シーン 70
この時点で残りは五人に絞られた。
同時に身分証の獲得に必要な条件を満たしため予定通りと言える。
これで目的は達成したとは言えこのまま辞退するわけにもいない。
先ほどから対戦を待ちわびるクオルが僕をずっと睨んでいた。
ちなみに参加者が五名になったため再度組み合わせの抽選が行われる。
その中で残った一名がシードになる。
できれば不戦勝で次に進みたいところだ。
抽選の準備が整ったところで集まるように声が掛かった。
「これより再抽選を行います。先ほどと同様、一斉に行いますので不正のないようお願いします。では、どうぞ」
シード権の獲得を祈りつつ棒を引き抜いた。
棒には「二」と書かれている。
つまり一番を引いた参加者と戦うことが決まった。
世の中そんなに甘くはない。
チラリと周りに視線を送ると一番を引いた参加者を見つけた。
それはローブの男、ホリンズだ。
得体の知れない相手だけにできれば戦いたくなかった相手だった。
「それでは確認いたします」
シード権はニーナが獲得した。
つまりクオルとアルマハウドが対戦することになる。
この時見たクオルの驚いた顔が印象的だった。
試合が始まるまでのわずかな時間は緊張感があり普段より長く感じられる。
そんな時背後で気配を感じた。
衣擦れの音からその相手が誰なのか察しがついている。
「…ホリンズ、だったな」
名前を呼ぶと何故だか嬉しそうに笑った。
これから戦うと言うのに緊張している様子はない。
「覚えていてくれて嬉しいよ。何、そんなに警戒しなくていい。話をしにきただけだからね」
「これから殺し合う相手に何の用だ?」
「興味があった、と言えばいいのかな?」
「興味?悪いが俺はお前に興味なんてないぞ」
何を考えているのか全くわからない。
できれば友達になりたくないタイプだ。
薄ら笑いを浮かべられ気分もあまりよくはなかった。
「そう邪険にしないでくれよ。キミ、転生者だろ?」
「えッ…?」
僕は言葉を失った。
同時に心を強く揺さぶられ動揺が隠せない。
額には嫌な汗が浮かんでいる。
「驚かなくてもいいよ。狭山令二なんて名前はこの世界に存在しないからね。すぐに気が付くさ」
「…お前も転生者なのか?」
「そうだよ。ホリンズは本当の名前じゃない。本当の名前は堀伊集だ。あッ、ても、この世界ではホリンズと呼んでくれよ。もう何年もそう呼ばれているからね」
「なるほど…お前から感じていた違和感の正体はこれか。同じ境遇を持った者同士…そう言うことか」
「そうだね。ん?何か聞きたそうな顔をしているね。いいよ、何でも答えてあげよう。もちろん、知っていることしか答えられないけどね」
「知ってることだけ…か。わかった、教えてくれ。俺たちの他にも転生者は居るのか?」
これはすぐに思い付いた疑問だ。
彼が目の前に居ると言うことは他にも同じ境遇の者が居ても不思議ではない。
「そうだね。僕の知る限り何人か居るよ。ただ、人間に生まれ変わった者はごく僅かさ」
「人間以外…?」
「あぁ、ドワーフやエルフ、ウェアウルフになった者がほとんどだよ」
「それって…」
「ん?思い当たるヤツでも居るのかな?」
すぐに思い当たる人物は二名いる。
一人はドワーフのコルグス。
もう一人はウェアウルフのビルだ。
ただし、これはあくまで可能性であり彼らがそうであると決まったわけではない。
どちらも自分が転生者と言うことを口にはしていないのだから。
「一つ質問だ。転生者は全員、前世の記憶を引き継いでいるのか?」
「いや、全員ではないよ。キミはババアに記憶を残すよう言ったんだろう?」
「ババア?」
「死神を名乗る女だよ」
ホリンズによれば僕が幼女と呼ぶ死神の事をそう呼んでいるらしい。
理由は彼女の年齢にあるそうだ。
彼の話が本当なら人間の年齢に換算すると約十万年近く生きているらしい。
人類の歴史に照らし合わせれば十万年前と言えば石器時代になる。
もちろんそれを聞いたからと言って僕は彼女のことをババアと呼ぶ気はない。
「つまり、死神に記憶を残すよう言わなかった者も居る。そう言うことか」
「そうなるね。もちろん僕は残して貰った側だから残さなかった連中の気持ちはまではわからないけどね」
「それで…お前はそれを俺に伝えに来ただけなのか?」
ホリンズは子どものような笑みを浮かべた。
今なら彼が持つ異質さがよくわかる。
同時に同じ境遇を持っていることも理解できた。
しかし、それだけで僕に接触してきたとは思えない。
先ほどから首筋の辺りが疼いて気持ちが落ち着かなかった。
「ふふッ、端的に言うよ。キミ、僕の仲間にならないか?」
「…断る」
少し間をおいて申し出を断った。
直感的にこの男は危険だと判断した。
僕の勘はよく当たるため今回が特別と言うわけではない。
それを聞いてホリンズは不思議そうな顔をした。
しかし、決して驚いた様子はない。
「ふむ…さすがにすぐ断られるとは思わなかったよ。理由を聞かせてもらえないかな?」
「特に理由はない。強いて言えば気分だ」
「気分…ね。そう言えばキミ、女の子を連れていたよね。彼女が原因かな?」
言われて再び動揺してしまった。
ホリンズがサフラを見かけるとすれば昨日受付をしたわずかな時間だけだ。
ちなみに今朝の集合では僕が会場入りをしてから合流したためこの時に見た可能性は極めて低い。
つまり昨日から僕らを意識的していたことになる。
「…アイツは関係ない」
「へえ、じゃあ、ますますわからないな。断る理由は何だい?」
「見ず知らずの相手は信用しない質なんだ」
「なるほど…もっともな意見だね。うーん、やはり話し合いでは無理かな」
ホリンズの瞳が怪しく光った。
まるで何か恐ろしいモノに睨まれている気分だ
しかし、動揺が伝われば相手のペースにのまれてしまうためできる限り平静を保った。
「話は終わったろ。そろそろ試合が始まる」
「実を言うと試合には興味がないんだ。キミが話を聞いてくれるならわざと負けてあげてもいいよ?」
「…俺をナメると痛い目を見るぞ」
「へえ、そいつは面白い。わかった、手を抜くかどうから戦ってから決めるとしよう」
ホリンズは終始笑顔だった。
それだけ実力に自信があるのだろう。
僕としても低く見られるのは気分が悪い。
相手が油断をしているなら痛い目にあわせてやろう、そう思った。




