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お嬢様は魔法が得意  作者: 灰色 洋鳥
第二章 妖精の国
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沈黙の森

 鬱蒼うっそうとした森が続いている。

 樹高は30mを超える木々が乱雑に立ち並び、下生したばえはまばらなものの、手入れがされているわけではないので、はなはだしく歩きにくい。木々の間を大木を避けるためか、小道がうねりながら細く伸びている。ところどころで不自然に木が裂け倒れているのが、森の異様さを際立たせている。森は暗く道から外れるとすぐに森に迷い、まず戻れなくなりそうな雰囲気を色濃くただよわせていた。


 木々の間から小鳥のさえずりや、獣の叫びのようないろいろな音が聞こえる。中には腹の底に響く、どんな姿形なのか想像したくないような声もあり緊張が走る。それが、自分たちの周りを取り囲むように様々な方向から聞こえることもあれば、ほとんどない時もある。それだけでもここが異境なのがわかる。


 しばらく行くと、地鳴りが響いてきた。地震?と思っていると定期的にひびいてくる。

 これは?と疑問に思っているとアギーが小さな声で叫ぶ。

「あそこの木の陰、早く隠れて」


 もともと小さいが更に押さえ込むような、アギーの小さな声の異様さに考える間も無く、急いで木の陰に身を隠す。二本の木がからみ身を隠すにはちょうど良かった。身動きせず息をひそめて隠れていると、50cmはあろうすねに一メートル近い足が通って行くのが見えた。


 足を上げ、地面に下ろすたびに地面が揺れるのだ。足の上の方は木々に隠れて見えない。しかし、それは巨人を想像させるに十分だった。足はちょっと立ち止まったように見えたがまた歩き出し、地響きとともに見えなくなった。地響きはしばらく聞こえていた。


「あれは、巨人?」

 どちらともなく、誰に聞くともなく質問の声が上がる。

「そう、この森は巨人族のテリトリでもあるの。

 あいつらは人間を見ると面白がって踏みつぶそうとするのよ。

 近寄らないに限るわ」

 アギーがそういうのを聞いて、もう出会いたくないなと二人は目を見合わせた。


 少し待って、巨人の足音が聞こえなくなってからそこを離れた。

 しばらく歩いて三人も多少緊張が解けてきた。(アギーはずっと耕輔の頭の上なので歩いていると言っていいのか)さっきまでの反動か下校時のような無駄話をし始める。

 アギーの好奇心と気安さに——内心に不安は残しつつも——すっかりいつもの調子に戻った二人は、アギーの質問に答えていた。主に耕輔がしゃべっている。祐司は周りに神経を配っているので黙りがちであった。


「それでね。多和良たわら先生てのがひどくて、すごい皮肉屋なんだよ。

 あれだけで授業のやる気がゼロになるよ」

「へー、あなた達学校ってところで集まって勉強するんだ。

 で、何を習うの」

「なにって、数学とか理科とか魔法とか」


 アギーが驚いて声を上げる。

「なに⁈

 あなた達、魔法を習うの?

 魔法は生まれつきのものでしょ、へんなのー」

「ここではみんな魔法を使えるの?」

 アギーの言葉に疑問がわく。


「だいたいはそうね。

 まあ、種族によって違いはあるけど、人間は使えない人の方が多いかな。

 あなた達は使えるでしょ。

 そんな格好してんだから」

 そんな聞くまでもないことなぜ聞くのかと不思議そうな顔と声色をしている。

「格好って?」

「耕輔は吟遊詩人なんでしょ。

 吟遊詩人が魔法を使うのは当たり前じゃない。

 それに祐司は魔法戦士でしょ、それで魔法が使えないという方がびっくりよ」


 自分の格好にそんな意味が有ったのかと二人は喫驚してしまった。それで思い出した質問をしてみる。

「僕らは自分たちの言葉を話しているんだけど、アギーには通じている。

 アギーは日本語って知ってる」


 アギーはあきれ顔で返事をしてくる。

「なに言ってるの、あなた達はウィスタリア語を喋っているわ」

 祐司はアギーの口元を凝視していたが、どうも日本語とリズムが違うことはわかった。でも、それ以上のことはわからなかった。

 祐司はかぶりを振って耕輔にわからないことを伝える。耕輔と祐司は、格好と同じで魔法で都合よく調整されているのだろうと思うことにした。


 アギーが思い出したように二人に話しかける。

「あなたたち別の世界から来たのよね」

 二人がうなずく、アギーは耕輔が急にうなずいたので体を支えるため髪にしがみつき、顔に非難の色を浮かべつつ続ける。

「なら、どこから来たかを聞かれることがあったら、その事はなるべく伏せたほうがいいわよ」


 二人が質問を声にする前に理由を説明した。

「この世界が災厄にあるって言ったわよね。

 中にはその災厄は別の世界から来ているんじゃないかと疑っている人もいるからね」


「へぇ、そうなんだ。ありがとう注意するよ。

 でも、アギー、随分世の中に詳しいんだね」

 その質問には、アギーがいた辺りに人気がなかったのにという疑問とセットだったが、アギーはそれには気がつかなかった。

「妖精の噂ネットワークは伊達じゃないわよ。

 見てきた事、聞いてきた事が魔法でその場にいるように伝わるんだから」

「へえ、すごいね」

 アギーの自慢げな説明に、耕輔は素直に感心していた。


 その時アギーが声を上げる。

「あ、そこね。そこを左に入っていく」

 アギーが指差した先を見ると目立たないが、木のくいが立っていて、そこから左側にあまり利用されていないのか荒れた獣道が伸びていた。耕輔も祐司の視線をたどり、そちらの方向に目をやり目眩めまいを起こしそうになった。その先は鬱蒼うっそうというレベルを超えている様に見える。


 真っ暗で先が全く見えない。

「えー、こんなとこなの」

 露骨に嫌な顔をする。

「やめるなら今のうちよ。

 フクロウ婆やは気難きむずかしいから無理難題をふっかけられると思う」

 耕輔は勇気を振り絞って決意の返事をする。

「大丈夫。これが最善なんだよね」

「最善かどうかはわからないけど、まあ今よりわかることはあるはず


「とにかく進もうぜ」

 祐司が先に立ち森の中に分入って行く。

 昼間のはずなのに足元がよく見えないほど暗い。ひやりとしている空気は湿気を含んでじっとりと体にまとわり付いてくる。


 木々が重なり20m先も見えない。周りは暗く足元の怪しい獣道けものみちを歩いて行くと、更に湿気が高くなりうっすらともやがかかっている場所もある。周りの木々に幕のようなものが垂れ下がっているようになってきた。それがまた見通しと風通しを悪くしてカビ臭いこもった匂いの元になっている。


 足元がふわふわしてきたのでよく見ると分厚いこけおおわわれていた。木の枝にぶら下がっているのは苔がカーテン状になったもので、カーテンというよりも絨毯じゅうたんを木の枝に干してあるかのようだった。苔のカーテンは更に枝の間をつなぐように重なったり、ひも状のものがからむようにまとわりついたりしている。このため音もさえぎられこの辺りはさっきまでより随分静かだ。


「なるほどこれらの森ねー」

 祐司がつぶやくと、それに応えるようにアギーが『この先にフクロウ婆やの菴りがある筈』と真面目な声で告げる。


 少し進むと周りが明るくひらけた場所に出た。そこには巨木が立っており、それが空に隙間を開けるので空の光がうっすらと差し込んできている。巨木は周りが30mはありそうだった。根元に大きなほららしき空間があり密集した苔が隙間を埋めている。

 大きめの隙間は出入り口として使っているのか、苔の絨毯で覆われている。


 入り口の高さは1mと少し、耕輔がくぐるにしてもかなり窮屈きゅうくつそうだ。


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