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その、3 狐さんたちの初外出



 水曜日の朝、

「父と祖父に連絡が付きました。

 今週の土曜日の午後にどうかでしょうか? 申し訳ございませんが、その後は5月いっぱい仏滅にしか予定が合わないようです。いかがいたしましょうか?」

と加奈が大学へ行く前にやって来た。神域に引っ越してきてもいいと言ってあるが、大学卒業までは今の家で暮らすと話しているので、朝から見ることは滅多にないのだが。

「お日柄が悪いか。わかった、その日で調整して貰えるように頼んでくれ」

「はい」

征也は気にしないが先方はお年だし六曜も気にする、土曜日は先負だ。午後からなら問題ないだろう。

「ご実家は手土産を持って行くのに何がいいと思う? 甘いものが好き? おせんべいとか塩系がいい?」

「甘いものは良く戴きますが、母と妹以外は食べませんのでおせんべいのほうがよろしいでしょう」

「分かった、おせんべいね」

そこへ安倍がやって来た。

「失礼いたします。東山のお嬢様がいらしたという事でしたので参りました」

「どうなさいましたか?」

「結婚までの進行について、こちらは私が万事手配するよう坂本補佐より言いつけられましたのでご報告いたします。そちらは家令の榊原殿にご連絡を差し上げればよろしいのでしょうか?」

「ええ、一度榊原にご連絡ください。おそらく実行役は執事の青木になるとは思いますが、こちら側の責任者は榊原になると思います」

「かしこまりました」

安倍は一礼して出て行った。




 今回は外を散歩して神社に参拝しカフェが開く頃に入店して混む前に帰ろう、と計画している松林達は狐さんを連れて邸宅を出た。

「見た目は問題なさそうですか?」

「そうだな」

ダンジョンで合流した波川(叔父)と征也は通販したと言う狐さん達の恰好にチェックを入れる。カラーシャツにチノパンという特別何もない装いだが、顔偏差値だけがやたら高く妙に上手く着こなしている。

「やんちゃ系大学生に優し気な美青年とお色気系の30代くらい? どこのホスト集団だって見た目だな」

「ただのシャツとパンツなんですけどね? やっぱり顔ですか?」

「顔だな」

狐さん達の横にいる松林も妙に緊張して落ち着かない様子だ。

「やはりこれはナンパされますよね?」

「……人の少ない所で慣らそう。躱せるようになるまで練習あるのみだろうな」

「平日の午前中って時間帯だからまだマシでしょうか?」

「そう思いたいところだが……」

と話してから波川は狐さん達と松原を促し一般道へと足を向ける。その20mほど後を征也が周囲に注意しながら付いて行く。

「まだ三分の一も行っていないのに」

出発してから早速おばちゃんたちの井戸端会議に巻き込まれ、それを通過したと思ったらまだ若いお嬢さんたちにナンパに遭っている。

 平日とは言え、平日が休みの職種もあるもんね! 夜勤の仕事もあれば年中無休の交代で休みを取る職種もあるもんね! 知ってた!

 不運に手を合わせながらも目の前では何とか波川にあしらい方を実演して貰ったらしい狐さん達がお嬢さん方の隣を通過して行っている。だが道の向かい側の美容室の店員さんはタオルの洗濯物を持ったまま固まったようにジーッと見ている。

「地味に怖い……」

そうこうしながら稲荷の神社についた。揃って参拝を済ませると

「はーっ、怖かったですぅ……」

見た目とっても生意気そうなやんちゃ系なのに涙目になっていた気弱な狐さんの雲母君は、手水舎に寄り掛かってべそべそと泣き出した。

「お疲れさまでした。後半はちょっと短いから頑張ろう?」

松原さんが必死で宥めている。泣きべその狐さんを右手で、疲労困憊の狐さんを左手で背中をあやすように撫でていた。流石の波川も大きな一息をついていたが、もう一匹の狐さんはケロリとしていて余裕がありそう。

「お前、余裕ありそうだな」

「そりゃそうだ、今日は関係のないお嬢さんばかりだろう? 本体は上司のご友神が来るたびに接待させられていたからな、身を護るためにあしらい方も上達するわな。下手すると命の危機だ、妖怪の絡新婦と深い関係になってみろ、産卵にむけて栄養付けるためにって物理的に食われるぞ」

そうか、神様の世界でも逆らえない関係に色目使われて苦労することってあるんだね。それにしたって例えが怖いよ。

「あ~、そりゃ命の危機なら必死こいて身に着けるか」

全員が同情した目で見た。そうだね、庚君は真面目そうで優しそうな美青年の見た目だからね。但し見た目だけで笑って毒を吐く見た目を裏切る性格だ。

「さて、大丈夫そう? もう少し休む?」

この後はカフェに入って外の食事をしてから帰る。時間はもう10時半、そろそろ早いお昼かブランチの客がカフェに入り始める頃だろう。混む前にサクッとお店体験を済まさねば。

「いえ、もう大丈夫です」

「僕もです!」

健気にも回復をアピールしている彼らだが頬が微妙に不自然な引き攣り方をしている。

「無理しないでね」

「はい」

美青年を引き連れているが、松原さんも波川さんも気分は保育士さんなのだろう。いつぞや男子寮の寮母さんになった気分とか言っていた気がする。狐さんの中には女性もいるが少々参入が遅かったので今の所、尻尾が3本で耳と尻尾を隠す幻術が使えないため外出体験には入っていない。

「では出発します」

悲愴な決意の表情をしていた彼らだったが、カフェまでは何の問題なくたどり着けた。6人席を作って貰いホッと一息ついた。だが数人先に来ていた客人の視線がうるさい。

「ついた~」

「ここのカフェはランチ、パスタとハンバーグって。どっちにする?」

住宅街と繁華街のちょうど間に位置するちょっとおしゃれな広いカフェ、店員さんはフロア担当に数人いるのでトラブルがあったら対応してくれると期待してここを選んだ。……個人営業で店主が引っかかったら目も当てられないと言う思いもある。これは店主が悪いのではなく距離が近いと神気に中てられて引き寄せられてしまう可能性があるのだ。

「僕はんばーぐ!」

「パスタにしましょうか、野菜がたっぷりのソースのようですし」

「俺はハンバーグ……雲母、デミグラスと和風の別々に頼んで半分こするか?」

「はい!」

雲母君は嬉しそうに頷いた。波川さんはちょっと波川(甥)の幼い頃に似ている雲母君には甘い。とっても甘い、まるで幼児を相手にしているような扱いだ。

「波川さん、あまり甘やかさないで下さいよ」

庚君から苦情が入っている。その隣は見た目色気のある大人の男性なのに色気より食い気の信楽君、店内にまばらにいる女性からの熱い視線には目もくれずメニュー表を真剣な表情で食い入るように見つめている。

「ケーキはお持ち帰りできるから、それ以外で頼むといいよ」

「う~ん、じゃあパスタにする」

「俺もパスタですね。意外と米ばっかりでパスタ系は食べないので」

稲荷の眷属だからお供えは主に米だよね、ハンバーグセットはライス付きだから。

 オートで周囲を警戒しているが、今の所危険な行動をとっている人間はいないし許可なくカメラで撮っても存在自体が映らないというちょっぴりホラー仕様になっている。

「さて、ここまでで何か質問はある? 段々距離を伸ばして、慣れてきたらいずれは繁華街近くまでの巡回を頼もうと思うから何でも質問して」

ダンジョン内の様な邪気の塊である魔物は出なくともその前段階の邪気の種が自然発生している場合もあるので、ご近所で発見された分だけでも回収して浄化しておきたいところだ。どうにも神々は気脈が塞がるほどに邪気が溜まっていても放置していた所からこの件に関しては信用ならない。しっかりとこちらで予防策を考えていた方がいいと思う。

 意外に多くの質問があり、質問に答えたり検討したりしているうちに運ばれて机の上にあった料理は綺麗になくなった。少しずつ来店客の数が増えてきたので帰ることにした。

「信楽君、どのケーキ持って帰る?」

信楽君は喜んで6つ包んでもらっていた。松原さんは他の子たちにホールのケーキを2つ、庚君は珍しいのかサンドイッチを持ち帰りに頼んだ。

 さっさと帰ったのだが、帰り道でまたカフェに来店するつもりだったお嬢さん方に絡まれ、うんざりしたような視線を通行人の男性たちから向けられ

「もう、外に出たくない」

と帰り着いた時には信楽君が泣き言を言いながらぐったりしていた。散々雲母君の盾にされた波川さんも唯一の女性として嫉妬の視線を受けた松原さんもぐったりしており、元気なのは庚君だけだ。征也も疲れたので次回の予定を打ち合わせて早々に退散させてもらった。








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