第222話 『コスプレ大会』
ここ最近はサブタイ決めに苦戦してますね……
自分の中でスっとハマる物じゃないと付けても違和感が拭えなくて……
「すっげぇ!完全に《EBO》だ!髪色の違和感すっげ!」
「すっごーい!全身鎧おもしろーい!ローブとか神官服もいいわね!」
瞬は軽戦士御用達の軽装備に身を包み、《EBO》内の様な装いなのに普段と髪や瞳の色が違う不思議な感覚に歓声を上げ、環は様々な装いを試し普段とは違う非現実的な装いを楽しんでいる。
「やっぱりこういう服装になると現実の髪色は違和感になるんだな……」
「そうだね。僕としては初期装備の神官服を着るのはだいぶ久しぶりだし、護……トーカの普通の神官服を見るのも初めてだから新鮮だよ」
「あー、そうだな。リトゥーシュとしてのお前の装備もこんなシンプルじゃ無くてもう少し凝ってたもんな」
「そうそう。トーカのだって神官服とはかけ離れてたしね」
その後ろでは、保護者組……いや、ここはあえて神官組と呼ぼう。
神官組がお互いの神官服姿を見合って記憶の中のお互いの姿との差異について楽しげに語り合っている。
「そうか、お前達と戦った時は神官服じゃなかったもんな」
「そうそう。どっちかって言うと陰陽師みたいな和風のテイストがあったよね」
「あぁ、まさにコンセプトは陰陽師らしい。あの装備を作ってくれた奴が当時和風にハマってたんだと」
「僕の知ってる陰陽師は戦棍振り回して重装備のタンクを殴り殺したりはしないなぁ……」
「安心しろ。俺の知ってる陰陽師もそうだ」
護的には神官本来のプレイスタイルとはかけ離れているものの、バフや回復などの神官本来の役割も果たしている『トーカ』からすれば純正の神官を極めているリトゥーシュはある種の憧れでもある。
一方の一守としても、最低限の護身は出来るが正面切っての戦闘は厳しい正統派な神官の『リトゥーシュ』に不満を持っていないし、自分に合ったスタイルだと思っているが、男の子的に自ら最前線に立ってド派手に戦う姿にはやはり憧れる部分がある。
トーカとリトゥーシュは同じジョブを選択ながら全く別のプレイスタイルに進み、お互いがお互いに憧れを抱いているのだ。
今は現実世界での護と一守ではあるが、コスプレと言う非現実の衣を纏ったことで若干だが意識が《EBO》的になっている。
いわば、今のふたりはお互いに無自覚ではあるが、憧れの人と対面しているファンのような心境なのだ。一見会話が弾んでいるように見えてどこかぎこちなく、でもやはり会話が弾んでいるのはそのためだろう。
「トーカトーカ!これはどうだ!?」
神官服がシンプルな神官服と言う装いに新鮮味を感じていると、完全に意識が《EBO》なのか、明楽が普通にトーカ呼びで護を呼び付ける。
「どうした?っておぉ、カレットの神官服か……新鮮だが不安も感じるな」
「それはどういう事だ!?」
「なんか後衛でサポートに徹するのに我慢出来ずに攻撃魔法取得してガンガン攻撃しだしそうだなって」
「前衛でガンガン戦ってるトーカがそれ言う……?」
明楽のトーカ呼びにつられたのか、護と一守も《EBO》での呼び方になってしまっているが本人達は気付いていない。
「ってそうではなく!神官服もだが見て欲しいのは髪と目だ!」
「髪と目……?特におかしなところも無いいつものカレットじゃないか。……いつものカレット?」
言ってから、気付いた。
いつものカレットとは、すなわち髪と目の色が緋色であるという事だ。そして、どんなにリアルに再現されようとここは現実世界であり、明楽の髪と目の色は明るい茶色だったはずだ。
それが、《EBO》のカレットのような鮮やかな緋色に変わっている。
護と一守の2人が呼び方を引っ張られたのは、明楽の姿が完全にカレットになっていたという部分も大きい。
「気付いたか!なんと!髪と目の色も変えられることにさっき気が付いたのだ!」
「気付いたのは私よー!」
自慢気にそういうカレットの後ろから、髪を金色に、目の色を青色に変え、魔道士のローブを纏っている環がひょっこりと顔を出す。
「うおっ、環は《EBO》のイメージが無い分インパクトが凄いな」
「でしょー?自分でもびっくりよ。鏡みてもしばらく私に見えなかったわ」
そう言ってけらけらと笑いながら、環は神官組の前でくるりと一回転してみせる。
髪やローブがふわっと広がるが、ARで投影しているはずなのに一切ブレがない。特に服装は制服とローブでだいぶ違うはずなのにも関わらず、だ。
「ちょっとー、手軽なコスプレとは言え女の子がおしゃれして見せたんだから感想くらい言いなさいよー」
そんな少しズレた感想を抱いているのを表情から察したのか、環がわざとらしく怒った風に詰め寄る。
「あ、あぁ、悪い悪い。似合ってるよ」
「う、うん。可愛いよ」
「ちょぁ!?正面切って可愛いとは……一守くんもやりますな……!」
冗談めかして詰め寄ったところに見事なカウンターをぶち込まれた環が若干慌てている。
そんな様子を見た神官組に、ふとした悪戯心が湧き上がる。
「あぁ、可愛いな」
「うんうん。可愛い可愛い」
「凄い可愛いと思うぞ」
「可愛いオブ可愛いだね」
「ちょっ、止め……!照れるでしょ!」
ふたり揃って可愛いを連呼していると、本格的に気恥ずかしくなって来たのか頬を若干赤くした環がそそくさとカレットの後ろに隠れてしまう。
環に隠れ蓑にされたカレットは不満そうな顔を浮かべているが、それは環が隠れた事が原因ではない。
「むぅ、なんなのだ!たまっきーだけ可愛い可愛いと!私にはなにかないのか!」
やはりカレットも女の子。他の子が可愛いと言われて自分はノータッチだと少しムスッと来るものがあるようだ。
「はいはい。カレットもいつも通り可愛いからむくれるなって」
「むふー、それなら許そうではないか」
「そりゃよかった。で、リクルスの奴は?」
可愛いと言われて満足気に頷く幼馴染の姿にこそ改めて可愛さを感じ、少し小っ恥ずかしかったのか護が露骨に話を逸らす。
が、姿を見てもいないのに瞬の事をリクルス呼びしている辺り多少の動揺が透けて見えている。
「はぇー結構細かい所まで選べんのか……お、武器もあるのか」
その瞬はと言うと、なにかが彼の中でハマったのか、ウィンドウに囲まれながらふんふんと頷いている。
そんなリクルスの姿が、軽戦士の軽鎧から騎士の鎧に、重戦士の全身鎧に、狩人の服に、神官服に、ローブに、NPCが着ているような一般的な服装にと忙しなく入れ替わっていく。
「……ん?どったんトーカ。色々選べて面白いぞ!」
少ししてから見られている事に気付いた神官服姿のリクルスがウィンドウから顔を上げる。
余談だが、今この瞬間にこの部屋にいる5人中4人が神官服を着ているという、圧倒的神官服率を誇っていた。
「いや、なんだ。せっかくだし神官服以外も試してみたいなってさ」
「ふーん。ってカレットがすげぇ満足そうな顔してっけどなんかあったのか?お菓子でも隠し持ってんなら俺にもくれよな!」
「持ってない持ってない。せっかくだし俺も髪色とかいじってみようかな……」
ほんとかー?ほんとに持ってないのかー?とまとわりついてくるリクルスをはいはいと受け流しつつ、再び球体に手をかざす。
「どうせなら普段からかけ離れたのがいいか……?騎士の鎧とか着てみるか。鎧系の装備は着けた事ないんだよな。髪色は……雰囲気を変えてカラフルにしてみるか?」
トーカは何かを誤魔化すように、あるいは話の流れを変えるようにせっせとコスプレに精を出す。
結果出来上がったのが、軽鎧よりはしっかりしているが重鎧よりは動きやすさを意識した騎士の鎧を身に纏いリゾート地の海を思わせるような鮮やかな青色の髪に暖かなオレンジ色の瞳に染めた、普段とは全く雰囲気の違う『トーカ』の姿だった。
「はぇー、ぜんっぜん印象違ぇな。これだと《EBO》の町中ですれ違っても分かんねぇかも」
「ほぉ!……ほぉ?なんだろうな、いつものトーカに慣れているからか違和感が凄いぞ!全くトーカに見えん!」
「うひゃー護くん全然イメージ変わるねぇ。あ、私もトーカくんって呼んだ方がよかった?」
「環もだいぶ印象変わってるけどね。やっぱり髪と目の色の変化がかなり大きいね」
トーカのイメージをガラッと変えたコスプレが上手く話題を変えることに成功したようだ。
そこからしばらくはわいのわいのとコスプレ大会が続いたが、カレットが何かを見つけた様で「こっ、これは!」とわざとらしく驚愕の叫び声を上げる。
「どうしたんだ?」
「私は物凄い物を見つけてしまった様だ……!刮目せよ!」
そんなカレットの声に4人が視線を向けると、ハァッ!と何やら気合いを込めた様子でカレットがウィンドウ上の決定キーに指を叩き付ける。
勢い良くキーを押すのがカレットのマイブームなのだろうか?
そんな事を考える間も無く、シャランッと音を立ててカレットの服装が変化する。
「これは……!」
「なるほど。これが例の……」
「うわぁ……トラウマが蘇る……」
「おぉ!すっごい!なんか分かんないけど今までで1番あっきーにしっくり来てるよ!」
髪と目の色を《EBO》内と同じ緋色に戻し、纏う服装を緋色を基調に随所に翡翠色の装飾をあしらった魔女然とした衣装に変化させたその姿は、見間違えようもない。
「真なる私、ここに爆誕!」
紛うことなき、『カレット』の姿だった。
現実世界編も長くなってきたし、そろそろ《EBO》の中が恋しいなぁなんて思っている作者です
誰だよ前後編で終わるとか考えてたバカは!
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