見たくない゛ー」


ため息を吐き、肩を落としながらトボトボとクラスの方へ歩く。


「早めに来ないとあみブチギレるかもぉ!」


大声で後押しするようにあみに伝える。


「はいはい」


今度は小走りでクラスへと向かった。





『どんっ!』



ベットの上から落っこちて目が覚める。

外はとっくに明るくなっていた。


「いったー」


教会から帰った後ご飯を食べたら眠くなっていつのまにか寝てたんだっけ……。

こっちに来て初めてかもな前世の夢ってのは。


のそのそと起き上がり、寝室のドアを開ける。


確かあの後、天翔と一緒にマジックショーを見て、そのまま俺らのクラスの出し物であるクレープ食べに行って、泣きながらクレープを作っている美香を慰めて、軽音部のライブをみんなで見に行ったっけ。

懐かしいなぁ。

文化祭は確か6月だったから、もうその頃にはあみは嫌な目に遭ってたんだろうな。

それなのにあみは顔色一つ変えず、楽しそうにクレープ作ったな。

何やってんだろうなぁあの時の俺は。


「はぁー」


最悪の気分のまま廊下を歩き居間に出る。


「あ、おはようエル」


朝ご飯の準備をしていたミスカが爽やかな挨拶をする。


嫌な気分だったはずなのに少し気分が楽になる。


ゲールは椅子に座り魔導書を読んでいた。


「よしっ!」


昔の夢をみて感化されたのだろうか。

今やらなければいけないことが頭をよぎった。


自分の頬をバシッと両手で叩き、気合を入れる。


俺はここにきてまだ何も出来ない。

そりゃあまだ二歳だからだろうけど、そういうことは言い訳だ。

だって中身はとっくに大人、またいつあんなことが起こるかわからないんだ。

何か一つできるようになりたいんだ。


「父さん!魔術を教えてください!」


狐につままれた顔とはこのことを言うんだろうな。

ポカンと口を開け目を点にしたゲールは思考を停止する。


「あーー!!やっぱり魔術の方が良かったんだ!!」


ご飯の準備をしていた手を止め両手で俺の頬を挟む。


「なんで、あんなに神体術かっこいいって言ってたじゃない!」

「母さん、落ち着いて…」


俺の言葉を無視してぐりぐりとほっぺを回す。


「魔術なんて、ただのびびりの役職なのよ!あんな後方から高火力の技放って何が楽しいのよ!」

「おい、俺への悪口だぞ、それ」


ゲールが軽いツッコミを入れる。


「違うの、母さん。ほら、まだ僕二歳だから体術は早いでしょ」


頬をかき混ぜていた手を止め「そうだけど…」と下を向く。


「おほん。魔術の道は岨道だぞ。それでもやるのか?」


蕎麦道……。

確かに歩くのには険しそうな道だな。

炎上しそうだし。


「安全なところから敵をボコボコにするサイコパスみたいな奴らのどこがいいのよ!」

「そろそろ泣くぞ、俺」


実の嫁から散々なことを言われクリティカルヒットを受けてるゲールは涙目になりながら魔導書を閉じる。


「荒れた道でもボロい吊り橋でも通ってみせます!」

「二歳児が言う言葉じゃないな」

「育てが良いのよ。魔術を習うってなら、いつか嫌でも神体術習わせるからね!」

「は、はい」


まあ、どっちみち体術も習いたかったし、別にいいんだけども。


「明日早朝、玄関集合だ」


ゲールはそう言うと再び魔導書を開き読み始める。


「はい!!」

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