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その、4 もうすぐゴールデンウイーク




 実家に日程を頼んで数日、連絡が来た。

『ゴールデンウイーク中ならいつでもいいって』

「わかった。じゃあゴールデンウイーク中に帰って来る」

『大丈夫なの? 今から交通機関のチケットは取れないんじゃない? 車で来るの?』

「多分ゴールデンウイークに入る前か終わる日に来ると思う。今回は課の仕事としての結婚だしその辺りは融通してくれると思うから。ところで、神前式にするけど他にどういう式にしたいとか希望はある?」

こういう時の空間移動だ。別にチケットが取れなくても関係ないが今の所こっち側に家族を引き込むつもりはないので理由を付けて違和感のないように説明しておく。

『征也ー、そういうのは詳しくないから叔母さんに頼みなさい。ほら、お父さんの方の静香おばさん』

「ああわかる。叔母さんの所の電話番号教えて」

静香叔母さんは父の弟の妻で、親戚に一人はいるであろう決まり事や仕来りにうるさい世話焼きの叔母だ。確か何度か親戚の結婚も世話していたはず。

『ちょっと待ってね』

母から番号を聞いて叔母に連絡をする。

「こんばんは、征也です。轟の……」

父の家の地名で自分だと分かってくれると思いたいが。

『あー!! 征也君、久しぶり、元気だったかい?』

出たのは叔父だった。

「はい、叔父さんもお元気そうで」

『どうしたの? 何かあった?』

「あ、結婚が決まりましたのでその連絡と、叔母さんに結婚に関する色々と教えて頂きたいと思って連絡しました。叔母さんいらっしゃいますか?」

『そっか、おめでとー! ちょっと待っててね、すぐ呼んでくる。……おーい! おかーさーん!』

ややあって

『はいはい代わりました、征也君?』

と叔母が電話口に出た。

「はい、お久しぶりです叔母さん」

『結婚するんですって? おめでとう!』

「ありがとうございます」

『征也君って今東京だったわよね? お相手は向こうの方?』

「はい、ずっと東京で育ったそうです。良い所のお嬢さんで結納からしようって話になっていて、実家の習慣とかが全然分からないので……」

『そう、どうやって知り合ったの? どの辺りで困っているの?』

「上司から紹介されたお見合いです。ええっと、顔合わせの食事会をしてから結納をする予定ですが、それが仲人を受けてくださった課長夫妻も東京育ちですから」

『こっちの習慣が分からないのね? 結納だけ手伝えばいいの? それともその後も?』

「はい、できれば結婚式までお願いできますか? 結納のことと、あと和服のこともお願いします。結納もですし、結婚式も着物になると思うので……。多分結婚式はほぼ和服でちらほら混じる警察の制服になるはずなので洋装だと若干浮くかなと」

叔母は和服関係にも詳しいので親戚関係で色々と調整してほしい所だ。

『征也君って何してるの? そんなに和服の人が多いなんて相手は何をしてる人? 』

「俺は警察の委託の仕事をしています。茶道関係と神社関係者と……ああ、相手の肩書としては大学4年生です。ただ、実力主義の業界なので俺よりずーっとしっかりしてますけどね!」

若干ヤケクソの気配が口調に混じりながらも説明する。

『警察と茶道と神社の関係者ね……。これは小物まで気合を入れて着物と組み合わせないと笑われるわね』

滅茶苦茶奇妙な組み合わせであるが仕方ない、場におかしくない装いをお願いします。

「そうなんですよ。うちの親はそういう和服関係は全然ですから。

 一応8月に結納の予定ですが確定ではないのでもしかしたら前後するかもしれません。

 それと他の挙式の際に呼ぶ親族の選定と……先のことになりますが結婚式に着ていく着物も。まだ挙式の時期は決まっていないのですけどね」

『そう、となると後3か月くらいかしらね? その仲人さんを早目に紹介して頂戴。着物を借りるにしても両家の格を合わせたり結納の内容を話し合ったりもあるから』

「はい」

そのことを課長と安倍に伝えると課長が対応してくれると言う。電話連絡だけでもさっと済ませてその後は向こう側とのすり合わせは安倍が担当するとか。




「兄さん翠が上京したいって言ってるけど、お金がないから兄さんに頼りたいって言っていたよ。どう?」

やっとマンションに帰って来たと思ったらそんなことを言われた。

「統也、夕飯はなに?」

「ごめん、失敗したから先に謝っとく。ブリ大根にしてみたけど、なんか……とても生臭い? ショウガ少なかったのかな?」

どうやら初挑戦らしい。実家でもほとんどしていなかったらしいので仕方ない。

「どうだろう? ネギの青い所を入れるとか……下処理はお湯かけた? 塩振って水で洗った?」

生臭くて失敗なら下処理の失敗だろうか。

「塩振って洗ったほう」

「うーん、もしかして塩振ってすぐ洗ったとか? 20分か30分置いてから出てきた水をしっかり洗った方がいいみたい」

それくらいしか思いつかない。

「あ! すぐ洗った。水が出るまで置いておくのか、次からはそうする」

「そういえば本棚の料理の本って結構下処理とか書いてない古い奴だったはず。初心者用の新しい本買ったら? 

 翠はいつ?」

キッチンに入るとブリ大根の鍋と味噌汁の鍋がコンロに並んでいた。そうか、今日の味噌汁の具は白菜としめじか。

「ゴールデンウイークって頼まれたけどもう無理だろって言ったら夏休みって。新幹線も飛行機もずっと前に予約埋まってるだろ?」

「まあ、行楽シーズンだから無理だね」

征也がゴールデンウイーク中に帰るのは空間移動ができるからだ。そうでなければ帰ろうなんて思わない。

「それと大学もこっち希望って」

「ふーん……あ、忘れてた。俺、結婚するって言ってなかったよね?」

夏休みと言えば顔合わせは兄弟を入れてしようという話になっていたはずだ。

「聞いてない。いつ?」

案の定言っていなかったので驚いた顔になっている。

「式自体は来年2月から5月くらいを予定しているけど、夏休みに家族の顔合わせをしようって話が持ち上がっているよ。終わってから観光に1日か2日とればいいんじゃないかな?」

「ああそうだね」

「どっちにしろ父さんの予定次第かなー? 母さん何か言っていた?」

「いや今聞いた」

「ん? 翠が何とかって言ってたのは、母さんがどうしたいとか意見入っていなかった?」

「いや顔合わせの話が今聞いた。

 翠は国公立か偏差値65以上の私立じゃないと上京は駄目って反対されたから兄さんに頼みたいって言っていたんだ。成績総合すると足りないらしい。顔合わせの話は伝えておくよ」

「日程の件もあるし先に母さんに聞いた方がいいかな? 大学の件は親が良いって言ったら出してもいいけど、ダメって言ったら出さないよ。いただきまーす」

反対されたか、まあ東京に憧れるお年頃ではあるかな? 首を傾げながらもご飯を食べ始める。

「何で?」

「何でって……子どもの教育方針に責任を持つのは結果的に保護者でしょ? きちんと説得できるだけの理由があれば許可もらえるんじゃない?

 人の欲って際限ないからね。贅沢覚えさせてその先に身の破滅があるならどこかで線引きするべきだけど、その上限を決めるのは俺じゃなくて今まで育ててきた親の役目かと思う。今まで分相応の生活をさせてきたのに突然外から兄がぶち壊すわけにもいかんでしょ」

可能な限り責任逃れをさせてもらおう。いつ神域に引きこもりになるか分からない職業:神様だ。現世にいつまでいられるかは分からないし、上からある日突然神域から出るなと言われかねないのだから。

「大袈裟じゃない?」

「いやいや、大学進学って人生の一大イベントだからね? まあ、それを餌に学習意欲を引き出してレベルの高い大学に行かせるとかなら、全然構わないんだけど」

「兄さんが親代わりとかは?」

何だか妹に甘くないかい? 優しいと言うより甘い? 踏むべき段階は本人に踏ませた方がいいような気がするのだが。

「翠が大学入る頃には結婚しているからな~。今はこうして半分統也の保護者みたいに帰って来るけど来年結婚したらどうなるか分からないし、状況次第では全く帰って来なくなるかもよ? 更に子どもでもできたら完全に放置になるかもよ? そうなったら保護者居なくて自分で対応することになるでしょ?」

「あ、それもそうか。僕も来年からは気を付けないといけないのか」

今言っていた話ではあるが自分の実生活に直結することがあるとはあまり考えていなかったのだろう。

「何か学びたい学部があるの? それとかあの教授にって思う人がいるとか」

「さあ? 上京したいとしか聞いていないけど」

「そう? この間観光したばっかりだからちょっと浮かれているのかな? まだ2年になったばっかりだし来年になってから現実的に考えればいいよ。渚も? 一緒に上京希望とか聞いた?」

「渚? 模試の結果と学部とそこの国試の合格率で考えるって」

「あ、そーなんだ。なりたい仕事があるならいいと思う。資格があれば何かあっても他で雇ってくれる可能性もあるし、多少安心かな。資格とっても俺みたいに全然関係ない仕事に付くのもアリだけど。

 何事も距離感とバランスが大事だよね。何でも手を貸してあげればいいってものじゃないよ」

昨日買ってきたブリは塩焼きか照り焼き位かと思ったが、ぶり大根になっていてちょっと嬉しかった。味もまずまず美味しいが確かにちょっと……大分生臭い。

「統也は前期試験いつ終わるの? 顔合わせ夏休みの予定にしてるけど」

「7月末から8月頭。8月も2週目からは予定入っていないから決まったら早めに教えて」

「分かった」

あとでこっそり煮汁を捨てて生臭くないようにやり直しておこう。これならまだ<知る能力>で検索し修正が利くことを知っている。明日の朝はまだマシなブリ大根が食べられるだろう。

「どう?」

「うん……生臭い。大丈夫、俺も昔やったことがあるから」

「ごめん」

「何事も経験だよ。そんなこともあるさ」

一人暮らしを始めた最初にただ水で洗っただけで塩も振らずに作った征也の初回作よりは断然マシだ。超不親切な料理本は祖母が使ってたものを譲り受けた……つまり何十年も前の本だからもう引退させた方がいい。今時の本は知っているものとして記載を飛ばされた下処理から書いてあるのだから。







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