41話 金稼ぎ
最近早寝早起きで健康的な生活を送れているよ。
まぁ、食生活は偏ってますけどね。
「ロンさん! エル! クエストに行こう!!」
日が昇る前の早朝。
クルトはそう大声で目を輝かせた。
「あぁ? クエスト?」
俺は素振りに行くための準備をしながらそう返す。
「どうしたんですか? こんな朝っぱらから」
ロンも朝食の準備中だ。
「昨日聞いたんだ。引率のシルバー以上の冒険者がいれば、未成年でもクエストに同行できるって」
「誰に?」
「そりゃぁ、ガエルさん」
昨晩コンビニ感覚でガエルの所に行ってたのか。
「でもなんで急にクエストなんだよ」
俺は木刀を肩にかけてクルトに問う。
「何でって……復興の足しに?」
少しバツが悪そうにクルトは答える。
「ははん。さてはお前、昨日ミルナに言いすぎたって反省してるのか?」
「う……。まぁ、そんな所だよ……」
クルトは耳たぶを触りながらそう呟く。
あれ……。
何だこの既視感……?
「ガエルさんにも協力してもらって、せめて足しになるぐらいの資金調達ぐらいはしたいなって」
「いいですね。私は賛成です」
ロンはキッチンから出て来てそう言うと、俺の方を見る。
「いや、俺も賛成ですよ。でもシルバーランクの冒険者って近くに居るのか?」
「ガエルさんたちはシルバーって言ってたし、ロンさんだってねぇ?」
クルトはニヤつきながらロンの方を見る。
「え、えぇ。まぁ、昔の話ですけどね」
ん?
ロンさんもシルバーなのか?
そもそもシルバーランクになれる冒険者って、限られるんだろ?
知らんけど……。
「ロンさんのランクっていくつなの?」
クルトは頬を上げたままロンさんに近づく。
「え、えっと……ご、ゴールドです」
「ほらね」
「まじ?」
確かにロンさんは前、冒険者として名を馳せていたって言ってたが、ゴールドランクって……。
「僕もガエルさん達に聞いた時、驚いたよ」
「驚くって表現、ゴールドじゃぁ足りないぐらいだろ」
「昔の話ですよ……」
独学で剣術を学んで、さらにはゴールドランクの冒険者って……ロンさんってもしかしてすごい人だったのか。
「という訳で、朝ごはん食べたら協会に行こう!」
◇
エスタ領都の南区。
外に出るためのでかい門の隣に位置する冒険者協会。
外には武装している冒険者がまばらに集まっている。
「思ったより少ないな……」
「まぁ、こんな状況だし仕事もほぼ無いんじゃない?」
クルトはそう言って協会の中へ入る。
「意外と綺麗だ」
俺は辺りを見渡してそう呟く。
「もっと世紀末を想像してた?」
「まぁ、冒険者って言ったら酒、暴力、血って感じを想像してたわ」
「昔はそうでしたけどね……」
ロンは乾いた笑いでそう答える。
「依頼ってどこで受けるんだ?」
「そうですね……多分受付じゃ無いんでしょうか」
ロンは奥にいる局員を指差した。
「じゃぁ、行ってくるから待っててよ」
クルトは俺らの返事を待つ間もなく、颯爽とカウンターの方へ走って行く。
「すごく乗り気ですね」
「ロンさんは乗り気じゃない感じですか?」
「まぁ……」
何か引っ掛かる言い方だな。
「ロンさーん!! 冒険者ランクが分かる物が欲しいらしいでーす!!」
カウンターでクルトが大きく手を振り叫ぶ。
「はやくー!!」
「今行きます」
小走りで俺とロンはクルトの方へ向かう。
「ロンさん。ランクが分かる物ある?」
「ちょっと待ってて下さい……えっと確か──」
ロンは背負っていた小さいバックパックから四角い箱を取り出す。
「ありました。これで大丈夫でしょうか?」
「はい。預かります」
局員はロンから箱を受け取り、開ける。
「え……、嘘──」
局員は箱の中を見るや否や目を見開く。
「ご、ゴールド?!」
その声は協会中に響き渡り、辺りにいた冒険者の耳に入る。
「あ、ちょっ……声が──」
ロンが慌てた様子で局員に言うと、その瞬間、遠くいたはずの冒険者達がこちらに群がり出す。
「ゴールドランクのやつが居るのか!?」
「ねーちゃん! 今なんて言った!!」
「嘘だろ!? この協会にゴールドランクが?!」
「ガエルよりも上がいるのか!?」
え!?
なになに!?
なろう系必須イベント?!
「ちょっと……混雑するので履けてください!」
局員の声は他の冒険者達によってかき消され、観衆がさらに溢れ出す。
「にいちゃんがゴールドランクか?!」
「おいらのパーティに入らんか!」
「待て待て、ウチらのパーティだろ?」
あっという間にロンの周りに冒険者が集まり、おしくらまんじゅう状態になる。
ギュウギュウに詰められたロンは窮屈そうに声を上げる。
「だから乗り気じゃなかったんです……」
◇
逃げるように俺らは依頼を受注し、協会を抜け出した。
「いやー、ここまでだとは」
クルトはケラケラと笑って門へ歩く。
「知っててやったんですか?」
「うん」
ニパッと笑ってクルトが頷く。
「はぁー。もう協会に入りたく無いです」
「ゴールドランクってそんなにすげーのか?」
そもそも冒険者ランクの位ってどこまであるんだ?
「冒険者ランクはね、ビギナー、ブロンズ、シルバー、ゴールド、マスターって上がって行くんだ」
「ゲームみてぇ」
「そういう認識で合ってるよ」
クルトが門兵に通行許可証を見せ、壁外に出る。
「マスターが一番上ね」
「別名、生ける伝説って言われてます」
「カッケェ異名」
南に続く道を歩く。
「ゴールドも冒険者が生涯をかけてたどり着くランクなんだよ」
「じゃぁ、結構居るじゃん」
「生涯だからほとんどがゴールドになって引退する」
なるほど。
確かにそう聞くとすげーんだな。
「私は運が良かっただけですよ。2人だったらすぐに辿りつけるランクです」
◇
「ここだ」
ロンは依頼書を見ながらそう呟く。
「意外と近かったな」
エスタ領都を出て、約3時間。
森の中に位置する洞窟だ。
「ここの中のドラゴンもどきを倒せば終わりなんだろ?」
「うん。ロンさんがゴールドランクだったから高難易度の任務を受けられたからね」
ドラゴンか、一回だけ戦ったことあるな……。
「まぁ、もどきだからそんなに強く無いと思うよ」
「もどきってどんなやつだ?」
「んー、でかいトカゲ?」
でかいトカゲか……。
「トカゲぐらいだったら余裕だろ」
「まぁ、羽もないですし、ブレスもないので楽ではありますね」
ロンは昔戦ったことがあるのか、軽い気持ちで洞窟内へと先陣を切る。
◇
エスタ領都の冒険者協会にて、ガエル達は依頼書と睨めっこをしていた。
「どれが一番金になる……?」
「狼駆除……イタカ鉱石の採取……ダンパの討伐って、どれもビミョー」
壁に張り出されている依頼書は、ランクによって受けられるものが変わる。
シルバーランクになったとしても一攫千金に繋がる依頼はほとんど少ない。
「そろそろ俺らもゴールド受けるか?」
「いや、無理だろ」
ホルスの意見を一蹴するガエルは、高ランクの依頼書を見て気づく。
「おい。ドラゴンもどきの依頼が受けられてるぞ」
「? それゴールドでしょ。そんな高ランクの冒険者ここには居ないよ」
リャンはガエルの背中から顔を出し、依頼書を見る。
「本当だ……。取り下げられた?」
「わからん。それかゴールドのやつがここに来たのか……」
顎に手を置いてガエルは首を傾げていると、後ろからホルスが一枚の依頼書を剥がして言う。
「ロンレルさんじゃね? 昨日クルトくん追加の素材取るって入ってたし」
「そう言えばあの人ゴールドランクだったな。忘れてた」
依頼書を受付にホルスが持って行く。
「何にするか決めたの?」
「あー、鉱石採取」
受付にいる職員に依頼書を渡し、銅板の手形を受け取る。
「えー、地味じゃん」
「うるせーな。じゃぁ自分で選べよ」
ホルスは手形を腰掛けの袋にしまい、入り口へ向かう。
「なんで鉱石採取なんだ? そこの鉱脈の近くはキラーバッドの棲家だろ」
イタカ鉱石の採取といっても簡単じゃない。
シルバーランクからじゃ無いと受けられない理由の一つ。
とにかくでかい蝙蝠の棲家になっているからだ。
「一番高いし、今は冬だ、冬眠してるだろ。さらに途中にダンパにも寄れる。最高のお出かけ計画だ」
ホルスはニヤリと笑い、扉を開けた。
◇
ドラゴンもどきなら余裕と鼻くそほじくって、鼻で笑っていたアホ面の自分に言いたい。
洞窟内でふざけ合っていた自分を殴りたい。
正直舐めてた。
いや、これは舐めるも何もイレギュラーだ。
「どうして本物のドラゴンが居るんだよー!!!」
洞窟から逃げ出した俺たちは森の中を全速力で走っていた。
「ドラゴンもどきのもの字もねーじゃねーか!!」
「ドラゴンもどきのドの字はあったね」
うるせーよ。
こんな状況でふざけてる場合じゃねーだろ。
「まさか赤龍が冬眠しているとは……」
「ロンさん、ドラゴンの討伐経験は?」
すぐ真後ろから迫ってくるドラゴンを尻目に俺はロンさんに救済を求める。
「無いですよ」
「ですよねー」
全長50メートル以上はあるし、空飛んでるし、めっちゃ怒ってるし、どうすんだよこれ。
「エル。ここは作戦だよ」
「お! なんか策があるのか!?」
流石はクルト。
頭の回転が速い。
「僕らは真っ直ぐ走るからエルは真横に走って逃げて」
「は? クルト達が囮になんのか?」
「エルなら近づきさえすればなんとかできるはず」
なんとかって、相手世界最強のドラゴンだぞ。
「頼んだよ。この作戦はエルにかかってる」
「……わかったよ」
「さっすが!」
クルトはさらにスピードを上げ、先頭に出て走る。
「纏魔を使って全速力でっ!!」
クルトの言葉通り魔力を纏い、急カーブで真左に走る。
「……ごめんエル。これも作戦なんだよ」
「おい!? 今なんて言った!??」
その瞬間、クルトは魔術で無理やり曲げた岩をドラゴンの左頬にぶつける。
まるで俺がドラゴンに攻撃したかのように、俺の方を向かせるように……。
「ドラゴンは目が良いんだよ。魔力を見れるほどに……」
ドラゴンの目には纏魔で魔力を覆っている俺が魔術で挑発した様に見えたのか、すぐに目標を俺に変える。
「てめぇ! クルト! ふざけんなよ!!」
「囮作戦成功!」
「無情すぎやしませんか?」
ロンは遠くなっていくドラゴンを見上げながらそう呟く。
「よし、ロンさんさっきの洞窟に戻ろう!」
◇
「はぁはぁ、殺す……絶対に、あいつは、この手で……やってやる……」
赤龍を押し付けられた俺はただひたすらに走っていた。
「あいつに心はあるのかよっ」
いや、無いな。
初対面で魔術を撃って、禁止された魔術を庭で放って俺のせいにしたし、俺の冗談を一生擦るし。
そう考えたらあいつだいぶやばいやつだな……。
「いや、そんなこと考えている場合じゃないだろ!」
ふと我に帰り、振り返る。
「逃げるのは辞めだ! 埒が明かねぇー!」
ドラゴンを睨み、戦闘体制を取る。
「さぁ! かかってこいよ!」
赤龍は猛スピードでこちらに向かい、口を閉じ何かを溜める。
「おい……これって、やばいやつ?」
赤龍の閉じた口の隙間からプスプスと炎が飛び散る。
「まっずい!? ブレスがくる!!」
再び赤龍から背を向けて走る。
「まずいまずい、焼け死ぬ未来が俺の脳裏に……!」
逃げていると目の前に深い川が見える。
「やべっ! 行き止まりかよっ!」
でも後ろにはブレスを吐く1秒前のドラゴン。
前には川……。
終わりました。
背水の陣なんて言葉はただの心の持ちよう。
だが、今この状況では持つ心なんて、そんな余裕なんてあるわけない。
「チキショウ! もうどうにでもなれ!!」
俺は覚悟を決めて川の中へダイブする。
飛んだのと同時に赤龍の炎が頭を掠る。
「あっつぅ!! ぶばっばっぶぅ!!(いやっさっむぅ)」
冬の川、その温度はまるで極寒の中裸でいるような感覚。
だが、その感覚もすぐになるなった。
『お、意外とあったかい?』
赤龍のブレスのおかげで川の水はぬるま湯にわかっていた。
◇
「さて、ロンさん。罠でも仕掛けましょうか」
「罠ですか?」
洞窟内に戻ってきたクルトとロンは赤龍の巣まで潜っていた。
「前に本で読んだ通りなら、ドラゴンは体力が少なく、さらに寒さに弱い。回復するためにすぐ巣穴に戻ってくる習性があるはずなんです」
「へー」
クルトは巣穴になっている洞窟内の少し上、大きく空洞になっている場所へよじ登る。
「よいしょっと……お! ロンさん!! ドラゴンの卵があるよ!」
「卵? こんな時期にですか?」
「ドラゴンは孵化まで2年はかかるんです! あっても当然ですよ!」
興奮しているクルトは巣穴へと入り、卵を慎重に持ち上げ、ロンさんの方へ持って行く。
「ドラゴンの卵は高く売れますよ! それこそ一個金額一枚以上で!」
「マジですか!? 何個あります!?」
クルトは巣穴の中を見渡し卵を探す。
「んー、2個ですね」
「金額2枚……。すごい……」
ロンはクルトから卵を渡され、それをゆっくりと地面に置いてゆく。
「さて、ここに魔術の罠を作ります」
「? 魔術で作れるものなんですか?」
「時差で発動するように魔力を込めておけばいけます。でもドラゴンは魔力に敏感なので、今回はドラゴンから漏れ出す魔力を使って発動できる魔術にします」
ロンは理解出来なかったのだろう。
とりあえずで返事をして、ドラゴンの卵をリュックに詰める。
「えっと、まずは氷系の魔術だから水魔術を媒体に……活性をプラス1の、魔力の導線を……ここはマイナスで、こっちは……」
「なにかすごいことを言っているような……でもなんかわかるような……いや、やっぱり全くわからないですね」
ロンはクルトの真剣な独り言に耳を傾けていたが、すぐに反対側の耳から出て行くため、諦め、辺りをウロウロし始める。
「えっと……ここが六角形になって……速度の変更と、温度の変更……範囲の拡大をすれば……よし! 完成!!」
クルトがそう叫び、巣穴から飛び降りるとすぐにロンの方を見る。
「早く外に出よう! 多分今頃エルが何かしらのアクションでドラゴンにダメージを負わせてると思うし」
「そうですね、他は特にめぼしいものは無いですし」
2人はそう言いながら走って洞窟の外へ出る。




