Chapter 1
はじめまして、瑠綺亜です
Pixivでも投稿させていただいている者です
気まぐれに投稿しているので、速度はめちゃくちゃ遅い←
多分年齢制限はいらないはず…。何しろそういうの疎いんで()
下手ですが楽しんでいただけたら幸いです
マズイ。これはマズすぎる。
膝の上で両手を握り締め、僕────神宮伊月はその一言だけを頭の中で繰り返していた。
まず最初に言っておこう。僕は立派な18歳。決してロリコンでもない。それに、僕には彼女がいる。つまり、この一件に関しては僕には全く非がない。完璧な被害者である。あの小悪魔が全ての責任を背負うべきなのだ。
「伊月さん、だいじょーぶですか?」
無邪気に聞いてくる小悪魔こと碧天琴梨は、僕の膝に乗っかって首を傾げている。
追加で言っておこう。ちょっと変わってるけど可愛い、女の子にぴったりな名前をしたこの小悪魔は、列記とした13歳の中学1年生の”男”だ。
そう。彼女のいる僕は今、5歳年下の男子に、膝の上に乗られているのである。
────どうしてこうなった!
おかしいだろ!その前に誰かに見つかったら本気でヤバイから!
パニック…いや、大パニックを起こした僕は、こうなるまでの経緯を思い出そうとした。
それは一週間前に起こったことだった。
『伊月、あんた、家庭教師やりなさい』
「…え?」
母からの突然の発言に、僕は戸惑った。
『家庭教師を探してるって、会社の同僚に言われたのよ。あんた、頭はいいほうでしょ?だからお願いね』
何だろう、色々と端折りすぎだ。それに普通は僕の意見を聞いてから話を進めるものじゃないのか?
『細かいとこは気にしないの。あとでメールで住所を送るから。月曜から頼むわ。それじゃあね』
とまあ一方的に言われて、家庭教師をすることになってしまったわけだ。
電話を強引に終わらされた直後、住所と電話番号、それと名前が送られてきた。
碧天琴梨、か。女の子かな?
碧天さんの家は僕の学校に近かったので、僕は学校帰りに行くことにした。一応電話で挨拶を兼ねて確認を入れたところ、僕の提案を快く受け入れてくれた。
『では、月水金の四時から宜しくお願い致します』
「はい、わかりました」
碧天朱里さんは、琴梨の母だ、と言った。それにしても、僕みたいな高校生にも敬語で対応してくれるなんて、丁寧な人だ。…僕の母親とは大違い。
そう。ここからが僕の人生の中で、一番訳のわからない、狂った出来事の始まりだった────。
「すごい、本当にお金持ちの家って、あるんだな」
碧天邸に着いたとき口を付いて出た最初の感想がそれだった。
とにかく、大きい。特に横に広い。掃除するの、大変そう。こんな家に3人ぐらしだなんて、広すぎて部屋が余りそうだ。
インターホンを押すと、数秒後、「神宮さんですね。今開けますので少々お待ちください」という声がして、豪邸のドアが開いた。ひょこっと顔を出したのは、男の子だった。
「…おにーさんが、神宮伊月さん?」
「え、うん、そう。キミは?」
「琴梨だよ!伊月さん、入って入って!」
あ、男の子だったんだ。
嬉しそうに琴梨くんは僕を家の中に招き入れてくれた。
「琴梨、ちゃんと勉強を教えてもらうのよ。遊んだりしたら、ダメよ。…神宮さん、宜しくお願いしますね。何かあったら呼んでください」
お辞儀をすると、朱里さんはキッチンに消えて行った。
琴梨くんの案内で彼の部屋に入る。うん、ここも広い。
見渡すと、部屋はきちんと整理整頓してあって、イメージしていた中学生男子の部屋とは程遠かった。
「伊月さん、ここどーぞ」
勉強机の横に置かれたソファーを手で叩くと、琴梨くんは向かい合うように椅子に座る。
「ありがとう。…それじゃあ早速だけど、ちょっとこの問題、解いてみてくれる?琴梨くんが今どこらへんのレベルにいるか知りたいから」
中学生向けの問題がランダムに20問書かれた紙を渡し、僕は言った。
頷くと、琴梨くんはシャープペンシルを手に取ると、スラスラと問題を解いていく。意外と出来る方なのかな?
数分後、琴梨くんは丁寧な字で埋められた紙を返してくる。
「出来たよ!採点、お願いしまーす」
早いし、全部合ってる。やっぱり、勉強は出来る子なのかもしれない。
「琴梨くん、すごいね。全問正解だよ」
「えへへっ、けっこー簡単だった!」
「じゃあ、もう少し上級生向けのやってみようか」
「うん!…あ、ねえ、伊月さん。伊月さんは、好きな人いるの?」
初対面なのにあまりにも唐突に関係のない質問をされ、僕は一瞬何を聞かれているのかわからなかった。質問の意味を理解すると、クールに「付き合ってる人はいるよ」と答える。その時琴梨くんの瞳が曇ったのを、僕は気付かなかったんだけどね…。
「そうなんだー。どんな人?」
「僕のことより、勉強しなきゃダメだよ、琴梨くん」
注意すると、琴梨くんは口を尖らせる。思わずクスッと笑ってしまった。面白い。
「ぼく、勉強より伊月さんのこと知りたい。…だって好きなんだもん」
僕の瞳を見すえると、琴梨くんは真剣な口調でそう言う。遊んでいる雰囲気ではない。そして予想外の一言。
「ねえ伊月さん、中学生は恋愛対象になる?」
今度こそ頭が停止した。どういう意味だ?中学生が恋愛対象になるか、だって?そもそも僕には彼女がいるんだけど…。
「えっと、質問の意味がよくわからないんだけど…」
「簡単に言うと、俺、伊月さんのことが大好きってことです。ライクじゃなくてラブのほうだから、そこんとこ勘違いしないでくださいね?」
さっきまでの無邪気な表情と口調を一変させ、ニヤッと琴梨くんは笑った。獲物を見つけた肉食獣、何かを企んでいる悪魔のような笑み…。
ゆっくりと立ち上がり、僕に近寄ってくる琴梨くんを見ると、直感的にヤバイことが起こると思った。このままここにいたらヤバイ。早く逃げなきゃ。
だけど、僕の足は動かない。目の前のハンターに怖気づいたように。
「伊月せんせ、俺と付き合ってください」
語尾に音符マークが付いてそうなほどの満面の笑みで、碧天琴梨という名の小悪魔は、僕の耳元でささやいた。
年の差は5歳、どちらも男。それに先生と生徒という関係。その3つを理解して彼は言っているのだろうか。
澄んだ瞳を見つめながら、僕はそう自問自答する。
「いーつきさん?」
「こ、琴梨くん、近すぎ。離れて…」
「俺が怖いですか?気持ち悪いって、思ってます?」
ふふ、と声を出して笑うと、そう聞いてくる。
「それは……」
「ああ、言わなくてだいじょーぶですよ。伊月さんのその表情でわかりますから」
琴梨くんの額が僕の額とくっつく。ち、近いって。
「ねえ、伊月せんせー」
…ずるいよ。そんな甘い声で、こういうときに先生って呼ぶなんて。男の僕でも少しドキドキするじゃないか。
「ほんとはね、せんせーに彼女がいようが何だろうが、俺にはかんけーないんです。いてもいなくても、せんせーは絶対俺に夢中になるから。覚悟してくださいよ、伊月せんせ?」
軽く僕の頬にキスすると、琴梨くんは離れていった。まだドキドキしたままの僕は、何も言わずに琴梨くんの部屋から飛び出した。
とまあ、そういうことが初日にあったのに、水曜日は驚くことに何もなかった。僕は具合が悪くなって帰ったってことになってて、朱里さんは僕の体調の心配をしてくれたし、琴梨くんも大人しく勉強してたし、初日のあれは見間違いか?と思うほどだった。だから油断してた。
金曜日、僕がソファーに座るとともに僕の膝に乗っかってきたのだ。驚きすぎて、思わず「うわっ!」と声を上げてしまった。
「伊月さん、だいじょーぶですか?」
首を傾げ、琴梨くんは聞いてくる。
ここまでが最初に言った、”マズイ”こと。一体傍から見たらどう見えるのだろうか…。
「…好きって言ってたあれ、冗談じゃなかったの」
やっと声が出たけど、質問が疑問形にすらなってない。
「俺がじょーだん言ってるように見えます?」
「見えないね…」
「当たりです。ということは?」
「冗談ではない、と?」
「はい!やっとわかってくれましたね。俺、本気で伊月さんが好きなんです。俺なら、今の伊月さんの彼女より伊月さんのこと大事にします」
「…ごめん、僕、そういうの、信じられない」
「わかってて言ってるんです。せんせ、俺のこと好きじゃなくてもいい。それでもいいから、付き合ってください」
どうしてそこまでするのだろうか。相手に好いてもらわなくてもいいなんて、どうして?
「遊びでもいい。ほんとに嫌いになったら捨ててもいい。だからそれまで、お願い……」
「ちょ、琴梨くん。わかったから、落ち着いて。…どうしてそこまでするの?僕がキミを好きにならなかったら、付き合っても意味がないでしょ?自分を好いてくれない相手と恋人同士になったって、何の得もない。それをキミはわかってるだろ?」
「わかってる…。わかってるんです。でも、こんなふうに誰かを好きになるなんて初めてなんだ!一秒でも会えないと苦しくなるぐらい誰かを好きになったことなんて、ないんです!だから諦めたくない。ここで諦めたら絶対後悔するから!」
両手で顔を覆うと、琴梨くんは嘆くように叫んだ。
そんなふうに言われると、彼の願いを聞き入れたくなる僕は甘すぎるのだろうか。
「…わかった。少し考えさせて。次会うときまでには答え、出すから」
決心して言うと、琴梨くんはパッと顔を上げると、まっすぐに僕を見てきた。
「……はい!ありがとうございます、伊月さん!」
「うん。でも、そんなに期待はしないで。難しいことだから…。今の彼女に何て言えばいいかも考えなきゃいけないし」
「そんなの、何も言わなくていいんですよ」
さらっと言い放つと、琴梨くんは勉強勉強と呟いてまた無邪気な笑顔で僕を見つめるのだった。
………………つまり僕に浮気しろと!!??




