42話 荒稼ぎ
部屋の掃除は心の掃除。
昔の人はよく言ったよ。
全くもって同意見。
洞窟の外へ出てきたクルト達は、暇そうにあくびをしていた。
「遅いですね……」
「心配しないでいいですよ。きっとエルなら逆転する」
杖を地面に突き立ててクルトは自信あり気にそう豪語する。
「前々から思っていたのですが、クルトくんとエルくんはどちらともすごい信頼関係ですよね……」
「? そうですか?」
クルトはそんな時考えたことが無かったのか、首を傾げる。
「えぇ、もうすぐ一年になりまずが、未だ一年しか一緒にいないのに……」
「んー、確かにそうかも……」
クルトは耳たぶを触りながら考える。
「なんか、エルは初めてじゃ無いって言うか……昔から知っているような……それこそ前世で親友だったような感じがするんですよ」
「前世ですか……。そういえば初めてクルトくんに出会った日、そんなおかしなこと言ってましたね」
鼻に手を当ててロンが懐かしく笑う。
「そうでしたっけ?」
「はい。フラフラな状態のクルトくんをエスタ領都の外で保護した時、どこの国かもわからない名前を呼んでました」
「うわっ、恥ずかしっ」
クルトは顔を覆ってうずくまる。
「あ、赤龍来ましたよ」
ロンの言葉にクルトは立ち上がり空を見る。
「作戦通り。隠れましょう」
「えぇ」
◇
「待てやぁ!! ちょっと上顎に踵落とししただけで逃げんじゃねーよ!!」
ブレスが止んだ隙を狙って川から飛び上がり、攻撃を仕掛けた途端、赤龍は来た道を飛んで逃げる。
「卑怯だっ、そんなの!! 俺の知っているドラゴンじゃねーぞ!!」
俺の悲痛な叫びは赤龍の耳には届かない。
「クソがっ、騎士道の風上にもおけん」
いや、騎士じゃねーか。
ただのドラゴンか。
「ん? あそこにいるのってクルトか?」
気づけばスタート地点の洞窟が見える位置まで来ていた。
そこから少し外れた所の岩陰に手を振るクルトが見える。
「野郎……自分は隅で隠れて楽しやがって」
赤龍が洞窟の中へ飛び込み、俺も後に続こうと走っていると、クルトが声をかける。
「エルっ! こっち!!」
手を振るクルトを見て90度進行方向を変え、そっちに向かう。
「クルト、テメェ! 何俺になすりつけてんだ!!」
「ごめんごめん。囮作戦って言ったでしょ」
「囮って俺のことだったのか!!」
「だってエルの方が速いし、強いじゃん。てへぺろ」
クルトは舌を出して後頭部に手を持ってくる。
くそっ、かわいいのが余計にムカつく!
「でもお陰で罠がかけられたんだ。助かったよありがとう」
「罠?」
洞窟の中を覗き、クルトに質問する。
「そっ、罠。多分今頃ドラゴンの氷漬けになってるよっ」
そう言った瞬間、洞窟内から冷気の暴風がやって来る。
「さっむ!」
その冷たさに身震いを起こし、鼻からつららが垂れる。
「なんだこの寒さ。川の中より寒い」
昔、遊園地にあったマイナス20度の世界を思い出すが、それ以上の冷気だ。
「さて、行きますか」
クルトは洞窟の入り口に立ち、そう言った。
◇
「すげー景色……」
真っ暗で、少し暖かかったあの洞窟が全くの別物のように、氷で覆われて外の光が乱反射しキラキラと幻想的な銀世界に変わっていた。
「寒すぎる」
ガタガタとクルトが震えながら洞窟の巣穴へと向かう。
「すご……」
巣穴には先ほどの赤龍が文字通り氷漬けにされ、一つの作品のようなものになっている。
こうして赤龍をよく見るとかっこいいな。
「想像してたドラゴンそのものだな」
真っ赤な鱗にでかい羽、腕も足もデカすぎる。
足だけで人ぐらいある。
「このゴツゴツ感が男心をくすぐる」
ペチペチと氷を叩き、ドラゴンを見つめる。
「じゃぁ、胸の部分だけ溶かすからエルは心臓を刺して」
「おれ?」
そんな重役不安だよ。
ロンさんがいるじゃない。
そう思い、俺はロンさんを見る。
「私ですか?」
「だって俺、この前の戦いで剣無くしたし」
「私だって、巨人との戦いで剣壊されて、予備のナマクラしか無いですよ。こんなんじゃ赤龍に刃がたちません」
ロンはそう言ってナマクラを俺に渡す。
「纏魔を使えば1発ですよ」
「うえぇ、分かりましたよ。やりますよ」
クルトが氷に手を置くと、一瞬で蒸発し、赤龍の胸が露わになる。
「あ、刺すなら心臓の周りね」
「は? なんで」
「いや、ドラゴンの心臓は不老不死にいいらしいから」
なんだよ不老不死良いって。
不老不死に良いも悪いものないだろ。
「どう取りゃいいんだ」
「まず胸の皮を剥ぎ取って」
クルトに言われた通り、できるだけ浅く刃を入れ硬い皮を剥ぎ取る。
「う、うわぁ……生きてるってまだ……」
「そりゃぁね。弱ってるだけだもん」
なんでそんなに平常心なんだよ。
「で?」
「肉を剥ぎ取る」
「はい」
ゆっくりと肉を切り、掘り進めると──
「うわっ!! きったねぇ!」
動脈を切ってしまったのか、大量の血液が俺の顔面に直撃する。
「あーあ、やっちゃったね」
「ぶっ! 黙れよ。こっちは必死なんだよ」
「大丈夫ですよ。どうせ脈を切らないと心臓は取り出せないですし」
ちゃっかりと血が付かないように2人とも遠くから離れてやがる。
「おっ、これか?」
肉を掘り進めていると、どくどくと動く塊を見つける。
「あった?」
「多分。これを取ればいいんか?」
「そうそう。繋がってる管だけ切って取れば大丈夫」
「管ねぇ」
手術ってこんな感じなのかな。
にしても、グロい。
もうすぐ9歳になる子供にさせることか?
「びゃぁっ!」
二度目の噴水が俺の目を攻撃する。
「取れたけど……目に入ったぁ!」
「はいはい。手のかかる子だねぇ」
クルトは俺の顔面に魔術で水をぶっかけ洗い流す。
「うわぁ、まだ動いてるよ」
ドラゴンの心臓を受け取ったクルトは顔を引き攣らせて、鼓動している心臓を見つめる。
「おい! 俺に渡すなよ。どうすんだよこれ」
クルトは無言で俺の手に心臓を置き、ドラゴンの氷を溶かし始める。
「え? ちょっと今、手が離せないんで、お譲りします」
「ふざけんな!!」
◇
「え……これ全部ですか?」
「はい。全部と言うか……ドラゴンでした」
俺らは協会に戻って報告をしていた。
「もどきなんて一匹もいませんでした」
ロンは職員に事細かに説明をして、書類に何かを記入している。
「ご苦労、エルくん」
「ふざけんな、こんな巨大を運ばせやがって」
洞窟からこの赤龍を領都まで持ってくる為、俺は1人背負ってここまで戻ってきた。
「いやー、エルがいてよかったよ。お陰で協会からの貸出馬車を借りずに済んだ」
「お前最後の最後まで心臓持たなかったな」
クルトは心臓を袋に包んで、結局ロンさんに渡していた。
「ごめんって、報酬の分け前増やすから」
「じゃぁ、剣買ってくれ」
「分かったよ。でもなんで剣?」
そりゃぁ、男なら剣の一本ぐらい欲しいだろ。
それにロンさんからもらった剣無くしたし。
「ロンさんも剣欲しいだろ? 報酬で金貰えるんなら買いたい」
「なるほどね。でも報酬はまだ後になるけど……」
?
今日貰えないのか?
そう思い、ロンを見る。
「えっと……申し訳無いのですが、報酬額が足りなくて……」
職員の1人が恐る恐るそう伝える。
「えぇ、大丈夫です。素材はブリタリアへ贈呈する予定なので」
クルトがそう言って、ロンに代わり書類に書き足す。
「え? 贈呈するんですか? 勿体無い」
ロンが驚いた顔でクルトを見る。
「はい。そう言う約束なんです。そもそも今のエスタに大金をせしめるようなことできませんよ」
書類に記入しながらそう呟く。
「ガエルさんに頼んで持っていってもらうんです。で、復旧費の足しにしてもらい、お釣りを僕達の報酬にするんです」
「なるほど。赤龍ですしそれなりの大金になるはずですもんね」
書類を書き終え、職員に渡す。
「まぁ、軽く見積もっても金額5枚は妥当でしょ。それにプラスで飛竜とかガエルさん達の魔物の素材もあるし、手紙も出してるからおおよそ金額15枚……街の復興ならお釣りが出ちゃう。最高って話し」
「エルくん……そこまで考えて……」
ロンは嬉しさのあまり、目尻に涙を貯める。
「え!? ロンさん?! なんでっ」
「ロンさんは意外と俺ら思いなんだよ。エスタ城で俺を必死に止めてた時も──」
「エルくん?! やめて下さい!」
なんでよ。
あの時本当に感動したんだから、共感が欲しいんだよ。
「ガエルたちを待つんですよね! さぁ! 行きましょう!!」
「ロンさん、無理やり話題を変えようとしません?」
「してません!!」
◇
協会でガエルを待つこと約2時間。
席に座って喋っていたら、ガエルが声をかける。
「待たせたな」
「お、やっときた」
ん?
なんか全体的に汚れてない?
「どうしたんですか? そんなに服をボロボロにして」
「いやぁ、まぁな。イタカ鉱石取ってたんだよ」
ぱんぱんの腰袋から鉱石を一つ取り出して机の上に置く。
「なにこれ?」
「イタカ鉱石だよ、最高強度の鉱石。採取方法は爆弾で周りの岩を破壊するしか方法がないし、爆発音でクソデカ蝙蝠が襲いかかる採取がマジ面倒な鉱石」
隣にいたリャンが説明してくれた。
「その後ダンパも討伐して大体金額1枚分は集まった」
「流石ガエルさん。こっちも大体金額5枚ほど集まりました」
クルトが軽くそう言うと、ガエル達は顔を見合わせて頭にハテナを浮かべる。
「金貨5枚? そんな額一日で無理だろ。それこそドラゴンとかじゃないと……」
「はい」
「えぇ」
「まぁ」
俺らはそう返事をする。
「……は? いや、だからドラゴンとかじゃないと……え?」
「その言葉通りですよ」
「は? ドラゴンなのか……?」
俺らは仲良く同時に頷いた。
◇
「と言うことです」
ロンさんが一から十まで全てをガエル達に伝える。
「にわかには信じられんが……さっき目の前で赤龍を見せられると納得せざるおえねぇー」
「まぁねぇ、今までのこと見せられて赤龍倒しましたーって言われると流石ーとしかならないしね」
ガエルとリャンはそう言ってため息をつく。
「受理し終わったぞ」
ホルスがそう言って書類を片手に戻ってくる。
「今荷台付きの馬車に赤龍やらダンパやらを乗せてもらってる」
「任務から帰ってもらってすぐで申し訳ないです」
「んーん。どうせ馬車に乗って寝るし、御者がいるから楽だよ」
「あのーちょっといいですか?」
「ん?」
話の内容がよく分かっていない俺はみんなの会話の腰を折り、挙手をする。
「カウンターでブリタリアに金目当ての贈呈するってクルトが言ってたけどそんなこと出来るんか?」
「あ、エルとロンさんには言ってなかった」
クルトは手を叩いて思い出す。
「えっとね、僕、ブリタリア王に貸しがあるんだよ。だから直筆の手紙をガエルさん達に素材と一緒に持ってってもらってお金と交換してもらうわけ」
「お前そんなこと考えてたのか」
「まぁね」
ブリタリア王か……王子なら3人中2人に会ったことある。
一緒に龍を食った中だ。
そういえば第二王子とエスタ領都の令嬢って許嫁って言ってたな。
ミルナって長女だよな……。
「ん? どうしたの? エル」
「いや、ブリタリアの第二王子とミルナって婚約してるよなって」
「なんで知ってるの?!」
クルトは驚きで目を見開き、立ち上がって俺の両肩に手を置いた。
「あのエルが……脳筋のエルが……政治に詳しいなんて……」
「おい、馬鹿にすんなよ。ブリタリアのレストから聞いたんだよ」
「……第一王子?」
「そうだが」
「……へー」
クルトはブリタリアの王族に興味がないのか手を離し、席につく。
「じゃぁ、そろそろ行くか」
ガエルはそう言って、手を上げる。
「見送りますよ」
「ガエルさんよろしくです」
「ブリタリア行くの久々ー」
それぞれ席を立ち、扉に向かう。
「どれくらいでこっちに着く予定です?」
クルトは斜め上のガエルの顔を見る。
「あー、ブリタリアは近いって言っても──、まぁ4日ぐらいか?」
「そんぐらいだね。遅くても一週間になるはず」
リャンはブリタリアに行ったことがあるのか、そう答えた。
「了解です。よろしくお願いします」
「おう。任せとけ」
一週間か……。
意外と長いが向こうもお金の準備があるし妥当っちゃ妥当か。
ん? 一週間……待てよ!? 一週間後って聖神祭じゃん!
こっちにきて一年経つぞ。
早すぎんだろ
◇
「じゃぁ、行ってくる」
協会の外。
大きな荷台には赤龍がデカデカと布に覆われている馬車。
その馬車にガエル達が乗り、手を上げる。
「詳しい話はお茶を濁しとくよ」
リャンは馬車の窓から顔を出してクルトに笑いかけた。
「? なんの話ですか?」
「さぁ?」
ロンがクルトにそう言うが、クルトは両手をあげて誤魔化した。




