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しと、しとりと雨は降る

同居人がいる風景が当たり前になってしまった、そんなある日。

どんよりとした薄暗い空。

座ったまま、木崎さんが窓を見て、溜息をついた。

「暗い空だな」

「こんなの雨のうちにも入りませんよ、もう1か月もすれば梅雨なんだから」

梅雨が来たら、ずっとこんな空模様だ。

そして梅雨が明けたら夏が来る。蒸し暑くて、かんかん照りで、ばててしまいそうな日差しが。

そう続けると、フン、と、面白くなさそうに鼻を鳴らして。

本に目を落としてしまったその人を置いて、それじゃあ行ってきます、と私は其処に立てかけてあった傘を手にした。

木崎さんと違って――それは、お天気の日は清々しくていいと思うが――雨は何でも嫌という訳じゃない。

こんな風に出かける時には、うっとおしい事もあるかもしれないけど。

例えば、休日で、何も急ぎの事がない、そんな日なら。

静かな雨音でも聞きながらぼうっと過ごすってのも、悪くないと思う。

「とはいうものの……」

切れる気配のないどんよりと分厚い灰色を見上げて、木崎さんにはああ言ったものの、流石に溜息が出た。

本当ならば、今時分って、からりと晴れて、爽やかな天候の筈なのに、どうした訳か、数日、雨模様が続いている。

釣られて暗くなる気分を何とかしようと、手持ちの中で一番明るい色の傘を選んだのに。


ぱしゃぱしゃという、走るような音に気が付いて、深く差していた傘を、ちょっと上げる。

「あら?」

「よう」

バイト帰り――夜勤が混じっているのだ――の勅使河原さんだった。

「これから出勤か?」

「うん、そっちは帰りだね」

「見ての通りだよ……ああ、木崎、今、家にいるか?」

「今日は一日いるような事言っていたけど……?」

ちょっと、妙な気がした。

勅使河原さんは、何気なく聞いてきたけれど、あまりにさりげないその声に、逆にあれ? と思ったのだ。

勅使河原さんが夜に出歩くのはそんなに珍しい事じゃない。仕事の時もあれば、何やらぶらぶらと外出って事もある。そんな彼と、こうしてすれ違う事も一度や二度ではないし、顔を合わせれば話くらいはするけれど。

わざわざ、木崎さんがいるか、なんて、聞いてきたのは初めてだと思う。

つまり、必ず捕まえたい用事があるって事じゃないだろうか。

それが何なのかはわからないけれど。

「何かあるの?」

「いや、そういう訳じゃないさ」

何か、隠してる。

胸の中で、ざわりと、そう、音がした。

でも、今それを追求するだけの時間も余裕もなかった。

また、ぱしゃぱしゃと、派手な音を立てながら、走っていく後姿を見送る。

曇天の憂鬱さに、ざわざわとする、不快な胸騒ぎが入り混じった。


雨は翌日になっても止まなかった。その次の日も。

まるで、もう梅雨が来てしまったのかと思うくらいに、飽きる事無く。

木崎さんと勅使河原さんが、何を話したのかはわからないまま。

木崎さんは家にいて、ごく普通に過ごしていたけれど、妙な緊張感が漂っていて、声をかけにくい。

勅使河原さんの方は、慌しく出入りをしていて、此方の方が事情を聞けそうなのに、捕まえる事が出来ない。

そんなもやもやを抱えている所為か、仕事場についても、ぼんやりとしているものだから、このところ、細かいミスが目立つ。

何とか、挽回できる程度だからいいものの、かなりまずい状態だ。

どうかしたのかと、隣の席から心配そうに聞かれても、自分でもわからないものを持て余しているのだから、どう返事をしていいかわからない。

体調がよくないらしいと勝手に推測されて、挙句に、幸か不幸か、残業からも解放されてしまい。

少しだけ早い時間帯の、帰り道を歩く。

淡い色の布地から、滴り落ちる滴は、一定のリズム。

ぽた、ぽたり。

しと、しとり。

傘を打つ雨音と、落ちてゆく水滴は、色のない音楽を奏でている。


「……結城」


そんな、世界を破ったのは。

透明なビニール傘を手に、佇む人だった。


「木崎さん?」

また、心の隅がざわりと音を立てた。

いよいよおかしい。

「何、してるの?」

「……何でもない」

そう言いながら、木崎さんは、すっと私の横に並ぶと、歩き出す。

「どうかしたの?」

「どうもせぬ」

信じる訳がない。

だって。

だって、だって。

同居を始めて。これまで一度だって。


こんな風に、迎えに来てくれた事なんて、ない。

(2011/4/20)

ちょっと思わせぶりなところで切ってしまってすみませんー

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