とある男の独白
閲覧いただき、ありがとうございます。連載版でちょこちょこ出ている彼のお話です。かなり短めのお話です。
この世界は何かおかしい。
俺は、幼い頃から妙な既視感に苛まれていた。
その既視感は歳を重ねていくうちに、一つの確信に変わった。
俺には前世の記憶があるのだ、と。
その結論に至ったのは、この世界で暮らして数年が経ったある日。
噴水広場で1組のカップルのプロポーズシーンを目の当たりにした時だ。
俺は、ふと幼馴染のアイツが見たら、はしゃぎそうだな、と思ったのだ。
今世の俺には幼馴染がいない。
では、幼馴染のアイツとは誰だろう、と記憶を辿っていくうちに、それは今世の記憶ではなく、前世のものだと気がついたのだ。
幼馴染のことを思い出した俺は、この世界全てが幼馴染が好きだった乙女ゲームの世界に見えてきてしまった。
1人の女があらゆる性格の男達を攻略していく恋愛ゲーム。正直、男の俺には何が楽しいのか分からなかったが、いつも仕事に疲れていたアイツがゲームの話をしている時だけは嬉しそうにしていたのを覚えている。
俺じゃなくて、アイツが此処に転生してくれば良かったのに。
女向けの恋愛ゲームの舞台のような場所に連れてこられても、正直全然嬉しくない。
それに、自分の名前は前世でアイツがやっていたゲームのキャラクターにいた気がする。
興味がなかったので、うろ覚えだが、この俺がアイツがやっていたゲームのように女に砂の吐くような台詞を言える気がしない。きっと気のせいに違いない。
俺の通っている学園内では、玉の輿に乗った女の話がシンデレラストーリーとして語り継がれているが、それも偶然だろう。
何しろ、アイツが言っていたヒロインとやらは、庇護欲を唆る愛らしさが特徴だと言っていたが、あの女は妖艶さはあるものの、可愛らしさなど一切なかった。寧ろ、周りの女とバチバチ闘っている強かな女だった。
アイツのことを考えると、嫌でもアイツとの最期を思い出してしまう。
仕事に疲れたアイツを励まそうと思って、有給使って、アイツと映画を観にいくことにしたんだ。
乙女ゲームの映画化なんて、男の俺が見るには苦痛でしかなさそうだったが、アイツの笑顔が見れるならとチケットを買ったのを今でも覚えている。
だが、結局そのチケットを使うことはなかった。映画に向かう途中、俺とアイツは交通事故に遭った。
最期に覚えているのは、トラックとぶつかった衝撃と、幼なじみを庇おうと思い切り公園の方に突き飛ばしたこと。
俺はその事故で死んでしまったから、アイツが生きているのか、死んでしまったのかは分からない。
もし、生きているのなら俺の分まで幸せになってほしい。
もし、俺と同じく、死んでしまったのなら、この世界にアイツも居て欲しい。
アイツが仮に同じ世界に転生していたとしても、どんな姿になっているのか分からないし、記憶もないかもしれない。
でも、この世界ならアイツはきっと幸せになれる気がするんだ。
前世のアイツは毎日仕事に追われ、暇な時間があれば、現実を忘れる為に、二次元の世界に没頭していた。だから、きっとゲームのような世界で暮らせば、アイツも喜ぶんじゃないかな。
「アイツ、どうしているかな…」
男の呟きは虚空に消えた。
この男が薄々、察している通り、ここは乙女ゲームの世界であり、男は攻略対象である。
しかし、悪役令嬢に転生したが故に、乙女ゲームの要素と出来るだけ関わらないようにしている幼馴染とこの男が出会う日は果たして来るのだろうか。
その未来は誰にも分からない。
第三の選択肢、現れるか?というフラグを残しつつ、ひとまず完結させていただきます。
短編の感想を元に連載版を半ば勢いで始めてみました。蛇足になってしまっていたら、申し訳ないです(汗)
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【追加告知】
2月24日6時に続きの連載として、新しく「婚約破棄された王子と文通をしていた悪役令嬢は乙女ゲームの世界で必死に生きているようです。」というタイトルで連載モノを投稿しました。もし、2つの選択肢を選ばなかったら、というIFストーリーになっています。新たな第3の選択肢も出てくるので、見ていただければ、幸いです。