16.幸せの変化
ラメットお兄様が手配した馬車に乗込み、自宅へ戻ろうと、向かい合わせに座った。
ノア様は、何度も「変化はない?」「気分は?」と質問ばかり。
「体調も大丈夫ですよ。心配し過ぎです」
「フルールのこととなると、僕は冷静でいられないんだよ。前に眠り続けてしまった時だって、今だって……僕は、フルールが一番だからね」
少し冷えたノア様の手を、握り返した。
想いが通じた今なら、あまり怖くない。
それに――
「変化というか、不思議なんですけど……さっきからノア様と目が合うと、瞳が温かく感じます」
「……それは、熱っぽいとか、風邪みたいな?」
「それとは違うような。でもですね、私はこの指輪……とても綺麗だと思います。目の色に拘りもなかったですし」
お父様とお母様がどう思うかは、また別として。身体に良いか悪いかも、さておき。ノア様は信じてないかもしれないけど、この綺麗な指輪と同じ色の瞳を、早く自分でも見て見たいと実はワクワクしてたりする。
「指輪……綺麗ですね。二つとも同じ大きさですけど、どうやって合わせるんでしょうか」
「……嵌めてみる?」
「良いんですか?」
「良いも何も、これは僕とフルールの指輪だよ。右手、出してごらん」
少し恥ずかしいけど、そっと右手を出してみた。
そっと包み込むように、ノア様が指輪を嵌めてくれる。すると、大きかったはずの指輪が変化し、薬指に馴染み始めた。
「すごい……! ピッタリになりました……」
「まるで、魔法……みたいだ」
「私も……付けていいですか?」
「喜んで」
ノア様の右手に、今度は私が指輪を嵌めた。
同じように馴染み始め、お互いの薬指に同じ指輪が輝いている。
「フルール」
「はい……?」
「僕は、フルールが舞い姫だとか、伝承だからとか、そんな理由で貴女が欲しいんじゃない。小さい頃から、ずっとフルールが大好きだった。大好きで、他の誰にも取られたくないと焦ったのも事実だけど」
「今なら……分かります」
指輪を合わせ、確かめるように優しく握ってくれる。
「アブリル様は、婚約者候補……では、ないんですね?」
「違うよ。それは彼女も承知してる。まだ詳しいことは言えないけど、時が来たら必ず話すから」
「……私、気付いた時から、いつも側にはノア様がいて下さって。苦しい時もありましたけど、ノア様だけなんです。私の心を動かすの」
「フルール……」
「私もノア様が大好きです。指輪……嵌めてて良いですか?」
「あぁ。僕ら二人だけの、世界に一つの指輪だから。愛してるよ、フルール」
馬車の中に、ポッ、ポッと花が咲いた。
ピンク……白……可愛らしい花が。
自宅に戻った私たちを待つかのように、両親とお兄様が玄関前で待っていた。
多分、ラメットお兄様のおかげだろうけど。
優しく微笑みながら「おかえり」と一言。
そのまま、事情を説明する為か、両親とノア様は書斎へ向かってしまったけど、お兄様二人が私に付いてくれている。
「おかえり、フルール」
「ただいま帰りました。今日は、珍しく家族が揃ってるのね」
私の寝込んだ時、以来な気がする。
いつもは研究で忙しいお母様までいたから。
「殿下の配慮だろうね。その瞳の」
「……そうだった!」
談話室に置かれた鏡に向かい、まじまじと自分の顔を覗き込む。本当に……指輪と同じ、夜明けの空。
「自分が……自分じゃないみたい」
「綺麗だけど、違和感だよね。長年見てきた妹のはずなのに、どこか遠く感じるよ」
「そう? 瞳の色なんて、気にして来なかったけど、側から見ればそう感じるのね」
ノア殿下と同じように、体調を心配したり気分を聞かれたり。それでも、やっぱり変化はない。
「今日は、もう部屋に戻ってゆっくり休んだ方が良い。食事は部屋に運ぶよう伝えるから」
「ノア様のお見送りは……」
「暫く掛かるだろうから、また声を掛けるよ」
ラメットお兄様に連れられて自室へ戻り、リナの運んだ食事を食べて――気付けば、夜もかなり更けた真夜中になっていた。
「……寝ちゃった、のね」
中途半端に目が覚め、手元のお水を少し飲んでからバルコニーに出た。夜風に当たりながら、一つ深呼吸をする。
指輪を嵌めた右手を、夜空にかざすと、妙に安心感がある。それが、ノア様と繋がってる安心なのか、体調に変化がない安心なのかは、自分でもよく分からない。
冷静になって考えてみれば、普通瞳の色は生涯変わることはない。それが、変化した意味は何なんだろう。
"青い花には気をつけて。哀しみは、深い青。貴女が貴女でいられなくなるわ"
ふと思い出した、夢の舞い姫様の言葉。
これのこと、だったの――?




