離脱と作戦会議と
*この小説はフィクションです。実在の事故・人物とは一切関係ありません。
涙、柚葉、蒼は発生した事故現場に来ていた。涙を除いた二人は悲惨な光景を目の当たりにし、驚いた。現場はとても最悪な状況だ。これが、紫弦という男が起こした事故だというのが信じられなかった。
「嘘、だろ。これがある男の仕業なのか? まるで、殺人じゃないか」
蒼は思わず言葉に口にしていた。蒼は調べて事故が起きている事は分かっていたが、これが人の仕業だと思うことが出来なかった。
そんな中、涙は誰かを探すように、辺りを見渡している。時間が経ってしまっているのにも関わらず、まだ玲央が居るのではと思っていた。しかし、幾ら探しても見つけられなかった。もう居ないか、と落胆した。その様子に気付いた蒼が涙に声を掛けた。涙はハッと我に返った。
「なにかあった?」
蒼は問い掛ける。
「あ、えっと。さっき、翠さんと玲央さんでここにいたんです。玲央さんがここに残ったから、まだ居ないかなと思って」
涙が言うと、柚葉も反応した。
「実は二人が対立してしまって、別行動しているんです」
涙はたったそれだけを言った。
「そうなのか。この状況だ。玲央くんになにもなければいいが……。取り敢えず、今は事故現場を調べよう。二人とも大丈夫?」
「はい」
「うん」
蒼は心配そうに言葉を口にするが、今やるべき事に切り替えた。そして、近付けるところまで歩を進め、事故の様子を窺った。だが、立ち入り禁止になっていた為、あまり様子が見れない。立ち入ろうとすると、止められてしまった。仕方なく、事務所に戻る事にした。
「涙ちゃん、あとで話がある」
涙は蒼に呼び止められた。なんの話だろう、と一瞬思っていたが、おそらく玲央と翠の事なんだろうと気にしなかった。それが、重要な事だとは思いもしなかった。
それから、三人は事務所に戻ると、作戦を練った。そこに翠は居ない。どこに行ったのか詳しい場所までは分かっていないが、おそらく次の場所だろうと思っていた。
作戦を練ること約三十分。次の予告の場所へと向かおうとした時だった。
「涙ちゃん、話があるんだ。実は、俺と柚葉、降りようかと思うんだ。悪いが、柚葉が翠の邪魔をしたくないらしいんだ」
蒼が言う。その言葉に涙は驚いた。なぜかと涙は問い掛けるが、二人は黙った。
「私たち三人だけじゃ防げないかもしれません」
涙は続けて言う。すると、二人はお互い見やる。柚葉が下を向き、蒼が涙のほうを向いた。
「今のままじゃどうする事も出来ない。特に玲央くんと対立している以上は、」
「で、でも、話し合うって言ったじゃないですか。どうして、」
蒼は理由を話すが、涙がそれを遮った。涙は協力者に成りうる二人が外れるわけがないと思っていた。このまま上手くいけば、紫弦とのゲームだって勝てた。けど、現実は上手くはいかない。どうしても感情のぶつかり合いはある。それは、涙も知っている。次第に、涙は下を向いた。どうしたら上手くいくのか考えた。
「涙ちゃん、ごめん。これでも俺たち頑張ってきたんだ。けど、無理だ」
「そ、そんな……」
蒼に無理だと言われ、涙は落胆した。気付けば、涙の目元には雫で潤んでいた。その一粒がぽたりと落ちていく。鼻を啜る音も聞こえてきた。
「涙さん、私はただ、お兄ちゃんの邪魔をしたくないだけです」
涙の様子に気付いた柚葉が言う。それでも涙の目から雫は零れる。
「誰も悪くない。強いていえば、紫弦という男だ」
蒼はたったそれだけ言うと、気を取り直して、この後の事を二人と話した。翠の居場所も突き止めらければならない為、急いで事を進めた。
「それで、翠の居場所だけど、おそらくここに居る。玲央くんと連絡を取って二人で行くといい」
「はい」
話が終わると、蒼は涙に向けて言った。実をいうと、蒼は翠の居場所をこの短時間で話しながら調べていた。その甲斐あって、翠の居場所を特定することが出来た。ある隠れ家に居るはずだと、蒼は言う。なぜ、そこに居るのかまでは分からなかったが、《何か》があるのは確かだった。
涙は早々に身支度を終え、玲央に連絡をする。しかし、電話は繋がらず……。
「あの、玲央さんに繋がらないです」
「そうか。俺も連絡先を知っているから、あとで連絡してみる。涙ちゃんは翠のところへ行ってみてくれないか」
「は、はい」
そんな会話をした後、涙は事務所を出ていった。
「蒼お兄ちゃん、大丈夫、だよね」
「柚葉、大丈夫だ。きっと」
三人の居ない事務所で、蒼と柚葉は信じていた。自分たちが抜けても三人はやってくれる、と。
次話更新は3月22日(日)の予定です。




