第220話 『(現実に)飛び出せヒャッハーの力!』
土日に執筆ペース落ちるのどうしてくれようか……
「わぁ!なにこの子かわいい!《EBO》ってこんな可愛い子いるの!?」
『いえ、わた』
「違うぞ!この子達は妖精と言ってな、GMコールやらイベントの司会進行やらを担当しているからたまにしか会えないのだ!かく言う私も見た事があるのはこれで3人目だ!」
「明楽、説明役の説明乗っ取るな。エリカさんものっそい顔してるぞ」
『なんのことでしょうか?あぁ、そちらの方の説明に付け加えるとすれば、基本は通話対応なので実際に現地に赴くのはその必要がある時を除いて基本的に個人の判断に任されています。また、最近はこういった現実側での対応も増えてきておりますね』
今度は割り込まれたくなかったのだろうか、明楽に説明を横取りされたエリカは追加の説明を若干早口で言い切った。
「そ、それは大変なんだね」
『お気遣い無く。それでは改めて説明をさせていただきます。体験コーナーは《EBO》の世界を完全再現する事をコンセプトに作成されています。そして、今皆様が使用している専用のARメガネをご使用いただくことで、今私が見えているようにより臨場感溢れる体験をお楽し』
「おぉっ!マジでメガネ外したら見えなくなったし声も聞こえねぇ!VRだけじゃなくてARもすげぇんだな!」
『………………と、このようにARメガネを付けていない方には私どもの姿や声は認識出来ず、また1部の体験要素をご利用いただけません』
説明の途中でメガネを外して驚いている瞬に、エリカは目を瞑り少し深呼吸してから説明を再開した。だいぶイラッとしているようだ。
「瞬。さすがにそれは無い」
「あだぁッ!?」
これに関しては瞬が完全に悪い。
護は瞬に拳骨を落とすと、頭を押えて蹲る瞬を無視してぺこぺことエリカに頭を下げる。
「このバカが本当にすいません……!」
『いえ、仕事ですのでお気になさらず。こういう仕事なので、AR上の妖精達に驚いてまともに説明を聞いてくれない、なんとこともあります。なので慣れておりますし、こういう事態に対応するのも仕事の内ですので』
「ちなみに……仕事じゃなくてオフだったら……?」
やけに仕事を強調する言い方に、恐る恐る尋ねる。
『どつき回しますが?』
「本っ当にこのバカがすいませんでした!!!」
「ぐぇっ!うべぇ!」
「ほら、謝る!」
「え、あ、あぁ。すいませんでした!?」
目がマジだった。
完全に殺る気の目をしていた。
護が思わず瞬の襟首を掴んで無理やり立たせた上で頭を下げさせる程度には、微笑みの中で唯一笑っていないその灰色の瞳はマジの光を帯びていた。
『ふふ……、冗談です。どうでしたか?たまに他の妖精達のおふざけが過ぎる時にやってみたりするのですが、大好評なんですよ』
少しの間身動ぎ一つせず頭を下げていると、耐えられない、と言った雰囲気の小さな笑い声が聞こえてきた。
恐る恐る頭を上げると、エリカは口元に手を当てて先程まで殺る気マックスなアルカイックスマイルを浮かべていたとは思えない柔らかな微笑みを浮かべていた。
第一印象が『真面目そう』だった事もあり、そんなほわほわした雰囲気が彼女をとても魅力的に魅せていた。
……が、今の子の柔らかい微笑みとあの殺る気マックスのアルカイックスマイルが同じ顔から出てくる事にむしろ脳が混乱して謎の恐怖感を覚えた。
『毎回、妹達からお菓子が貰えるんですよ。そんなつもりでやったんじゃないって言っても聞いて貰えなくて……でも、それだけ喜んでもらえると嬉しいですね』
大切な妖精達の顔を思い浮かべ、幸せそうに微笑むエリカに「それ……多分許しを乞う捧げ物かご機嫌取りの貢物です……」とはさすがに言い出せなかった。
「はは……それは仲睦まじいですね」
『えぇ、可愛い妹達ですよ。っと、話が逸れてしまいましたね。では説明の続きを……』
コホン、と可愛らしく咳払いをして切り替えるエリカ。
その隙を突いて、護は明楽と瞬の2人に『真面目に聞け』とアイコンタクトを送る。
自称冗談とは言え、さすがの2人もあのアルカイックスマイルを見た上でふざける勇気は無いようで、全力で頷き返してきた。
向けられていないはずの一守や環も全力で頷いていた辺りに、殺る気マックスなアルカイックスマイルの恐ろしさが現れているだろう。
『この体験コーナーでは、基本的に習うより慣れろの精神で事前説明は少なくなっております。(なのになんでわざわざ妖精達を動員したのでしょうね?)ですので、この場で全て説明する、と言うよりは随時解説、または質問への返答を行う形になっております』
小声でボソッと入った愚痴なんか聞こえてない。
そう言わんばかりに5人ともスルーしていた。
『体験コーナーでは、大きく分けて2つの要素がお楽しみ頂けます。まず、より一層の《EBO》の世界に入り込めるコスプレ体験。この体験はARを使用する事でより手軽に、高い再現度を実現しています」
そう言いながらエリカが手のひらを上に向けると、その上に《EBO》でよく見かける装備フィギュアのようなマネキンが映し出され、何着もの衣装が切り替わっていく。
よく見れば、それは《EBO》の初期装備だった。
懐かしさに自然と頬が緩むプレイヤー勢に、やはりと言うかなんと言うか、環は微かな疎外感を覚えていた。
『次に、ミニゲーム。《EBO》の様々な要素を模したミニゲームを体験する事が出来ます。こちらはステータス補正のない現実でのプレイとなるので完全な再現とは行きませんが、十分にお楽しみ頂けるかと思います』
エリカの手のひらの映像が、着せ替え人形になっていたマネキンから、傘程のサイズの杖や剣を持ったマネキンが大きなディスプレイに向かってそれを振っている映像に切り替わり切り替わる。
「ほぉ……戦闘を体験出来るのか?【白龍砲】は……」
「使えると思うか?」
「(´・ω・`)」
『また、コスプレとミニゲーム、このどちらに置いても《EBO》プレイヤーの方は、アカウント認証をする事で一部自身のデータの再現を体験する事も出来るようになっております』
「なんと!?では【白龍砲】も使えるのか!?」
(他人の空似であって欲しかったですが、やはり【カグラ】のカレットでしたか……では他の2人も……。今からでもリーリアとバトンタッチを……いえ、あの子は今連絡がつかないんでしたか。まぁ彼らも現実と《EBO》の違いはわきまえているでしょうし、大丈夫でしょう)
明楽が目を輝かせながらエリカに詰め寄ると、なにか考え込むように数秒の沈黙の後に柔らかく微笑む。
『えぇ、データ連動さえ出来ればかなり高いレベルで再現されたものが体験出来るかと』
「ふぉぉぉぉぉ!!!現実でも使えるとは!最っ高ではないか!」
握りしめた両手を天高く突き上げ、全力のガッツポーズを披露する明楽は完全に【白龍砲】ジャンキーだった。
マジックハッピーが高じて【白龍砲】ジャンキーまで発症している明楽を引き攣った笑みで見守る護だが、彼もエリカの警戒度的にはそう大差ない。
属性は違えどどちらもヒャッハーなのだ。
「ねぇねぇ、【白龍砲】って?」
「もしかしなくてもアレの事だよね……?」
「あぁ、そうだよ。明楽が《EBO》内で編み出したオリジナルの必殺技。必ず殺す技だ」
「なんで言い直したのか凄く気になるんだけど……」
「未プレイの人も体験するミニゲームにそれ持ち込んだら大変なことにならない……?」
「まぁ一網打尽になる程度だろうよ。あくまでデータ連動、ゲーム内の自キャラの体験が出来るってだけだろうしな。ってさっき護が言ってた。『壱打確殺』の【天討】とか使って見たかったんだけどな……」
ガッツポーズを決めている明楽と、それを見守る護。それを本心を感じさせない営業スマイルで見つめるエリカ。
そんな3人の様子を見ながら、【白龍砲】をよく知らない2人に瞬が説明していた。
エリカは気をつけた方がいい。
明楽の【白龍砲】と護の【グラビトンウェーブ】には規模こそ劣るものの、質ではまるで負けていないヒャッハーな必殺技を持ったヒャッハーが後ろにもう1人いることを。
エリカは妖精の中では長女にあたります(リーリアが六女でマーシャが七女)
真面目でしっかり者のお姉さん……だったはずですが、何故か無自覚恐喝するポンコツ風味になってました
なんででしょうね?
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