#04 ヘカテ
その存在は驚くべきことに人間だった。少なくとも、今のところはそう見えた。その存在は、じっと私を見つめていた。私もその場に立ち尽くしたまま、その存在を見つめるしかなかった。その時、私は何も考えることができなかった。恐怖で体がすくんだというよりは、状況の展開が理解できず、適切な行動が取れなかったのだ。しかし、今私と目を合わせている「彼女」の姿は、鮮明に目に焼き付いていた。
美しい人形に命の息吹を吹き込めば、このような姿になるのだろうか。生きているという本能的な直感がなければ、おそらく優れた技術を持つ者が作った繊細な作品だと思ったことだろう。彼女はその大きな瞳で、瞬きもせずに私を見つめていた。何を考えているのだろうか。おそらく、彼女自身の美しさとは対照的な、どこか疲れ果てた眼鏡の女性の姿に、奇妙な感想を抱いているのではないだろうか。
この気まずく、唐突な出会いに、両者ともしばらくの間、何の反応も見せなかった。先に反応を示したのは、この人形のような、少女というには成熟しているが、成熟しているというには少女のような「何か」だった。彼女の大きな瞳から、突如として清らかな雫のような涙が流れ始めたのだ。
「あわあああん!」
そう言うと、彼女はいきなり私の胸に飛び込んできた。私をぎゅっと抱きしめたせいで、私はバランスを崩して倒れ込んでしまった。倒れる際、壁に頭をぶつけた。しかし、痛みを気にする暇もないほど、私の胸に抱かれた彼女の泣き声が辺りに響き渡った。だから私は、自分でも呆れるほどだったが、ひとまず胸にしがみついたこの存在をどうにか引き剥がした後、まるで子供をあやすように宥めるしかなかった。それには時間と忍耐が必要だった。結局、私のハンカチがこの泣き虫の鼻水で台無しになるのを見届けた末、彼女はようやく落ち着いたのか、震える声でこう言った。
「あ、ありがとうございます……」
私たちは、果てしない闇へと続くような階段に座っていた。私は指を三本彼女に示して言った。
「あなたに聞きたいことが三つあるの。もちろん聞きたいことは山ほどあるけれど、とりあえず三つよ。いいかしら?」
彼女はどこか不安げな子犬のように瞬きをしたが、特に拒む様子はなかった。私は言った。
「まず、あなたの名前は何?」
「ヘカテ……『ヘカテ』です」
ヘカテ? どこか印象にそぐわない名前だ、と私は心の中で思った。しかし、名前はどうでもよかった。
「そう。じゃあヘカテ、あなたは一体誰なの? なぜここにいるの?」
私の問いに、ヘカテは一瞬息を止めた。自分がなぜここに来たのか、その事実と理由を知っていながら、必死に目を逸らそうとしているように感じられた。ヘカテはうなだれ、小さな声でこう言った。
「全部、私のせいなんです」
私は急かして問い詰めるよりも、彼女が自ら話せるよう、忍耐強く待った。ヘカテは言った。
「すべては私の『魔術』が暴走したことから始まりました……どこから話せばいいのか……あ、そう。実は私、『魔女』なんです」
魔女? 私の表情がわずかに歪んだことに気づいたのか、ヘカテは慌てて言った。
「いえいえ、だから、嘘じゃなくて。本当に魔女なんです。コスプレとかじゃなくて……うぅ……この服を見てください! 魔女っぽくないですか?」
私が信じていない、というよりは、「何を馬鹿なことを言っているのか」という目で彼女を見ていると思ったのか、ヘカテは自分の着ている服を指差した。しかし、私は別に彼女の言葉を疑ったわけでも、たわ言だと思ったわけでもなかった。それに、あなたの着ている服は一般的な魔女の装束というより、マントを羽織ったドレスのような形じゃないか。私はそう思いながら、取り乱すヘカテに言った。
「信じるわ。信じるから、落ち着いて説明して」
ヘカテは、うまく説明できない自分を情けなく思ったのか、小さくため息をついた。彼女は自信なさげな声で、とつとつと状況を説明し始めた。
「私には6人の姉がいます。私は末っ子なんですけど……私たち姉妹はこの『レテ』に住んでいます。今のような状態になってから、もう一ヶ月ほど経ちました」
ヘカテはどこか虚ろな目で階段の下の闇を見つめた。彼女は体を震わせながら言った。
「すべては、私の魔術が失敗したせいなんです」




