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episode.5

約2ヶ月ぶりの更新ですが、よかったら読んで下さい。

ハルツィット王子と婚約してから数ヶ月────


「───こんにちは、ハルツィット王子。ようこそお越しくださいました。」


「こんにちは、フリージア。会いたかったです!フリージアと会えない時間がとても長く感じますね。」


「……いや、一週間前にいらしたばかりではありませんか…。」


そう、ハルツィット王子は週一で私の家に通っている。どうやら週一回は婚約者に会いに行くきまりがあるらしい。

────そんなきまり私は聞いたことがないけれど、きっと王室特有のルールってやつがあるのかな?というかいつの間にか呼び捨てで呼ばれてるし、

そんなことをぼーっと考えていたら不意に手を引かれ視界がハルツィット王子の顔でいっぱいになった。


「────うへぇ?!ちょ、ハルツィット王子??」


「そうやって考えごとするときにすぐぼーっとしてしまうのはフリージアの悪いところです。……僕といるときは僕だけのことを考えていて欲しいのですが…。」


「ごめんなさい、あと、最後の方なんて言いました?聞き取れなくって…。」


「…何でもありません。」


最後の方が小声で聞こえなかった為、聞き返したら顔を耳まで真っ赤にしながらそっぽを向いてしまった。

怒らせてしまったのだろうか。とりあえず、一緒にお菓子食べたら機嫌直してくれるかな、


「本当にごめんなさい。とりあえず、テラスに行きましょうか?お菓子用意してますよ?」


とハルツィット王子の手取り、テラスに向かってふたりで歩いた。


「…フリージアはずるいです。」


といまだに耳まで真っ赤にしながら呟いてきた。

…お菓子で機嫌直してもらおうとしたのがばれたのかな?


そんなこんなでテラスに着くと、ラムが紅茶とお菓子の準備をしてくれた。


「ありがとう、ラム。」


「───いえ、ではごゆっくり」


ラムは相変わらず無表情で返事をし、私の少し後ろの定位置に戻っていった。


「では、いただきましょうっ!!」


と、クッキーを一口


「んんっー!美味しいっ!やっぱりラムが作るお菓子は最高に美味しいね!」


と頬に手を添えながら笑顔でお菓子を頬張っているとハルツィット王子は


「フリージアは甘いお菓子が好きなんですね。とっても幸せそうな顔してます。」


と微笑みながら私の口の端に付いていたクッキーのクリームを指でとりペロッと舐めて、美味しいですねと言ってきた。

私は暫く呆然とし、やっとその行為が頭のなかで理解できたとたん、恥ずかしくて顔を手で覆ってうつむいた。たぶん、身体中の熱が顔に集まって真っ赤になっているだろう。


「フリージア?こっちを向いて?かわいい顔を見せてください。」


フリージアの中身は25歳の会社員だった私。年下にこんなことされるなんてさすがに恥ずかしすぎる。が、顔を覆ったままだと折角のお菓子が食べられないので、紅茶を飲んで恥ずかしさを誤魔化し、何事もなかったかのようにまたクッキーを食べる。

…この年でお菓子の誘惑に負けるなんて……なんて考えていると、ハルツィット王子が話しかけてきた。


「フリージア、あの、そろそろ僕のことも呼び捨てで呼んで下さいませんか??」


「えぇ?!いや、無理ですよ!だってハルツィット王子はこの国の王子なんですよ!!」


と言うと、王子は少しだけしゅんとしてしまった。

確かゲームでは、フリージアとハルツィット王子はお互い呼び捨てすらしてなかったと思ったんだけど。それに比べてヒロインとは愛称で呼び合ってたよね、確か名前がハルツィットだから……


「───ハル、」


と、無意識に呟くとガバッと顔を上げて頬を赤く染めながら、


「今、ハルって呼んでくれました?」


と、聞かれ初めて自分がハルツィット王子の愛称を口に出していたことに気づいた。


「ご、ごめんなさい!いきなり愛称で呼ぶなんて!でも、これはつい出てしまったと言うか、ポロッと口が滑ったと言うか…!!」


このまま不敬罪で牢屋に入れられるんじゃないかと、あわあわと言い訳をしていると、いつの間に側に来たのか私の手を握って嬉しそうに微笑みながら、


「これからは僕のこと、ハルって呼んでください。その代わり僕もリアって呼んでいいですか?」


と尋ねてきた。


そういえばハルツィット王子がヒロインに惹かれた一番の理由は自分をこの国の王子ではなく、一人の男ハルツィット・ルミエールとして見てくれているからだった気がする。

きっと王子ではなく一人の人としてみてもらいたいということだろう。でも、愛称で呼ぶことを許されているのは家族や、親戚、親しい間柄の人のみだ。確かに今の段階で私はハルツィット王子の婚約者なので、一応呼ぶこと事態に問題はないだろうが、五年後にはヒロインと出会い恋に落ちる。ゲームの中では家族以外の女性で愛称で呼ぶことを許されていたのはヒロインだけだった。そう、ヒロインだけの特権だったのだ。

…それが、フリージアがヒロインに嫉妬する原因のひとつでもあったのだけど。

って、そんなことはどうでもよくて!今は呼んでもいいか問題だけど、答えはだめに決まっている。だってヒロインだけの特権を私が奪っていい訳がない!これは私ではなくヒロインだけに許されたものだから断らなきゃだめ!


「…あの、ハルツィット王子、愛称は…」


「…ダメですか?僕はフリージアのことリアって呼びたいです。それにフリージアにもハルって呼んで欲しいです。…僕のわがまま聞いてはくれないでしょうか?」


エメラルドのような瞳に涙をいっぱいに溜め、瞳をうるうるさせながら、まるで捨てられた仔犬のようにおねだりされた。


───────こんなかわいいことされてしまったら断れる筈がない…


「…分かりました、ハル?これでいいですか?」


と呼ぶと天使のような微笑みをたたえながらありがとう、と心底嬉しそうにお礼を言われた。


それから、いろいろ話ながらお茶をしているとすっかり日が暮れてきた。そろそろお開きの時間だ。


「今日もありがとうございました。リアとの時間は楽しくて一瞬のように感じられます。また、来ますね。」


と言い残しハルツィット王子は帰って行った。


自室に戻りソファに腰をかけると思わずため息が出てしまった。


「…ヒロインだけの特権を悪役の私が奪ってしまった。」


五年後にハルツィット王子の隣に立っているのは、ハルツィット王子が想いを寄せるのは私ではなく、ヒロインだ。そのヒロインの特権をハルツィット王子のかわいさに負けて奪ってしまうなんて、と考えていると、


「…お嬢様、私もお嬢様のことリアお嬢様とお呼びしても宜しいでしょうか?」


と紅茶ををテーブルに用意しながらラムが聞いてきた。


「え?えっと、ラムが呼びたいのなら呼んでくれて構わないよ?私だってラムって呼んでるし。…なんか、ラムにリアって呼んでもらえるの嬉しいなー」


と答えるとあっさり許可が出たことに驚いたのか、目を見開いて見つめられたが、口の端を少しだけあげてありがとうございます、と言い部屋を出てしまった。


「…今、ラム笑ってたよね?あの、無表情のラムが笑ってくれてたよね?!夢じゃないよね?!」


ラムが少し笑ってくれていたような気がして嬉しかった。


「へこんでる場合じゃないよね!!だって、ヒロインと出会ったらお互い愛称で呼ぶのやめればいいことだし、それに私の側にはリアって呼んでくれる人もいてくれるし!…ありがとう、ラム」



──────実はハルツィット王子のことをハルって呼べるのが少しだけ嬉しかった。ヒロインに対しての罪悪感の方が大きいけれど、前世ではハルって呼んでたし、何より私の初恋のキャラだった。だから五年後には呼べなくなるけど、それでも呼び合えるのが少し嬉しい。


「…五年間が過ぎてヒロインと恋に落ちて私とは婚約破棄することになっても心の中ではハルって呼ばせてね。」


ラムが入れてくれた紅茶を口にしながら呟いた。



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