患い
*この小説はフィクションです。実在の事故・人物とは一切関係ありません。
玲央は翠たちと別々行動になった後も事故現場に暫く滞在していた。玲央の元に次の予告が来たのにも関わらず、その場から離れようとしない。どうせ、翠が動いてくれている、と思っていた。別々行動していても、行動が読めていた。そんな事を考えながら、玲央は現場に近付こうとした、その時だった。
突然、顔を歪めた。頭痛が襲ってきたのだ。こんな時にやってくるとは、と玲央は内心思った。実をいうと、頭痛が起こる頻度が高くなってきていた。刻一刻とその時は迫ってきているのかもしれない。玲央はその事に気付いていても、必死に耐えようとする。
「痛え……。早く飲まねえと、」
そう言葉にし、ポケットから薬を取り出す。その瞬間だった。
「危ない!」
その言葉とともに、突如、一台の車が爆発するように火が燃え盛った。その衝撃で玲央は薬を地面に落としてしまう。直ぐに拾い上げると、凄まじい音がした方へと振り向く。すると、そこには赤く眩しい光が玲央の視界に映った。
「なんなんだ」
玲央は思わず声に出していた。玲央は無事だった。しかし、二次災害に巻き込まれた人がいた。近くにいた男に火が移り、悲鳴を上げている。倒れている人もいた。現場は先程よりも騒然としている。その様子を見ていた玲央は駆け寄ろうとした。
「危険です。近付かないで下さい」
救護隊員に呼び止められた。
「あの人たちを助けねえ、と……」
玲央は力づくで振り切ろうとした時、とてつもない強い頭痛が襲ってきた。あまりの激しい頭痛に頭を抑える。
「大丈夫ですか?」
救護隊員は玲央を心配して声を掛けるが、玲央は答えない。答えられないほどの激痛だった。
「大丈夫ですか?」
救護隊員は再び声を掛ける。しかし、玲央は答えない。いや、聞けない。
「あの、すみません。こちらの方の様子がおかしいみたいで、お願いします」
救護隊員は辺りを見渡し、医師を見つけると、声を掛けた。その間に、玲央は持っていた薬を二粒、飲料水を取り出し、流し込んで飲み込んだ。そして、その場から立ち去ろうとした。
「あ、ちょっと。大丈夫ですか?」
医師が声を掛けると、玲央はやっと医師の存在に気付いた。だが、なにも言わずに去っていった。ただ、医師には玲央の行動で、なにか持病を抱えているのではと感じた。
それから、数十分。玲央は病院に来ていたが……。
「黄山玲央さん」
玲央は呼ばれて、待合室の椅子から腰を上げた。呼ばれて向かった先は診察室。あの後、ある出来事を調べるために図書館に向かった。しかし、再び頭痛が襲ってきた。薬はあるが、頻繁に起これば、薬が直ぐに無くなるのではと思い、病院に急いで向かうことにした。ついでに、いつまで身体が持つかも知りたいと思った。もう、おそらく長くない事を感じていた。
「調子はどうですか? 手術受ける気になりましたか?」
「いや、手術は……」
医師は玲央に問うが、当の本人は未だに手術を受ける気は更々なかった。手術を受けたからといって、良くなるとは思っていなかった。もしかすると、今以上より悪くなるかもしれない。後遺症だって残るかもしれない。不安になっていた。
「黄山さん」
医師に声を掛けられている事に気付いた玲央は我に返る。病院にいた事さえ忘れてしまうほどに追いつめられていた。
「手術以外に方法は?」
分かっているはずなのだが、つい聞いてしまう。
「前にも言ったとおり、手術でしか血腫は取り除けません。受けなければ、破裂するのを待つしかありません。一刻も早く、手術を検討してください」
医師は真剣な表情で言った。その言葉に玲央は落ち込んだ。やり場のない気持ちのまま、診察室を出た。
「玲央くん」
貴美は待合室の椅子に座っている玲央に声を掛けた。
「叔母さん、俺どうしたらいいんだ」
玲央は言う。貴美はなにも言わずに玲央の隣に歩み寄る。腰を下ろすと、玲央の肩にそっと手を置いた。
「あなたが後悔しない選択をすればいいわ」
貴美は言った。
「叔母さん、悪い。俺……」
「なにかあったら言ってちょうだい。力になるわ」
玲央の言葉に貴美は何かを感じ取った。玲央の選択にそれ以上なにも言わなかった。それから、二人は怜太の見舞いに行き、少しの間だけ過ごした。
怜太の病室にいる間、玲央は思った。皆を裏切ることになる、と。
「怜太くん、早く玲央くんに元気な姿を見せてあげてほしいわ。待ってるわよ」
怜太を見守りながら、そっと声を掛ける貴美。その後、玲央が病室を退出し、貴美に後を頼んだ。そして、ある場所へと向かった。今度こそ、情報を得るために。
次話更新は3月15日(日)の予定です。




