第五話
「それで……本日のご用件は何でしょう?」
「……そうだったわね。ここは――」
「はい」
「生徒別に何かカードの様なモノで管理をしているのかしら?」
そう尋ねると……。
「なぜそう思われたのですか?」
店員はさっきまでの笑顔から一変し、真顔になった。
「ただ単純にそうなのかな? って思っただけよ。そもそも、この学校に何人の生徒がいると思っているのよ。いくら試験で成績が良くても、私の顔を見ただけで分からないでしょ」
「……なるほど」
そう、アリアはゲーム上では店員の姿を何度も見たため知っているが、転生してからで考えると、二人は初対面のはずなのだ。
確かに「王子と友人」という時点で一年生の中でかなり目立っていたとしても、三学年合わせて百人を超えるこの学校から会った事もない一人を探し出すのは難しい……はずだ。
「それに、私がここを利用した事がないってあなた。自分で言っていたでしょ? それで私を知っている理由が『王子の友人だから見に行った』とかじゃなくて『試験の結果』ってなったら首もひねりたくなるわ。あれって確か名前しか出ないのだから」
つまり、試験結果で名前は知れても顔までは分からないはずなのだ。
「それで? 実際のところはどうなの?」
「……」
キチンと理由を言われてしまってはさすがに観念したのか、店員は両手を上げて降参というポーズをとった。
「たったそれだけで見抜かれるとは思わなかったよ」
「案外あっさりと認めるのね」
「お察しの通りだからね。このお店ではお客の一人一人を特殊なカードで管理している。その方がそのお客が来た時に何が欲しいのか傾向が分かりやすいからね」
「……」
確かに、そうした方がお店側としてもメリットが大きいのだろう。
「それで? それを聞いてどうするつもりだい? って、まさか……」
たったこれだけで分かるとは……随分と察しの良い店員だ。
「……そのまさかよ」
「おいおい正気かい? そんな事を聞いて何かメリットがあるとも思えないけどね」
「そう……かもね」
そう言いながら「ふぅ」とアリアは息を吐く。
でも、ここで食い止める事が出来るのならそれだけで十分な儲けモノである。なぜなら、それだけ『チョコレートクッキー』の効力はすさまじいからだ。
「――ここ最近。頻繁に『プレゼント』を購入している生徒はいないかしら?」
「……はは」
店員は真正面から聞いたアリアに、思わず笑いをこぼす。
多分、今までもこういった話をしてきた人はいただろう。しかし、ここまでバカ正直に聞いた人間も……きっといなかった。
だからこそ、彼は思わず笑ってしまったのだろう――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――結論から言うと、教えてはもらえなかった。
やはり「顧客の個人データ」になってしまうので、相手がたとえ王子であったとしても、教えられないとの事だった。
「本当に……商人の鏡ね」
それこそ、相手を振り向かせたいがために個人情報を簡単に流してしまうどっかの誰かさんとは大違いだ。
「それにしても……」
そう呟きながらアリアは商人から渡された小さい紙を見る。
そこには『クリストファー・カイル』の文字があり、どうやらコレがあの店員の名前の様だ。
『気軽にクリスとお呼びください』
帰り際。クリスはそう言ってアリアにコレを渡してきたのだ。
「――とは言っても」
正直、クリスの態度から「購買を頻繁に利用している誰か」がいるのは間違いないだろう。
「問題は――」
それが主人公かどうかだ。
「……っと、すみません」
「あら、ごめんなさい。大丈夫かしら?」
考え事をしている内にどうやら人にぶつかってしまったらしく「はい、大丈夫です」と反射的に言おうとしたところで……。
「え」
アリアはぶつかってしまった相手を見て驚いた。なぜならその相手は……。
「クッ、クローズ様!?」
そう『悪役令嬢』のイリーナ・クローズだったのである――。




