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03-一方その頃、尖塔の下で

遙真視点となります。

時間が空いてしまった……

 オ・ファルセナ・コディ――おハルさんの死も、前の隊長の最期も、茉希は知っていた。魔晶石化してもずっと意識があったんだそうだ。


「んんっと……ずっとってわけじゃ。寝たり起きたりしてた感じ? ちょっと上向いてたから、みんなの顔がみえにくくて嫌だったな」

「まじかよぉ……」


 尖塔の脇、魔法使いの訓練に使う第五演習場まで来ても喧騒が届く。みんな喜んでる。俺もめいっぱいやり切った。

 とくに、紗世さんが封殺魔法を解いて掛け直す間、紗世さんと茉希を守りながら前衛全員にいろんな魔法を重ねがけするなんてヤバ技をやることになった時なんか、内心すんごくヒヤヒヤだった。魔法四つ同時展開なんてできるんだな、すごいな俺……。

 その冷や汗ダラッダラだったところを、茉希はずっと見ていたのだという。


「紗世さんが封印魔法解除してから魔晶石化が全部

解けるまで、ずっと遙真が守ってくれてたでしょ」

「あそこ意識あったのかよ」

「かっこよかったよ」

「ウッソだぁ、ゲロ吐きそうだったのに」


 茉希が魔晶石化してから、俺は死ぬ気で補助魔法や攻撃魔法を覚えた。紗世さんは時間遡行魔法の基点として移動にすら制限がかかったので、俺がオールラウンダーになるしかなかったのだ。

 それでも手が回るかわからなかったので、時間遡行するときには俺の苦手分野をカバーできるメンツを揃えるよう頼んだりもした。

 そんなことをしていたら、あっという間に三年、実際には七年だけど、経っていた。時間が足りなかった。あと五年くらい経験値積めねーかな、と本気で思っていた。

 俺は器用貧乏の自覚がある。わりとなんでもできるけど、極めるってのが苦手。満点が取れない。いけて八割。

 だから《母体》との戦いでは、二割の失点をなるべくヤバいところでは出さないことを目標にした。失敗はする。俺だもん。失敗はする前提で、完全な詰みにならないようにあれこれ手を回した。

 そんで四つ同時に魔法を展開する目に遭ったんだけど。全力疾走したまま何キロか走らされたみたいな感じだった。キツかった……。


「ありがとね」

「……何度も聞いたよ」

「何度でも聞いてよ」


 茉希が目を細めて笑う。

 この顔が結構好きだったんだよな、俺。





 俺と茉希とは長い付き合いだ。

 保育所が同じで、小学校はずっと同じクラスだった。二年生くらいまではよく一緒に遊んでたけど、三年生くらいからお互い別の友達と遊ぶようになった。俺が外で遊ぶのが好きになって、茉希がそうでもなかったからだと思う。

 そのころ、ませた女子が男子に「付き合うなら誰がいいか」なんて聞いてきた。俺は心の中で茉希かなぁ、なんて思った。あいつどんくさいけどいいやつだしな、くらいのやつ。もちろんその場では答えず誤魔化した。女子のこういうやつは面倒だから。

 それから二年くらいは、茉希の事が好きだったと思う。別に付き合いたいとか、そういうやつではなかった。なんとなく、一人だけちょっと特別だっただけで。

 ぶっちゃけて言ってしまうと、俺は少々惚れっぽい。

 可愛いな~って思うと目がいくし、すげーなーって思うと尊敬してしまうし、優しくしてもらったらこの人俺のこと好きなのかなー、なんて思ってしまう。アホだな俺、と自分で思うほどだ。茉希が好きだな可愛いな~と思いつつ、茉希以外の女子も可愛いな〜と思うようになった。

 中学に入って俺は暁斗と、茉希は珠莉と仲良くなった。暁斗は明るくてさっぱりしててバスケがうまく、珠莉は見た目はキリッとしてるけど抜けてるとこがあっておもしろい。あと足がめちゃくちゃ早い。二年生で全員同じクラスになってからは四人で話すことが増えた。そんで自然に修学旅行の班別行動も一緒になった。

 で、なんやかんやあって、異世界に、この環状都市に来て。

 環状都市バナウスで真っ先に好きになったのは塔の魔法使いのひとりで、俺の治癒魔法の師匠だ。《全知の魔法使い》おハルさんの下で働きつつ衛生係という名の医療職を兼ねている、リリナさんという年上のお姉さん。異世界転移して右も左も分からない挙動不審な俺に、すごくわかりやすく魔法を教えてくれた。そりゃ懐く。

 そのリリナさんは《母体》が現れたときに、広範囲攻撃魔法を防ぎきれず右目と右耳を失った。

 ……俺は、自分の周りだけにしか防御魔法を発動できなかった。リリナさんは、そこにいた学園の生徒たち全員を守ろうとしたのに。

 ……そのあとのことは、正直無我夢中で。

 あとから整理して「あのときはこういうことがあって、だからこちらではこうした」とか、「ここでこの術を使ったからあちらではこう影響した」とか、いろんなことがわかったけれど。

 そのときは目の前のことしかできなかった。

 全然、できなかった。



 たくさん治療してわかる。

 ロールプレイング・ゲームでは瀕死になったキャラもHPを満タンにしたらすぐさま前線に復帰できるが、現実ではそうもいかない。魔法を使ったら怪我は治るが、血を流したぶん休む必要がある。

 また、身体の傷を癒す治癒魔法と、失ったものを作り直す再生治癒魔法は別物だ。推測するに、再生治癒魔法は人体の構造をどのくらい理解しているかによって効果が大きくかわる。

 リリナさんの右目は、眼球のガワだけは再生できたけど神経までうまく繋げられなかった。耳の治療をしようとしたところで大怪我した隊員が担ぎ込まれてきて、そちらに向かうことになってしまい。

 治しきれなかった。

 心の中で悪態をつきながら治癒のために駆け回って、その途中で茉希が魔晶石化したのを知った。

 おハルさんや見知った隊員の死を知った。





 こんな世界に召喚されて、チートな魔力はあったけどまったく万能じゃない。死んだら終わりで怪我したら取り返しがつかない。

 やってられない。

 けれど紗世さんが茉希の魔晶石化を解き《世界の均衡を崩すもの》の《母体》を倒し切る作戦を立てたので、俺はギリギリで無気力にならずに済んだ。

 茉希は封殺魔法の楔になっているからまず封殺魔法を解かないと魔晶石化が解けないんだけど、魔晶石化の解除だけならそれ自体は難しい魔法じゃない。

 ただ、魔晶石化した部分が大きければ大きいほど、解除漏れが起こる確率が上がる。茉希は全身が魔晶石化してしまったので、どこかに魔晶石部分を残さないよう全身にくまなく解除魔法をかけないといけない。それには、人体の作りに関する知識が必要だ。なので時間遡行して素材を集めまくるとともに、空いた時間に医療に関する本を片っ端から読みまくった。

 だから茉希の身体は、全身きっちり元通りにできた。

 元通りの——十五歳の茉希だ。

 


 

「遙真は、随分大きくなったよねぇ」

「田舎のばーちゃんみたいな言い方するなよ」

「あはは」


 茉希が好きだ。

 できたら横でずっとこうしていたい。

 けど、茉希の父さんと母さんも好きだ。

 こんな俺にもいつも優しくしてくれた、優しい三人が好きだ。

 俺はもうあの家にもう一度帰るなんて考えただけで嫌だけど、帰せるなら、帰れるなら、茉希は帰したい。帰ってほしい。

 だって茉希がいなくなったら、茉希の父さんも母さんも死ぬほど悲しむ。

 あの人たちが不幸になるなんてダメだろう。

 

 そのとき、空がパァッと光ってキラキラパチパチと火花が舞った。《塔》の魔法使いの誰かが花火魔法を使っているのだろう。ちなみに花火魔法はおハルさんと紗世さんの合作魔法だ。

 茉希のふっくらした頬がいろんな色に明滅する。

 俺は一生、この夜を忘れない。

 ……たぶん。

リリナさんは五年後くらいに恋人と結婚しています。

眼球を再生してくれただけでも遙真には感謝していましたが、遙真はずっと後悔してその後も治療を続けています。

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