第八十九話 来栖と華花実の修行(三)
一矢は一つ目を終わらせて、二つ目を言い始める。
(二つ目は来栖さんの貴女に対する思いです)
それについて思い当たることは恋愛。
しかしそれは華花実でも分かっている。
なら他にあるということになる。
一矢は攻撃を止めた。
「ん?」
来栖からしたら突然攻撃を止めたことになる。
華花実と一矢が何かしていたことは来栖には何も知らないこともあり、よく分からない状態だ。
「来栖さん」
「はい、なんでしょうか?」
「この際、はっきり言ってはどうですか」
「何をでしょう?」
「自分も助けられているということ」
「え?」
その言葉に華花実は驚いてしまった。
「何のことでしょうか?」
「そのようなことを言っても意味はありませんよ。こちらも調べているので」
「はぁ…、隠しても無駄ということですか」
幾ら誤魔化そうしても事前に一矢は情報を貰い、詳しく知っている。
来栖のことも華花実のことも。
「来栖さんは幼少期から本を読むことが好きだったこと。華花実さんは会話することが苦手だったこともあり、一人で遊ぶことが多かったこと。二人の出会いは学校ではあったが、ちゃんと喋るようになったのはそれから数日経ったことだということもね」
「色々と知っているのですね。まぁ、いいでしょう。この際全てを話します。そうあれはモイヒェルメルダー学園に入学した日……」
ーーーーーー
既にモイヒェルメルダー学園にいた太助、小雨、摩利は中等部から入学する生徒を教室で待っていた。
そこに現れたのが、今いない匠、あとは来栖と華花実。
「俺は匠だ。誰にも負けねぇように日々努力していくつもりだ」
この頃から匠は勝ちにこだわり、日々鍛えていた。
「私は来栖と言います。特に言うことはありません」
この時は普段から本を読むことも多く、ここに入る前から本を読んでいた。
今とは少し違う様子で、あまり言葉を発することはなかった。
「え、えーと、は、華花実です。よ、よろしくおおおおおお願いししします」
今よりも動揺が激しく言葉を発することが難しかった。
この時は教師から指摘もあり、『テレパシー』を使わずに自己紹介をしていたからというもあり、より動揺が激しかったのかもしれない。
それから数日間、初等部組である太助達はそれぞれに会話するようにしていた。
匠は比較的に会話をしてくれるのだが、修行を優先する方が多かった。
来栖はいつも本を読み、会話をするのを拒んでいた。
華花実は会話しようとするのだが、声を出そうが『テレパシー』を使おうが、あまり会話に成立することはなかった。
そんなある日、来栖は外のベンチで本を読んでいた。
すると、遠くに華花実を見つける。
華花実は校庭にある花で遊んでいる。
「あの人は華花実さんと言っていましたね」
来栖は立ち上がり、華花実の所に行く。
「華花実さん」
「ひっ」
来栖が声をかけると華花実はびっくりして後退りをする。
「すみませんでした。少しお話ししませんか?」
来栖は謝り、座る。
華花実は少し間を空けて座る。
「花が好きなんですか?」
来栖の問いに華花実は頷く。
「そうですか。花のことで何か教えることができますけどどうしますか?」
来栖がそう言うのだが、華花実は首を横に振った。
「分かりました。明日もいますか?」
その問いには頷いた。
それから二人はここで話すようになった。
ほとんど来栖の一方的ではあったものの、少しずつ華花実は『テレパシー』で応えるようになる。
それが続いていき…
「華花実さん」
(な、何ですか?)
まだぎごちない華花実に対して来栖は言った。
「ご迷惑かもしれませんが、いつの間にか貴女のことが好きになっていました」
突然の告白。
華花実は突然過ぎたのか、それとも言われたのか、顔を伏せてしまった。
「す、すみません。嫌でしたら…」
華花実の反応に来栖は戸惑ってしまう。
それを見て華花実は来栖の手を触る。
(い、嫌じゃない。わ、私も好き)
返ってきた応えはOKだった。
ーーーーーー
「あれから私達は一緒に過ごすようになりましたね。でも、私の気持ちを知らないということは『テレパシー』で心の声を聞いていなかったのですね」
そもそも『テレパシー』を使って心の声を聞いていれば、来栖も助かっているということも知っていたはず。
それを知らないということは来栖に対し『テレパシー』を使っていないということだ。
(だって、心の声…怖い)
この能力の恐ろしいところは能力自体が赤ちゃんから持っているため、人の心の声が垂れ流しのように聞こえることだ。
人の善悪が直接伝わり、華花実は人間どころか動物全体で恐怖するようになっていた。
それに心の声を聞いたことを容易に話してはいけない。
それが過ちになることがあるから。
ただ、来栖の場合は少し違う。
最初こそどういう人なのかを確かめるのに心の声を聞いていたが、その時の来栖は本だけを興味を持ち、そこに華花実のことが入ったようなもの。
そこに悪はなく、ただ何に興味があるのか、どうしたら話してくれるのかと悩み、努力しているように華花実は感じた。
しかし、それは仲が良くなるほどに華花実は心の声を聞かなくなっていた。
聞いてはダメだと思ってしまったからだ。
それからは来栖が言ったことを応えるだけで済んでいた。
でも、実際には怖かったのかもしれない。
来栖が自分を悪く言っているんじゃないかと少し思っていたからだ。
色々と考えていた華花実だったが、来栖は心の声を聞かれようが聞かれまいが、気にする様子は見慣れなかった。
「ではこの際言いましょう。貴女は私を本という世界から現実へと戻してくれた」
幼少期から本を読むようになり、周りを気にすることなく、本という世界に来栖は入り込んでいた。
そこには来栖にとって興味深いものが沢山あった。
知識、物語、作者の思いなど、本から伝わるものが多かった。
「あの日、貴女を物語のお姫様のように思えました。どこか世界や人、ほとんどの者に否定しながらもどこか寂しそうでした。貴女は心の声が聞こえなかった植物だけが心の拠り所だったんじゃないですか?」
校庭の庭。
物語のような大きな城にあるような庭ではないが、周りは花があり、その中心にいる華花実。
周りは明るいのにその中心だけが暗い。
目に見える訳ではないが、来栖は感じてしまった。
寂しさを。
唯一心から信用できるのが花というか植物だった。
植物は自我を持たない。
つまりは思考を持たないのだろう。
植物だけが『テレパシー』の範囲外であり、動物は範囲内だった。
(私は…怖かった。でも植物は気にする…必要はない。それが…最善だと…思ってた)
怖い思いをするくらいなら、関わらない方を華花実は選んだ。
「私は違うと思った。本の中は思い通りだけど、幸せだって不幸せにだってできる。現実は難しいって言いますけど、必ずそうなるとは限らない。人生はずっと不幸ということにはならないから。誰にだって一度は幸せがあるからと」
華花実は生まれた時から『テレパシー』によって不幸続きだった。
それが当たり前ようになっていた。
しかしそんな物語は来栖の本にはなかった。
どんな本にだって幸せはあると。
「すみません。まだ私は本の世界にいるかもしれません。でもその本は私と貴女の本になるでしょう。そこには友人がいる。私達にはなかったものです」
モイヒェルメルダー学園に来るまではお互い一人だった。
二人の本には書かれていなかったもの。
それが今では話せる友人がいる。
頼れる仲間がいる。
「私は貴女に幸せを贈る。だから、貴女も私に幸せを贈ってくれませんか?」
どこか告白のような言葉。
(私は………感謝したい。そして…続けるように。だから……贈り返したい)
二人は近づき、手を握り合う。
「一矢さん、もう大丈夫です」
「長かったね。私の方が気まずくなっちゃうよ」
「すみません。でも行けます。私達の新たな力をお見せします」
「そう、じゃあ行くよ」
一矢は弓を構える。
来栖と華花実は手の握りを強くする。
『思考確率変動』
一矢から放たれた数本の矢。
それが二人に向かっていく。
しかし、一、二本は腕に掠めてしまったが、それ以外が外れた。
「私の思考を通じて、私の攻撃の命中率を下げた」
一矢は少し冷や汗をかく。
元々『確率』は相手に干渉することはできない。
さらには向かってきた攻撃も干渉することができない。
だから、どこから来るか、どうやって躱すかに『確率』を使っている。
それを華花実の思考に潜り込む能力を使い、相手の命中率を下げることに成功した。
もちろん…
『思考切断』
一矢が矢を射る時、矢羽を持つ右手が動かなくなり、矢が落ちる。
この能力はまだ脳から遠い手足しか通用せず、さらには一つに一瞬しか使えない。
それでも使えようはあった。
「いいでしょう。二人とも合格です」
その言葉に二人は抱き合うのだった。
とりあえず来栖と華花実の修行は終わりです。
どうも書いていると当初よりも変わってしまいます。
なんか書いているうちにポエム書いてるんじゃないかって思っていました(実際そうだと思う)。
今回は華花実の「花」をよく使ったんじゃないかな。
逆に来栖は「本」を強調しました。
まぁ、当初は来栖が絵本を渡し、それから仲良くなっていく感じだったんですが、いつの間にか変わったました。
それに実際いきなり本を出すのがおかしいかなと思いました。
次話はタイナとバロンの修行かな。
急遽、修行に参加することになったタイナとバロン。
そんな二人には予定の相手なんていなかった。
でもそんな急遽だったにも関わらず、『解放者』は相手を寄越した。
その相手とはまさかのあの人!?




